"家族"にて

"家族"にて


前作https://telegra.ph/%E5%8F%8D%E9%80%86%E7%AB%9C%E3%81%AB%E3%81%A6-09-27



〜〜


「サボ〜〜〜〜!!!」

「わぷ!」

先にサボに抱きついたのはルフィだった。

わんわんと泣きながらしがみつくルフィを前に、サボも息苦しそうにしている。

「嘘…ほんとに、あのサボなの…?」

私も、ギリギリのところで泣くのを堪えていた。

サボは幼少のとき、天竜人に撃たれて海に沈んだ。

ずっとそう思っていた。

「ああ、おれだ…!二人共、本当に無事で良かった…!」

なんとかルフィの締め付けを緩めつつそう答えるサボに、いよいよ涙が溢れてしまう。

「生きてたんだ…良かった…!!」

まさか、こんなところで死んでいたはずのサボと再会できるなんて思っていなかった。

「…もう、生きてるなら何かしら連絡でもくれればよかったのに」

「あ…それなんだが…」


「サボ君は数か月前まで、記憶がなかったんです」

後ろからの声に振り向くと、そこに若い女性と武道服の魚人がいた。

「コアラ、ハック…グエ!」

「また一人で飛び出して!参謀総長なんだから少しは落ち着き持って!」

顔を出したサボがコアラと呼ばれた彼女にチョップされている。

どうやら親しい…というより、手を焼かされているらしい。

「おいサボ、記憶喪失って…」

「ああ、そうだな…順を追って話すよ」


それから、しばらくサボの説明が続いた。

ドラゴンに助けられ、目が覚めたときには記憶がなかったこと。

家に帰りたくないという一心で革命軍に残ったこと。

参謀総長となり、各地で戦っていたこと。

…そして、数か月前の私達の死亡記事で記憶を取り戻したこと。


「革命軍トップのドラゴンさんと参謀総長のサボ君、まさか二人共ルフィ君の家族だとは思わなかったけど…」

「結果、こうしてなんとか二人を救えた…孫もな。」

「ありがとう、ルフィの友達!」

「おれは友達じゃねェ!」

後ろのローが突っ込む。

「ひとまず、この船は革命軍の保護している島に一度停まる。

そこで三人は降ろすつもりだ。」

そうドラゴンが答える。あまり海軍の目にも入らない島のため、見つかる確率も低いとのことだ。


「……だったら、おれ達はもう離れても問題ないか?麦わら屋?」

「そうだな…サボなら安心できる!ありがとうなトラ男!」

どうやら、ここで彼とはお別れらしい。

「…ねぇ、最後にいい?」

「…なんだ?」

「…今回のこと、本当に感謝してるの。ありがとう。」

彼は紛れもない億越えの海賊だが、私達にとって一生の恩人でもある。

この恩は何があっても確かなものだろう。

「…悪縁も縁だ…せいぜい達者でな。」

そう言い残して、彼は消えた。

きっと今頃船にいるのだろう。


「…良かったのか?もう少しゆっくり話をしても…」

「大丈夫だ、またトラ男とは会える気がする!」

根拠のない自信だが、ルフィの自身は大抵当たるのだ。

…きっと、彼との縁はこの先もまたあるのだろう。


「…さて、島につくのは数日後だろう…ひとまず二人共、まずは休むんだ…コアラ、頼めるか?」

「はい!では二人共、船室に案内します!」

コアラと呼ばれた少女が声をかけてくれる。

この子もゆっくり寝かせてあげたい。ひとまずはお言葉に甘えることにしよう。

そう思い、ルフィとその場を後にした。


〜〜

あの子を寝かせて、しばらく体を休めながら、コアラという少女の話を二人で聞いていた。

驚くべきことに、彼女は元奴隷だったらしい。

その時の彼女の顔に思わずもういいと言ったが、彼女はそれでも話したがった。

その後、あのフィッシャータイガーに救われたこと。

彼らの船によって故郷に帰れたこと…その後知った、恩人の顛末。

彼女が革命軍に入り、魚人空手師範代になるまでの思い出をゆっくりと教えてもらっていた。


「私も…天竜人がまだ怖い。だから、そこからウタさんを救ったルフィ君は尊敬してるんです。」

そう言って彼女は笑った。

革命軍においても、私やルフィはかなり好印象な海兵であったらしい。

敵対している革命軍からも人気だなんてと笑ったら、コアラは苦笑していた。

「確かに立場上敵対はしてますけど、ほんとは…」

そこから先が言われる前に、扉が開けられサボが部屋に入ってくる。

「ルフィ、少しいいか?」

「おう、どうしたサボ?」

「…少し、ドラゴンさんと3人で話したくてな。コアラはウタといてやってくれ。」

「うん、分かった」

子供を撫でていたルフィが立ち上がり、サボとともに部屋を出る。

…何故かその姿を見て不安になってしまい、つい手を伸ばしてしまった。


