【試作】砂糖堕ちハナエちゃんのお話ゲヘナ編第2話ヒナ(2)
砂糖堕ちハナエちゃんの人この物語は無能の司祭A氏(むのしさ氏)の砂漠の砂糖SS「麻薬動乱 ゲヘナ編」をベースに作っており該当作品から情景描写・物語設定・台詞等を多数引用しております。
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チュン……チュン……
窓の外から聞こえる小鳥の囀りとカーテンの隙間から差し込む朝日の光にヒナはゆっくりと目を覚ます。
「ん……もう朝なのね」
ゆっくりとベッドから起き上がったところで何か違和感を覚えた。
「……身体が……軽い……それに何だかとってもスッキリした気分がするわ」
いつもならベッドから起き上がろうとすると身体が石のように固く、頭は鉛のように重たくで中々起き上がれず、意識と視界は靄が掛かったかのように中々晴れずふらふらと彷徨いながら部屋を出るのだが今日はそれらが一切なく、すっきりとした気分で起き上がれ、まるでもう起きてから何時間も立ったかのように思考が明瞭になっているのだ。
こんなに良い目覚めは一体いつぶりだろうか?
「睡眠は……いつも通り2時間半なのね」
もしや寝過ごしたのか?と思い枕元の時計を見る。しかし、いつも通りぐらいしか睡眠出来て無いのにもかかわらずまるで8時間くらい寝て疲れが完全に取れたような感覚になっていたのだ。
「ふふっ……何だか気分が良いわ」
そのまま鼻歌混じりに部屋を出て洗面所へ向かう、洗面台で顔を洗う。そろそろ冬が近づく気配を冷たい水道水で感じなら普段ならお湯に切り替えるが今日はそのまま冷たい水のまま顔を洗う。
「ふぅ……スッキリするわ。最高の朝ね」
軽い足取りで部屋に戻り、ベッド横のドレッサーテーブルで髪を整えてる時だった。
「……誰?」
視界の隅、鏡越しに自分の後ろに誰かが立っているように見えて、ヒナは後ろに振り向く。しかし、後ろには誰もいない。部屋にも何者かが侵入した気配は無い。
「……気のせい?」
やはり疲れが取れてないのか?とヒナがもう一度鏡に向き直した時だった。
【気のせいではありませんよ、ヒナ委員長】
今度は声が聞こえた。そして視界の隅、鏡越しに自分の後ろに立つ誰が一瞬見える。顔は見えず腰当たりの制服のような物が見えたのだか、それと聞こえた声にヒナは十分心当たりがあった。
「アコ、なの?……どこに居るの?」
もう一度振り向く、しかし自分の後ろにも部屋全体にもアコの姿は無い。そもそも家主である自分に断りも連絡もなく家に押しかけ勝手に部屋に上がる事などいくらアコでもしないはずだ。……いや家に押しかけて来たことはあったか、あれは確か――。
不意に懐かしいアコとの出会いの思い出が浮かび上がったところでもう一度声が聞こえる。いや脳内に響き渡った。
【私なら"此処"に控えております、ヒナ委員長】
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・ヒナ「やっぱり居ないわ。アコの幻聴が聞こえるなんて相当疲れているのね私」
→ヒナ砂糖中毒軽症・アビドス堕ち回避IFルート
・ヒナ「"其処"に居るのねアコ(ニチャァァァッ)」
→ヒナ砂糖中毒重症・アビドス堕ち本編ルート(※このまま読み進めてください)
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何かが自分の中に入って来る。ゾワリと鳥肌が立つ感覚に襲われヒナは身体を震わせる。自分の中の何か(神秘)が警鐘を鳴らすがそれを押さえつけねじ伏せる。
「"其処"に居るのねアコ」
ヒナの脳内に流れ込んで来るナニかが声と共にヒナの意識に存在を差し込む。おかしいはずなのにおかしくない、当たり前の存在のようにヒナの記憶へ"ソレ"を焼き付ける。
【はい、私は委員長を支え助ける存在です。さぁ委員長、砂糖を摂りましょう。執務室へ向かい、私(もう一人のアコ)に砂糖たっぷりのコーヒーを淹れて貰うのです】
「わかったわ【アコ】」
素早く身支度を整えると朝食も取らずヒナは学園へと向かった。
