彼はいた

彼はいた


スケベくんの生きてて、ローと話せたifです。遅くてごめんなさい。

捏造しかないので注意。

あと、軽い欠損描写もあるのでそっちも注意です。

前作の続きみたいなイメージだけど、ローが掲示板見て真実知ってるってことだけわかってたら大丈夫です。








 パチパチという音とものが焼ける臭いがする。戦争で……おれの故郷でよく経験していたものとよく似ていた。

 何で意識があるのかわからねェが、どうやら成功したみたいだ。


……イテェ


 安心すると体に激痛が走った。どうやらあのとき怖じ気づいちまったらしい。つい体を守るような動作を取っちまったようだ。


 最期くらいカッコつけたかったけど、大事なところでトチっちまった。アイツに、怒られちまうな。

 まァ……でもいいや。怒られるってことはアイツに会えるってことだ。そのときはおれもドン引きするくらい泣きわめいてやる。






アー…………イテェ


そういえば、あのガキ大丈夫かな


大丈夫だよな


あのガキはおれなんかよりもずっと賢いんだもんな



……生きてくれよ


これからおれよりも、きっとずっとたいへんだけど、生きてくれ


おれもこんなじんせいだけど、さいごにゃいいことあった


だって、アイツのしてくれたこと、かえせたんだ

まァ……ガキにたいしてなのは、ちょっとふまんだけど……



それでも……うん……よかった

いきてて、よかった




だから、あいつ、も……






 もえるおとと、こわれるおとがなるなかで、おともなくだれかにだきあげられた。

 それをさいごに、いしきはきえた。



 全身が痛ェ。

 起き上がろうとしたらもっと痛ェ。

 しかも起き上がれねェ。

 というか、左側の感覚がいまいちねェ。

 何だ何だ。あの世ってのは随分と不便な場所だな。生きてた頃よりも随分と辛いじゃねェか。

 ……まさか、地獄に落ちちまったのか?それで今酷い目にあってる真っ最中だったり……。

 うわー目を開けたくねェ。でもこのまま瞑っても何も始まらねェ。

 しょうがねェ。こうなったら、最期に比べたら怖いもんなんてねェってことにしよう。少なくともあのガキのことまで考える必要はねェんだ。よし。

 思い切って目を開けると妙に白い空間の中にぼんやりと誰かがいるのが見えた。


 誰だ?まさか、アイツか?

 声をかけようとすると、暫定アイツはあわてて駆け出していった。

「先生!意識が回復しました!」

 ……どうやら、おれはまだ死んでねェらしい。


 駆け出していってしばらくすると先生がやって来て、診察と経緯の説明が始まった。

 どうやら、爆発で近くにあった物と一緒にぶっ飛んだ結果、それがクッションと火の手から守るおおいのような役割をしたらしい。オマケにそのとき水も被っていたようで、火傷だけで済んだのはそのおかげ……とのことだ。

 ……確かにあのときのおれは死体を洗うプールのそばにいたし、ガキも一緒に死んだと偽装するために大量の死体をそばに置いてた。ありえねェ線ではないだろう。

 ただ、あの死体はおれから見て右側にあった。つまり、左側の体の感覚がいまいちねェのは……まァ仕方ねェか。大体、あのときのおれは死ぬ気だったんだ。今こうしているだけでかなりの幸運だ。


 わからねェ単語混じりの説明が終わると、今度は海軍の人達がどやどやとやって来た。そして、何であそこにいたのかとか何だとか聞き始めた。

 これは……あれだ。事情聴衆ってやつだ。あんな場所にいた……というかそもそもおれが犯人だからそりゃ聞かれるわな。まァ、そっちにも色々と事情はあるかもしれねェ。でも、悪ィけど何も答える気はねェ。

 おれが何か話して、自分が捕まるだけならいいが、あのガキが生きてるって思われちまったら困る。向こうはこういうことのプロなんだ。おれが下手なことを言って勘づかれたりしたら厄介だ。

 そうやっておれがだんまりをきめこむと、海軍の人達は諦めて帰っていった。そのあとも度々来たが、おれがずっと同じ反応だからか事情聴衆はしなくなっていった。

 でも、一人だけずっとやって来るやつがいた。アフロで髭を生やしたおっさんだった。そのおっさん――センゴクと名乗っていた――はおれに何も聞かず、むしろ色々と話してくれた。

