鋼鉄要塞女王:1
花岡ユズだけアビドス入り√ver.2【鋼鉄要塞女王:2】
==================
今作は過去作
とは違う世界線の話です
もしユズだけが砂糖摂取量過多でOD覚醒を起こし、単身アビドス入りしたら…
というifルートです
一応ハッピーエンドになる予定ですが…この先どうなるかは分かりません
鋼鉄要塞に変化するユズをどうぞ御照覧あれ!
==================
最近、私とモモイとミドリは甘いものをたくさん食べている
私の消費量は特に多い
全ての始まりは先週のこと
モモイ達が買ってきたお菓子が
すごく甘くて、おいしかった
それ以来ハマっちゃって、時間など関係なしに甘いものを食べ続けた
とにかく同じ銘柄のお菓子を食べる
つい食べ過ぎちゃうほどに
でも買いに行くのは…いや
外には最低限しか出たくない
だから
モモイ『またお菓子買いに行くけどユズも欲しいー?』
ユズ『う、うん…』
ミドリ『じゃあまた後で』
アリス『いざ!買い物クエストに行ってきます!』
こうやって、モモイ達に買いに行かせて私は用意されたのを食べる
部室から出ずに好きなだけ食べられるというのは凄く幸せ
しかし、どうしても一回で持ち帰れる量は限界がある
だから補充された時は、モモイ達の分をこっそり奪って食べる事も多かった
ただアリスちゃんだけは何故か美味しく無いと思ってきたらしく、自分用の分を買わなくなったため量が3人分まで減ってしまった
だから必然的にモモイとミドリのお菓子を奪う機会が増えていた
実はここだけの話…このお菓子は不思議なことにとてつもない効果を持っているらしい
なんと食べれば食べるだけゲームの腕前が上がっていく
集中力も格段に上がっており、これ無しでは生きていけないと思うほど
オンライン対戦では正真正銘の無敗
食べるだけでゲームが上手くなるなんて
こんな最高の気分は生まれて初めて
今の私にとって、この甘いものはゲームの次に…
いや。同じくらい大事な存在へとなっていた
──────────────────────────
ユズ「はむ…もぐもぐ…」
私はロッカーの中でお菓子を口に運ぶ
ああ、とってもおいしいな
すると突然
乱雑にドアが開かれ怒声が聞こえてきた
モモイ「ミドリ!また私のとっておいたお菓子食べたでしょ!?」
ミドリ「チッ…うるさいなぁ…!今回は私食べてないよ!それに前も言ったけど、そもそもちゃんと自分のだって書かないお姉ちゃんが悪いでしょ!」
「はぁ〜!?こないだそう言われたからちゃんと書いてたよ!また嘘つくつもりじゃないの!?このバカミドリ!」
「…今なんて言った?ああもういいっ!今日こそ許さないからね!このバカお姉ちゃん!」
「妹の癖に生意気…!お仕置きしなきゃダメだねっ!いっつもいっつもイライラさせて!もう我慢の限界だよっ!」
(ドタンバタンボカスカ!)
そう、私がお菓子をこっそり奪ったら2人は必ずと言って良いほど喧嘩する
私がこのロッカーに居ると気付かずに
モモイはミドリのせいだって
ミドリはモモイのせいだって
互いが互いを非難して喧嘩する
罵り合いだけで済めば良いけれど
2人共負けず嫌いだから
ヒートアップすると殴り合いにまで発展する事が多い
酷い時には部室内にも関わらず銃撃戦を繰り広げることもある
そうなったらユウカが凄い剣幕で怒鳴り込みに来るから、2人はなるべくやらないようにしてるけど…
──私の手には、モモイの名前が書かれた容器
罪を擦りつけて食べちゃった
人のものを盗んで食べちゃった
…私は本当に最低だ
でも、美味しいから食べちゃう
アリスちゃんは「いらない」って言っていたから…独り占めしてもいいよね
モモイとミドリの分を、こっそり勝手に食べちゃってもいいよね
幸せな気分に浸れるから、どうしても手をつけちゃう
でも
後から大きな罪悪感が後から押し寄せてきて、私は自己嫌悪に陥る
「ごめんなさい…もぐ…ごめんなさい…最低な部長で、ごめんなさい…独り占めしちゃうクズでごめんなさい…もぐ…」
ロッカーの向こうから聞こえてくる殴り合いの音と罵声に対し、消え入るような声で謝罪の言葉を連ねながら、私は溜め込んでいたお菓子を食べ続ける
あぁ…私は卑怯者だ──
──────────────────────────
そんな生活が続いたある日
ミドリのお菓子をこっそり食べた結果、案の定また2人は喧嘩を始めた
するとその時ネル先輩とアリスちゃんが部室に駆けつける
…アリスちゃんは分かるけど、何故ネル先輩まで?