「委員長っ!?どうされたのですかこんな朝早くから……」
何時もの様に誰よりも早く風紀委員会本部棟へ到着したアコ。
執務室のドアを開けようとして既に鍵が開いている事に不審に思いドアを開ければ、執務机に座ってこちらに笑みを浮かべるヒナの姿に驚く。つい挨拶を忘れてしまうほどに。
「ふふっ、おはようアコ。早速だけどコーヒーを淹れてちょうだい。昨日と同じく砂糖たっぷりのコーヒーをね」
「お、おはようございます委員長。コーヒーすぐにお持ちしますね」
慌てて給湯室に向かいコーヒーを淹れる準備をするアコ。並々とカップにコーヒーを注ぐと砂糖を入れて行く。
(砂糖たっぷりと委員長は仰りましたけど……さすがに昨日の量は入れれませんわね)
スプーンで3杯ほど入れてかき混ぜるとトレーに載せて執務机に座るヒナの元に持って行く。
「お待たせしました。コーヒーをどうぞ」
「うん……ありがとうアコ」
受け取るとそのままクイっとカップを傾けた所でヒナは止まる。
「……あの?ヒナ委員長?どうされましたか?」
不思議に思い尋ねるアコにヒナは表情を歪ませて答える。
「薄い……」
「はい?」
「薄いわ……味が薄いって言ってるの。本当に砂糖入れたのアコ?」
「スプーンで3杯も入れたのですが……」
「全然足りないわ……もっと入れてちょうだい」
「ですが……流石に……」
「聞こえなかったのかしら?味が薄いの、もっと砂糖入れてって言ってるの。それとも私に泥水を飲ませるつもりなのアコ?」
「もっ、申し訳ありません!すぐにお持ちし直しますっっ」
慌ててコーヒーを下げ給湯室に戻るアコ。急いて砂糖を継ぎ足す、1杯…2杯…3杯……気が付けば計10杯近く砂糖を入れると再びヒナの元へと運ぶ。
「お、お持ちしました……」
殺気を放ち苛立つヒナへ恐る恐るコーヒーを差し出す。やや乱暴にカップを取るとぐいっと一気に煽るヒナ。
「……美味しいわ。やればできるじゃないアコ。これからもこの量でお願いね」
さっきの静かに怒りを浮かべる委員長とは別人のような満面の笑みを浮かべるヒナにアコはどこか恐怖を感じつつ首を必死に縦に振るしかなかった。
「お待たせ、チナツ。状況を報告してちょうだい」
風紀委員会に緊急出動が掛かり、コーヒーを堪能していたヒナは少し遅れて現場に到着する。後方支援していたチナツに現場の状況を確認するヒナ。
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・チナツ「温泉開発部による爆破テロが行われてます。今はイオリが先頭に立っていますが押され気味のようです」
→ヒナvs温泉開発部。温泉開発部グルスト非対応IFルート(旧本編)(※ヒナがカスミとメグに凄まじい暴行を行います暴力残虐表現注意)
・チナツ「スケバンとヘルメット団の集団が暴れてます。カイザーPMC製の大型巡航戦車やロケット砲など重装備でイオリを始めとする戦闘部隊が押されています」
→温泉開発部グルスト対応済み新本編ルート(このまま読み進めてください)
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「スケバンとヘルメット団の連合チームが暴れています。アコ行政官指揮の元、イオリ達第一戦闘部隊が迎撃に向かっているのですが押され戦線が後退中です」
チナツに報告にヒナは疑問も抱く。
「アコの指揮で動くイオリの部隊が全員で対応しているのに押されているの?」
ヒナ委員長抜きだと弱いと舐められがちなゲヘナ風紀委員とはいえその戦力は他の学園自治区の治安部隊と引けを取らない一級品で、スケバンとヘルメット団のような逸れ者の烏合集団に此処まで押されてるのは滅多にない、アコとイオリが先頭で動いているなら尚更だ。
「どうやら相手はカイザーPMC製の大型巡航戦車やロケット砲など重装備のようです。未確認情報ですが元カイザーPMC部隊の者も加わり指揮をしているとか……」
