端切れ話(鏡の中の少女)

端切れ話(鏡の中の少女)


フロント脱出編

※リクエストSSです




 新しい身分証を渡されてから小一時間ほど。エラン達は最寄りの店でそれぞれの端末を購入していた。

 今の時代、特に宇宙ではひとり一台の端末は必須だ。これがあるとないとでは、生活の質がまったく違ってくる。

 例えばホテルの予約や地球行きのチケットの購入。人や公共機関への連絡。必要な情報の取得や、こちら側からの情報の発信。何より宇宙で旅しようと思うなら、磁気嵐の予報は必須レベルだ。

「はい、スカーレット。一番シンプルなものだけど、機能は十分だと思う」

 店の隅で待ってもらっていたスレッタに、契約したばかりの端末を差し出す。

「わぁ、ありがとうございます。これってアプリとかも入れられるんですか?」

「よほどアングラなものじゃなければ大丈夫だよ。きみの好きなコミックや映像も見れるんじゃないかな」

「楽しみです」

 さらには娯楽としての使い方もある。

 ハンスから渡された端末は随分とスレッタ好みのデータが収められていたようで、彼女は暇があれば古びた端末を覗いていた。

 残念ながら防犯上の都合で返してしまったが、スレッタ自身がこの新しい端末にデータを入れて、少しでも地球の生活の中での気晴らしになればいいと思う。

 店から出ると、人の流れに従いながら少しずつ中心地へと歩いていく。

「この後はどうするんですか?」

「とりあえず宿を確保して、それから地球行きのチケットの確保だね。色々と買い物もしたいから、早くても明日以降の船を予約しようと思う」

「分かりました。…そういえば、今さらですけど軌道エレベーターは使わないんですか?早くて便利だって聞きましたけど」

「そっちは使わない」

 一言だけ伝えて、目だけで辺りを見渡すとそっとスレッタの耳に顔を近づけた。

「…網を張られている可能性がある。多少不便だろうと、他のアーシアンに紛れられる船の方がいい」

「ふぁ…っ。は、はい…」

 納得してくれたのか、こくこくとスレッタは頷いてくれた。

「………」

 正直に言うと、船で地球に向かっても見つかる危険はある。

 地球にいくつもある宇宙センター。今は発着場としての機能を持たせただけの場所だが、そこで待ち構えられている可能性はゼロではない。

 ───そうなったら、自分は処分、そして彼女は連れ去られる。

 エランは最悪の未来を考えて、静かに深いため息を吐いた。どこの場所に降り立てば一番都合が良いか、いくつかある選択肢の中で選ばなければいけない。


 それから更に数時間後、エランとスレッタの2人はとある宿泊施設で体を休めていた。

 あまり高くもなく安くもない、ほどほどの料金の宿だ。このフロントは地球と宇宙を繋ぐ港でもあるので、たくさんの人が賑わっている。当然アーシアンもいる。

 高い宿は上級スペーシアンが、安い宿はアーシアンや低級スペーシアンが多い。何となくの印象だが、この宿は出稼ぎにきたアーシアンが多い気がする。

 スペーシアンと言ってもピンキリだ。エランを買い上げた大人たちはほとんどが上級スペーシアンだが、宇宙の中には奴隷同然に生活している低級スペーシアンもいる。彼らは日々の生活すら命がけで、犯罪に手を出す輩も多い。当然、彼らが多くいるところは治安が悪くなる。

 もしかしたら、強化人士の中にもスペーシアンの少年がいたのかもしれない。渡されたばかりの市民カードを弄びながら、そんな事を思う。

「………」

 これを用意してくれたのはシャディクだが、元々は別の市民カードを手に入れるために自分は強化人士になることを引き受けた。…らしい。

 確かに宇宙の居住権とも言えるこのカードさえあれば、ペイルから放り出されても人並みに生活できただろう。

 現に端末やチケットの購入にも、市民カードがなければ非常に苦労したはずだ。しかもこのカードには口座が紐づけされていて、そこには信じられないほどの大金が振り込まれていた。

