四人の親 in 白い部屋

四人の親 in 白い部屋

https://telegra.ph/藤虎に子供が発生したまとめ-09-24


『貴方たちにはある共通点があります。それを見つけ出し一枠につき一人、当てはまる言葉を記入したときのみこの部屋から出ることができます』

 

・□□□親

・□□□親

・□□□親

・□□□親

 

 

「いったいどういう……」

「オイオイ勘弁してくれっての」

「どうやら厄介事、ってェわけですかい」

「……」

 

白く殺風景な部屋の中。

四人の男は、四方からソファに囲まれたテーブルの上の紙を前に難しい顔を突き合わせていた。

 

「それで……、お前さんらは何も知らんのか?」

 

代表して読み上げた頭の長い──それはもう見上げるほどに──男がソファに背を預け、ため息を吐きつつ三方に座る他の男たちに目を向ける。

 

「おれが知るかよ!出口も開かねェしよ……」

 

無言で立ち上がり部屋の一面に設置された扉を蹴り付けた刺青の目立つ──晒された上半身に色濃く墨が刻まれている──男が苛立ちを隠さずにソファへと戻り足を組んだ。

 

「ふむ……あっしら以外に余人の気配はありやせんね」

 

上等なクッションに身を沈め、和装に身を包んだ盲目らしき──額で交差する大きな十字傷が両の目を横断している──男が泰然とした様相で口を開く。

 

「……」

 

サングラスで目元を隠した派手な格好の──ハートの飛び交うシャツにファーコートを身に纏っている──男が口寂しい様子でポケットから出した手を彷徨わせた。

 

皆が皆、一様に困惑の只中にいることは瞭然だ。

見渡した室内と開かない扉、そして設置されたソファやテーブルとその上の紙などから把握できる現状は少なくとも紙に書かれた内容に従うほか無いように思える。

聡明な頭脳によりそのことをいち早く理解した頭の長い男が改めて声を発した。

 

「ともかく、共通点と言われてもまずはお互いのことを知らんことにはどうしようもないだろう」

「自己紹介ってんならアンタから先にしてくれよ。手長足長やら蛇首なんかは聞いたことあるが、世界にゃ頭長族ってのもいんのか?」

「妙な形のする気配だとは思っていやしたが……まさか本当にそうとは」

 

刺青の男が戸惑いを隠せない表情で遥か天井に届きそうなほどの頭頂部を見上げ、盲目の男が得心のいった顔で頷く。

 

「オッサンやっぱ盲(めくら)か。勿体ねェ、こんな頭そうそう見れるモンじゃねェぜ」

「そりゃ確かに惜しい話だ。……ところで、そちらさんは先程から一言もお発しになってねェようですが」

 

光を持たないにも関わらず、的確に残る一人の方へと顔を向け盲目の男は問いかけた。変わらず沈黙を守ったままのハートの男はしばし逡巡するような仕草の後、紅の引かれた唇の前で両人差し指を交差させる。

 

「聾唖(ろうあ)か? 参ったな、メモでもありゃあ……」

 

刺青の男が言いかけると同時、突然ポンと何かが弾けるような音と共に宙空からメモとペンが現れる。

目を丸くする面々の前でテーブルに着地したそれをおもむろに手に取り、ハートの男は文字を綴ると三人に向けて掲げて見せた。

 

『耳は聞こえてる』

「ふむ、聴唖の方というわけか」

「ってこたァ今出たメモがありゃ一先ずは問題ねェか、ってかどっから出てきたんだよ?」

「私の見立てでは深く考えるだけ無駄だ」

「……指示に従うしかねェってことですかい」

 

ある程度の方針の一致により自己紹介の流れに移ろうとしたとき。ハートの男が新たなメモ用紙に掲げた質問に、刺青の男が目を見開いて頭の長い男を振り返った。

 

『アンタ Dr.ベガパンクか?』

「ベガパンク……って、天才科学者のかよ!?」

「おお、よく知っとるな。お前さん政府関係者か?」

 

質問には答えず、ハートの男は紙を下ろす。

頭の長い男──もといベガパンクは、相対的に小柄な体でえへんと胸を張った。

 

「その通り、私こそがかの天才Dr.ベガパンクだ!」

「〝世界最大の頭脳〟……なるほど、文字通りというわけで」

「たまげたぜ……。悪魔の実かなんかか?」

「うむ。ノミノミのミ゚ッ、……すまん、〝ノミノミの実〟の脳みそ人間だ。知識を蓄えればその分脳が肥大化する」

「舌仕舞えよ。……にしても、脳みそ人間か。ンな悪魔の実もあるんだな」

 

