第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」 その6

第四話「トリニティ襲撃勧誘作戦」 その6

概念不法投棄の人

※アドビス砂漠の砂糖本スレまとめのリンクから来られた方へ

 2023/12/29 に物語の構成を変更したためにサブタイトルが一部改変されています。

 この物語の旧タイトルは『第三話『トリニティ襲撃勧誘作戦』その6』で合っています。




※この回は非常にグロテスクな表現があります。閲覧注意!!




 ミネ団長とハナエちゃんの死闘が続きます。


(ああっ……ミネ団長……)


 ホースに縛られ吊るされて高い位置から見守る事しか出来ない私の目の前で続く互角で長い闘い。しかしすこしずつ事態は変化していました。


「~~~~!!」


 ミネ団長のシールドバッシュを軽々と躱すようになってきたハナエちゃん。最初の頃はミネ団長に翻弄されチェーンソーにも振り回され気味だった動きはミネ団長の攻撃と行動パターンを読むようになり洗練され無駄な動きが無くなって来ました。


「このぉっ!!!」


 そしてミネ団長。徐々に疲労が溜まって来てるのか動きが鈍くなり始めていて気が付けばハナエちゃんに翻弄されつつ何とか攻撃を躱すのが精いっぱいの様に見えてきました。ミネ団長の美しい純白のロングスカートの制服もあちこち無惨に引き裂かれその下からに覗く白い素肌には血が滲み、垂れて流れてるような切り傷やかすり傷が見えるようになってきていました。


「ミネ団長後ろっっ!!」


 私は思わず叫びます!!ミネ団長のシールドバッシュをフェイントをかけて躱したハナエちゃん。床に深く突き刺さったシールドを引き抜くためにミネ団長に生まれた一瞬の隙をついて背後に回りながらチェーンソーを振り下ろしてきました。



ザシュッッ!!!!



「あ"ぐぅっ!!!」


 ミネ団長の肩を羽ごとチェーンソーの歯が切り裂きます。咄嗟にミネ団長が身を捻ったため、深く刺さる事は無かったものの団長の綺麗な青い翼と長い髪が切り裂かれ、切り裂かれた肩の傷口から零れた血とともに破片が宙を舞います。団長の青い羽は度重なる攻撃で何度もズタズタに切り裂かれ血で染まり汚れた無惨な姿へと変わり果てていました。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 肩で息をして罅だらけのシールドを杖の様にして身体を支えているミネ団長。もう限界が近そうな雰囲気がしています。



「…………」


 ハナエちゃんは無表情のまま、チェーンソーを何度も空ぶかしします。まるでミネ団長を挑発するかのように……。


「はぁ~あっ、そろそろ飽きて来ましたね。もう終わりにしましょうか♡」


 まるでつまらないテレビ番組を見ているような感じでハナコさんが喋り、手をパンパンと叩きます。


「ハナエちゃん、遊びは終わりです。さっさと片づけてくださいな♡」


 ハナエちゃんがハナコさんの言葉に反応したのか、腰を低くして構えると一気に距離を詰めて来ました。


「団長っっ!!」


 私が叫ぶと同時に団長がシールドを構えます。

 二人がぶつかり合い激しい衝撃音と響き渡ります。


「せいっ!!!」


 激しくぶつかり合っていたシールドを一瞬だけずらして構え直すミネ団長。するとシールドに激しくぶつかっていたチェーンソーが弾かれ思わずハナエちゃんはよろけます。


「甘いですよハナエェェッ!!」


 バランスを崩したハナエちゃんをシールドで逸らし、ハナエちゃんの背後に回り込むと思いっ切りシールドを背中へと打ち込むミネ団長。全力で突っ込んで来ていたハナエちゃんは自分の作った勢いに加えミネ団長のシールドを背中に打ち込まれた衝撃が加わり、吹っ飛ばされて凄まじい勢いで床にぶつかり、床を引き裂きえぐり取りながら突き進み途中でやっと止まりました。


