第四話「トニリティ襲撃勧誘作戦」その7

第四話「トニリティ襲撃勧誘作戦」その7

概念不法投棄の人



※アドビス砂漠の砂糖本スレまとめのリンクから来られた方へ

 2023/12/29 に物語の構成を変更したためにサブタイトルが一部改変されています。

 この物語の旧タイトルは『第三話『トリニティ襲撃勧誘作戦』その7』で合っています。





次はセリナちゃんの番ですね




 私の後ろから優しい声が聞こえてきました。

 しかし、その声に乗った言葉のその意味が分からず私は固まってしまいます。そして……


「……っ!!!」


 私は大変な過ちを犯してました。今自分が置かれていたはずの状況を完全に忘れていたんです。


ミネ団長は戦いの最中、倒れた事。


私がそこへ無我夢中で飛び込んだこと。


まだ戦いは終わってない事。


そして、そして――。


その諸悪の根源の巨悪党が私のすぐ後ろにいる事。


私は完全に失念していたのでした。


「うっあああああっ!!!」


 咄嗟に傍らに置いた愛銃に手を伸ばそうとして、ホースによって銃は外へ弾き飛ばされ、伸ばした腕にもホースが容赦なく巻き付き絡み取られてしまいます。


「あああああああっ!!!」


 両手両足にホースが絡みつき、私は大の字で空中へと貼り付けにされます。


「嫌ッ離してっ離してよぉっ!!」


 必死に藻掻きますがビクともしません。


「ありがとうございますセリナちゃん。ミネさんの命を救ってくださって」


「何を言ってるんですかっ!!ミネ団長を殺そうとしてたくせにっ!!!」


 私は目の前に居る魔女、浦和ハナコへ吠えます。


「そうですね。私は確かにミネさんを殺そうとしました。でもそれは間違っていたんです。ミネさんが死んだらハナエちゃんを縛る枷が無くなってしまいますからね。うふふふ……」


「何をっ……」


「セリナちゃんはミネさんを救いました。ですがミネさんに打ち込まれた砂漠の砂糖までは除去できてないんですよ。だ・か・ら♡ たとえ命が助かってもミネさんはもう砂漠の砂糖無しでは生きれない可哀相な女の子になっちゃったんです♡」


「そ、そんな……」


 私は力が抜けそうになりました。ミネ団長の命は助けてもミネ団長自身はもう砂糖に囚われてしまぅたのだと……これじゃ意味が無い……私は目の前が真っ暗になりました。


「うふふ……ご安心くださいな。ミネさんは私が責任をもって砂漠の砂糖漬けにしてアビドスで飼いますから。ハナエちゃんと幸せに暮らせてあげますよ♡」


「だ♡け♡ど♡、それだと一人セリナちゃんが残されてしまいますね。一人ぼっちの可哀相なセリナちゃん♡でも安心して♡あなたも砂漠の砂糖に目覚めれば三人仲良くずっと暮らせますよ♡うふふふ……」


「ひぃいっヤダヤダ嫌だぁ!!!砂漠の砂糖なんて要らないっ、あんな、あんな人格を破壊する悪魔の砂糖なんて絶対に要らないっ!!」


 私は必死に抵抗します。しかし、浦和ハナコはそんな私を許そうとはしません。


「駄目ですよ。我儘言ったら。もうお話は終わりですね。ハナエちゃん、セリナちゃんにもお砂糖お注射してあげてくださいな♪」


 そう言うとハナエちゃんがゆっくりと私に近づいてきます。


「やめて!やめてよっ!!ハナエちゃん!ハナエちゃん!!お願いっ!!目を覚ましてよぉっ!!」


 私は何度も何度もハナエちゃんへ呼びかけます。今のハナエちゃんは操られているだけ。きっと、きっと彼女の身体の奥底には本当のハナエちゃんが眠らされているんだと。私はその奥底のハナエちゃんへと呼びかけ続けます。


 床に横たわるミネ団長を無造作にまるでカーペットか何かの様に踏みつけながらこちらに近づいてくるハナエちゃん。ついには私のすぐ目の前まで来ました。


「……………」


 ハナエちゃんのどす黒い底なし沼のような瞳が私の眼前に来ます。まるですいこまれそうなその瞳に視線を奪われてると


ニチャァアアア……


 またあの不気味や笑みを浮かべ、ハナエちゃんは私の頭を、前髪を乱暴に掴みました。


「止めてっ…痛いっ痛いよハナエちゃん……」


 前髪をまるで引き千切るんじゃないのかと思うくらい強く掴まれ頭を左右に揺さぶられます。


 ブチブチブチ……と揺れる視界と共に私の髪の毛が千切れて抜けて行く音が頭に響きます。


「ハナエちゃん……お願い止めてよぉ、痛いよぉ……」


 泣きながら訴えますが反応がありません。何度か左右に頭を揺すられた後、思いっ切り右肩へ頭を押し付けられました。首が折れそうでとても痛みます。


「ひいっ!?」


 ハナエちゃんの人差し指がゆっくりと私の首筋を撫でてていきます。その指の動きに私は心当たりがありました。


(血管を探してるの!?)