興味深げに頷き、刺青の男は足を組み直すと取り出した紙タバコに火を付け改まった様子で口を開いた。続いて残りの二人も名乗りを上げる。

 

「おれァアラマキ。仕事はまあ、賞金稼ぎみてェなモンだ」

「あっしはイッショウと申しやす。しがない剣客でして……どうぞ、お見知り置きを」

『コラソン ただの旅人だ』

 

簡易的な自己紹介を終え、少しばかり張り詰めた空気が緩んだところで刺青の男──アラマキがしみじみといった様子でベガパンクを見る。その声音にはどこか懐かしむような色が滲んでいた。

 

「まさかこんなとこで天才科学者サマに会うとはな。おれのモリモリが使えたらいろいろ話が聞きてェとこだったが」

 

どういう訳か、悪魔の実の能力が使えねェらしい。

あっけらかんと言ったアラマキの言葉に盲目の男──イッショウが頷いて同意しつつ怪訝な声を発する。

 

「確かにあっしの能力も使えねェようだが……アンタ今なんと、」

「モリモリの実だと!? お前さんアレを食べたのか! いったいどこから手に入れたんだ!?」

 

イッショウの言葉を遮って声を上げたベガパンクがアラマキへと詰め寄る。

突然のことに驚きを隠せず周りを見るも、イッショウは聞きかけた内容と一致したのか口を挟まず、ハートの男──コラソンもまた静観に徹する構えのようだ。

諦めてため息を吐き、アラマキは口を開いた。

 

「どこって言われてもなァ……店先で売ってた果物に紛れてたんだよ。まだ半年経ってねェか? びっくりしたぜ、クソまずいモン食ったと思ったらまさかのモリモリの実だってんだからよ」

「半年前だと? しかしアレは、いや有り得なくもないのか……?」

「なんだってんだまったく……」

 

ブツブツと頭を抱え出したベガパンクを横目に、イッショウが少しばかり混乱した様子で尋ねる。

 

「しかしモリモリの実と言やァもう20年近く能力者が変わってねェと聞きやしたが」

「何言ってんだよオッサン? モリモリの実は5年くらい前までDr.ベガパンクが所有して研究してた実って話だぜ」

「何? いやしかし、私がアレを失ったのは3年ほど前に政府に吸収されたときのことだぞ」

「Dr.ベガパンクは海軍科学班の所属って話じゃねェんですかい?」

「海軍科学班? なんだそれは?」

 

噛み合わないやり取りにやがて会話が途切れる。

各々が何かを察し口を噤んだ中、コラソンがペンを走らせた数枚のメモを掲げた。

 

『時間軸が違う でいいか?』

『ちなみにおれは海円歴15XX年にいた』

 

この中でおそらく一番冷静に物事を捉えているであろうコラソンの出した結論に、三人は各々がソファに体重を預け改めて事態の異常さを噛み締めた。

 

「15XX年……なるほどな、原理は不明だがどうやら我々は全員が別の時代から集められたらしい」

「いやンなこと簡単に信じられるかってんだよ! せめてなんか直近で起きたデカい出来事でも言ってもらわねェことにはよ……」

「そこまで言うならまずアンタから話してみやせんか?」

 

言い募ろうとした言葉に正論を被せられアラマキは思わず口ごもる。

そうして数瞬の葛藤を経て、理解できない状況への苛立ちをぶつけるようにどこからか現れた灰皿にタバコを押し付けると口を動かした。

 

「クソっ、分かったよ! おれの記憶が正しけりゃ今はちょうど15XX年のはずだ。最近の出来事ってェと……ああ、去年西の海のオハラが滅亡したっけな」

「なんだと、オハラが!?」

「……気持ちは分かりやすが、今は続けやしょう」

「しかし……いや、それもそうか。私は海円歴14XX年の時間に生きている。最近の大きい出来事と言えばやはり去年行われた海賊王の処刑だろうな」

「てことはおれとは3年違いか……」

「……どうやらあっしが一番先の時間にいるようだ。15XX年、直近の大事件と言や戦争──あいや、司法の島エニエス・ロビーが壊滅した事件は世間を揺るがせていやした」

「なんか聞き捨てならねェ言葉が聞こえた気はするが、それより司法の島壊滅ってのはどういうこった!?」

「さあ……あっしにはなんとも。そちらさんはどうですかい?」

『マリージョア奴隷解放事件 一昨年のことだ』

「ちょっと待て。もしかしてさっきから知ったらマズイこと知らされてねェか?」

「マリージョア奴隷解放だと? すまんが詳しく」

「ああ、ありゃあ確か13年前の話になりやすかね……」

「やめろやめろ、聞きたかねェよ! おれァまだ平和に生きてェんだ!」

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