猫被り
スレ主目次
「ふ───‥」
幽霊が見えるオレンジ髪が特徴の青年──
黒崎一護は先程までここに屯していた不良が逃げ出して行くのを確認するとため息をついて息を整えた。
やり過ぎたとは思わないがこれでもうあの男達はここには近寄らないだろうと他から見れば独り言に聞こえるが一護は気にせずに呟いた。
「こんだけ脅しときゃもう寄り付か「わぁ!」「うおぉッ???!!!!」
が、後ろの少女に意識を向けた瞬間いきなり先程まで無人の場所から一護を驚かせようとした声が響く。
そしてその人物の目論見通り、一護は大きな声を出しながら体を飛び跳ねさせた。
「びっくりした?」
その一護の姿を見て嬉しそうな女性らしい柔らかなソプラノ声を出しながら一護に尋ねてくる。
「誰だっ、」一護は素早く後ろを振り返りその女の正体を見た。
「…璃鷹?」
「気づくの遅いよ」
揺れるウェーブが掛かった癖っ毛の水色の髪。
同じ高校の女子ブラザー服。
それは同級生であり、友達である鳶栖璃鷹だった───
女子高校生がうろつく時間にしては些か遅すぎる。
まだ制服な事を見ても恐らく家には一度も帰らずに居たことが容易に想像ができた。
「お前こんな時間に何やってんだよ危ねえだろ」
「何ってそれは一護もでしょ」
「俺は別に関係な「今時男の人でも危ないものは危ないよ」う…」
少し唸りながら、そして自分もこんな時間に出歩いている癖にこう言うところで優等生を見せてくるので何故か反論できない。
「さっきよくそこらへんに屯ってる人達がこっちの方向に逃げてったからまさかと思った見にきたけど…それに私は一人暮らしだから良いけど一護の家の門限7時だったよね?」
どうやらさっき不良が逃げていって方向に丁度彼女がいたらしい。
そう言えばこの間門限について一護は璃鷹に「日頃は放任主義なのに門限だけは7時って…」と言っていた事を律儀に覚えていてくれたらしい。
それはどうでも良いとしても先程の連中のせいで誤解されるのは流石に不味いと慌てて訂正を入れる。
「こ、今回は俺から仕掛けたけどよ。別にイラついたからやったわけじゃ」
そう言って自身を弁明している一護の肩をポンと叩いて安心させる。
「大丈夫、一護が理由もなしに人を傷つけたりしないのはわかってるから。理由があったんでしょ?もしかして後ろの子が理由?」
───鳶栖璃鷹は自分と同じ幽霊が見える体質だ。
何故発覚したかと言えば一護が他人から見て何もない場所で話しかけているのを彼女に目撃され、何か言い訳を考えていた矢先に「見えるの?それ」と口に出されて言葉が飛んだのは言うまでもない。
入学式から一護を見た目で判断せずに優しく話しかけたり、不良の喧嘩の際には毎回仲裁に入り、注意した後に目の前で一護を侮辱されれば涼しい顔で不良を平手打ちし、また相手が悪ければ例え教師だろうと一護を庇ってくれたのが鳶栖璃鷹だった。
そして不良でなくとも目の前で友達だある一護を悪く言われれば女だろうが男だろうが問い詰めた。
幽霊が見えると発覚する前から仲が良い友達だったがお互いのマイノリティが分かってからは更に仲が良くなったと一護は感じた。
「‥‥お、おう。少し頼まれたからな」
一護がその鳶栖璃鷹の自分に対しての絶対的な信頼感に頬を掻きながらそう伝えた。
そして一護の後ろにいた少女が少し顔を曇らせながら出てきた。
その顔は片目が血に濡れて見えず口や服には血が垂れている。
「ごめんなさいおねいちゃん‥あたしがおにいちゃんにあの人たち追っ払ってって頼んだの」
一護が怒られていると思ったのか声をこわばらせながら言った少女に璃鷹は目線をあわせる為に腰を屈めると少女に向けて声色を優しくさせながら答えた。
「大丈夫だよ、怒ってないから。むしろ一護は良いことをしたと思ってる。貴方もそうでしょ?」
それを聞いた少女は嬉しそうに頷くと一護の後ろから顔を出した。
「うん!」
璃鷹は少女の頭を撫でるとポケットからピンクの可愛らしい包み紙の飴玉を取り出して電柱の下にハンカチを敷いて上にその飴を何個か乗せる。
「今これしかないけど飴、ここに置いとくね」
「わぁ、苺味だ!!」
少女が嬉しそうに声を上げる。それを見た一護は璃鷹に言った。
「良いのか?何かわりぃな」
「別に貰い物だし大丈夫だよ。一護気にしなくて良いから。それより怪我、してないよね?」