 床にめり込み動けずに藻掻くハナエちゃんにミネ団長は止めを刺すべく構えます。


「はぁぁぁぁぁぁああああああーーーーー!!!!」


 ミネ団長が咆哮を上げ力を溜めます。物凄い力がミネ団長の周りに集まり、足元の床が砕けて抉れ空気が振動し電撃が走っているような幻覚すら見えてきます。


(ミネ団長……自分に残ってるすべての力を出してハナエちゃんにぶつける気なんだ)


 止めたくても止める事も出来ず、私はただ、二人の無事を祈るしかありません。



「誇りと信念を胸に刻み!最後のその瞬間まで!戦場に救護の手を!」



 まるで呪文のような自分を鼓舞するようなそんな叫びを上げて限界まで自身の力を引き上げるとミネ団長はシールドを構えて最後の攻撃へと出ます。


「ハナエェェッ!!受け止めなさいっっ!!全力で参ります!!!」


 今までで最高のすさまじい勢いでシールドバッシュを繰り出したのでした。









その瞬間はまるで高速度カメラのスーパースローモーションの様でした。



ミネ団長が高く天井まで飛び上がり、オーラを纏った盾を全力で振りかざします。



その先に居るハナエちゃんは床にめり込んだまま藻掻き続けてます。



ミネ団長がシールドを構えて落下攻撃態勢に入りました。もう彼女を止める手段はありません。



ハナエちゃんがようやく床から抜け出してミネ団長の方に振り返りチェーンソーを構えようとします。でも今からではもう間に合いません。

ミネ団長の攻撃がハナエちゃんに決まり、ハナエちゃんはそのまま床にシールドごとめり込み沈む……………そのはずでした。



ミネ団長のシールドがあと少しで当たる瞬間、ハナエちゃんが嗤いました。口の両端を釣り上げて嘲笑うかのように見えました。



するとぐにゃりとハナエちゃんの姿が揺れて消えてしまったのです。まるで蜃気楼のようにです。

ミネ団長が目を大きく見開いたのが見えました。



消えたはずのハナエちゃんは"居ました"。ミネ団長の攻撃がギリギリ当たらない場所に――、まるで最初からそこに居たように。



ミネ団長の顔が歪んだように見えました。もう今からでは攻撃を止める事も落下位置を修正できることも出来ません。



ミネ団長が着地しシールドが"誰の居ない場所を"空しく抉ろうとした瞬間、ハナエちゃんはミネ団長目掛けてチェーンソーを大きく斜めに薙ぐりました。

重力と物理法則に従って高速移動するミネ団長の動きと正反対の向きから動いたチェーンソーの歯は双方の力を効果的に最大限利用し、その威力を発揮しました。



バァアアアアン!!!と凄い音がしてミネ団長のシールドが――、私達救護騎士団を護り続け、その力と団結の象徴であったミネ団長の盾が二つに引き裂かれ粉々に砕け散りました。



そして、そして。砕けたシールドを易々と貫通して通り抜けたチェーンソーの高速回転する無数の刃が――、ミネ団長の身体を斜めに大きく引き裂いたのです。



そのまま地面に着地するはずだったミネ団長の身体が再び宙を舞いました。仰け反り力なく両腕を投げ出して吹き飛んでいくミネ団長の身体。その身体の正面から真っ赤な大きな血しぶきが大輪のように咲きます。



ゆっくり、ゆっくりとミネ団長の身体が床に叩きつけられていきます。夥しい血を噴き出しながら――。









「団長……いやぁああああ!!ミネ団長ぉぉおおおおお!!!!」


 私の絶叫がボロボロの講堂に響き渡ります。


 私は必死に藻掻きここから脱出しようと試みます。こんなところでホースに巻かれて宙に浮いてる暇なんてありません。早く早くミネ団長を助けに行かないといけないのに!!!!


