平子と藍染…宿命の再会!
髪の毛ネタではない死神図鑑「ハァ・・・」
「どうしたんですか平子隊長、いきなりため息なんて」
「男ができへん」
「随分ストレートに来ましたね」
平子にお茶を差し出した副官──藍染惣右介は驚きと戸惑いを含んだ顔を浮かべた。
「恋人の一人もできへんちゅうのはな、かなり切実で不安なんや」
平子はわざとらしいため息をつきながら、受け取ったお茶を啜る。
「とにかく男の一人や二人、作っておこうと思って」
「二人は駄目でしょう」
空になった湯呑みを机に置き、再びため息。
藍染は気の毒そうに苦笑いを浮かべた後、お茶請けにと持ってきた団子を平子に手渡した。
「この前いい感じの人がいると仰ってませんでしたか?」
団子を口に運ぶ。食べ切って、漸く返した言葉は
「やっぱ俺より弱い奴はちょっと」
「それは余りに酷じゃありませんか?大抵の死神は隊長に敵いませんよ」
そう。彼女は五番隊隊長、平子真子。
護廷十三隊に於ける階級とは戦闘能力で決められており、隊長とはそう簡単になれるものではない。
その女隊長が、自分より弱い男は嫌だと言っているのである。
「まあ、仮に付き合ったとしても男を立てる平子隊長、想像出来ませんね」
「どう言う意味や惣右介ェ、俺かて惚れたヤツにならとことん尽くしたるわ」
部下のあんまりな物言いに、平子は顔を突っ伏してしまう。
「現実的に考えてませんか?相手がいないなら妥協案を考えた方がいいですよ」
「妥協案?」
「そう、例えば犬を飼って気を紛らわすとか」
藍染の提案に、平子は僅かに眉を寄せる。
「犬飼いなァ」
「可愛いですよ、きっと隊長の寂しさも紛れるはずです」
藍染は人当たりのいい笑顔を浮かべながら平子の顔を覗き込む。
「わん」
とても低くいい声で犬の鳴き真似をした藍染を数秒見つめ、平子は差し出された煎餅を摘んでから頭を撫でてやる。
そしてそれを口に放り込み、バリバリと咀嚼し終えてから、思いついたように声をあげた。
「アカン、犬は周りにベタすぎる女やと思われそうで嫌や」
「それを面と向かって言うのは猿柿くんぐらいしかいませんよ」
「『五番隊の隊長って犬飼ってるんですって、そこはベタなんだねー』って影で言われるんや」
「隊長のプライベートに興味を持つ死神がいるとは思いません。必要なら手配しますが」
結局、何を妥協するつもりなのか。
藍染は平子に話の続きを促した。
平子は藍染を見つめ、少し考えた後、手を叩いた。
軽快な音が響く。
「今は飼い犬いらんな」
「おや、何故ですか?」
「そばには腹にイチモツ抱えてそうな小狐と狸、ちょっと歩けば猿がおる」
平子の発言に、藍染は少し困ったように苦笑いを浮かべて"やる"。
「僕はタヌキ…ですか。隊長は相変わらず手厳しい」
ならば、隊長は……と呟きながら平子を見つめる。
藍染の視線に気が付き、平子は「なんや」と首を傾げる。その間の抜けた姿に、思わず笑ってしまった。
これでこの『藍染惣右介』の危険性を理解し、副官に置いているのだから、世の中は本当に面白い。
笑いを堪えながら、藍染は口を開いた。笑いながら言葉を添える。
「隊長は猫ですね、お年頃を迎えつつある雌猫」
猫のように自由で中々思い通りにならない女、という理由は呑み込んでやった。
「……………ニャァン?」