「色々と聞かれたと思うが、お前はあの爆発事件の被害者ということになった。犯人は結局わからずじまいだが……あの規模だ。珀鉛病の少年もろとも焼け死んだという結論に収まった」

 その話をしてくれたときは内心ホッとした。あれこれ聞かれた反応で何か気づかれるんじゃねェかとヒヤヒヤしてたんだ。もう海軍が来ねェなら安心だ。

「もう海軍がお前に話を聞きにくることはない。だが、私が個人的に訪問することは許してくれるか?」

 だから、センゴクさんがそう言ったときは思わず目を見開いた。


 まだまだ体が動かせねェ上に包帯だらけのおれが驚いたことに気づいたのか、センゴクさんはまた口を開いた。

「お前を連れてきたのは、私が息子のように思っている男だ。『何とか助けてやってほしい』と言っていたらしい。

 あいつがそう言うのなら、私はその意思をできるだけ汲みたい。だからこれからもここへ訪れたいし、行く宛がないのなら私のところへ来てほしいと思っている」

 センゴクさんの表情は真剣で、少なくとも嘘はついているようには見えなかった。

「あとの方の返事は急いでない。ゆっくり考えてくれ」

 そう残してセンゴクさんは帰っていった。一人残されたおれはベッドで悩むことになった。

 この話はおれからすれば渡りに船だ。天井と医者と看護師くらいしか見えねェが、この病院が立派なのはわかった。多分、一番街とか二番街とかにある類いのやつだ。そんな場所に何日もいるんだ。下手したらおれの持ってるもん全部出しても治療費は払えねェ。それにこの怪我だ。もうあそこに戻っても仕事はないだろう。

 じゃあ何で悩んでいるのかというと……おれがあの事件の犯人だからだ。いつうっかりボロを出すかわからねェ。

 まァ、そのことについてはゆっくりと考えよう。とりあえず今は怪我を治す方が大事だ。



 センゴクさんがあの話をしてから数日後、リハビリ?なるものが始まった。まずはちょっとずつ自分の体を見て、どうなってるのか知っていった。

 おれの左足は太ももあたりからスッパリとなくなっていた。

 左腕は繋がっていたが動くことはない上に小指が一本欠けていた。

 頭は無事だったが、顔と体の左側ににある火傷の跡は残るらしい。

 左腕は動く可能性があったのに動かないのは自分のせいだと医者は謝ってきた。目覚めてそうそう『左腕に何か感じますか?』と聞いてきたのはそういうことか。あのとき、本当に何も感じなかったからな……。

 医者は申し訳なさそうにしていたが、おれは全然気にしていなかった。そもそも今生きてるのがラッキーって思ってるしな。

 だからといって、何もできねェままなのは困るからリハビリは真面目にやっていった。やがて、ずっと起き上がっても大丈夫になったし、義足をつけるかという話も出てきていた。

 これ以上お金がかかるのか、というか今まで請求されなかったけどどうなってるんだ。そんな疑問がわいてきた。だが、あのとき言ってた通り度々ここに来ていたセンゴクさんの話で全てがわかった。

「ここの治療費は全て私が賄っている。このあと私のところへ来なくとも、せめてこのくらいは……な」

 センゴクさんの顔には打算のようなものはなかった。正直に言ってすごくありがたいのでお言葉に甘えることにした。


 センゴクさんは本当におれのことを気にかけているようだった。ここに来るだけじゃなく、新聞とか本とかそういうものも持って来ていた。

 あいにく、そういうものとは縁がねェ人生だったが、あまりにも暇だったので読むようになった。新聞はちんぷんかんぷんなところもあったが、『海の戦士ソラ』は結構面白かった。特に『ジェルマ66』の"ポイズンピンク"がボインな姉ちゃんで好みだった。

 色々ともらってるのにずっと黙ってるのも申し訳ねェから、リハビリのこととか読んだものの感想とかを話すようになった。そんなつまんねェ話をセンゴクさんは嬉しそうに聞いていた。その顔を見てると、タバコ屋のばあちゃんを思い出した。……全然似てねェのに。


 そうやって過ごしているうちに、おれは杖があれば歩けるようになり、退院する日程について相談するようになった。

「そろそろ退院も近づいてきたが……お前はどうしたい。何を選んだとしても私はお前の意思を尊重しよう」

 センゴクさんもそのことに気づいてまた声をかけてきた。

 これからどうしようかと何度も悩んだ。その中で、思い浮かんだのはあの約束だった。

 一度は破りかけたそれだが、運良く生き残った以上、ちゃんと果たすべきだと思った。何より、今のおれにはそれしか残っていなかった。

 そして、それを確実に果たす方法は目の前にあった。

 センゴクさんに体を向ける。覚悟を決めて口を開いた。

「あん……あなたのところで暮らさせろください」

 ……緊張したせいで口調が変になった。慣れたとはいえコミュ障はなおらねェんだよチクショー!

