海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅3/3

海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅3/3

Nera

[前回:海兵ルウタと革命家ドラゴンとの邂逅2/3]


革命家ドラゴンという男は、不幸は3つに分けられると認識している。

まず自業自得によって不幸が到来するというもの。

例えば、菓子をやけ食いをして虫歯になったり太ったら自業自得と言える。

だが、本人が何の落ち度がなくても不幸になる時がある。

それはいつだって加害者が被害者に強いる事によって不幸が発生するのだ。



『だが、それだけではない』



しかし、もっとも厄介なのは、善意によって不幸が発生する場合だ。

地獄への道は善意で舗装されるとはいうが、まさに現状がそうだった。



「私は君たちと交戦する気はない」

「あんたがその気はなくても私はやるよ!!」



ドラゴンは友人の教え子であり遺志を継ぐニコ・ロビンを保護したいだけだ。

間違ってもルフィの友達であり民衆の希望である歌姫と交戦する気は無かった。

ウタだって自分より格上の存在と交戦を避けれるならそうしたかった。

だが、ニコ・ロビンを渡したらオハラに居た人々の犠牲は無駄になる。

お互いに善意によって退けないという不幸に見舞われていたのだ。



「どうすれば納得してくれるのだ?」

「そうね、あんたの首をくれるなら考えてもいいわ!」

「それはできない。私にはまだやる事があるのだから」



革命家ドラゴンには、まだやるべき事がたくさんある。

志半ばで散るわけにはいかなかった。



「じゃあ、あんたの部下たちだけを連れて帰って!それなら私も何もしない」



ウタとしてもいつ寝てしまい能力が解かれるか分からない。

故に持久戦を避けたいので革命軍を見逃す選択肢を提案した。

内心では叶うはずもないと分かりつつも彼女は微かな希望に賭ける。



「君には君の都合がある様に私も退けない事があるのだ」

「ふふふ、何か勘違いしていない?あんたは選ぶ立場じゃないの」



ドラゴンが一番警戒している事がある。

ウタもそれを見抜いているからこそロビンを守れると考えていた。



「私が死ねば、みんな元に戻れないんだけど…それでもいいのかな~?」



ウタウタの能力者が能力を発動中に死ねば、二度と彼らは現実に帰ってこない。

ウタワールドに囚われた革命軍や海兵たちは永久に意識は戻らなくなる。

しかも“世界の歌姫”を殺害した極悪人という悪名までついてくる。

それを実行できる覚悟がウタにあるこそ、ドラゴンは動けなかった。



「ウタ!!やめろ!!おれは!!」

「ルフィ!!ここは私に任せて先に部屋に戻って!!」

「やだ!!」



ルフィは、彼らが抱えている問題を全く理解していない。

ただ、ウタを失いたくない一心で彼女の願いを拒否していた。

何も進展がないが、着々とタイムリミットが迫っている。



「君はルフィを置いて死ぬ気なのか?」