 逃亡資金としてはこの上ない、心強い味方だ。

「エランさん、端末の登録が終わりました」

 ぼんやりと益体もない事を考えていたエランに、スレッタが声をかけた。

 使いやすいように端末を弄り始めてから数十分、ようやく一区切りがついたようだ。コミック用のアプリもいい物を見つけられたようで、嬉しそうにしている。

「今日は色々と買い物をしましたけど、地球に行くまでのご用事は他にありますか?」

「いや、明日の夕方まで特にない。それまではゆっくりしていて大丈夫だよ」

 一応は朝にチェックアウトの予定だが、追加で一日分の料金を払えば夕方まで居られる。

「うーん…、そうですね」

 スレッタは悩んでいたが、ふとエランの手の中にある市民カードに気付くとあっと言う顔をした。

「そういえば、あのチラシに書かれていたテーマパークって、もしかして『遊園地』のことですか?」

 それは地球ではもうとっくに姿を消した、遊興施設の名前だった。名前は知っているが、エランも実物は見た事がない。

「ちょっと待っていて」

 捨てずにいたチラシを鞄から取り出すと、ざっと全体を確認してみた。

 特徴的な建物のイラストが中央に描かれているチラシだ。建物の周りには奇抜な形の、恐らく遊具…も描かれ、見ているだけで賑やかな印象を受ける。

 特に変な事も書かれていない。見せても問題ない事を確認すると、エランは覗き込むようにしていたスレッタに、もう1枚のチラシを渡してあげた。

「どうぞ」

「ありがとうございますっ」

 スレッタが嬉しそうにチラシを見つめている。その間に端末で調べてみたところ、実際にこのフロントに存在している施設であることが分かった。

 どうやら適当に作ったチラシではなく本物のようだ。最近になってできた施設らしい。

「入場料もそんなにかからないのか…」

 とはいえ普通の宿に一泊するくらいの料金は掛かるが、今のエランなら遠慮なく出せる金額だ。

 そのまま何となく情報を追っていると、弾んだ声が聞こえてきた。

「やっぱり遊園地です。観覧車に、ジェットコースターもあります。端っこに描いてある建物はよく分からないですけど…」

「それって遊具の名前?」

 『遊園地』そのものの名前は知っていても、あまり具体的なことは分からない。思わず疑問を投げかけた所、スレッタが色々と教えてくれた。

「丸いのは観覧車と言って、景色を楽しむものなんです。こっちの細長く曲がったものはジェットコースターと言って、あえてスリルを楽しむんですよ」

 乗ったことはないんですけど。自信ありげだったスレッタが一転して、恥ずかし気に笑っている。

「………」

 エランは少し考えてみた。あまり目立つ訳にはいかないが、もし地球側で追手に待ち構えられていたらどのみち自分たちはお終いである。

 それならば多少のリスクはあったとしても、今のうちに楽しめる思い出を作った方がいいのではないか。

 地球には大規模な遊興施設はない。とうぜん、『遊園地』もそうだ。

 思い出作りには、最適なように思える。

「…あんまり目立つモノには乗れないだろうけど、よければ明日『遊園地』に行ってみる?」

 もしかしたらまったく楽しめない提案をしているかもしれないが…。

 エランが迷いつつも口に出すと、スレッタは大きく目を見開いた。

「い…行きたいです!」

 そうして、その日一番の笑顔になった。


 次の日、朝にチェックアウトをしてからチラシに書かれていた場所に向かった。荷物は邪魔になるので有料のロッカーに入れて、ほぼ手ぶらの状態だ。

 『遊園地』に近づくと、だんだんと若い男女や子供連れの親子の姿が目立ってくる。スレッタなどはそれを見ているだけでテンションが上がっているようだ。

