決別
スレ主目次
「タカちゃん…」
石田雨竜はそわそわと落ち着きのない様子で友達であり同じ滅却師である鳶栖璃鷹が来るいつも時間になるのを待っていた。あんな事があった後ではきっと今日はここへは来ないだろうとも思った雨竜だったが、雨竜は鳶栖璃鷹が怒ったり泣いたり感情を激しく出した姿を見た事がない。
だからもし、もしもいつも優しい彼女が雨竜を信頼して頼ろうとここに来た時に自分がこの場所に居ないのは駄目だと思ったからに他ならない。
そうして少しの間を置いて彼女がやってきた。
脇には何日か前に雨竜が貸した本と、そしておそらく彼女の私物である本二冊を片手で胸に抱いて、
雨竜の目には、少し怖くなるほどいつも通りの彼女がそこに居た。そうして彼女はそのまま雨竜を見たままいつもみたいに雨竜へ声を掛ける。
「あ、先に来てたんだ。ごめんね待たせちゃってた?」
「タカちゃん!!大丈夫だった?!!今日は来ないかと思ってたからびっくりしたよ」
慌ててそう言った雨竜を見た璃鷹はキョトンとしていた。
「あれ、そんなに慌ててどうしたの?もしかして何かあった?」
そう言いながら「よいしょっ」といつも自分たちが座っている切り株に腰掛けるとまだ立ったままの雨竜に「?座らないの」と声をかけた。
「何って…朝起きたらニュースに君の滅却師の先生が出てて…その、通り魔に襲われて亡くなったんでしょ?君先生のことを努力家の良い人だって褒めて慕ってたじゃないか」
そういうと漸く雨竜が何を言いたいのか気付いたようで「あぁ、」と声を募らせた。
「うん、亡くなったらしいね。でも本当に私は大丈夫だから」
その言葉を聞いて雨竜は自身の師匠のことを思い出した。優しい人だったが5体の虚との戦いに敗れ亡くなった。
死神の対応が遅く援護がないまま虚に殺され雨竜の目の前で死んでしまった。
(タカちゃん、あんな事があって辛いのに強がって、)
状況は違えど慕っていた師が死んだのだから思い詰めない方がおかしい。
雨竜は自身を鼓舞して俯いていた顔を上げて叫んだ。
「な、大丈夫なわけ無いだろ!!僕の師匠もこの間亡くなったのしってるよね?
状況は違うけど君の気持ちが分かるよ。君にとってはまだ頼りないかも知れないけど僕たちは友達なんだから少しは頼ってくれても…」
「そんな事よりこれ、竜ちゃんから借りてた本もう読んじゃったから返すね。面白かったよ」
「そんな、事?」
雨竜は耳を疑いながら聞き返した。しかしその声はまるで璃鷹には聞こえなかったように別の会話へと移行した。
「次は私の番だったよね。はい私の本と、竜ちゃんから借りてた本」
彼女は本当にどうでも良いのだ。彼女にとって先生が死んだことは、そこまで重要ではないのだ。固まった雨竜に璃鷹はまた目を丸くして言った。
「?どうしたの竜ちゃん。いらないの?」
「ッ、」
「あ、竜ちゃ」
気づいた時には璃鷹から伸ばされた手をそのまま無視して雨竜は走った。
それ以降、彼がその場所に行くことは無くなった。
「?借りてた本もしかして要らなかったのかな」