「死にたくないに決まってるじゃない!!あんた次第よ!!」



ドラゴンがその気になれば、このハーリング海峡に居る海軍を殲滅できる。

だが、そうすれば今まで培ってきた実績と夢、そしてなにより仲間を失う。



「君はこの世界がどうして混沌となっているか分かっているのか?」

「世界政府の治世が限界を迎えているからでしょ?そんなの分かってる」

「ならば話は早い。君だって分かるはずだ。この世界を統べる者たちが…」

「あなたの目的は、天竜人の打倒でしょ?なら尚更ロビンを渡させないわ」

「我々ではなく君達に彼女の身柄を預ければ何とかなると言う事か?」

「違うわ!天竜人を守る為よ」



世界から愛される歌姫による思わぬ発言にドラゴンは耳を疑った。

天竜人という存在を歓迎する者は少ない。

それほどまでに腐敗しており、不幸を撒き散らしてきた存在であった。

なのに彼女がそれを守ろうとしているのに衝撃を受けてしまった。



「さっきの海戦の動きを見れば分かるの。あんた海兵だったでしょ?」

「…ああ、そうだ」

「なら何で800年も世界が天竜人を容認してきたのか分かるでしょ」

「現在における基盤、通貨や言語、医学などの知識を統一した子孫だからだ」

「半分正解。もう半分は800年という歴史を築いてきたからなの」



本音としては天竜人の悪行を知っている歌姫は彼らを守りたくなかった。

だが、誰だってやりたくない仕事をやらねばならない時がある。



「いくら首を挿げて変えても世界政府はこの世界の秩序であり続けた」

「過去に政府を脅かせる存在が出現しても最終的に政府が勝利した」

「大海賊時代だって終わりはいずれ来る!!勝利するのは私たちなの!」



少数の犠牲で大勢の人々の平和を守るなどあってはならない事…だった。

自分の歌があればみんなを幸せにできると信じていた歌姫は現実を知った。

犠牲を出してでも現状維持しなければ、更に犠牲者が出ると分かってしまった。



「オハラのバスタコールだって学者が政府の警告を守っていればずっと平和だった」

「それでは何も変わらない!過去の出来事に蓋をして隠蔽してもいずれ発掘される」

「だからこそ海軍は49人の海兵を犠牲にして“空白の100年”を抹消しようとした!」



当時のサカズキ中将だって好きで海兵が乗船する避難船を沈めたわけではない。

やらなければ被害が拡大するからやらざるを得なかったのだ。



「おっさん!!」

「ん?ああ、私の事か」

「クロコダイルみたいにロビンを利用する気なのか?」

「違う!!私は親しい学者の忘れ形見を保護したいだけなんだ」

「…おれたちじゃロビンを守れねェ!お願いだ!!安全な場所に連れて行ってくれ」



さきほどの話を聴いてルフィはウタが無理をしていると分かっていた。

前線離脱した軍艦3隻が援軍を呼びに行くまでの時間稼ぎをしてると気付いていた。

ただ、それ以上、自決しかねないほどウタが感情を殺すのが見てられなかった。

ルフィは本能で顔に刺青を入れた男が信用できると判断し、ニコ・ロビンを託した。



「みんな!悪い奴らが居るよ!!みんなでやっつけよう!!