「あははははははははは!!!無様、まさにあっけないくらい無様ですねミネさぁぁぁぁぁあん!!!!あははははは!!!」


 隣でハナコさん、いえ魔女が勝利の高笑いを上げています。


「あ"っ……あ"あ"あ"っ!!ガハッゴホッ!ゲホッ!!」


 血だらけのミネ団長が激痛にうめき声を上げます。激しく咳き込み、その口からも真っ赤な血が溢れ出始めました。


「ミネ団長っ!!!いやあああミネ団長ぉぉっ!!離してっ離してっ!お願いいいっ!!!」


 私は必死に懇願します。


「あはははは…はぁはぁはぁ、笑いが止まりませんわ。うふふふっ、さぁ!ハナエちゃん!!ミネさんに止めを刺しなさいっ!!彼女に砂漠の砂糖の素晴らしさと有難さを教えるんです!!あのだらしない身体に直接ねっ!!!!!」


 こくりと頷くとハナエちゃんがゆっくりと斃れてるミネ団長へ近づいて行きます。その手には1本の注射器が握られていました。


「やだ…だめぇ!!!ハナエちゃんやめてぇえええ!!」


 私の懇願も空しく、ハナエちゃんは聞く耳を持たずにミネ団長の傍へ行きます。


「…………」


 ハナエちゃんはしゃがみこむとミネ団長の頭、前髪を乱暴につかむとそのままミネ団長の上半身を持ち上げ始めました。


「あ”っぐっっ!!…ハナエ……お願い……や…やめて……たすけ……て……」


 ミネ団長が苦しそうにハナエちゃんへ懇願します。涙を流し、恐怖で顔を歪めるミネ団長、私が初めて見る表情でした。


「あははははははっ!!聞きましたかミネの情けない命乞いをっ!!!ねぇミネっ!!あなたもそんな弱弱しい女の表情が出来たんですねっ!あはははははははは」


 ハナエちゃんに完全に持ち上げられたミネ団長の上半身、力なくぶら下がるミネ団長の両腕からは夥しい血が伝って床へ滴り落ちていました。

 ミネ団長のボロボロで血だらけの長いお下げを腕で払いのけると露になった団長の首筋へ注射器の針が宛がられます。針が触れたに気づいたのかミネ団長の目が見開きました



「やだ……お注射……やだぁ……は、ハナエ……おねがい……ゆるし……」


 ミネ団長が泣きながら言いかけた所でハナエちゃんが勢いよく注射器の針を根元までミネ団長の首へと深々と突き刺し、プランジャーを一気に押し込みました。




「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ーーー!!!!!」


 ミネ団長の絶叫が激しく木霊しました。


 ハナエちゃんが乱暴に注射器を引き抜き、首の注射痕からは血が勢いよく吹き出します。返り血を浴びても全く気にしない様子の無いハナエちゃんは掴んでいたミネ団長の前髪を無造作に離します。何十本も千切れたミネ団長の水色の髪の毛がパラパラと散って舞います。ハナエちゃんの手の指に絡みつき残ったミネ団長の大量の頭髪をまるでゴミを払うかのように服の袖で拭うハナエちゃんに怒りすら湧いてきます。


「あ"あ"っ!!ゲホッ!!ガホッ!!あ"ぎぃぃぃ…ぐぅぅぅ……苦しいよぉ…熱いよぉ……たすけ…ゴホッガハッ……」


 大量に流し込まれた砂糖の暴力的な力が身体の中で暴れているのかミネ団長が激しく藻掻いてます。その度に引き裂かれた身体の傷口から血が溢れ出し、団長の純白の制服を真っ赤に染め上げ、吸い切れなくなった血が床へと零れてひろがり真っ赤な水溜りを作っていきます。



