画面の向こうに

画面の向こうに


もしローが事実を知れたら……というifです

あんまり幸せじゃない

スレ主のレスをいくつか引用しています。不味いようでしたら消します。





 きっかけは些細なことだ。調べものをしようと検索していた、それだけだった。

 目的のものがなかなか見つからず、もっと探そうと更新し続けた先でその画像を見つけたときは思わず声を上げそうになった。

 画面に映っているのは帽子をかぶったボロボロの少年だった。

 その少年はフレバンスから逃げ出したかつてのおれに違いなかった。

 動揺しながらもいつ撮られたのかとかつての記憶を探る。思い当たったのはドフラミンゴ海賊団へ向かう前、フレバンスから逃げ出したばかりの頃のことだった。

 あのとき、死体に紛れながら運ばれ終わったのを感じたおれは、どこかへたどり着いたのだと思い、何とか這い出て逃げ出そうとした。這い出しながら見えたのは、死体を何かしら処理するためだと思われる施設と男の人だった。

 飢餓と疲労、そして何より大人の人への恐怖で動けなくなったおれを、その男の人は理由はわからねェがその場所から彼の家と思わしき場所へ連れ出してくれた。そして風呂や食事を用意してくれた。

 最初は警戒して何もかも拒んでいた。だが、彼はおれの嫌がることはしなかったし、怪我の手当てをしようとしてくれていた。それに大事な帽子をとっておいてくれたし、洗うときは手伝ってくれた。だから、少しだけありがたく感じて、何か返したくて、言い訳をしながら掃除をしていたことを覚えている。

 あのまま何もなかったらおれはあそこで最期を迎えていたかもしれねェ。そう思うくれェには悪くねェ時間があった。

 だが――

『ホワイトモンスターだなんて知らなかった!気持ちわりぃ!消え失せろ!』

 ――倒れたおれのために医者を呼んだあと、どこかへ出かけた彼は帰るなりおれに爆弾を押し付けそう言った。

 そのときおれは悟った。どんなに優しい人でも珀鉛病だわかれば虐げるのが普通なのだと。……何も知らねェ人がホワイトモンスターを駆除しようとするのは当たり前なのだと。

 そのあとはあっけなかった。いつの間にかまた彼が部屋から出ていったことに気づくと、おれは爆弾と帽子を持って戻ってくる前にあの人の家を出た。

 あそこはおれの家じゃねェ。あんな風に言われたら出ていく他なかった。それに……また何か言われるのが少し恐ろしかった。

 そのあとおれはドフラミンゴ海賊団に渡された爆弾を巻き付けて突撃し、全てを壊そうとしていた。そして自分のことで必死だったうちにあれよあれよとコラさんに連れられてあの街を出ていた。だから、彼が何をしているのかはおろか消息も知らなかった。

 はっきり言ってショックだった。今まで記憶の底にしまってしまう程度には。色々と知った今なら仕方ねェと思えるが、あのときのおれにとって初めて優しくしてくれた人だったのだ。

 ただ、あくまでしまっていただけのようで、今回のようにきっかけがあれば色々と思い出せた。確かあのとき何度か写真を撮る音が聞こえた……というより正面から撮られたことがあったはずだ。それに映っている服も帽子も汚れた状態の……逃げ出したばかりの頃と同じだった。これはあのとき撮られた写真で違いねェだろう。

 問題は何故こんなものがここで見つかったか、だ。幸いにも、この画像がある場所へのリンクは繋がっていた。

 いい予感はしねェが、ここで引き下がるのも癪だ。少し呼吸を整えて、画像が貼られていたサイトへ繋げた。



 画像があったのは随分と古いサイトだった。そのサイトが残っていたのはかなりの幸運だったと言えるだろう。

 どうにもそのサイトは本名を明かさず話をする場所のようで、一番上にはおれの写真と共にどうするか相談する旨が載っていた。もっと達の悪ィ場所に載せられていると思っていたから安心した。

 これで終わりにしても良かったが、ワノ国に到着するまでおれには時間の余裕があった。コラさんの本懐を遂げた今、昔を振り返ってみるのも悪くねェ。そう思って相談の続きを読むことにした。


 あの相談すぐ下には『珀鉛病』を疑う声があり、それ否定する声とまだ疑う声があった。鼓動が速くなっていく胸を抑えながら読み進めていくと、すぐにその話はなくなり、連れて帰ったおれをどう扱うかという内容になっていった。話の流れにどこか安心しながらまた見ていたが、次に出てきた画像に思わず目を見開いた。

 そこには明らかに弱っている人間には出すべきじゃねェ鶏肉の写真があった。

 他の人が言っていたことを無視したのかと思っていたらそうでもなかった。どうやら出かけている間に話が進んでいたため、その内容を知らなかっただけのようだった。それに気づいた彼はすぐに買い直していた。