ついに最後の味方を失ったウタは笑顔で【観客】たちに呼び掛ける。

意識を失った海兵たちは歌姫の呼びかけに応じてドラゴンと交戦を開始した。



「ん!?」



当然、ドラゴンは海兵をぶっ飛ばしたが…仲間の変わり果てた姿を見てしまった。

ベロ・ベティ、カラス、リンドバーグがウタを殺害しようと技を繰り出していた…。



「“ゴムゴムの風船”!!ぎゃああああああああああ!!」



武装硬化した腹を膨らませてウタへの攻撃を防いだルフィだが、ダメージが大きい。

この時点でルフィと互角以上の実力者たちの攻撃は致命的過ぎた。

ウタを守り抜く事ができたが、大ダメージで悲鳴を上げて甲板を転がってしまった。



「邪魔しないでルフィ!!革命軍に私が殺される事で世界が救われるの!!」

「ごほっ…何言ってんだ…」



時折ウタは善意で暴走する事がある。

ニコ・ロビンの身柄が革命軍に渡ると察したので革命軍に致命傷を与えようとした。

世界政府からすればウタ1人の命で革命軍の主力が壊滅するならば肯定するだろう。

本来なら勝てない格上の存在に致命傷を残すべく彼女は自決しようとしていた。



『なんてことだ…』



“海軍の歌姫”ウタは世界政府に洗脳されており、もはや誰も止めることができない。

理不尽な暴力から大切な人を守るために革命軍になった兵士たち。

それが洗脳された歌姫に肉体を操られて手を汚そうとする理不尽さ。

そしてなにより、それを分かってて殺される為に自分の意志で能力を行使する歌姫。

同胞を攻撃できないドラゴンは再び自分の不甲斐なさを心中で嘆くしかなかった。



「オハラの悲劇は繰り返させはしない!!私はウタ、サカズキ大将の部下なの!!」

「徹底的な正義の名のもとにサカズキ大将の汚点を抹消し、後悔を断つの!!」

「それが君の本音か」

「っ…!!」



ところが、ウタの放った台詞で何故ロビンに固執するのかドラゴンは分かった。

要するに彼女は、自分を育ててくれた恩師に恩返しをしたかったのだ。

さきほどまでの行動は、それを肯定させる為の付け焼き刃に過ぎない。

現にそれをドラゴンが指摘した瞬間、一瞬だけウタが動揺してしまった。



「“赤犬”は、大切に育てて来た君の犠牲など望んでない!!」

「世界に仇なす大罪人!!あんたに何が分かる!!私は世界政府の狗で良いの!!」



最低限の犠牲で大戦果を挙げるならサカズキ大将も納得されるだろう。

多大な精神的な重圧に苦しんだウタは、世界政府の尖兵としての意見を述べた。

会話を続けるドラゴンは、操られた者たちの対処に苦戦していた。

だからといって希望は捨てずに状況を打開しようと試みていた。



「君は何かを勘違いしている。この世界はまだ希望が残っているのだ」

「希望?この大海賊時代で!?あはははは!世界を搔き回す男が良く言うわ!!」

「ルフィ、ウタ!!希望というのは君達のことなんだ!!」

「ふーん」

「この暗黒な時代を変えるのは英雄の血を継ぐ君たちなんだ!!我々の意志も…」

「うるさい!!」



ドラゴンの発言を受けてウタは奥歯を噛み締めて犯罪者を睨んだ。



「何も知らない癖に!!私と違って英雄の血を継ぐルフィと一緒にしないで!!」



赤髪海賊団に拾われたウタは7年間彼らの元で育ってきた。

しかし、今となっては致命的な汚点であった。

“海軍の英雄”の孫であるルフィと違ってウタは海賊の娘であった過去は消えない。

だからこそ大犯罪者とルフィを同類にされた事は彼女の逆鱗に触れた。



「つまりどういう事だ?」

「ルフィ、君は私の息子なのだ。だから私と違う道でいてくれるのに感謝している」

「おれにとうちゃん?ホントに居たのか」

「…居なければ誕生していないのだがな…」



話の流れが分からないルフィがドラゴンに尋ねたら爆弾発言が飛び出した。

これにはルフィもびっくり…はせずに素直に感想を述べた。

一方、ウタは意外にも冷静に物事を判断していた。



「あんたがルフィの父親と証明できるの?黒髪くらいしか共通点がないじゃない」



ルフィに両親が不在だったのをウタは疑問に思った事がある。