 やがて一か所で指が止まるとそこを強く押し込まれます。目印の跡をつけてるようにです。彼女の爪が皮膚にめり込み痛みが走ります。


ニチャァアアア……


 もう一度ハナエちゃんが嗤うとゆっくりと本当にゆっくりとあの注射器が私の視界へ入ってきました。


「やだっ!!やだっやだっやだっ!!ハナエちゃん!ハナエちゃん!!お願いっ止めてっ!!注射はやめてよっ!!目を覚まして!!お願い!!ハナエちゃん!!!」


「あはははははは、もう諦めなさい鷲見セリナ。あなたはもうお終いなのよ。大丈夫怖くないですよ。チクッとしてふわっとしたらもう後は天国ですから。三人でアビドスで幸せに暮らしましょう♡」


「ハナエちゃん!!!ハナエちゃん!!おねがいっ!!おねがいだからっ!!あううっ!!」


 チクリと首に針先が触れる感触がしました。


(もう……だめだ……)


 絶望に支配されて、ついに私は抵抗するのも騒ぐのもやめてしまいました。静かに目を閉じて……チクチクと刺激をしてくる針が、注射器が、私の皮膚を突き破り血管に入り、あの砂漠の砂糖を流し込まれるのをただ待つだけとなりました。


(ごめんなさい………わたしはもう……)


 恐怖と疲労感からもう意識を投げ出してしまおうとしてゆっくりと深淵へ沈んでいく私の意識。




その時微かに「伏せろっ!!」と声が聞こえた気がしました。










ドッッッッカカカカカァアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!




 突然激しい衝撃と爆音に襲われて、私の身体はまるで木の葉の様に宙を舞いました。両手足を縛っていたホースも前髪を掴んでいたハナエちゃんの手も離れて、私は宙を暫く舞った後、激しく床へと叩きつけられました。


 二度三度四度……もう数えるのも嫌なくらい叩きつけられ転がっていきました。やがて何かに当たり止まると大量の粉塵を細かい小さな瓦礫が降り注いできました。



(…………)


 どのくらい時間がたったのでしょうか。爆発の轟音と降り注ぐ瓦礫の音が止むとボロボロの床を伝って何か戦車が近づいて来る音が聞こえてきます。それと人の歩く音と気配も……



「けほっ、けほっ、けほっ……。ちょっとヒフミぃ!!何やってんのよ。何本気で6ポンド砲撃ち込んでるのよ、それも水平射撃するなんて!!」


『だっ、だって、アズサちゃんが大丈夫って……』


「だいじょうぶだ。炸薬は25%まで減らしてるから問題ない」


「何が"炸薬は25%まで減らしてるから問題ない"、なのよっ!!どう見ても大問題でしょ!?講堂吹き飛んでるじゃないっ!!!」


 ワイワイガヤガヤと声がして粉塵の煙の向こうから一台の戦車と二人の生徒さんが現れました。


「はぁーっ、とにかく無事で良かったわ。大丈夫セリナ?」


 私の元へやって来たのは下江コハルさん。


「もう大丈夫。あとは私達に任せて……」


 その後ろには白洲アズサさんが……。


「ハナコちゃん、お願いですっ!!もうこんな事やめてくださいっ!!!」


 戦車から飛び降りて来た不思議な意匠のぬいぐるみ……たしかペロロ様と呼ばれるペンギン(?)のような生き物のリュックを背負った生徒、阿慈谷ヒフミさんが悲痛な声を上げます。


「ごめんね、セリナ。うちのバカハナコが救護騎士団に迷惑かけたみたいで……」


 すまなそうに謝るコハルさんが私の前に庇うように立ちます。


「セリナ。早くミネを連れてここから逃げるんだ。もうこれ以上はセリナたちは関わらなくて良い。ここから先は私達の問題だから……」


 同じく私の前、コハルさんの横に立ち銃を構えるアズサさん。




「コハルちゃん……アズサちゃん……ヒフミちゃん………」



 その三人を前に浦和ハナコは酷く動揺していて……表情が悲しみと苦しみでグチャグチャになっていて、ついさきほどまで私達を蹂躙していた魔女の面影は全く無くなっていました。