「うふふふふ…あはははは…あはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」


 魔女が狂ったように笑い始めました。


「やった!やったやったやった!!!遂にっ!遂にっ!!ミネをやった!!ミネを殺った!!ミネを犯ったわっ!!!あはははははははは!!!これでっ!!これでっ!!救護騎士団はもう終わりだっ!!!救護騎士団など粉砕だっ!!!私を止める者はもう居ない!!ティーパーティーもっ!!!シスターフッドもっ!!全部潰したっ!!!この腐りきったトリニティに私を止めることが出来る者はもういない!!!この学園は私の物だっ!!!この学園は私の物だっ!!!私が支配したのだっ!!!私が支配したのだっ!!!私が打ち取ったんだぁあああ!!!ぎゃははははははははは!!私にも落とせる!!私にも落とせる!!私にも学園(くに)が堕とせる!!私一人でも学園(くに)をひとつ打ち滅ぼすことが出来るのよぉぉぉぉっ!!!これでっ!!これでっ!!ホシノさんに!!!ヒナさんにっ!!!顔向けができるっっ!!並べられる!!!二人と肩を並べられるっ!!!!!!もう足手纏いじゃないんだっ!!ホシノさんとヒナさんを引っ張る足手纏いじゃないんだっ!!!私もお二人の隣に立てるっ!!一緒に立つことが許されるんだっ!!!武力も無い!!戦闘力も無い!!!知力もないっ!!!砂糖に溺れお二人よりもたくさん砂糖を食べてるのに同じくらい役に立てない極潰しじゃぁもう無いんだよっ!!!わたしはこれでお二人の正式なパートナーにっ!!戦友になれたのよぉぉぉぉ!!!ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」


 もう既に何をしゃべっているのかわからないくらい発狂している魔女。その時でした


「………!!」


 私を拘束していたホースがいつの間にか緩んでいる事に気が付きました。私は必死に藻掻き続けているとずるっとホースの拘束から抜け出す事が出来ました。

 しかしそこは建物の二階に相当する天窓のそばの足場の何もない空間。私は投げ出され、そのままろくに受け身も取れずに床へと叩きつけられてしまいました。


「ガハッっ……」


 口の中に鉄の味と匂いが広がりねばついた液体が溜まってきます。気持ち悪さに吐き出したそれは真っ赤な血でした。


「ゲホッガホッ……ミネ……団……長……」


 それでも私は立ち上がり進みます。体中が悲鳴を上げているのを無視してよたよたとふらつきながら少しずつ少しずつミネ団長へと近づいて行きます。


バシャッ、ベシャッ……


 私の足に纏わりつくのが汚れた砂糖水から赤黒い粘り気のある水になった時。やっとミネ団長の元へとたどり着けたんです。


「ミネ団長……いや…死なないで……死なないでくださいミネ団長……」


 激しく身体が痙攣していて、血で染まったミネ団長の腕はとても冷たく感じました。


「せ……りな………にげ……な……さい」


 光を失いつつあるミネ団長の瞳、それは私を捉えてました。たどたどしく喋る口からは血の塊が溢れ出てていてミネ団長の言葉をかき消そうとしてます。


 私を捨てて逃げなさい。ミネ団長はそう訴えかけてます。


「いや……いやです!!私はっ!!ミネ団長を見捨てるなんて出来ません!!このまま見殺しになんて出来ません、だから…だからっ!!!」


 私のやる事はただ一つ。もうそれしかありません。




「私はっ!!ミネ団長を救護しますっ!!!」




 ミネ団長のボロボロになった制服を脱がし傷口を露にします。鋏を使おうとしましたが、元々無数の切り傷で穴が沢山開きボロボロになった挙句に大きく引き裂かれてしまった団長の制服は既に服としての意味を成して無く、簡単に剥ぎ取る事が出来ました。それが悔しくて悔しくて溜まりません。

 溢れて来た涙を拭うと腰のポシェットを開けます。そこには簡易救急キットが3人分入って居ました。いつもは1人分しかないのですが出発直前にミネ団長から「念の為3人分持って行きなさい」と言われて持っていた分です。


「…………」


 ミネ団長が私が簡易救急キットを取り出してるのを見て目を少し見開き、弱弱しく首を横に僅かに振るのが見えます。



(わかってます、わかっていまよ、ミネ団長)



 この簡易救急キットは出先で擦りむいたとかちょっと切ってしまったとかの軽傷な傷を治すものです。今のミネ団長のキズにはあまりにも無力なのは分かってます。


(でもっでもっ、でも諦めたくないんです)