だから彼の祖父であるガープ中将に尋ねると両親の名前は教えてくれなかった。

だが、彼らはある【印】をつけていると教えてくれた。

ルフィですら知らない事なのでボロが出ないと確信した彼女は敵に鎌をかけた。



「これが【印】だ!君だってガープ中将から聴いているだろう?」

「……ふざけないで」



ウタはドラゴンによってルフィの両親の証である印を見せられてしまった。

ご丁寧にもガープ中将が自分に情報を漏らした事を知っていると述べていた。

皮肉にも自分の発言のせいでドラゴンがルフィの父親と確定してしまった。



「あはははは!!今日は良い日だわ!!」

「サカズキ大将の汚点に続いてルフィの汚点まで消せるなんてね!!」



狂ったように笑い始めたウタを見てルフィとドラゴンは警戒を強めた。

その直感は当たっていた。



「“ゴムゴム”の…“味方ロボ”!!…うわぁあぶねぇ!!」

「邪魔をしないで!!」

「ルフィ、ウタを守ってくれ!!私でも全員の相手は無理だ!!」



抜け殻となった革命軍の兵士たちがウタを本気で殺そうと技を繰り出す。

その前にウタの四肢に両腕と両足で纏わりついたルフィは転げ回った。

ドラゴンも何とか応戦するが、手加減している分、不利であった。



「私が死ねば革命軍に致命傷を与えられるの!!サカズキ大将だってそれを望むわ」

「何言ってんだ!!死ぬのは恩返しじゃねェぞ!!」

「あははははは!!私の命1つで世界を救えるなら安いものよ」



“世界の歌姫”と称される彼女は、自己評価が著しく低かった。

それは、ルフィを海賊の道を閉ざしたという後悔だけではない。

19歳の乙女は世界の希望を背負わされた重圧で精神が壊れかけていた。

そこに海軍本部の准将という肩書によって世界政府の狗になろうと試みた。

最後にドラゴンがルフィの父という情報が加わり情緒不安定になってしまったのだ。



「ダメだ!!守りきれねェ!!」

「ウタ、君に死んで欲しくない!!君が居ないと世界は…!!」

「私はウタ、海軍本部の准将なの!!だから邪魔をしないで!!」



革命軍の主力による総攻撃をルフィとドラゴンが防いでいた。

だが、ウタが自決するのは止める事は出来ない。

彼女はルフィの隙を突いて隠し持っていた短剣で自身を刺殺しようと試みた。

善意の暴走が止まらないかと思われたその時、事態が動いた。



「プルプルプル!プルプルプル!!」

「はい、おれルフィ!」



突然、軍艦のメインマストに備え付けられた大型電伝虫が受信を告げた。

ドラゴンが身内の対応に気を取られたせいで念波が通じる様になったおかげである。

すかさずルフィが受話器を取って挨拶をした。



《ルフィ!!ウタ!!無事か!?》



なんと海軍大将の赤犬がウタが指揮する旗艦に連絡をし、安否確認をしてきた。

海軍大将から連絡が来るのは、かなり珍しい事でありそれだけ緊急という事である。



「こちらウタ、革命家ドラゴンと交戦中!ルフィ以外乗組員は全滅。本艦はー」

《ウタ、わしが辿り着くまで持ち堪えろ!!死んだら承知せんぞ!!》

「サカズキ大将?」



ルフィから受話器を奪い取ったウタは状況を報告して受信を切るつもりだった。

ところが、いつもとは違うサカズキ大将の態度に困惑した。



「うわああああ!!海王類だああああ!?」



その瞬間、水中スピーカーを通じて操られた海王類が軍艦の傍に出現した。

大波が軍艦に激突し、大きく傾いてルフィは悲鳴を上げながら甲板を転がった。

共に転がるウタは上官の発言を受けて混乱しており、肉体操作ができなかった。



「サカズキ大将!!私は…」



一緒に抱えられた電伝虫で通じている上官にウタは会話を続けようとする。

…が、騒動によって念波が乱れてこれ以上の通信ができなくなった。



「ウタ!!ウタ!?」

「第23号艦、念波が途絶しました!!サカズキ大将!連絡が途絶しています!!」



ウタが指揮する艦隊が革命軍と触敵したと聞いて赤犬は血相を変えて出撃をした。

将官に昇格する予定の彼女に艦隊司令官代行を任命したのは彼である。

だが、表向きはクロコダイル護送という名ばかりの『艦隊の練習』であった。