 エランは少し、緊張している。まさか追手の目がこんなところにあるわけもないと思うが、人が増えるだけでも見つかるリスクは上がってしまう。

 みんなが楽しそうにしている中で、多分ひとりだけ強張った顔をしていた。

「遊園地…楽しみましょうね!」

 そんな悪目立ちしそうなエランを救ったのは、スレッタの一言だった。まっすぐに覗き込んでくるキラキラした目に、ハッとした心地になる。

「そう…、そうだね」

 縮こまりそうだった心が、優しく解きほぐされた気がする。エランは繋いだ手をきゅっと一瞬だけ強く握ると、スレッタに小さく笑って返事をした。

 『遊園地』というのは、まるで現世とは違う1つの世界だ。

 可愛らしい建物に、可愛らしいキャラクター、様々な形のアトラクション。すれ違う人たちはみんな笑顔で、遠くからは笑い声や歓声が聞こえてくる。

 ただ歩いているだけでも心が浮き立ってくる。スレッタなどは心なしかステップを踏んでいるような脚さばきだ。

「人気があるアトラクションは少し待つみたい。何か乗りたいものはある?午後までにたくさん回れるように考えないと」

 ジェットコースターとかが好きそうだな、と思いながら話を振ってみる。

 もしかしたら2人で居られるのは今日で最後になるかもしれないのだ。出来るだけ楽しんで欲しいと思って出た言葉だった。

「うーん、色々とありますけど…。でも今日は屋外のアトラクションは止めておきましょう。たくさん人が来るアトラクションも」

「どうして?」

 スレッタの返事に驚いて、反射的に疑問を投げかける。目を丸くするエランに、彼女は内緒話のようにこっそりと教えてくれた。

「お外でいっぱい遊んでいたら、他の人の撮影に写り込んでしまうかもしれません。アトラクションには撮影機能のあるものもありますし。だから、今日はいいんです」

 無理をしてまで連れて来てくれて、それだけでとっても嬉しいんです。スレッタはそう答えると、本当に嬉しそうに笑っていた。

 エランはその言葉を聞いて、何だか堪らない気持ちになってしまった。

 気持ちを無視して、ムリヤリ攫って、脅し付けて。そんな事をした相手にも拘わらず、彼女は変わらない態度で接してくれる。そうして、地球への逃亡に協力してくれている。

 同時にエランはつい先ほどまで、スレッタの事を見誤っていた自分に気が付いた。

 彼女が優しく明るいままでいるのは、ただ単に自分たちの状況を見ないフリをして現実逃避しているのだと。心のどこかでそう思っていたのだ。

 でも違う。彼女はきっと自分たちの状況を理解したうえで、出来ることを探して前を向いている。そして精一杯、彼女にとって心地よい環境を作ろうとしている。

「わたしも予習してきたんですよ。たぶん、この辺りなら大丈夫だと思います。ごく少人数での参加だったり、稼働中は真っ暗になったりする屋内アトラクションです」

 スレッタが自慢げに端末を差し出してくる。覗き込むと、きちんとリストアップされたアトラクションの名前が書かれている。…その中には目玉である観覧車やジェットコースターの名前はない。

「どれも楽しそうです」

 明るい声で笑う強い人に、エランは一生勝てそうにないと思った。


 リストの中から更に安全そうなものを選び、ひとつずつ遊んでいく。人気のアトラクションは避けていたからか、どれも比較的スムーズに楽しむことができた。

 家族連れが多い中、おそらくカップルだと思われる若い男女の姿もちらほらと見える。エラン達もきちんと埋没できているのか少し心配に思うが、特にこちらに注目してくる人物はいなかった。