今年の春に起きたアビドス事件、そして連邦生徒会とシャーレ襲撃事件に関わり、評判を大きく墜としたカイザーPMC。その結果業績が大幅に悪化、カイザーPMC理事を始め上級幹部が多く引責辞任し、現在規模を大きく縮小中だ。
リストラも断行されたと聞き、食いっぱぐれたPMC関係者がヤケを起こす事件も多く発生していると言う。
「それから……」
何か続きがありそうな様子で口ごもるチナツ。ヒナは続きを言うように促すと恐る恐る発言する。
「先日の風紀委員会本部棟爆破事件で多くの弾薬装備を失い、まだ補給が完全に行き渡ってません。爆破事件の事もゲヘナ中に知れ渡っていて……その……"ゲヘナ風紀委員を倒すなら今がチャンス"と……」
「そう………つまりは"舐められている"のね」
ゴウっと風が巻き起こる。大きく翼を広げたヒナが凄まじい殺意と熱気を放ち、チナツは思わずたたらを踏む。
「チナツ……救急医学部のセナに連絡を入れて。"新鮮な死体"が沢山出るから回収の準備を、とね」
「負傷した風紀委員達の対応でしたらは私と私の部隊がすでに対応中です」
「違うわ……」
振り向くヒナ。その蛇のような歪んた笑みに思わず悲鳴が出そうになるのをチナツは飲み込む。
「あの"ゴミクズども(スケバン・ヘルメット団)"の事よ」
(あそこが戦闘区域ね)
ビルからビルへ羽を羽ばたかせ飛び移りながらヒナは目を細める。近くの一番高いビルの上から状況を確認する。
(スケバンとヘルメット団にしては装備が豪華すぎるわ……なるほど元PMCの連中がバックに居るわね)
眼下では激しい戦闘が行われていた。重武装のスケバンやヘルメット団に混じり元PMC所属らしきロボット兵の姿も見えた。十数両の大型巡航戦車の砲撃が絶え間なく行われ、戦線は後退どころか崩壊の気配すらある。必死に戦うイオリと少し後ろで指揮をしているアコの姿も確認できた。
(さっさと片づけよう……)
そう言ってイオリ達に合流すべく無線を入れようとした時だった。
【ヒナ委員長、ここは私にお任せください】
突然、ヒナの脳内に声が響き渡る。
気が付けば無意識に身体が動き始めていた。
ゲヘナの大地に嵐が吹き荒れる。
鉄と鉛と火薬の嵐が吹き荒れる。
その光景にイオリとアコは手を止めてしまう。
とても恐ろしく美しい暴虐の嵐が吹き荒れていた。
(すごい!すごいわ【アコ】!)
脳内に響く幻覚(アコ)の声に導かれヒナは戦う。
まるでシャーレの先生の指揮下に入ったかのように視界が広がりクリアになる。
戦場を見下ろすかのように俯瞰し、エリアの敵のすべての意思動きが手に取るようにわかるからだ。
自分の身体もとても軽くなり恐ろしいほど力が湧いてくるのだ。
(これがあなたの力なのね!)
【はい、これが私の役目――私の能力――私の力なのです委員長】
朝、初めて会った時、そして先程戦闘に入るとき、【アコ】は教えてくれた。
幻覚(アコ)とは宿主を支え助ける存在なのだと。砂漠の砂糖を力を――能力を宿主授けるモノだと――。
大幅に身体強化されたヒナにとって目の前の存在はもはや一山いくらで片づける動くゴミクズでしかない。
(楽しい……愉しいわっ!!)
不良達を薙ぎ倒し、ヘルメットを砕き、ろぼっと兵を捻り潰し、砲弾を蹴り上げ、戦車を破壊していく。
いつもなら面倒を起こす生徒たちに悩み、どうやったら更生してくれるのか考えながら行動するのだが、今は何も考えず、ただ力を揮う事だけに専念する。
幻覚(アコ)に言われるままに力を揮うヒナに今まで感じた事の無かった――知らなかった感情が沸き起こり心を染め身体を支配していく。
【委員長は今まで大変辛抱されて来ました。もう十分です。慈愛を与える時間は終わりました。これからは存分に暴力(力)を揮い、破壊を楽しみましょう】
「もう。何も考えなくて良いのね。何も悩まなくて良いのね、そうなのね【アコ】」
【はい、その通りです。ゲヘナの真の支配者にしてソロモン72柱序列第一位、私の愛しいバアル――】
最後に余った弾薬を打ち切り、カチンカチンと愛銃が弾切れになった事を持ち主に伝える。
全てが瓦礫となり静まり返った硝煙咽る空間にヒナの色の帯びた溜息のような声が響く――。
「快感……♡」
(続く)