白い世界の中で 3
(https://telegra.ph/白い世界の中で-2-02-07の続きです)
(クソ飼い主事件後カイザーのメンタルがドン底の世界線)
(チョキ宮視点)
「剣優、俺はもうあのクソ野郎はいないと、もう大丈夫だとそう自分に言い聞かせてきた」
「うん」
「でもきっと俺や剣優を狙う奴はまた現れる。あの能天気に揺れてたあいつもそんな悪意に晒される時が来る」
「うん」
「俺は嫌だ、奪われるのは嫌なんだ。せっかく取り戻せたのにまた失うのは嫌だ」
「俺も、今を失くすのは嫌だな」
引きずり込まれたシーツの山の中で俺を背後から抱き締める、というか拘束しているカイザーくんは自分の中に渦巻いていたであろう気持ちを吐き出していく。顔は見えないけどきっとカイザーくんは辛そうな表情をしていると思う、だって声が辛そうだから。
「何が11傑だ、何が皇帝だ、俺は過去から逃げられない臆病者なんだ」
「でもカイザーくんは俺を助けてくれたじゃないか、凄くかっこよかったよ」
「……そうか」
腕の力が強くなる、ちょっと苦しいけど俺にくっつく事で元気になるなら問題ないかな。それにカイザーくんの体温が心地良い、凪くんが俺を抱き枕にするのも分かる気がする。人の体温って安心するんだね。
「…剣優、俺は寝るぞ」
「いきなりどうしたの?」
「今なら眠れそうなんだ、酷い夢ばかり見るせいでまともに寝ていない」
そう言って俺を抱いたままカイザーくんは後ろに倒れる、カイザーくんのお腹の上に乗ってしまっているけど重くないのかな。現役サッカー選手だから俺くらいは軽いのかもしれないけど何だか落ち着かない。
カイザーくんの腕から抜け出して左隣に移動する。この位置は凪くんと寝る時によくいる位置、ここら辺に俺がいるとしっくり来るらしい。
「おやすみカイザーくん」
返事は無い、もう寝ちゃったみたいだ。起きたらいつものカイザーくんに戻ってると良いな。
◆
「剣優、起きろ剣優」
「ん……おはようカイザーくん、どうしたの?」
「足音が聞こえるんだ、誰かが来る」
そう言われて耳をすませるけど何も聞こえない、少し身体を起こしてシーツの隙間から外を見るがドアは相変わらずしっかりと閉じられている。カイザーくんは気配とかに敏感だから俺には分からない何かを感じ取っているのだろうか。
カイザーくんが俺を抱き締めながら身体を起こした、すごく警戒しているのが腕から伝わってくる、やがて俺にも足音が聞こえてきたと思ったらノックも無しに勢いよくドアが開く。
「剣優!!」
よく通る声と共にトレーニングウェアを着たクリスさんが部屋に乗り込んできた、少し部屋を見回すとまっすぐにこっちへ向かってくる。
「クリスさん?」
「ああ剣優そこにいるんだね、絵心から君がカイザーの部屋にいるって聞いて急いで迎えに来たんだ!ところでこのシーツは何だい?」
「触るな!!」
いきなりカイザーくんが俺を腕に閉じ込めたまま後ろに下がり始めた、けどすぐに壁にぶつかってしまう。それでもクリスさんから距離を取ろうと身体を縮めている。
「ど、どうしたんだいカイザー、急に大声を出すなんて」
「こっちに来るな!」
クリスさんを威嚇しているカイザーくんの呼吸が荒い、なんとか顔を上げるとカイザーくんはギラギラした眼でクリスさんを睨み付けている。あの時と同じ、首を絞められていた俺を助けてくれた時と同じ眼だ。
「か、カイザーくん」
「大丈夫だ剣優、俺が守ってやるから」
どうしよう、カイザーくんがここまで追い詰められていたなんて気付かなかった。俺はカイザーくんの腕の中でただ事の成り行きを見守るしか出来なかった。