「そうか……わかった」

 センゴクさんはそのことについて何も言わなかった。多分、気づいてて言ってねェやつだこれ。恥ずかしい……。

 ……まァともかく、こうしておれの新しい生活が始まった。





 センゴクさんのところへ行って十数年が経った。今のおれはあのときとは違ェ名前で生きていた。

 退院してから最初の数ヶ月はセンゴクさんと一緒に暮らしていたが、おれが一人でも問題ねェとわかってからは一人暮らしをしている。でもやっぱり気になるらしく、そこそこの頻度でおれの仕事を持ってくるという名目だがおれの仕事場にやって来ていた。

 あ、ちなみにおれの仕事は海軍の仕事で死んだ人の死因とかをまとめる仕事だ。

『さすがに世話になりっぱなしってわけにもいかねェから働かせてほしい』

 わかれて暮らすことになったときにそうセンゴクさんに言ったら、渡された仕事がこれだった。報告書の書き方がわからねェから教えて下さいと頼んだのが懐かしい。

 今さらながら、おれはあのガキが嫌がってた海軍のもとで働いてるんだな……。しかも、あのときとは違って結構正規の方法で。

 そういえばあのガキ、どうしてるんだろうな。珀鉛病の寿命を考えたらありえねェんだけど、『悪魔の実』なんてものがあるのを知っちまったからな……。どうしても仕事をしてるときとかこんなふとしたときに考えちまう。


 どっかで生きててくんねーかなって。


 そんなことを考えているとチャイムの音が鳴った。

「……ハイハイ」

 杖をつきながらゆっくりと歩く。知らねェ人ならいざ知らず、今回会う人はおれの事情をよく知る人だった。

「元気にしとったか?」

「元気も何も、最近会ったばかりだよ……センゴクさん」


 センゴクさんはおれの家にもよく来ていた。海軍の中でも途轍もなく偉い人がこんなポンポンおれの仕事場や家に来ていいのかと思うがそう言う度になんかうまいことはぐらかされる。仕事場の方は周りの人も『まァそんな頻繁じゃないし長居してる訳じゃないから息抜きってことでいっか』みたいな感じになっちゃってるし……!

 強く言えねェおれもおれだが、仕方ねェと思う。だって相手めっちゃ強いし。

 それに……こうやって気にする理由が何となくわかってるというのもある。多分、おれをセンゴクさんが息子のように思っていた人に少し重ねているんだ。

 ……いや全然似てねェんだけどな!資料で見ただけなんだけど、なんか三メートルくらいあったし。でも、おれはその人に助けてもらったらしいし、それに……おれがその人の資料を見たことがあるってことはそういうことだ。

 本来、おれみてェな下っ端が関わるような人じゃねェが、多分センゴクさんが無理を通したんだと思う。理由は聞いちゃいねェが、ちょっとでも関わりがある人に任せたかったんだと勝手に考えてる。だって、資料を渡すときのセンゴクさんの手は震えていた。


 重ねあわせることは仕方ねェって思ってる。おれだってあのときガキの目にアイツの面影を見ちまったんだ。きっと、生きていったり、何か大きな決断をしたりするときに、大切な人のことを思い出すのは必要なんだ。