「ハナコ……ちゃん……」


 ヒフミさんが一歩踏み出します。ジャリッと音が響いて。


「ひぃっ!?駄目ッ…お願いっ!!それ以上近寄らないでっヒフミちゃん!!!」


 浦和ハナコが悲痛な叫び声をあげ……。


「あっ!!!」


 咄嗟にホースを伸ばして何かを勢いよく引き摺ってきました。


「ハナエちゃん!?ハナエちゃん!!ハナエちゃんっ!!!」


 ヘイローが消え気を失っているハナエちゃんを捉えたホースが浦和ハナコ前へやってきます。彼女は意識のないハナエちゃんの後ろに隠れるようにして楯のように構えてハナエちゃん越しに銃を構えます。


「ハナコッ!!!あんた何考えてるのよっ!!あんた自分が今やってるのか分かってるのっ!?」


 コハルさんの怒声が飛びます。


「やめてっ!!ハナエちゃんを返してっ!!ハナエちゃんをかえしてよっ!!」


 私はハナエちゃんを取り返そうと必死に前に出ようとして後ろからヒフミさんに羽交い絞めにされます。


「駄目っ駄目です!!前に出ちゃだめですよセリナちゃんっっ!!」


「離してっ!!離してよっヒフミさん!!ハナエちゃんがっ!!ハナエちゃんがっ!!」


「セリナッ!!早くミネと離脱をするんだ。ハナエは大丈夫。私達が必ず救う。だから今はミネとともに撤退してくれっ」


 アズサさんから悲痛な叫びが私へ届きます。


「アズサちゃん……どいてください。私はハナエちゃんもミネさんもセリナちゃんも失うわけにはいかないんです。必ず3人を奪い連れて帰らないといけないんですよっ」


 浦和ハナコが震える声で叫びます。その瞳に邪悪な光は無く、うっすらと涙すら溜まっていました。銃は小刻みに震え、まともに撃てるのかさえ分からないくらいに。


「どかない。私は、私達は絶対にハナコを止める。それが同じ補習授業部としての使命だから……」


 アズサさんが銃を構えたままゆっくりと前へ出ます。


「……アズサちゃん、動かないでください!!!皆さんもです!!い、良いですか……もしもそれ以上動けば…動けば……ううっ……こ、この子のっ!!ハナエちゃんのっ!!首を捩じ切っって、彼女を殺しますよっ!!!」


 浦和ハナコがもう一本ホースを呼び出すとぐったりと頭を下げているハナエちゃんの首に巻き付き引っ張ります。カクンとハナエちゃんのかおが起き上がり正面を向き、さらに引っ張られ斜め後ろに傾きます。その顔には無数の涙の痕がありました。


「ハナコッ!!」


「アンタ何ふざけてんのよ!!いい加減にしなさいっ!!バカハナコっ!!」


「やめてっ!!ハナコちゃん!!!」


「ハナエちゃんっ!!いやぁああああハナエちゃんを殺さないでよっ!!」


 補習授業部の人達の怒声が響き、私が三人を振り切ってハナエちゃんを助けようと飛び出しかけたその時でした。





『はぁ~い、みんなぁ~そこまでだよぉ~』






 緊迫して一触即発状態の場には不釣り合いなのんびりとした声が響き、ミレニアムサイエンススクールのロゴが入った一台の大型通信ドローンが飛び込んできました。



 その大型通信ドローンは私達の周りを数周ぐるぐると周ると、私達の丁度中心部辺りで止まり空中でホバリングしながら通信用立体ホログラムを描き始まます。

 そこには一人の桜色の髪に左右の瞳の色が違うオッドアイの女の子が気だるげな感じで佇んで居ました。


「ホシノ……さん?」


 浦和ハナコが驚いたように呟きます。


『ハナコちゃん、任務ご苦労様。もう作戦無事完了したから戻って来て良いよ~』


「まってください!!まだ、まだ終わってません。あと、あともう少しなんです!!」


 まるで懇願するかのようにホシノさんに縋る浦和ハナコ。その姿に二人の力の上下関係がわかる気がします。


『もう十分だよ。時間切れだから早く戻っておいで。ハナコちゃん達以外のトニリティの子、もうみんなアビドス行き最終列車に乗ったよ』


「ですが、まだ、まだお約束を果たせてません!!救護騎士団を完全に潰し、蒼森ミネら3人達を砂糖漬けにして連れて帰る約束がっまだですっ!!」


『もう良いよ。そこに居る………ええっと、ハナエちゃんだっけ?その子一人だけでも十分大手柄だよ。ハナコちゃんが頑張ったおかげでトリニティは壊滅状態。当分は休校になると思うからそれで良いよ。おじさんなんて意気揚々とミレニアムへ乗り込んだらコテンパンにされて尻尾撒いて逃げたんだよ?セミナー潰すどころかユウカちゃん奪い返されちゃったし……。結局自力脱出したハレちゃんだけだよゲットできたのは。だからさそんなダメダメおじさんに比べたらハナコちゃんは十分戦果を挙げてるよ。ヒナちゃんも納得して喜んでたし………』


