玲雪②

玲雪②

玲王視点です。玲雪が始まりません。

前回→https://telegra.ph/玲雪-04-06


小瓶を開ける。瓶の口から中を覗き込むが、ガラスの茶色が反射して中身の色はよく分からない。

まぁ、いいけど。玲王は瓶を口につけた。中の液体が口に流れ込んでくる。

「……うぇ」

『元気ハツラツ!!』なんて書いてあったからエナジードリンクっぽい感じかと思ったが全然不味い。何だこの味。大きい瓶じゃないのが幸いだった。

顔を顰めつつとりあえず1瓶空けたところで、ちらりと雪宮の方を見ると、服を脱いでいた。……いや、ただ単に脱いでる訳ではない。

完全にストリップショーだ。

玲王自身もカメラの前に立った経験はあるし、経営者視点から金になる振る舞いは人並み以上に知っているつもりだが、雪宮は流石プロと言った感じだ。動きに無駄がない。

迷いのない艶やかな一挙手一投足に思わず赤面してしまうのは、共感性羞恥などではなかった。どれだけ相手は男だと構えようが、その熱っぽい橙は本能の奥底へ余裕で侵入してざらりと撫でる。それほど自然で官能的なのである。

「さ、行こう」

服を脱ぎ終えた雪宮が玲王の手を取って微笑んだ。恥じらうように見上げるその動作、手の熱、赤らんだ耳。ここまで完璧に模倣出来るものなのかと感心する……

……顔が熱い。


「ここ、座って。俺準備するから」優しく導かれるまま玲王がベッドの端に座ると、雪宮は玲王に耳打った。

あっち向いててね。

彼の傷みの一切無い髪が玲王の耳を撫でる。そわそわとくすぐったい感覚に、更に熱が一点に集中する。そんな玲王の様子を知ってか知らずしてか、雪宮は一瞬目配せをしてから玲王の視界の外へ歩いていった。

ミシ、と背後でマットレスが歪む音がする。玲王は雪宮の言葉の通りじっと壁の方を見つめた。

シーツと肌が擦れる音がしたと思うと、何かのキャップを開ける音が聞こえてきた。次に、粘度のある液体の水音。

ぐちゅぐちゅとそれはしばらく続いていたが、その中に徐々に、息の音と声が混じり始めた。

「んっ……ふ、ぅ、……あッ、」

__少女のように高くはない。淫魔みたいにノリノリではない。


低く、甘い、はしたない声が、耳をくすぐった。


玲王は額に手を当てた。それは顔の熱を手に少しでも逃がすためだったが、精力剤のせいか最初冷えていた手は赤みを帯びるほどになっていて、その行為は全く意味を為さなかった。

「……」玲王は一度息を吸って、ゆっくり吐いた。

落ち着け。相手は男だ。背後のは全部演技だし、今身体が熱いのは精力剤のせいだ。俺は器用大富豪、俺は器用大富豪………。

そんな風にぐるぐると理屈っぽい言葉を脳内で捏ねてようやく、心臓の鼓動が落ち着いてきた。依然として暑いし立ち上がったまま放置されてる"それ"が痛みで訴えてきて仕方がないが、頭のぼやけは晴れた気がする。


「……玲王くん」声と共に、とんとんと肩を叩かれる。

立ち上がって振り返ると、ベッドの上でぺたんこ座りする雪宮がこちらを見上げていた。

玲王の喉が意図せずして鳴った。

汗の筋が光る火照った肌と、涙目、ふやけたように緩む口元。

玲王と同じくらいの身長なはずだが、二回り近く華奢に見える。ポーズも相まっているのだろうか。

「準備終わったから、玲王くんがよければいつでも始められるよ」

見た目にしてはやたらはっきりとした声に全てが演技であることは分かったが、それにしても扇情的で、目が離せなくなる。

「……大丈夫?」

思わず固まった玲王の手を、雪宮が不安そうに引いた。


大丈夫。


そのとき、その一言が声になったかどうかを、玲王は覚えていない。

どうにか知覚できたのは、熱に浮いた頭の鈍い痛みと、滑らかな雪宮の手の感触。それだけだった。

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