 今のおれがあのガキのことを度々思い出しているように。


「何度も言うが、新聞はちゃんと取りなさい。海軍の一員ともあろうものが世界の情勢を知らんでどうする」

「んなこと言ったって、おれの中でシンドリーちゃん以上のことなんて起きねェよ……そもそもおれは末端もいいとこだし」

「まったく……」

 ブツブツと言いながらセンゴクさんは新聞を置いた。だって、本当のことだ。シンドリーちゃんが死んだ以上のことなんてそうそう起きてたまるか。

『し、し、し、シンドリーちゃーーーん!!!』

 あのときは仕事場にも関わらず大きな声を出しちまった。しょうがねェ。何たってシンドリーちゃんの死亡記事だ。同じファンも悲しんでくれた。

 そのときまでは真面目に新聞を取っていたがそれ以降はぱったり取る気がなくなってしまった。

 とはいえ、好意をわざわざ無下にするもんでもねェから机の上の新聞を手に取って読み始めた。……実は、こうやっておれの家に来る度に新聞を持ってくるのも、新聞を取らねェ理由になってる。だって、買わなくてもまぁまぁの頻度で読めちゃうんだもん。それに持って帰ってくれるからゴミが出ねェし。

 でも、それを言ったら多分センゴクさん持ちでおれの家に新聞が届くかもしれねェから黙ってる。というか十中八九とどくようになる。押しが強いところあるからな……。

 そう内心で言い訳をしつつ、本当か嘘かちょっとわからねェ記事を目で追う。

 そして、いつも通り机の上に置こうとした。置こうとしたんだ。

 一つの記事が目に留まる。さほど大きい記事じゃねェが、写真も載せてあった。そこに写っていた海賊の青年はどこか面影が、いや、何よりその帽子は……。

「ガキッ?!?!」

 思わず声が出てしまった。そして、自分がやらかしたことに気づいた。

 自分の隣にはセンゴクさんがいたのだ。



「その青年のことを知っているのか?」

「し、知らねェ」

 汗がダラダラと流れる。今さら誤魔化してももう遅い。

「いや、でも今」

「知らねェったら知らねェ」

 センゴクさんは驚いた表情のまま問い詰めてくる。当たり前だ。だって今目の前で叫んだんだ。

 でも、口を開くわけにはいかねェ。おれがあのガキの邪魔をしちゃダメなんだ。

「何もその青年を捕まえたいわけじゃない。私はただ」

「ほ、本当に知らねェんだ!

 お願いだから……信じてくれ……」

 最後にしたはただの弱々しい懇願だ。でも、センゴクさんは口をつむり、これ以上問い詰めてこなかった。

「……わかった。お前がそう言うなら信じよう」

 何が琴線に触れたのかはわからねェが、引き下がってくれて助かった。今のおれにはいい言い訳は浮かばなかった。


「ただ、せめて新聞はちゃんと取りなさい。シンドリーちゃん以上のことがあっただろう?今日の新聞は置いておくから」

「…………はい」




 センゴクさんが帰ったあと、あのガキが載ってる記事を開いた。そして、写真と……今までずっと知らなかった名前をそっと指でなぞった。

「『トラファルガー・ロー』……ハハ、ずっとガキって呼んでたからしっくりこねェや。でも、こんないい名前持ってんならそりゃ『ノラ』って呼ばれたくねェよな……ハハハ……。

 ……生きてて、良かったなァ……」





 おれはあの日からまた新聞を取るようになった。

 あのガキは……ローは度々新聞に名前が出て、記事もその度に大きくなっていった。

 やがて指名手配も出るようになった。懸賞金も数千万から億へと上がっていった。

 おれは記事と指名手配を集めるようになっていった。バレたら怒られそうだからこっそりと。こんなところでシンドリーちゃんをコレクションしていた経験が生きるとは思わなかった。