「まだですっ!!まだ足りません。お願いです。時間をっ……最後のチャンスをくださいっホシノさんっ!!!」


『はぁーっ、ハッキリ言わないと分からないかなぁ~?ハナコちゃん傷つけたくなかったんだけどなぁ~……。仕方ないや。ハナコちゃんハッキリ言うよ。もうキミ無理でしょう?これ以上闘えないでしょう?おじさんには丸見えだよ』


「そんなことありませんっ!!まだっまだ戦えますっ!!!」


『嘘は良くないなぁ~。そこの補習授業部の皆、全然ダメージ入ってないじゃん。ハナコちゃん二度も戦ったんだよね合計一時間くらいかな?それなのにどうして3人とも無傷でピンピンしてるのかぁ~』


「そ、それは……」


『それからもう一つ。――私の知ってる浦和ハナコと言う少女は意識を失い動けなくなった生徒を人質に取って楯として使う肉壁戦闘なんて卑怯な戦い方絶対にしない。ましては人質の子の首に手を掛けて"近づいたら人質を殺すぞ"なんて脅し絶対にしない。私が認めないし許さない。ねぇ、貴方は本当に浦和ハナコちゃんなの?実は偽物だったりしない?』


 それまでのほほんとした表情で喋っていたホシノさんが目を細め、声のトーンを落として喋り始めました。その瞬間ホログラム越しに凄まじい殺気と圧力を感じ、思わす腰が抜けてしまいへたり込んでしまいました。他の皆さんも同様にホシノさんの殺気と圧力に圧倒されて動けなくなっているようです。


『この際言っておくよ。今"ソレ"を止めれば今回は見逃す。けど今後そんな手段使ったら私は許さないから。例え砂糖で人格と心を破壊して廃人にしようとも、アビドスに逆らい、アビドスと私達に危害を加えようと命奪おうとする相手であっても、その相手が同じ生徒なら命を取るのだけは絶対に認めないし許さないからね。わかった?ハナコちゃん??』


 ホログラム越しにショットガンを構えて突き付けるホシノさん。怖ろしい殺気と圧力がさらに一段と強まります。


「はい……わかりました。大変申し訳ございませんでしたホシノさん」


 項垂れた浦和ハナコ。ハナエちゃんの首を引き千切ろうとしていたホースをゆっくりと離していきます。


『うんうん、分かってくれてよかったよ。ごめんね、何だかハナコちゃんイジメたみたいで。もうおじさん怒ってないから安心して良いよ』


「ありがとうございます……ホシノ……さん」


『じゃあお話も済んだし帰ろうよ。早く帰らないと怖い怖いミレニアムの子達がやって来るよ。ハレちゃんからの情報でね、おじさんがヘマしたせいでミレニアムは一足早くに体制立て直して落ち着いたみたいでさ、トリニティに救援部隊を送ったそうだよ。ほぼ無傷の治安維持部隊におじさんが手も足も出せなくてに一方的に袋叩きにされた怖い怖いC&Cのオマケ付きでね。ホント何なんだよあの子達~、おまけにトキちゃんなんてロボットと合体するし……いつからキヴォトスはマンガやアニメの世界になったんだろうね~』


「…………」


『さてさて、そんな怖い怖いミレニアム特盛セットにハナコちゃんは勝てるかな?おじさんが全く勝てないのに……袂を分かち、心置きなく叩けるはずの補習授業部の子達すら倒せないハナコちゃん、何秒持つかな?……………ごめん、ごめん。言い過ぎたよ。だからハナコちゃん、お願いだから早く戻ってきて。おじさん、ハナコちゃんとの次の再会が刑務所の面会室の強化ガラス越しとか、棺桶や死体袋の覗き窓越しなんて絶対に嫌だからね。ちゃんと生きて五体満足でアビドスで再会しよう。抱き合って喜びあってスイーツパラダイスで凱旋パーティしようよ。シズコちゃん達も無事合流できるみたいだし百夜堂の餡蜜フルコースも追加だよっ』