 綺麗な赤い髪を帽子で隠したり、髪や肌を地味な色に染めた効果もあったのかもしれない

 そんなこんなで午前中はそれなりにアトラクションを楽しみ、適当な場所で昼食を取り終わった時にはもう午後になっていた。

 あと1つか2つアトラクションを楽しんだら、地球行きの船に向かわなければいけない。

「全部は回り切れなかったね」

「仕方ないですよ。アトラクション制覇には1週間くらいかかるみたいですから」

 そんな話をしながら、最後のアトラクションに向かっていく。

 数分ほど歩くと、覚えのある特徴の建物が見えてきた。

『不思議なミラーハウス』

 それはチラシにも描かれていた、今日唯一とも言える目玉アトラクションだった。

 目玉とは言っても、それはあくまでチラシに描かれていただけで、実際のところは屋外のアトラクションほどの人気はないようだ。

 ダウンロードした『遊園地』のアプリで確認したところ、今も数分の待ち時間ですぐに遊べるとあった。

「鏡を使った迷路です。ほんのちょっぴりホラー要素もあるみたいですよ」

「そうなんだ」

 スレッタの物言いでは、それほど怖いものでもなさそうだ。

 このアトラクションは入口が何個か用意されていて、中には同じような鏡の空間が広がっているらしい。最大5名ほどが一度に入れるようで、エラン達は当然2人で入る事を選択した。

 スタッフの案内のまま迷路へと入っていくと、すぐに鏡の世界に迎え入れられる。

「わぁ、綺麗ですね」

 床も天井も綺麗な幾何学模様が描かれていて、磨かれた鏡に映り込んでいる。通路自体は狭いのだが、広い空間のように感じる。

「模様が変わって、面白いです」

 微妙に鏡の角度や形が変わっているせいで、歩くごとに鏡に映る景色も変わる。ぼんやりしていたら、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうのかもしれない。