 ……あのとき、どこかちぐはぐな料理並んでいたのはそういうことか。まァ、おれがいらねェつったせいで全部彼が食っていたが。

 そのことを思い出していたらこのサイトにも同じことが載せられていてつい笑ってしまった。


 口元に笑みを残したまま読み進めていくと、わかったことがあった。

 怯えたときにオロオロしながらもそっとしてくれたと思ったらおれのことを根掘り葉掘り聞いてくる。

 治療道具をきちんと用意できたくせにその扱い方は知らねェ。

 急に腕を引っ張ったくせに自分が何をかをするときに許可を取ってくる。

 あのときのおれの扱いにはどこかちぐはぐなところがあった。それはここで相談しながら試行錯誤していたからだった。

 彼も彼なりに考えていたのだろうが、知識がねェもんはどうしようもねェ。話していくうちにそれを周りの人も理解していったらしく、そのことを揶揄する人はいなかった。まァ、ショタコンだの何だのとからかわれてはいたが。

 ……正直に言うと、いきなり写真を撮ることに対して不信感はあった。もっとも、知識がなかったからペドの疑惑は持ち合わせてなかったが、どんな理由があるかわからず疑っていたはずだ。その理由が今になってわかるとは……。幸いにも写真を保存するなと呼びかけの影響か、大きく拡散はされてねェようだった。少なくともコラさんと旅をしていたときにこの写真で指名手配をされることはなかった。

 薄々わかってはいたが、ここで話していた人達は自分のことを案じてくれた良い人ばかりだった。しかも、あの帽子が捨てられなかった一助を担っていたのは彼らだった。それを知れて、くすぐったさと切なさがない交ぜになった思いが胸の中にわいていた。

 その思いを抱きながら、このサイトに貼られていた続きと思われるサイトを読み進めていくと、ある発言でつい読む手を止めてしまった。

 そこには死体洗いの仕事の依頼が海軍によるものなのか疑う内容が書いてあった。



 続きを読み始めていたときに感じていたことは帽子を渡してくれたことと綺麗にするためのアドバイスへの感謝だった。

 あのときの自分がやったことがあるのは自分の部屋の片付けだけで、洗濯について知っていたことはせいぜい水洗いは縮むということくらいだった。だから、あのとき彼が道具を渡してくれず、また何も教えてくれなかったらあんなに綺麗にはなってなかったかもしれねェ。

 あのときの自分も同じようなことを考えていて、感謝すべきだと思っていた。あの部屋を片付けたのはこれがきっかけだった。

 そのことを思い出しながら読んでいたときに目に入ったのがあの内容だった。それを呼んだ瞬間、冷や汗が背中を伝っていった。

 自分のことについて鋭い指摘がいくつかあってヒヤリとしたがここまでのものはなかった。しかも、反応を見て世界政府が関わっていると言い当てていた。

 フレバンスは世界政府のせいで滅んだ。その死体の処理だってそこが行うはずだ。つまり、そいつの言ったことはあながち間違っちゃいねェ。

 それより問題はそいつが一体何者なのかということだ。そんなことわかるわけがねェと思っていたが、そのあと載せられた内容でふと思いついてしまった。

 この人は両親の友人だったのではないか、と。

 とうさまなのか、かあさまなのか、あるいはその両方なのか……そこまではわからねェがもしそうなら『親に似て医学にも長けてる』というやけに具体的な発言に納得がいく。そして何より……帽子のことだ。今使っている帽子にそっと手を乗せた。