「……わかりました。浦和ハナコ、アビドスへ帰投します」


『うんうん、了解。じゃあ今からだと最終列車には間に合わないから、この間の打ち合わせで言っていた緊急事態発生時の脱出ポイント、そこへRABBIT小隊のヘリを急行させるから、そこまで頑張って走ってね。……じゃあ待ってるから』


 浦和ハナコと打ち合わせしていたホシノさんがクルリとこちらを向きます。


『……という事で。ハナコちゃんはおじさんちに帰るから。補習授業部のみんなと……ええっと君は救護騎士団の子かな?初めまして~。君たちにはハナコちゃんが散々壊して散らかしちゃったトリニティの掃除と後片付けを頼むね~。ああ、そうそう、君たちも心変わりしてお砂糖欲しくなったらいつでもおいで。おじさんお砂糖たくさん用意して待ってるから。それじゃあ、またね~~~ばいばい~~~。3,2,1、……ドンッ♪』


 ホログラムのホシノさんが笑顔で手を振りながら別れの挨拶をしたと思ったら早口でカウントダウンをして最後にドンと言った瞬間。突然大型の通信ドローンが眩い光を放ちます。


 私達はその光の濁流と少し遅れて身体に襲い掛かってきた激しい電撃と衝撃により一瞬で視界と意識を刈り取られてしまいました。














 何かが私の身体をゆっくりと揺らしていて、私は少し意識を取り戻しました。


「あっ!!気が付いた?よかったぁ~…。リーダーっ!!このピンク髪の子、目を覚ましたよっ!!」


 目の前には大きなお胸のメイド服を着た女の子が見えます。私はこの人に抱きかかえられてるようでした。


 視線を向ければ、リーダーと呼ばれた、小柄でメイド服を着てその上に派手なジャンバーを着た、正実のツルギ先輩みたいな鋭い目つきをした子がこちらに振り向きます。


「わかった、アタシはこいつらからもう少し事情聴取してっから、アスナはそいつをさっさとヘリに積んで来い」


「了解~」


 そう言うとメイドさん……アスナさんと言う方は私を抱きかかえたまま歩いて行きます。焼け落ちた廃講堂を出ると大勢のミレニアムサイエンススクールの制服の子達が居ます。


「あ、あの……アスナ…さん?」


「あれ?自己紹介したっけ?ああ、さっきのリーダーとの会話聞いていたんだね。私は一之瀬アスナ、ミレニアムサイエンススクールでC&Cって言う"お掃除屋さん"のエージェントしてるのっ、よろしくねっ」


 この人が……この人たちが、あの浦和ハナコのボスのホシノさんが勝てなかった人達……。そんな凄い強い人達が来てくれた、本当に助けに来てくれたんだ。そう思うと安心感が広がっていきます。もう大丈夫だと……。


「わ、私は鷲見セリナと言います。……あのアスナさん、ミネ団長は……救護騎士団団長の蒼森ミネは無事ですか……?」


 私の気になった事。それはミネ団長の事でした。治療は成功したもののその後激しい爆風に晒されてしまい見失ってしまいました。ミネ団長は……。


「蒼森……ミネ……?……ああっ!あの救護のカッコイイおねーさんでしょ?セリナちゃんと同じ腕章のマークつけた。大丈夫だよっ!その人なら別動班の子達が回収したから。もう既にヘリに乗ってるんじゃないかな?もちろん命に別状はないよ。何だかしっかりと適正な医療措置が既にしてあったって、うちの救護部の子達が感心してたよっ」


「そうですか……よかった……本当に良かった……」


 ミネ団長は無事。それを聞いて一安心したところで強烈な睡魔に襲われ始めました。


「あれ?あれれ~?お~い、セリナちゃ~ん?」


 アスナさんが私に呼びかけて来ます。


「すみません……アスナさん……私……もう眠くなって……」


「了解~。じゃあこのまま救護ヘリまでお届けするから、セリナちゃんは安心して寝てて良いよっ」


「はい……すみません……ありがとうございます……アスナ……さん」


 段々重くなりゆっくりと閉じて行く瞼。周りの音が段々と遠く小さくなってきました。


「おやすみなさい……よく頑張ったね……小さくて可愛い勇者さんっ……」


 アスナさんが何か言ってるような気がしましたが、もう私には答える気力は残ってません出した。


 瞼が落ちて意識が闇に沈む瞬間、大きなヘリの音と回転してるローターの羽がうっすら見えた所で私の記憶は終わりました。






 学園を破壊尽くされ、ハナエちゃんを始め多くの物を奪われたこの戦いは私達の完全敗北で幕を閉じました。


 でもこれは、のちの大きな戦争のきっかけになる始まりの事件になるとはこの時は、全く思ってませんでした。









(終わり)


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