海上のトーチカは少年の安息地たるや?

海上のトーチカは少年の安息地たるや?


※前回はキング主役の話を書いたので、今回はカイドウさん中心です。他SSの概念を勝手ながら拝借してます。

※キャラ崩壊と独自設定につき閲覧注意。


その日の寝起きは酷いものだった。朝に弱いローなんて見るからに不機嫌そうに、自分達を叩き起こしたキングを睨んでいる。隈が酷い・・・それは元からだが。ルフィは舌打ちし二度寝しようとするローを横目に、寝ぼけながらルフィは問いかけた。腕を伸ばしてカーテンを開きながら。隙間から入る暖かな日光が部屋を照らす。


ルフィ「おはようキング・・・・それで?小っちゃくなったういろうがあるって?」

キング「どんな耳してんだ!カイドウさんが小さくなってたんだよ!早く来い!」

ルフィ「そっか、カイドウが小さくなってんのか・・・問題が起きてなくて良かったよおれ・・・・え?」

キング「・・・もう一度言うぞ。カイドウさんが子供になった」

一同『は?』

キング「早くしろ!今モネとサンジが必死に飛び降りようとしているのを食い止めている!」


急いで寝起きのままに男子部屋を駆け出す一同。甲板で見たのは、船から出ようと藻掻くカイドウと蹴られ叩かれとまるで暴れん坊のような癇癪に苦戦しつつも離そうとしないモネ、そして無惨に蹴り飛ばされたサンジの姿だった。


子カイドウ「離せ!何すんだこのアマ!」

モネ「駄目だって、貴方能力者なのよ!飛び込んだら死ぬわ!・・・あっ、皆!助けて!」

サンジ「うぉぉぉ~!モネちゃんの危機は俺が守・・・・ぶへぇ!」


何でも起きうる「偉大なる航路」。しかしこれは海賊王でさえも経験のないことだろう。何せ彼女が必死に掴んでいるのは確かにカイドウ本人なのだから。黒の天パのような髪、鋭い目つき、子供にしては隆々とした体、そして頭部についた特徴的なツノ。まさしくカイドウ本人だ。何度見ても。一同は必死に彼を甲板の上に引きずり込んだ。


そして時刻は起床より20分後の午前8時。いつも通り海面と地平線を照らす太陽が顔を出しながら、サウザンド・サニー号はいつも通りじゃない1日が始まった。目の前にぐるぐるに縄で縛り付けたこの少年をどうするか。こんなことは初めてである。

カイドウ少年は抵抗が無駄だと思ったのか、いつの間にか仏頂面のまま縛り付けられているマストにもたれて座り込んだ。顔も合わせようとしない。


ロー「どうやら、記憶や精神も子供の頃になってしまっているようだ。何か心当たりはあるのか」

チャカ「フム・・・あやかしの類いによるものでもなさそうだ。益々持ってわからんな」

ゾロ「だからっつってあの酔いどれがこうもなるなんて何かしらの原因はあるだろ」

ルフィ「てか誰かアイツの子供の頃とか知らないのか?」

キング「俺も生まれていなかったからな・・・子供の頃は本当に分からん・・・」

サンジ「てかアイツ強すぎだろ・・・何だよあの蹴り」

モネ「そう言えば昨日の鍋で変なキノコ入ってたわね」

一同『言えよ!』


サンジ「やっちまった・・・・コックとあろうものが致命的なミスするなんて・・・」

ドレーク「しかしこれは分かるまい。見た目、匂い、味、全て椎茸にそっくりだ」

ルフィ「え~と・・・・つまりどういうことだ?」

ドレーク「この「キンダーガーデン」は食べた人間が2日から3日子供に戻ってしまうキノコだ。一節によると「悪魔の実」と関連しているとされるが、能力者が食しても死なないことから未だ研究が続いている」

モネ「その代わり正常な精神状態の人間にはほんの少し異常を感じる、と・・・・」

ルフィ「へー・・・じゃカイドウはしばらく子供のままなんだな」

モネ「というか、正常な精神状態って・・・まさか貴方達、違和感感じなかったの?」

(ゾロ以外目線を逸らす)


船内図書室から持ってきた「食べれるキノコ-サバイバル編」を皆でじっと読む。一番手に負えない人間を保護する、という未知との遭遇に一同困惑を隠せない。


ゾロ「ま、問題を把握できただけでも良い方だろ。おいコック、朝飯。そこでうじうじしてねぇで持ってこい」


朝食が野外のテーブルに運び込まれていく。カイドウの分もよそって渡してはみたが(当然拘束も外している)、一切口につけようとしない。


サンジ「毒は入れてねぇぞ?」


首を横に振る。どうやら毒を入れていないことは様子を見て把握しているようだが、それでも拒絶しているのだろう。


サンジ「いらねぇのか?」

子カイドウ「何で、」


子カイドウ「何でこんないいもんを俺に?」

サンジ「・・・へ?」

子カイドウ「俺は兵卒だ。お前等が誰だがも、ここが何処だがも知らねぇが、こんな高級なメシ俺は食っちゃだめだろ」

サンジ「おいおいそんな訳ねぇだろ。というか立場によって食い物変えるっていつの時代だよ」

子カイドウ「将校の癖に、変な奴だな」


-将校?