「いや貰い物って…」と小声で言ってみたが上げた本人が良いと言っており、また嬉しそうにお供物として置かれている今時のおしゃれな包紙に入った飴に顔を綻ばせて喜んでいる少女にそれを今更伝えるのはどうかと思い辞めた。
「…あ、ぁしてねえよ」
それを聞いて一護の体を見る。一護がそこら辺の不良に負けるとも思っていないだろうが一応の義務のような確認だ。
それが本当だと分かると少し間を置いて一護に「でも」と声をかける。
「どんなに遅くなっても流石に家には一言メールしないと駄目だよ」
こちらを真っ直ぐ見つめてくる目にビクリと体を震わせると一護は頭を掻いた。
「いやでも一応連絡は」
「嘘はよくないよ」
「う、何で毎回分かるんだよ」
それを聞いた一護は嫌な想像が脳裏を掠めた。何故か鳶栖璃鷹はいつもこういった小さな嘘には敏感らしくこの間も一護本人すら知らず服に隠れて見えていなかった小さな傷を見つけ出していた。
「まさかお前親父と知りあ」
「違います。一護は分かりやすいから目を見れば分かるだけだよ」
少し安心したがそれはそれで自分の顔がわかりやす過ぎると言われているようで何とも言えない気持ちになった。
璃鷹は六角形の星の様な装飾がついたブレスレットの様なアクセサリーのチェーンを揺らしながら鞄から携帯を取り出した。素早く時間を確認すると一護に言った。
「ほら、そろそろ帰らないとでしょ?その子に挨拶して帰るよ」
「分かってるって、それじゃあな。新しい花は近いうちに持ってきてやるよ」
少女笑顔で2人を見送ると手を振った。
「‥うん、ありがとうおにいちゃん。これで静かに過ごせるよ。おねいちゃんも飴あがとう。ばいばい」
「どういたしまして、早目に成仏しろよー」
「またね、花を持って来るときは私も一護と一緒に来るよ」
それから2人で進んだ先の分かれ道に遭遇した。しかし2人とも何故か家とは別方向の道に進もうと足を歩かせており一護は疑問に思った。
「あれ、お前ん家ってこっちだったか?」
そうすると何故一護が別方向に進んでいっていたのかが分かり「あぁ」と声を出した。
「一護もそっちは違う道でしょ?送ってくから私のことは気にしなくていいよ」
それを聞いた一護は思わずツッコミを入れそうになる。璃鷹は一人暮らしだからなのか門限がないのでやけに余裕そうにしている。
両親はどうしたのかと聞いたことがあるが近くに住んでるらしくそれ以上は言わなかったので此方もあまり追及はしていない。
「いや普通逆だろ、いいよ俺はもうどうせ間に合わねえし」
「良いの良いの!それに一護を送るのはついでだから。そっちの道に用事があるの」
それを聞いて少し考える。これでもし本当だったら自分は自意識過剰過ぎではないかと思い考えてゆっくりと声を出した。
「‥まあそれなら別にいいけどよ。お前も早く帰れよ」
「分かってるよ、あとあの子の花買う時は連絡して、私も行くから」
「それは、そのつもりだけどよ」
「割り勘でいいよね」と既に何処の花屋にするかの算段をつけている様だ。この手の話は一護より詳しいのでそこは口出しせずに任せようと口をつぐんだ。
「そういえばこの間も憑かれてたんだって?」
「すげぇ大変だった…プライベートガン無視で寝る時顔の付近でじっと見てくる何がしたいのか意味わかんねぇ奴だったんだよ」
「それは災難だったね」と言って一護を労っていたがふと何かを思いついたように璃鷹は話し始めた。
「私もこの間お風呂まで着いてこられたよ、服脱ぐ前に食塩かけたらどっか行ったけど」
「反応に困るから風呂系の話は友達つっても男の前ではやめろよ…つうかアイツら食塩効くのか」
「ふふ、嘘だよ」
そうしてたわいもない、聞く人が居れば疑問に思う話を人が一人もいない道で会話を続ける。そしていると時間は過ぎて行くもので長かった帰路もやがていつのまにか家の近くにまで来ていた。
そうして歩いた先で一護の家が見えると璃鷹は手を振りながら携帯を見た。
「私はここで別れるから、じゃあねまた明日」
「おぉ、またな‥あ、おい!」
それだけ伝えると璃鷹は先程通った道に引き返していく。
それを見るにどうやら気を使わせたらしく「あ、」と一護が声をかける前にスタスタと足を走らせて行くので声をかける間もなく遠ざかっていく。
「あいつ道戻ってたな‥気つかわせたなら明日謝っとくか」
一護はそうして家の扉をガチャリと開けた。