 例え、止血パッドの幅が傷口の幅より小さくても。例え止血パッド全部繋いだ数よりも傷口が長くても。私は諦めたくないのです。


 止血パッドを貼ります。直ぐに血で真っ赤に染まり、止血パッドの許容量を遥かに超えた出血により粘着力を失い溢れ出る血に剥がされ押し流されても……私は諦めずに治療を続けます。


 2枚目、駄目。………5枚目、駄目。最初の一人分の簡易救急キットを使い切り、二人分目のキットの容量がすさまじく減っていきます。


(やっぱりだめ……なのかな)


 すでに1.5人分使い切って一つも貼れていない止血パッド。ミネ団長の受けた傷の深さの前に簡易救急キットでは全く役に立ちません。


「やだ……ぐすっ…ううっいやだよぉ……」


 涙がどんどん溢れて視界を滲ませ手元が見えなくなります。何度も何度も袖でこすっても涙は止まってくれません。これでは手元が見えず救護活動が出来ません。


「誰か……お願い誰か……私に……私に力を貸してください……ミネ団長をお救いしたんです。おねがいします、おねがいします……」


 私は何かに縋る様に必死に祈り続けました。涙を拭い、決して治療の、救護活動の手を止めない様にしながら――。







キヴォトスに生きる生徒達には皆、強い力が宿る不思議な器官のような物を胸の奥に秘めている。それは器官と言っても臓器のようなものではなく美しい宝石のようなものだった。


神秘と呼ばれるそれは彼女ら一人一人の名に宿る神名文字と呼ばれる言霊を介し、少女たちの強い祈りや気持ち、心によって、強く共鳴し、彼女らの頭上に輝くヘイローと共に奇跡の力を呼び起こし行使するものである。


少女たちの強い願いによって起こされる奇跡の数々。少女たちに眠る力を呼び起こし、深い傷を癒し、戦闘能力も何十倍へと高め、一発の銃弾の威力を百発分に千発分に一万発分に増幅させ、さらには隕石を降らせ、ドローンや攻撃ヘリや戦車、さらには遠く離れた場所に居るはずの部下や仲間を召喚するなど、枚挙のいとまもないのである。

https://youtu.be/wtwKtHM1V9c?si=BmYdINhmMrMnAXjh

https://youtu.be/p50Z3RshI1g?si=aSZv9b7i6MC0N8u1

https://youtu.be/pr9qNA_fePw?si=JDtPzevAiqGLLO6U

そして目の前の少女、鷲見セリナ。彼女の神秘もまた彼女の「師の命を助けたい」と言う強い祈りの心に強く共鳴し奇跡を起こそうとしていた。

彼女は気が付かない。彼女の頭上に浮かぶヘイローが強く輝き、眩い光を放っている事を。

彼女は知らない。彼女のヘイローから溢れた光が、彼女の胸の奥の神秘が放つ桜色の光が、周囲に満ち溢れている事を。





少女の祈りは今、まさに奇跡を起こした。








 ゴトンっと音がして私の片方の腕に何かが当たる感触がしました。ふと振り向けばそこには「集中治療セットA」「緊急治療セットB」とラベルの貼られた見慣れた赤い合金製のケースが二つ置いてありました。


鷲見セリナ専用大型救急箱(イメージ画像)



「どうしてこれが……?」


 それは沢山の医療道具を詰めた私専用の大きな救急箱。私が救護騎士団の活動で大規模な救護活動現場へ向かう時に持って行く、普段はけっして持ち運ばない専用の箱。


 何故、どうしてこれがここに……?そんな疑問よりも私は縋るような気持ちでその救急箱を開けます。


「これは……!」


 最初に目に飛び込んだのは沢山の輸血パック。ラベルに「蒼森ミネ」と書かれたそれはミネ団長の血液型にピッタリと適合する理想的な輸血製剤で今一番欲しかった物です。

 次に目に飛び込んだのはミネ団長の身体を無惨に引き裂いた裂傷を縫い合わせるための「野外緊急縫合手術キット[フルセット]」でした。内容物を確認するとミネ団長の傷を縫い合わせるのに十分な量が確保されてます。

