呼んでしまう人

呼んでしまう人


止める人のIFコラさん視点

恐らく大分蛇足なのと、IFコラさんの能力に少しだけ独自の設定を入れています


波と泡の音が心地よい海の中で、その男は海面を見つめていた

黄色い潜水艦から少しだけ見える人物に優しげな笑みを向けていた


「いつも俺の所のローに良くしてくれてありがとうな」


そう呟いたのは、一体どんなドジを踏んだ経緯があるのか分からないが、海の悪魔となった別世界のコラさんだった

紆余曲折あって別世界からこちらの世界に逃げる事が出来たトラファルガー・ローに無理に付いて来た彼は、向こうのローを看病してくれているこちらのローに心から感謝している


今の彼には相手の名前を呼び、その声を聞いた者を海へと誘ってしまうという力がある

1度目で幻覚、2度目で海へと引っ張る

その力のせいでいつも向こうの世界のローを海へと落としてしまっている事に頭を抱えていた


「ナギナギの力があった時は気にせず好き勝手話せたんだけどなァ」


腕を組みながら眉間に皺を寄せ、軽い愚痴をこぼす

こちらの世界のローが船内に戻るらしく、寄り掛かっていた柵から離れる姿が見えた


「いつかどんな形でも良いから、お前にも礼が出来れば良いんだけどな。本当にありがとうな、ロー!」


『コラさん?』


キィィンと高い音と共に聞こえてきたのは、こちらの世界のローの声だった

今まで自分と同じ世界のローにしか聞こえていなかった声が、どんな偶然かこちらのローにも聞こえてしまったのだと瞬時に悟った


「あ!!いや違うんだ!!ローちょっと待ってくれ!!」


『コラさん!何だよ、そんなとこで何してんだよ?』


「だぁあああ!!ドジった!!また呼んじまった!!」


慌てて何とかしようとするが、今の自分に出来る事など悪魔として人を海へ落とすか、波を立てるかぐらいだった


『そっち行けば良いのか?まったくしょうがねェなコラさんは!』


「待て!来るな!!」


どうしてこうなってしまうのか

傷つけたくない、ましてや能力者を海に落とすなんてどうかんがえても殺しにかかっている

そんな事をしたいだなんて微塵も思わない

いつも心配して掛けた言葉が、愛した子を殺そうとしてしまう

今回だって単純にお礼が言いたかっただけ

情けなくて悔しくて、ボロボロと零れる涙は泡となって海面へと登り、弾けて消えていく

向こうのローと違い、健康体のこちらのローは早い段階で柵に足を掛けた


「頼む!!止めろ!!止めてくれ!!」


そう叫んだ時、ピタリとこちらのローが動きを止めたのが見えた。そしてそれと同時に聞き馴染みのある声が聞こえた


「ロー、行くな。戻って来い」


自分とまったく同じ声

その声でこちらのローは掛けていた足を柵から降ろして甲板へと戻って行った

安堵から大きく息を吐くと、背後に気配を感じた


「おーまーえーなァ!!!」


振り返るとそこには全く同じ姿形の人物、こちらの世界のコラさんが凄まじい形相で睨んでいた

悪魔の力に魅了された今の状態のローが認識出来たおかげで、こちらのコラさんが間一髪止める事が出来た様子だった


「馬鹿野郎!!今あいつ一人だったんだぞ!!下手すりゃ死んでたぞ!!!」

「いやもう本当にすまねェ!!でもまさか聞こえるなんて思ってなかったんだよ!!」

「俺も思ってなかったわ!!あ、でもお陰でローと一瞬会えたんだ!ありがとうな!」


ブイサインを作って笑うこちらのコラさんに、向こうのコラさんは何度も何度も謝った

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