「…心配すんなウタ。大丈夫だ」

そう言い残して、扉が閉められた。


〜〜


「話ってなんだ、父ちゃん」

先程の部屋に、ルフィとサボが再び訪れる。

部屋の奥で待っていたドラゴンが、口を開いた。


「…革命軍の目的が何かは、親父から聞いているな?」

「うん、じいちゃんからなんとなくは」

少なくとも、祖父は犯罪者である父親を海賊のようには嫌っていなかった。


「…おれ達の目標は、天竜人だ。世界政府加盟国でも、海軍でもない。」

ドラゴンが話を続ける。

「天竜人が落ち、世界を変えれば、お前達の罪も不問となるはずだ…海軍と本格的に戦う意味も我々にはない。」

そこで一度息を付き、ドラゴンが続けた。


「改めて勧誘するぞルフィ…我々と共に、革命軍に来るつもりはないか?」


「おれもドラゴンさんに賛成だルフィ…何より、お前らをそばで守ってやりたい」


ルフィは一度目を閉じた。

彼の見聞色は、二人の感情を確かに感じ取っている。

革命軍としての立場以外…家族として、自分達を心配してくれている。

それが嬉しくもあった。



「ごめん、やっぱり革命軍にはいけねェ」

…それでも、答えは変わらなかった。

「…それは、お前が海兵だからか?」

「うん。戦う理由がなくても、そこは曲げられねェ」

そうルフィが答える。


「……お前は確か、大佐だったなルフィ」

ドラゴンの視線が、鋭さを増す。

「ならば聞かせてくれるか?…お前の『正義』を」

ルフィにドラゴンの視線が刺さる。


問われていた。

世界を敵に回してなお、己が掲げる正義を。

大切な家族を、新しい命を守れる保証がなくとも、

折ることのできないそれを。

革命軍という立場だけではない…父親として、ドラゴンはルフィに問いていた。




「『大切な人が笑える正義』」

…一切の迷いなく、ルフィは答えた。


「…お前らしいな、ルフィ」

サボが小さく笑う。

変わらぬ弟に安堵するかのように肩を揺らすサボに対し、

ドラゴンは視線を緩め、息を吐いた。


「…どうやら意見は曲がらないらしいな…分かった。」

革命軍にルフィを引き込むことはできなかったが、ドラゴンは確かに、新たに父親となった息子の回答に満足していた。

「…わざわざすまなかったな。妻と息子のもとに戻ってやるといい。」

「分かった!…ありがとな、父ちゃん、サボ。」

「弟と妹と甥のためだ、気にするな」

「…もし何かあれば…遠慮なく頼れ。」

「おう!」

そう返事をして、ルフィは部屋に戻っていった。


「…まっすぐに育ったな…あいつは」

「…あんたの息子で、おれ達の弟ですから」

そう言ってサボが笑うのに釣られるように、ドラゴンも笑みを浮かべた。

「…そうだな…………サボ、イワを呼んできてくれ」


〜〜

ルフィの代わりにイワンコフの入ってきた部屋は、先程の家族の空間とは別の、革命軍の空間となっていた。


「ひとまず、これからどうするかね、ドラゴン」

「ああ…世界のうねりは、もはや止められはしないだろう」

王下七武海、クロコダイルの失墜。

天竜人、チャルロス聖への反旗。

…そして、インペルダウン大脱走事件。

ある億越えの女海賊を引き出して新たに王下七武海に加わった

「黒ひげ」によるインペルダウン襲撃。

それに便乗する形となった「道化のバギー」「イワンコフ」の脱走。

立て続けの事件によって、世界の治安は悪化を辿っている。

そしてなにより…


「…それで、白ひげの容態は」

「…やはり、芳しくはないらしい」

…世界最強の海賊、白ひげエドワード・ニューゲート。

長い間海に君臨していた皇帝の命の灯火は、風前となりつつある。

黒ひげによって世界に放たれた囚人達は、次々と白ひげの縄張りにも手を出し…

白ひげ海賊団は、その対処に追われている。

ルフィのもう一人の兄エースもその一人であり…黒ひげ追跡を諦め、ルフィ救出をこちらを託していた。


…白ひげの命は、まもなく尽きるだろう。

そうなれば、世界のうねりは更に加速を見せるだろう。


「…麦わらボーイ達は、どうするつもりなの?」

「革命軍には加わらないそうだ…だが、このまま放置もできん」

混沌に向かう世界で、あの三人を放り出すつもりはない。

「サボ、イワ。お前達の手も借りることになるだろう…頼んだぞ」

「ンーフフ…何を今更」

「分かっています…弟のためですから」


海が荒れる。世界がうねる。

…『新時代』が、訪れようとしていた。


to be continued

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