『まあ、いきなり准将というのも可愛そうじゃけんのう…練習させておくか』



ウタがプレッシャーで潰れると理解していた赤犬は、初めてのお使いをさせた。

ひたすら部下に命じられながらルフィと一緒に海軍本部に帰投するだけで良かった。

任務を成功させて自信をもたせるどころの話ではない。

ウタとルフィを失いそうになり必死に彼は連絡を試みた。

ようやく連絡が繋がり、2人の安否が確認できた瞬間、再び連絡が途絶した。

これには、サカズキも焦り、部下から報告を受けても受話器を置けなかった。



「こちら、海軍本部G-8支部ジョナサン中将である」

「ウタ准将相当官指揮下の軍艦が革命家ドラゴンと交戦し、火急を要している」

「速やかに軍艦の兵装、弾薬、砲弾を海上に投棄し、軍艦の速度を上げよ」

「繰り返す!軍艦の兵装、弾薬、砲弾を海上に投棄し、軍艦の速度を上げよ!!」



サカズキ大将の子飼いと称されるG-8支部基地長のジョナサン中将は助け舟を出す。

彼の言葉は、傍に居る上官とその配下だけではなく電伝虫によって届けられる。

口調とは裏腹に兄弟弟子を心配していたが、それ以上に上官に気を遣っていた。

「これでいいですよね」と上官を促すように笑ってみせた知将は前を見据える。

サカズキも彼の意図に気付いて一度深呼吸して部下たちに目線を向けた。



「責任は取っちゃる!!はよやれ!!わしがおる限り、革命軍の好きにさせん!!」

「「「「ハッ!!」」」」



世界政府最高戦力の1角と称されるサカズキ大将は、檄を飛ばす。

ウタとルフィを護れと勅命を受けた3名の准将は申し訳なさそうに頭を下げていた。

彼らを守るはずが自分たちだけ後退してしまい本末転倒になってしまった。

大将の勅令を無視して准将代行の命令を優先した彼らは軍法会議ものである。



「サカズキ大将、相対方位59°で大型海王類が出現しました」

「そこに向かえ!!到着時間は!?」

「40分はかかるかと…」

「わしの攻撃射程範囲まで何としても近づけろ!!」



さきほどの通信で海王類が出現しているのは分かっている。

部下からの報告を聞いたサカズキは海王類が出現した場所を見る。



「おんどりゃあ!!ウタとルフィを失ったら末代までの恥と思え!!」

「「「ハッ!!」」」



3名の准将は、自分の命に代えてもウタとルフィを救出するつもりである。

元の護衛艦3隻と海軍大将と大型軍艦10隻、G-8支部から軍船20隻。

全てを焼き尽くす“バスターコール”も真っ青である海軍の本気がそこにあった。



「ウタ、聞いたろ!」

「やだ、私は…ルフィは…」



一方、暴走していたウタは畳み掛ける情報の多さで頭がパンクした。

光を失った薄紫色の瞳は、甲板を見据えており、独り言を呟いている。

1つ言えるのは、ウタの作戦は失敗に終わったという事だ。

意識がない海兵や革命軍の兵士は歌姫の悪意が失った瞬間、甲板に転がった。



「ルフィ!!まだ終わってないぞ!!」

「あいつをぶっ飛ばして終わりにするぞ!!」



父親であるドラゴンの呼びかけに笑顔でルフィは返答した。

ウタを殺害しようとする存在は消失したが、危機はまだ去っていない。

海上に出現した大型海王類は、倒れ込んで軍艦に激突しようとしていた。



「“双竜の鉤爪”!!」

「“ゴムゴム”の“JETバルカン砲”!!」



思う存分に力を発揮できる2人の協力攻撃は海王類をぶっ飛ばすには充分であった。

それを横で見ていたウタは嫌でも親子の血を感じられた。



「貴女、もっと素直になってみんなに打ち明ければいいと思うの」

「我慢しても良い事なんてないでしょ?私と違って貴女は愛されているのだから」



丁度、ウタワールドにある軍艦の1室でニコ・ロビンにそう告げられた。

ルフィやサカズキ大将の態度で確かにとウタは頷くしかなかった。

でも1つ間違っている事があるので彼女は反論した。



「ロビン、1つだけ違うわ!今、あんたを愛してくれそうな人物がお迎えにきたの」

「あら?海軍?それとも世界政府?」