 一転、仲間の指名手配は全然出てなかった。やっと出たと思ったらシロクマだった。

 ……あいつ白いモフモフが好きなのか?帽子もそんなだったよな……。

 せっかくだからその指名手配も取っておいた。

 ……もしかしたらセンゴクさんはこのことを知ってるかもしれねェ。でも何も言わなかった。

 それがちょっとだけ嬉しかった。


 マリンフォード頂上戦争が起きた。

 戦場で何の役にも立たねェおれはシャボンディ諸島に行って映像を見ていた。……戦場の映像はあんまり気分がいいもんじゃねェが、センゴクさんがいたから見ることにした。

 そうしたら、いきなりあいつが出てきたからびっくりした。叫ばねェように手で口を押さえたのは英断だったと思う。

「おれは医者だ!!!」

 あいつの声が聞こえてきた。思わず涙が出ちまったが、他にも泣いてるやつがいたから大丈夫だったと思う。

 ……嬉しかった。生きてたらそれでいいって思ってたけど、それでも、嬉しかった。

 あいつの治療はすごくうまくて、そのことについて話すときは笑顔が浮かんでいた。何もなけりゃいい医者になったんだろうなと素人ながら思ってた。

 "死の外科医"なんていう異名がついてるのは知ってた。でも、あいつが自分のことを『医者』と宣言したのは初めて聞いた。

 海賊になっても、医者を……あいつが好きなことをやっているのが知れて堪らなく嬉しかった。


 戦争が終わった。悲しいことにおれの仕事は増えちまった。

 どうしようもねェから黙々と仕事をやっていると、センゴクさんがやって来た。

「元帥を辞めた!これからは気楽にお前のところへ来れるな!」

「……」

「イヤそう!!!」

 止めねェからせめてそんな顔はさせてくれ。



 あの戦争のせいで出た死人の仕事が終わったあとも、おれが暇になるなんてことはなかった。白ひげが死んで、世界のバランスが崩れていったからだ。

 海軍も何だかピリピリしていた。でも、センゴクさんは元帥を辞めたせいか楽しそうにしていた。一気に老けたけど。


 あいつは……ローは……何か、すごいことになっていた。

 ロッキーポート事件の首謀者になったのもそうだが、何より驚いたのは王下七武海に入ったことだ。

 あのとき、海軍は嫌だつってたのに……どういう心境の変化だろうか。あの経緯があれば海軍や世界政府を嫌いになるのはおかしくねェのに……。

 あと、ちょっと怖ェのがあいつに会っちまうことだった。もしあいつに会ったら、そして覚えられてたらおれは絶対に殺される。だって本心じゃねェけどあんなこと言ったんだ。おれだったら絶対許さねェ。


 だから、会わねェようにと思って過ごしていたら、あの戦争から二年が経っていた。



 あいつが王下七武海を除名された。麦わらと同盟を組んだからだ。

 しかも、ドフラミンゴを倒したから懸賞金も五億に上がっていた。

 ドフラミンゴっていうと……確かあれだ。おれが昔住んでた辺りにいた海賊団で、おれのかつての仕事仲間の推しだ。今さらながら、おれはあいつのこと何も言えねェな。むしろおれの方が色々とやべェ。

 あと……おれを助けてくれた人と同じ名字だ。あんな名字めったにねェし、血が繋がってたのかね?

 彼の任務は極秘だったせいでおれも内容は全く知らねェ。でも、血が繋がってるなら、今回倒されたドフラミンゴに関わる何かだったのかもしれねェな。

 ……もしそうならセンゴクさんはどう思っているんだろうな。

 ドレスローザがある方角を見る。センゴクさんはドレスローザへ向けて出港していた。


 そういえば、あいつも多分今ドレスローザにいるけど、捕まったりしねェかな。そんな柔なやつじゃねェのはわかってるけど、海軍も結構な人選を送っていた。頼むから捕まってくれるなよ。ホントはそんなこと願うのはダメだけど、あいつにはずっと幸せでいてほしかった。



 センゴクさんがおれの所に来たのはドレスローザから戻ってさらに数日後だった。何故か映像電伝虫を手に持っていた。

「お前と話したい人がいるそうだ。私は席を外すからゆっくりしなさい」

 そう言って映像電伝虫をセットすると部屋から出ていってしまった。

 やがて、電伝虫から着信音が鳴った。誰なのかわからねェが多分悪ィやつじゃねェだろう。

 覚悟を決めて電伝虫を取った。それと同時に、映像も出た。


 そこには、あいつが映っていた。






『元気にしておったか?』

『番号教えたからって大目付が海賊のおれに電話してくんじゃねェ!』

『まぁまぁ。……それより、お前がドフラミンゴ海賊団に入る前、手助けしてくれた人はいたか?』

『……それが、どうした』

『お前がそこに入る前後にちょっとした事件があった。詳細は言えないが、珀鉛病の少年を匿った男が少年もろとも立て籠り、爆発を起こしたというものだ。場所はあのときドフラミンゴ海賊団があった場所とかなり近かった。……子供が歩いてもたどり着ける程度には』

『?!』

『少年と首謀者は火事で焼け死んだということになっているが、首謀者と思われる人物は名前を変えて私のもとで働いている。力のない一般人……しかも一生治らない怪我を負っていたし、何よりロシナンテが連れてきたからな。

 ……話をしたいか?』

『お願いだ……話をさせてくれ。

 今さら思い出した……やっと知れたんだ。おれは謝らなきゃならねェ……!』





 人間、本当に驚くと声も出ねェことを初めて知った。

 いやだって目の前にめちゃくちゃ強い海賊がいたら誰だって驚く。しかも相手は……だ。もしかしておれ、今日死ぬの?