 あのとき被っていた帽子はおれの誕生日に贈られたものだった。誕生日に同じ帽子を贈られる人なんざそうそういねェ。だからやっぱり、そういうことなのだろう。

 両親の友人であろう人がどんな人なのか少しでも知りたかった。だが、もうその人が何かを発言することはなく、それが少し残念だった。

 その代わり……にはならねェが、彼が挙動不審になっていた理由がわかった。聞けば単純で、緊張していただけの話ようだった。

 あと、彼がかなり抜けているところがあることもわかった。何故カビたパンを食った。そして味わった。

 まァ……それはいいか。ここで話していた人達も色々と言っていたし。それよりも、このあとは確か、おれが吐いて、それから……。

 呼吸が速くなっていくのを感じる。胸の前で思わず拳を握りしめた。

 このあと何が起こるかは知ってるじゃねェか。それを確かめるだけだ。

 自分の中で言い聞かせながら深呼吸をして、また読み始める。予想通り、そこに書かれていたのはおれが吐いたことだった。

 ただ、そこにはおれが思っていたことと違ェ部分があった。

 一つはその内容が一日時間が経ってから書かれていたこと。

 もう一つは――

『なあ……お前らはさ……世間一般じゃ正しいことで、でも、本当は全然正しくないことをしないといけないとき、どうする?』

『逆に、普通なら悪ってされるけど、本当は正しいことをして、それで、たとえば

これは本当に例えば、なんだけど……………もし、それをすれば死ぬかもしれなかったら……お前らは、どうする?』

 ――あの人がそんな内容を書いていたことだ。


 この順番が逆だったら話は簡単だった。おれを追い出すかどうか悩んでいたというだけだ。だが実際は違ェ。この順番だとまるで……いや、推測で話をするのはよそう。

 頭をふってまた読み進めるとすぐに話は終わっていた。その代わり存在したのはまた続きと思われるサイトが貼られていた。

 ゴクリと唾を飲む。ここまで来て引き返すなんて考えられなかった。

 大きく息を吸って、続きを読み始めた。



 始めに書かれてあったのは彼の身を案じる声と経緯の説明を求める声だった。

 当たり前だ。いきなりあんなことが書かれてあったら誰だって心配する。

 それに対して、あの人は経緯の説明ばかりをしていた。その口調は段々荒くなっていった。

 一体どういうことだ?確かに顎を殴ったり噛みついたりしたがそれでもあのときのおれは子供だ。出ていかせようと思えば力ずくで……ちから、ずく……?

 ……そうだ。あのときのおれは力ずくで部屋から追い出せた。なのに何でそうしなかった?何で罵っただけなんだ?何で……爆弾なんか押し付けたんだ?

 理由が載ってねェかと続きを目で追っていく。じっくり見てェのにそれができねェ。

 急ぎながら見ていくと、探していた内容が……おれを追い出そうとしたときに関連する内容が見つかった。

『出てってくれてると思う

まあ、あれで出てかないような奴じゃねェ!

あのガキンチョ、頭いいからな』

 そこにはあのときの言葉のような嫌悪は一切存在しなかった。

 これが本当なら……いや、多分こっちが本心だ。

 つまり、彼はおれをわざと追い出そうとしていた、ということだ。


 何でそんなことをしたんだ?何を彼は知っていたんだ?疑問がぐるぐると頭をめぐっていく。

 何とか答えを見出だしたくて、今までの会話を見直していく。見逃していた疑念が見つかって、確信めいたものがどんどん大きくなっていく。

 最初に珀鉛病の疑いがあったときに何故確認しなかった?恐れるならすぐに確認するはずだ。

 世界政府から仕事を受けたとき何も聞いちゃねェのか?いや、『情報が間違っている』と書いてあるなら何か聞いているはずだ。

 そもそも……おれの周りにあった死体を見てねェのか?おれが紛れ込んだのはフレバンスの……故郷の人達だったのに。

 珀鉛病は見ればすぐにわかる病気だ。吐いたあと、服を着替えさせてくれたときにでも知ったのかと思ったが……もしそうならその時点で何かするはずだ。わざわざ着替えさせて、布団で寝かせて、医者まで呼ぶ理由がねェ。

 難しく考える必要はねェ。ただ前提をひっくり返すだけだ。

 それらが示す答えは一つだ。


 あの人はおれが珀鉛病なのを知ったいた。

 そして、珀鉛病の真実を多少なりとも知っていた。


 そのことに気づいた瞬間、頭が真っ白になった。



 どれだけ画面の前で硬直していたのだろうか。我に返り、震えながら続きを読み始めた。

 あのときの彼は何か覚悟を決めていたと話していた。言い訳をしながらも、何かしようとしていることは変わらなかった。

 画面が段々と滲んでくる。溢れそうになるのを必死で抑えて読み進めていく。

『おまえらも、ガキも、いきれよ!!

いまはくそみてぇな世界だけどよ、きっと生きてたらいいことあるから!

生きて生きて生ききれよ!!おれからのさいごのおねがい、いや、命令なこれ!!

やくそくだかんな!!』

 でも、その言葉を見ると我慢なんてできなかった。


 涙がとめどなく流れていく。それを抑えようとする気も失せてしまった。

「ごめん、なさい……」

 思わず口からもれてしまった謝罪は何に向けてなのだろうか。

 勘違いをしていたことだろうか。

 忘れたいたことだろうか。

 それとも……ただ出会っただけのおれの命を救ってくれたことに気づけなかったことだろうか。

 彼のことを知ろうとしても手がかりは何もなかった。居場所はおろか、名前すら知らなかった。

 それに……。

 彼が最期に残した言葉をそっとなぞる。その言葉は途中で途切れてしまっていた。

 もうおれは助けてくれた恩人に謝罪も、感謝も、……生きているということも伝えられなかった。

「ごめんなさい……!」

 もう一度告げた言葉は、誰にも届かなかった。

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