そう思いながら、ロッカーの中で様子を伺っていると…
アリス「モモイ!ミドリ!ど、同士討ちを今すぐやめて下さいっ!」
ネル「おいチビ共!そこ動くな!…チッ、やっぱ食っちまってたか…!」
モモイ「いきなりやってきて何!?今は取り込み中だから用事なら後にしてよ!この恥知らずな妹を、徹底的にお仕置きしてあげなきゃいけないのっ!」
ミドリ「いい加減にしてよっ!恥知らずなのはお姉ちゃんの方!また盗んどいて言いがかりとかほざかないでっ!本気でボッコボコにしてやるっ!」
「上等!姉より優れた妹なんてこの世に存在しないって事、今度こそその小さい頭に叩き込んであげるからっ!!」
「アタシの言葉が聞こえねぇのかッ!黙ってそこを動くなッ!!!」
「うぐ…!?」
「ひっ…!?」
「……いいかテメェら、大人しく検査を受けろ」
「検査…って、何の?」
「テメェらには“ヤク中”の疑いがある。ミレニアム総出で疑いのある奴らに検査させるって事が決まったんだよ」
「や、ヤク中!?麻薬ってこと!?」
「はい…モモイとミドリは“砂漠の砂糖”という呪いのアイテムを摂取したことで中毒状態のデバフがかかっている確率がとても高いと…ノア先輩やウタハ先輩が言ってました」
「で、でもアリスだって食べてたよ!?最近は食べてないけど…だったらアリスだって中毒者なんじゃないの!?」
「…それは分からねぇ。つかんなもんは今どうでもいい!テメェらが砂漠の砂糖を食ってジャンキーになった事を今すぐ証明させろ!…放っておけば、テメェらの命だって危険になるかもしれねぇ」
「………」
「………」
「モモイ…ミドリ…お願いです、検査を受けましょう?」
「…分かった、分かったよ。確かに最近ずーっとミドリと喧嘩ばっかしてたし…流石におかしいと思ってたし…」
「私も…なんでこんなにお姉ちゃんの事が憎く見えるんだろうって、不思議だと思ってたから…」
「じゃあさっさと来い。…おい、おでこは何処だ?」
「おでこ…ああユズ?そういえば何日も見てないかも…どこ行ったんだろ」
「ま、まさか、ユズは砂糖の欲に負けて自分から“アビドス入り”したのでは…」
「チッ…だとしたら最悪だな…とりあえずまずはテメェらからだ!おでこはノア達に探させる!早く行くぞッ!」
「うわー!引っ張んないでよー!」
「じ、自分の足で行きますからー!」
「うるせぇ!テメェらの鈍足を呪え!」
「モモイー!ミドリー!」
──────────────────────────
一気に静寂を取り戻す部室
私はロッカーの中で全てを聞いた
ユズ「…砂漠の砂糖?」
ロッカーに溜まった包装のゴミを拾う
ゲーム機の光を当てて成分表を確認した
──あった
【砂漠の砂糖】
【サンド・シュガー】
私が食べたお菓子には、全部にその名前が刻まれていた
ということは
モモイとミドリと私が食べたのは
麻薬だった…?
は
あは
あははは
そっか、そうなんだ
私が食べていたのは
麻薬だったんだ
なんて
なんて…
素晴らしいんだろう!
こんな素晴らしい麻薬があったなんて!
甘くて美味しい!
ゲームの腕前も上がる!
集中力もつく!
気分も良くなる!
最高のお砂糖(麻薬)だ!
「あっはははははははは!」
思わずロッカーの中で高らかに笑った
もうみんなはいない
邪魔する人はいない
じゃあ食べちゃおう!
残った分は全部私のもの!
一度ロッカーから出て部屋の隅を見る
沢山置かれたお菓子や砂糖の袋詰め
全部引っ掴んでロッカーの前に置く
手を突っ込んで包装を破き口に入れる
あまい
しあわせ
とろけそう
とにかくたべる
“砂漠の砂糖”は最高の砂糖
みんな食べないのなら、今度こそ本当に独り占め出来る
ジュースどころかスティックシュガーも全部身体に取り込む
食べれば食べるほど気分が良くなる
笑いが止まらない
「あひゃはははははっ!」
口から甘い唾液が落ちるのも気にせず
とにかく食べる
──────────────────────────
ユズ「あははは!…は、はへ…?あぁ…もうなくなっちゃった…」
どれくらい経ったか分からないけど
あんなにあった砂糖を全部食べ尽くしてしまったらしい
私は落胆する
「──っ!?あ゛、ぐっ…!?」
な、なに…!?