 そう思っていたら相手はおれの顔を見るなり顔を歪ませた。

「すまねェ……おれはずっと、あんたを誤解して、忘れて……おれのことを助けてくれたのに……ごめんなさい……」

 そして泣きながら謝られてしまった。どうしよう。本当によくわからなくなってきた。

「その……何でなんか知っていらっしゃい存じ上げてまするの」

「……その話し方なんか懐かしいな」

 涙は流したままだが、フフッと笑った。それで笑われるのはちょっとあれだが、泣かれっぱなしよりはマシだ。

「あんたがまだ生きてて働いてるのは少し前に聞いた。あのとき何をやっていたかは……昔のサイトを見た」

 昔のサイト……そう聞いて思い出すのは匿名掲示板だ。というかそれしかない。つまり、あいつはあれを……。



「――――――!!」

 多分おれは絶叫した。羞恥心とかその他諸々の感情で。

 気づいたときには、あいつはオロオロしてたし、センゴクさんからは『大丈夫か?』と部屋をノックされた。

「いや……大丈夫……ちょっと驚いただけで……本当にすみません……」

 でも許してほしい。誰だってあんなのを見られたら叫ぶ。

「それにしても……知られちまったか。おれは知らなくていいって思ってたんだけどな」

 はっきり言っちまってあれは自己満足だ。だから、幸せならそれでいいと思っていた。

 でも、向こうはそう思ってないらしく、泣きながら思いきり顔をしかめられた。

「そんなこと言わないでくれ。おれは嬉しかったんだ。あのとき、おれを救ってくれた人が生きてたって知れて。もう一人いたけど、その人は……コラさんは死んじまったから」

「……そうだったのか」

「あァ……ドンキホーテ・ロシナンテって言った方がわかりやすいか?」

「その名前は……!」

 驚くと同時にどこか納得した。だから、センゴクさんは話ができるような繋がりを持てたのか。

「おれもさっき聞いた。……あの人からは『命』も『心』も、もらったのに……何もかももらってばかりだ」

 それはおれも同じだ。まさか、助けていたなんて思っても見なかった。

 ……それなのにおれはその人のことを何も知らねェんだな。何だか、それは悲しいし、辛ェわ。

「なァ、教えてくれねェか?その人のこと。おれは……自分が死にかけたとき、その人の知り合いの海兵のところへ運ばれたきりで、ちゃんと話したことが一度もねェんだ」

 そう頼むと頷いて話してくれた。その言葉にはその人への、そしてその人からの愛に溢れていた。


「いい人だな」

 話が終わって一番最初に抱いたのがそれだった。だから素直にそう言うと過去を思い出すように下へ向けていた顔に笑みがうかんでいた。本当に嬉しそうだ。

「あァ、コラさんはおれの大好きな人だ。今までも、これからも。

 ……でも、あんたに会えなかったらコラさんにも会えなかった。それどころかとっくの昔に死んでいた。だから――」

 伏せていた顔を上げ、目を合わせてきた。その顔には涙は浮かんでなかった。

「――ありがとう。あんたのお陰でおれはここにいる」

 そう真剣に、でも笑みをうかべながら告げられた。真っ直ぐに向けられた言葉に胸がつまった。

「……あーあ。ダメだな、おれは」

 ゆらゆらと視界が揺れる。あっという間に何もかもがぼやけてしまった。

「ガキに、あいつに……ローに知られる必要はねェ。ただの自己満足だから幸せなら十分って思ってたのになァ……。

 こうやって、言われたら、嬉しいんだもんなァ」

「……泣き虫」

「い、今の、お前には、言われたくねェ!」

 さっきまでボロボロ泣いてたじゃねェか!

