玲雪①

玲雪①

まだ玲雪が始まんないです。続きは書けたら書きます

がちゃん。鍵の開く、少し重たい潤った音が、誰1人喋らない静かな部屋の空気を揺らした。扉を開けると、こっちの部屋から差し込んだ明かりを受けて濡れた床がてらてらと光る。

「行こうか」雪宮が背後を振り向いて手を差し出す。

「……おう」

その手は、背後に立っていた玲王によって力なく握られた。多くの人に好印象を与えるに違いない、個性的でもバランスの良い整った彼の顔は曇っている。

当たり前だ、と雪宮は目を伏せる。十数時間前に閉じ込められてから、玲王は何度もこの部屋の主に標的にされている。しかもほとんどが能動的な役回りで、命令される行為が全て情事なのも含めて肉体的にも心的にも疲労が溜まっていない方がおかしかった。

雪宮はかなり冷たくなっている後輩の手をしっかり握って前を向いた。1度深く息を吸って、自分が積極的に引き受けよう、と覚悟を決める。年下にこれ以上辛い思いをさせたくないし、何よりも命令の内容が内容だからだ。

『ヌカロク』。ヌカ六。『抜かずの六回』を略した言葉で、腟内に入れたまま6回射精すること、らしい。雪宮も玲王も知らなかったが、ネットに書いてあった。想像するだけでも何か辛くなってくる。調べた時の頭から血の引いていく感覚が忘れられない。

……どう考えても玲王の負担が大きいのは明白だ。となれば、命令を回避する訳にはいかないので、他の負担を負うくらいしか雪宮に出来ることは無い。


部屋に足を踏み入れると、ぬるりとローションか精液か分からない液体の感覚がトレーニングスーツの布越しに伝わってきた。命令をクリアしたとて清掃が入る訳では無いので、じめじめと生臭い空気が身体に纏わりつく。

「……玲王くん、大丈夫?」少しでも意識が上へ向けばと、話しかける。

「あぁ……まぁ。大丈夫じゃねぇけど」玲王は答えながら顔を上げた。目が合う。凋弊の気は色濃く残っているが、目は案外据わっている。「やるしかねぇしな」

流石だな、とは感心しつつ、普通に体力が心配なので部屋の中央を陣取るベッドの傍に置いてあるダンボールから精力剤の瓶を取り出して、玲王に渡す。「はい、これ」

「サンキュー」

特に抵抗もなく飲み干されていく液体を横目に、雪宮は服を脱ぎ始めた__まるでストリップショーのように。

まず、汚い床に腰を落として、正座を崩した所謂『女の子座り』の体制になる。筋肉がついているから少々やりずらいが、お姉さん座りよりも背筋を伸ばしやすいし、何より床と接する面積が広くなる。……つまり、"汚れる"。雪宮に理解出来る性癖ではないが、下している命令的に部屋の主はこういうのが好きなんだろう。

そうやって座った状態からゆっくりと上半身の服をたくし上げる。恥じらうように顔は若干俯けるが目線はカメラに。瞳は潤ませると尚良し。一つ身じろぐごとにもじもじと下半身……内股を擦り合わせる。モデルを始めた頃に送られてきたDMの言葉を借りるなら、『淫乱を内に秘めた処女のような』、艶姿。

あまりにも下品でわざとらしい仕草にやっていて吐き気がするが、これも他の人を守るためだ。かの劣情を自分が一身に受ければ、他が苦しむことも無くなる。

数十秒かけて上半身を脱ぎ終えると、次は下半身。これもゆっくり。特に露骨な演技はしないが、気をつけるべきは足のバランス感覚。立ったまま脱ぐので、変に体勢が崩れないようにしなければいけない。はしたなくしすぎると幼さが目立って、かえって興が無くなってしまうのである。

パンツまで脱ぎ終えると、雪宮は玲王の方を見た。すっかり精力剤を飲み終えた玲王はこちらを向いていた。心なしか頬が赤らんでいるように見える。雪宮はほとんど"タチ"役を持たなかったので一回も飲んでないが、精力剤の効果はちゃんとしていそうだ。

雪宮はしっとりと微笑んでその手を取った。

「さ、行こう」

Report Page