「革命家ドラゴン、オハラの博士と友達だってさ。博士の遺志で迎えにきたそうよ」



ニコ・ロビンはウタの発言を聞いて驚いたが、それ以上に思った事がある。



「あら、すぐに有言実行するなんてすごいわね」

「もうすぐ夢は覚めるわ。だからその間…」

「そうね、その時まで相談に乗ってあげるわ」

「ありがと…」



現実世界のウタは、革命軍の兵士を操ってヴィント・グランマ号に乗船させた。

意識がないニコ・ロビンは、ドラゴンに大切に抱えられて最後に乗船した。

しかし、ウタワールドでは、ロビンとウタの2人っきりで軍艦で雑談をしていた。

女の悩みは、女でしか解決できない以上、ウタは寝る時まで相談を続けた。



「……聴いておるのか!?」

「……申し訳ありません。放心していて聞いてませんでした」



海軍本部にあるサカズキ大将の私室に呼びされてもウタの意識は朦朧としていた。

たった今、サカズキ大将に呼びかけられた時、ようやく意識が覚醒したほどである。



「何故、“直通回線電伝虫”を使用しなかった?何故、わしに相談しなかった?」

「失念しておりました。私はニコ・ロビンを奪取されないように頭が一杯でした」



革命家ドラゴンなど海軍本部の准将程度では荷が重すぎた。

故にすぐに海軍の上層部に連絡するのが優先のはずであった。

しかも、ウタは海軍大将赤犬と直接連絡できる電伝虫を授かっていた。



「“直通回線電伝虫”は悪魔の実の能力で絶対に繋がるようになっちょる」

「それを知らんと言わせんぞ!!」



“直通回線電伝虫”とは文字通り2つの電伝虫しか通じない。

島を焼き尽くす“バスターコール”に使用される対となる電伝虫と似た様なものだ。

唯一違う点は、付与された悪魔の実の能力により絶対に連絡が繋がる事ができる。

念波の妨害も盗聴も不可能である以上、すぐに使用するべきだったのだ。



「何故、報告しなかった!!」



どの組織でも報告、連絡、相談は重要であり、それを怠ったウタは追及されていた。

この場で全てを報告したが、遅すぎた。



「マグマのおっさん…」

「海軍大将に向かってその口の利き方はなんじゃい!!」

「すみません…」



さすがにルフィもサカズキ大将の怒りをどうする事もできなかった。

怒り狂った上官が靴の音を立てて2人に近づいていく。



『サカズキ大将、ごめんなさい…』



革命軍にニコ・ロビンを奪取された大罪を自覚するウタは直立不動で待機した。

【徹底的な正義】を掲げるサカズキ大将に粛正されると感じて無抵抗となった。

せめて苦痛なく殺してくれることを祈りながら双瞼を閉じた。



『あれ?』



しかし、サカズキ大将が繰り出したのは、灼熱の拳ではなく優しい抱擁であった。

全てを焼き尽くす灼熱の溶岩ではなく赤色のスーツが彼らに触れている。

何が起こったか2人は理解できなかったが、すぐに答えが分かった。



「おどれらが勝手な真似したせいでわしはどれだけ苦労したと思っちょる…」

「速報を聴いた時、たまげて元帥の許可なしで出撃するほど焦ったほどにのう」



サカズキ大将はルフィとウタの昇格を内心では喜んでた。

色々迷惑をかける存在ではあったが、それでも愛している。

親の心子知らずというが、ようやく2人はサカズキ大将の気持ちを知った。



「いいか、おどれらが対応できない案件が来たらわしに連絡をよこすんじゃ」

「「分かりました」」

「それと3日後の叙任式で世界中の人々を心配させたら承知せんぞ」



まるで子に対する不器用な父親が彼になり考えてくれているようだ。

二度とウタは大義名分を口にして自決しようとは考えなかった。

実の父親に抱かれている感じがして滂沱の涙が止まらなかった。

革命軍との交戦はルフィとウタに精神的な成長を促した。



『成長したのう…』



叙任式では、サカズキ大将が泣くほどの立派な海軍将校たちがそこに居た。

彼らはこれからも立派に海兵として大活躍していくことだろう。

天竜人のチャルロス聖に全てをぶち壊されるまでは…。


END

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