 とはいえ空間認識能力が長けているエランは、常に自分がどの位置にいるのか把握できてしまう。口に出してはいないが、おそらくスレッタもそうなのだと思う。

「…これだけなら、何だかちょっと肩透かしだね」

 楽しんでいるスレッタには悪いが、ぽろりと本音が出てしまった。一瞬まずいと思ったが、先行していたスレッタが振り向いて挑戦的に笑いかけてくる。

「これは第1ステージです。これを突破したら、もっとすごい鏡の世界に行けるみたいですよ」

 他の人のレビューを見たので、予習はバッチリです。胸を逸らして自慢している。

「全部で何ステージあるの?」

「3ステージです。最後の方はあっと驚く仕掛けがあるとか」

「あっと驚く仕掛けって?」

「それは分かりません。楽しみが減るので、ネタバレを見る前にレビューを閉じました」

 賢い使い方をしているスレッタに感心しているうちに、第1ステージは突破していた。

 ゴールの出口をくぐると少し暗い通路があって、出口と第2ステージの入口に分かれているのが見える。途中でリタイアもできるようだ。

 当然、2人は先に進むことを選択した。

 自分が恐ろしい迷宮に足を踏み入れた事には、この時は気付いていなかった。


 次の部屋は一見すると迷路ではないように見えた。というよりも鏡が四方に張られているだけの、ただの部屋のようだった。

 エランはぐるりと周りを見回したが、次の部屋への入口は見当たらない。まるでこの部屋で行き止まりのようだ。

 疑問を浮かべていると、だんだんと周囲が暗くなってくる。天井と床から光の粒が溢れ、見ているうちに鏡の部屋は宇宙空間のようになった。

「どこかに第3ステージへの扉が隠されているらしいですよ」

「そう…なんだ」

 うきうきと喋るスレッタとは対照的に、エランは少し嫌な具合に心臓がドキリとしていた。

 あの恐ろしい宇宙空間を思い出す。スレッタを連れて単身で移動したのは、まだ記憶に新しい1週間ほど前の話だ。

 その後も船の間を飛び移ったりはしたものの、こうして不意打ちをされるとやはり心臓に悪い。

 だがよく見ると星の並びなどは実際のものと違う事が分かる。立体映像ではなく鏡で反射した像なので、技術的にもこの辺りが限界なのだろう。

 エランはゆっくりと一歩を踏み出した。

 偽物の宇宙空間を歩き、次の扉を探そうとする。光は少しずつ動いているようで、周囲の景色も同様に変化していった。

「なかなか見つからないです。そういえば、意外と自分の姿は気にならないですね」

「そうだね、言われてみれば…」

 最初の迷路で散々見たからか、鏡に映っている自分の姿も指摘されるまでまったく気にしなかった。暗い空間というのもあるのだろう。

 この部屋の中では、無数にも思える小さな光の粒が主役なのだ。

 スレッタと一緒に辺りを見回しながら部屋を一周して、でも次の扉はやはり見つからない。

 このままでは時間制限が来てしまう。それはなんだか不甲斐ない。

 少し本気を出して、スレッタと二手に分かれて探し始める。光の粒はだんだんと動きが早くなり、まるで急かされているようだった。

「ん…?」

 その中で、少し気になる事を発見した。光の粒が避け、一部分だけ暗いままの一角があったのだ。動きが早いのでよく目立った。

 近くまで行ってジッと見てみると、その部分はいつの間にか鏡ではなくなっていた。センサーが反応して、うっすらと扉の形に光が走る。

「わぁ、やりましたね」

「次で最後か」

 この後はまた違う鏡の世界が待っているのだろう。エランははしゃいでいるスレッタと一緒に、次の部屋へと足を踏み入れた。


 最後の部屋は、まるで物語の中にあるお城のような空間だった。上にはシャンデリアが吊るされ、床にはビロードの絨毯が敷かれている。

 鏡が効果的に使われて、最低限の装飾でも絢爛豪華な印象を受ける。

 この部屋も一見すると迷路には見えないが、階段やスロープが作られていて、実際にその部分は歩けるようだ。

「立体的ですね」

「そのぶん扉を探すのに苦労しそうだね」

 今回は最初から二手に分かれて扉を探すことにする。落下防止の手すりを掴みながら、慎重に階段を上っていく。

 ふと隣に視線を向けると、色を変えただけのエラン・ケレスの姿がそこにあった。

 出会った当時はずいぶんと本物のエラン・ケレスが大人に思えたものだが、自分の背が伸びたせいで、まるであの頃の彼が立っているようだ。

「………」

 エラン・ケレスの姿を振り切るように、エランは再び階段を上がっていった。

 結局階段の先は何もなかった。今度の部屋も、時間経過でヒントのようなものが出されるのかもしれない。

 それにしても今回はずいぶんと自分の姿が目に付く。たくさんの鏡が微妙に角度を変えて設置されているせいで、1つ1つの鏡に必ず姿が映り込んでくる。まるでわざと注目させるかのように。

 ため息を吐いたエランは、スレッタの様子を確認しようと手すりの上から下を覗き込んだ。壁際を歩いていた彼女が笑顔でこちらに手を振ってくる。

 たくさんの鏡。角度を変えて設置されているせいで、1つ1つの鏡に必ず姿が映り込んでいる。それはスレッタも同様だ。

 たくさんのスレッタ。こちらを向いている本物の他には、鏡の中の虚構しかいない。

 そのはずなのに。

「───」

 無数のスレッタが背を向けている中で、1つだけこちらを見ているスレッタがいた。

 本物の後ろでこちらをジィっと見あげ、小さく唇を動かしている。

 エランの目は硬直したまま、その唇の動きを追っていた。


 …その後の事は、あまり覚えていない。

 呆然としている内に、スレッタが扉を見つけてくれたのだ。「小さなウサギさんが鏡の中に出てきて、出口を教えてくれました」そう言って彼女は無邪気に笑っていた。

 エランは何とか取り繕いながら、スレッタと一緒に感想を言い合った。頭の中では、虚構のスレッタの言葉が繰り返されている。


『最低限の知識は、インストールしておいたよ』


 幻覚にしては具体的で、現実にしては脈絡がない言葉だ。

 そもそも、自分は読唇術は使えない。だから声が出ていなければ言葉の内容は分からないはずだった。

 なのに何故彼女の言葉が分かったのだろう。

 彼女の唇の動きから、適当な言葉を当てはめてしまっただけなのか。

 あるいは幻覚に言葉を乗せられるほど、何か影響を受けた出来事が自分の中であったのか。


 もしくはエランの中にいる『誰か』からの、メッセージだったのかもしれない。






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