 そう言うとしたのに、しゃくり上げたせいで言えなかった。



「……なァ、一つだけ聞かせてくれ。あそこに書いてあった『アイツとの約束』って何だったんだ?」

 しばらく話したあと、ふと問いかけてきた。あそこっていうのは匿名掲示板だ。……ってことはアレまで見られてたのか。あのときはやけだったけど、今思い出すと結構恥ずかしいな……。

 ……にしても――

「――おれの名前とか今何してるかとかは聞かねェくせにそれは聞くのかよ」

 というかむしろ言おうとしたら『おれは海賊であんたは一般人だ。あんまりお互いのことを知るもんじゃねェ。あ、コラさんは特別な』って言ってきやがった。おれを守るためなのはわかるけどもうちょっと言い方あるだろ。

「約束の内容聞かなきゃ守れるもんも守れねェだろ」

「……あんときから思ってたけど、律儀だよな」

「いいから聞かせろ」

「はいはい」

 ……とはいってもどこから話したものか。約束だけ話しても意味わかんねェよな。

 そういえばあのとき『自分の身の上話したら』って言われたことがあったな。話すほどのもんじゃねェけど、少なくとも理由はわかるか。

 ……よし。

「これは昔の話なんだけどさ……おれ、非加盟国の出身だったんだ」

「そういう話は」

「うるせェ。コラさんが特別ならこの話も特別だ」

 やけになって言っちまったけど、黙ったからいいか。アイツのお陰でおれは今生きてるから特別なのは変わんねェし。

「ま、どこにでもいるようなガキだったんだけど、ダチがいたんだよ。勝ち気で逃げ足が速ェだけの女の子。なのに、おれを守っちまうようなやつでさ……ま、それはいいか。

 約束はソイツとしたんだ。『周りはみんな30歳くらいで死んじまう。それなら、自分達はその倍の60歳まで生きてやろう!それまで生きれたらきっと最後は幸せだぜ!』……ってな」

「その人は今どこにいるんだ?」

「お前と会ったあの国へ戦争中のドサクサに紛れて密入国したときに、おれを軍人から逃がすためにおれと分かれて足止めしてくれたんだよ。

 目が離せないって言った口でお前はもう大丈夫って笑顔で言いやがってさ……ホント、騙されちまったよ」

「……すまねェ」

「そんな気にすることじゃねェよ。それより、わかってくれたか?」

 おれがそう言うと、顎に手を当てて考えこみ始めた。……何だよ、そんな難しい話じゃねェだろう?

「つまり、あんたはおれに60まで生きてほしいってことか」

「そうだよ」

「短ェな」

「はァ?!」

 何言ってんだこいつ?!だって60だぞ!失礼なやつだな!

「おれの故郷じゃ60歳まで生きるのが当たり前で、死ぬのは80とか90歳だったんだ」

 何もなかったらそんなに生きるのか。……そりゃ、短ェって言うわな。

 そう考えてると、手を顎から外し、顔を上げてきた。

「……だから、おれと約束するなら60歳までじゃねェ。90歳まで生きろ。それだけ生きたら、これ以上ねェくらい幸福だろ?」

 そう言いながらあいつは画面越しに手を差しのべてきた。

 そっか。……アイツじゃなくてお前との約束するのか。それは、何だか……めちゃくちゃ嬉しいな。

「……わーったよ。約束してやる。こうなったら90歳まで生きてやる。

 当たり前だけど、お前もだからな!理由とか意味とか抜きに、生きてるってだけで幸せになれるやつがここにはいるんだからな!!」

「……そうだな、わかった」

 何目ェ見開いてるんだよ。約束なんだから当たり前だろうが。

 そう思いながら、おれも手を差しのべた。握手はできねェから、画面越しに手を合わせた。





「センゴクさん、話は終わったよ。

 ……今度、ロシナンテさんのこと話してくれよ。思い出の共有はできなくても、聞くことくらいはできるからさ」

「そうか……聞いてくれるか……!」

「あァ、あと……頼みがあるんだ」





 今日届いた新聞を見る。そこにはあいつの記事がデカデカと載っていた。

「にしても、30……30億か」

 おれには妙に縁のある数字だ。

 そう思いながら、左手の指を右手で内側に曲げた。そこには『LIFE』の文字があった。

 あいつ話し終わったあと、センゴクさんに頼んで入れてもらった。あんまりいい顔はされなかったけど、最後は納得してくれた。


 画面の向こうに、彼はいた。

 そしておれ達は生きる約束をした。

 向こうは故郷の寿命分。おれは故郷の寿命の三倍分。

 これはその誓いだ。

 約束通り生きるという覚悟。

 四文字だけど、小指が欠けたおれにはピッタリだ。


 おれはその証に向かって笑いかけ、立ち上がった。

「よーし、生きるぞ!」

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