サンジ「あー、俺達はそんな大層なもんじゃなくて。海賊だ」

子カイドウ「海賊?何で海賊が俺を捕らえる?まさか敵国と組んでんのか?」

サンジ「そうじゃねぇんだが・・・何て言おうか・・・」

ドレーク「俺達が何であろうと、お前は捕虜であることに変わりはない。恐ろしいことをされたくなければ、ちゃんと食うんだな」

子カイドウ「・・・・!」

チャカ「ドレーク、もう少し言い方をだな・・・」

ドレーク「確かにそうだが、彼はどうやら兵士であるようだ。混乱している兵士には分かりやすく指示しなければならん。それに、真実を一挙に教えても混乱させるだけだろう」

モネ「それで、「恐ろしいこと」って・・・」

ドレーク「洗濯」

モネ「洗濯」

ドレーク「中々恐ろしいものだぞ?何せほぼ風呂に入らない連中が着用していた・・・」

ロー「食事中だぞ馬鹿野郎」


子カイドウ「・・・・・・」


カイドウは恐る恐るスープをスプーンで掬い、口に持って行く。途端に、彼の鋭い目つきが驚きで見開いた。やや紅潮もしている。


サンジ「クソ美味ぇだろ」

子カイドウ「・・・・・・こんなのを食ったのは初めてだ」


スプーンを持つ手を止めずに、大切に味わう。一同は安堵した。胃袋を掴めばまずは大丈夫だ、と考えたのだ。


ルフィ「な、サンジのメシは美味いだろ?これも食うか?」

子カイドウ「良いのか」

ルフィ「モチロンだ!皆で食うともっと美味い!」


何とか調子を取り戻せそうだ。


ドレーク「さて、お前の所属を教えてくれるか」

子カイドウ「ウォッカ王国陸軍第22師団、第2突撃軍第3部隊第3中隊所属、カイドウ二等兵」

ドレーク「ウォッカ王国か。年は?」

子カイドウ「10」

ドレーク「・・・成程、ズヴェルドルフ戦線にいたか」

子カイドウ「そうだ」


彼の証言をもとに色々と調べてみると、どうやら今は亡き王国の少年兵だったようだ。しかも激戦区で青春を過ごしていたらしい。


子カイドウ「あんたら誰だ。俺をどうするつもりだ」

ドレーク「あぁいや・・・そうだな、我々が何も教えないのも不公平だ」

ドレーク「先程も聞いたとは思うが、我々は海賊「麦わらの一味」。俺は航海士を務めているディエス・ドレークだ。よろしく」

子カイドウ「・・・・」


確かに少年兵、といえば合点が行く。警戒心の高さ、年以上に大人びた言動、そして鍛え抜かれた肉体。ドレークは自らの過去を思い出す。そう言えば自分も当時こんな子供だったな、と。カイドウの目の奥にある、その闇を見ながら。


ドレーク「我々は君達を安全に護送する契約をしていてな。しばらくの間、君を送り届けることになったんだ」

子カイドウ「他の奴は?俺以外の味方はいねぇのか」

ドレーク「ム・・・それは、だな」

子カイドウ「そうか、俺しか生き残らなかったか」

ドレーク「・・・・・・」


どう返せば良いのか分からない。軍歴が長い分、仲間がいないことがどれ程の重圧となるか、どれ程心を苦しめるかを知っている。しかし、何より辛いのはカイドウがそれを屁とも気にしていなさそうな素振りを見せたことだった。クッとこらえるのを隠すようにして、言葉を続ける。


ドレーク「・・・とにかく、我々は味方だ。安心してくれ。何か欲しいものがあれば、遠慮なく言ってくれ」


そのまま逃げるようにして退室してしまった自分が嫌になる。部屋の外で、待っていたローがこちらに気づき近づいてきた。やはり何が分かったが気になるのだろう。


ロー「どうだった?」

ドレーク「少年兵だったようだ。ズヴェルドルフの」

ロー「なっ・・・・そうか、ズヴェルドルフ、か」

ドレーク「どうやら警戒心は少し解いてくれたようだ。診察の方はよろしく頼む」

ロー「言われなくとも」


・・・・・・これは、思ったよりも難しい問題だな。


ドレークは確信し、自室に戻っていった。


(続)海上のトーチカは少年の安息地たるや?2 – Telegraph






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