急に、身体が熱くなってきた
しかもとても重い
あまりの苦しさで、ロッカーの中に倒れ込んでしまう
「はぁ…はぁ゛…っく、うぅ゛…!」
呼吸が難しい
ロッカーの中で悶え苦しむ
数分後
変に体重をかけたせいで、私はロッカーごと前方に倒れ込んでしまった
(バターンッ!)
「あ゛ぅっ…!」
衝撃が全身を貫く
ロッカーの目の前に捨てた、夥しい量の砂糖製品のゴミにも倒れ込む
まだ残っている甘い香り
思わずうっとりしてしまった
次の瞬間
「い゛ぎっ…!?があぁ゛ぁぁぁっ!」
身体が急におかしくなった
何が起きてるのか分からない
言語化が難しいけど…
“身体が別のものに変質してる”
と言うのが正確かもしれない
理解不能な感覚に耐えれず叫んだ
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ──!」
「ぅ…ん…あ…?」
目が覚めた時には、もう夜中だった
身体中が痛い
ゆっくり起き上がる
…あれ?
おかしい
私と一緒に倒れたロッカーがない
本来なら立ち上がれないはず
…何処に行ったの?
その時
(カツコツ…)
「ひっ!?」
誰かが近づく音が聞こえた
見回すもののロッカーは無い
“隠れたい!”
そう思った瞬間──
「え…!?」
──────────────────────────
ミレモブ「うーわ、荒れ放題じゃん」
1人のミレニアム生徒は、ゲーム開発部の部室の荒れ模様を見て顔を顰めた
普段以上に滅茶苦茶で、ロッカーの前はお菓子のゴミだらけ
部屋全体に砂糖の甘ったるい匂いが満ち満ちており、少しいるだけで気分が悪くなりそうなほど
「ノア先輩から言われて砂漠の砂糖含有のモノ探しに来たけど…言うまでもなくこれ全部そうだよね…はあ、とりあえずがっさー持っていけば良いかな」
その生徒はロッカー前のゴミを掴むと、用意していた袋に入れていく
「おぇ…甘過ぎて吐きそ…う?」
すると彼女は、ある異変に気がついた
ロッカーの上に、ヘイローらしきものが浮かんでいる
「…誰かいるの?」
暗い部室の中…気味悪さを覚えながら、恐る恐るロッカーの扉に手をかける
そして一気に開けた
(バンッ!)
「…え?誰もいない…」
そこには誰もいなかった
何の変哲もない、ゲーム機だけが置いてある普通のロッカーだった
「…ま、いっか。こんなインテリアあるもんなんだね…ってやば!?急がないとノア先輩に怒られる!また時間のことでめっちゃ詰められる!」
生徒はゴミを詰めた袋を持ってそそくさと部室を離れた…
──────────────────────────
ユズ「わ、私…まさか…
“ロッカーになってる…!?”」
信じられないことに
私の身体はロッカーに変化した
何を言ってるか分からないと思うけど、私自身も何が起きてるのか分からない
頭がどうにかなりそう
さっき開けられた時は何ともなかった
しかも私の視界は、ロッカー内なら何処ででも確保できるようだった
外を見たかったら扉や外側に
内側を見たかったら内側に
“そこを見たい”と念じるだけで見れる
「…うわっ!?」
しかもその気になれば手足や頭を生やす事まで可能だった
…絶対に鏡を見てはいけないビジュアルになってそうだけれど
そして警戒心を解いたら身体は戻った
「こ、これって…」
何が何だか全く分からない
どうしよう…
『ユズは“アビドス入り”したのでは…』
あ
そういえばあの時アリスちゃん
アビドス入りって言ってた…
アビドスは砂漠がある自治区…
あの砂糖の名前は砂漠の砂糖…
そうか!
アビドスに行くことが出来れば
この変化の理由が分かるかもしれない!
そして砂漠の砂糖を製造している本拠地がアビドスなのであれば
私はいつまでも砂糖を食べられる…!
「よ、よぉし…アビドスに行くぞー…!もっと甘いもの、食べるために…!」
でもミレニアムから脱出するのは難しい
監視カメラはあちこちにある
夜中とはいえ生徒の往来も多い
下手に見つかったらアウトかも…
ふと、空の段ボールが目に入った
「…!こ、これなら…!」
みんなでメイド服を着たあの時の記憶が蘇る
段ボールに入ってバレないようにすればいいんだ!
私は早速、部屋にあった段ボールを被る
「ゔっ…!?なっ…ま、また…!?」
被った次の瞬間、再び私の身体は悲鳴をあげた
さっき気絶する前と同じ感覚
でも今回は少し苦しい程度
気絶するほどではなく、すぐに苦しさは収まった
「はぁ、はぁ…あ、あれ…?」
ロッカーの時と同じく、段ボールは影も形も無かった
ということはまさか
「…み、見つかりたくない…!」
ああ
やった
これでもう誰にも見つからない
安心してアビドスに行ける
うれしいな
==================