ファーストキル

ファーストキル

スレ主

目次


「…は?」


それは一瞬だった。

人気のない殺風景な路地に回った瞬間世界が暗転する。身体中が熱くなり背中からはどろどろと血が絶え間なく滴り命が溢れでる。


「ざけんなや、ッ霊子もねれんドブカスがッぁ、」


自身な実力に圧倒的な信頼を置いていたこの男は今何の力も持たない死神でも、はたまた自分達が忌み嫌う虚でもなく。ただの人間に殺される。それは慢心からくる驕りからの失態だった。

這いずりながら刺された箇所を止血しようと手で傷口を覆うがそれも間に合わない。

顔から汗が滴り落ちた後、後ろからコツコツと靴底の音が聞こえる。


「鳶栖、璃鷹」


「奇遇ですね、こんな所で会えるなんて。それにしてもどうしたのですか?そんな所に膝をついて…」



予想外の存在に男は目を見開く。

ニコニコとした少女がいつも自分に見せる人好きしそうな笑みとは違う明らかに悦を含み心底面白いものを見たかのように男の目を見た。

それを見た途端に先程の男とこの女の関係性が見えていき怒りが沸々と湧いてくる。


「ふふ、ちょっとした冗談ですよ。冗談」


「冗談、」


「えぇ─だってそうでしょう?こんなに面白い事他にありますか?」


顔はそのままに手だけを少し申し訳なさそうに口元を抑える。まだ10にも満たないその体を揺らして髪を耳にかける動作をした。


「私ったら…ごめんなさい。本当は十分程度は持たせるつもりだったのですがこれでは3分も持ちませんね…興が乗ってしまってつい、予定より長く鑑賞させて頂いたのですが…」



「けれど──私の想像したものよりもとっても楽しくて…有意義な時間が過ごせました。ふふ、でもこんな事したの先生が初めてなんですよ?」


体が急激に冷たくなり命の消失を感じる。自分は、滅却師としてならこの女に勝てただろう。

しかしそれは意味を成さずに自分は負けた。

今まで積み上げてきた研鑽してきた自身の滅却師としての誇り。

だがしかし、女だとしても将来強者になるだろう純血滅却師に負けた事実がその強者に喰らわれるに足る者だったというか事実が男に満足感を与えた。


「は、は、俺はこんな女に負けたんか、」

そう言って笑みを浮かべる自分に鳶栖璃鷹は出来の悪い子供に言い聞かせる様に優しく、そしてゆっくりと伝えた。


「どうやら勘違いをしている様なので一つ訂正を、貴方の最後を彩ったのは私ではないので違いますよ」

自身の顔を優しく掴んである方向に向けさせる。

──男がいた。それは先程自身に刃物を突き立てた男が虚な目をして座り込んでいる様子だった。


「貴方は虚や死神に殺されていった勇敢な同胞達とは違って、ただの〝人間〟に負けた哀れな滅却師として記憶に残る」


「積み上げて、人生の中で必死で獲得して得た力も泡の様に溶けて──貴方の最後には役にも立たなかった」


顔の汗はもう止まった。

自身の死より受け入れ難い現実に男は苦痛からではなく恐怖と絶望からか、それとももう死ぬ寸前だからなのかは分からないが痛みはもう消えていた。

こんな事ならば先程の痛みで他の事なんかどうでも良くしてほしい。

苦痛を与えて自身の今の感情をを消して欲しいと切に願った。


「いや、いやや、そんなん、じゃあいままでおれ、なんのために」


目はもう見えない。あるのは無価値だと突きつけられた消失感に抗おうとする意思だけだ。


「たのしかったですね、先生」


耳にこびりつく。最後に自身が聞いた最後の声。

最後に聞いたその声には先程の様なもう熱はなかった。

男に見せていた笑みを崩して光が無くなり顔から生気が抜けた男の死体を数秒を見つめる。


「?いつまでそこに居るのですか。許可が必要ならばもう帰っていただいて構いません」


いい思い出というのは心に残るというがやはり自分には記憶だけで満足できるタチでさないらしい。

男が動かなくなった途端急に冷めた熱のせいかいつもは取り繕っていた殻が割れてしまっている。

路地の隅で放心している男を思い出してそう声をかけた。

でも男は動かない。一応帰っていいとは一言言ったのでそれ以上はもう追及しない。


「…しまった、殺す前に力を奪うのを忘れてた」


そうして冷静になった頭には一つのやるべきだった事が脳裏に浮かぶ。


「まぁいいか」

確かに勿体なかったがそれはそれだ。代用はあるのだから特質してやらなければいけなかったわけではない。


「…代わりは他に沢山いるし」




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ドブカス

幼女に負けたけど純血滅却師だしいつか強者になるであろう〝滅却師〟に負けたと妥協しようとしたら後から追い討ちが掛かった。しかし同情の余地なし。


鳶栖璃鷹

趣味に熱中し過ぎてドブカスの力を奪うのを忘れたうっかりさん。

ドブカスにとってそれが最後の慈悲になったのか、はたまた普通に強者に喰らわれる事に救いを見いだせたかも知れないと思うと居た堪れない。


次話

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