 他にも――、他にも――。私がミネ団長を救いたいと思い必要で欲しいと願った医療道具が欲しい分だけまるで図ったかのように揃っていたのです。


「できる……これで出来る。ミネ団長をお救い出来るんだっ!!!」


 嬉しくてうれしくて――、でも、もう涙も出ません。床に激しく打ち付けた身体の痛みも頭と口から流れ出ていた血もいつも間にか跡形もなく消え去ってました。


 私は何度も深呼吸をして、改めて横たわれるミネ団長へ向き合います。


(落ち着いて……落ち着くのよ鷲見セリナ。道具は十分ある。時間も十分ある。油断せず慢心せず、ミスをせずひたむきに救護に集中するの)


 目を閉じてトリニティ総合学園に入学して救護騎士団のへ加入して皆を助けるために勉強し活動してきた日々を振り返ります。己の中に蓄えれた沢山の知識経験……それを余すことなく記憶の底から引き上げ呼び起こします。


「ミネ団長、必ず、必ずお救いします。どうかわたしを信じてください」


 もはや反応すらしなくなった団長を私は信じて再び治療活動へ戻りました。






鷲見セリナはひたすらひたむきに作業へ打ち込む。


彼女は気が付かない。彼女のヘイローと神秘がより強くさらに輝き始めた事を。

彼女は知らない。彼女を取り巻く2色の神秘の力の光の渦。

それが彼女の身体を支えている事。一部の光の渦が彼女の必死に動かしている利き腕ともう片方の手に流れ込み彼女の腕を支えている事を。決して間違えないように、決して狂わぬように。


鷲見セリナは奇跡を奏でる。一人の命を救うべく奇跡の詩を奏で続ける。







 最後の傷へ止血パッドを貼ります。ふたつの救急箱の中身をすべて使い切り、残った小さな裂傷には簡易救急キットの止血パッドを有効利用しました。


「出来た……」


 あれだけ溢れていたミネ団長の出血は完全に止まりました。


「まだ……最後の確認を……」


 救急箱の底に"偶然"残っていた救護度判定機。患者さんの容態を簡易検査してトリアージするための携帯機器。私はそれを取り出して、中のセンサーをミネ団長の身体へと付けて行きます。頭部・胸部・腹部。最後にクランプ式センサーを綺麗に消毒液で拭ったミネ団長の人差し指に挟み込みます。

 機械の電源を入れて立ち上げて、診断ボタンを押します。暫く待って「ピピッ」と判定結果が出ました。


「やった……助けれた……私……ミネ団長を助けれたんだ……」


 モニター画面に表示された診断結果とバイタル値、決して安全域とは呼べないものの危険域は脱したことを示す数値を見て私は安堵しました。


(あ、あれ……)


 安堵したとたん、身体に力が入らなくなってしまいました。まるで一生分の力を使い果たしたみたいで身体の中が空っぽになったようです。強烈な睡魔に襲われそうになり思わずミネ団長の胸の上に倒れ込みそうになりました。


(バカバカバカ!セリナのバカ!まだ寝ちゃ駄目でしょう!!)


 頭を何度も振り気力を出して眠気を追い出します。まだ終わってません。あくまで危険域を脱しただけでミネ団長は予断をまだ許さない状態です。


(すぐに移動して救急車の手配を。この傷なら聖トリニティ総合病院が対応できるはず。救急科に今すぐ連絡しなきゃ……)


 私が次の行動についてかんがえを巡らせてると後ろから拍手とともに優しい声が聞こえてきました。


パチパチパチパチパチ……。


「うふふ、ミネ団長、無事に救えたようですね。さすがですセリナちゃん♡」


「ありがとうございます。これで無事ミネ団長の命をお救い出来ました!ミネ団長は必ず助かります!!」


「それは本当に良かったです♡ ――じゃあ、次はセリナちゃんの番ですね♡


「はいっ!…………えっ!?」




次はセリナちゃんの番ですね



(つづく)


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