君へ素敵な贈り物を
隠し事許さない系IFミンゴの、こんな事もあったりしたかなと思った結果のちょっとした話
IFミンゴが大分気持ち悪い、パッと見だけなら問題無いけど内情を知っていたら大分気持ち悪い事してる
ごそりと何かが動く感覚がしてドフラミンゴは目を覚ました。眠りの浅い彼は部屋に誰かが出入りするだけで目を覚ます。抱きしめて寝ていたローが抜け出せば一発だ
ベッドから降りたローの足取りはフラフラと覚束ない。アキレス腱が傷付いているというのもあるだろうが、そもそも起きているのかも怪しい。というより起きていないのだ
少し前から夢遊病を発症し、鳥籠の中に居る時は格子の外へ出ようとし、添い寝をさせて抱き締めて寝る時はフラフラと部屋の中を歩き回る
基本的に連れ戻して抱き枕にすれば最初は抜け出そうとするが、結局は諦めて眠りにつく
焦る必要が無い為、ドフラミンゴは体を起こしてローを眺めた
虚ろな瞳で、覚束ない足取りで、1本しかない腕を伸ばしてまるで何かを探しているように歩き回る
その内部屋の扉へ辿り着くとローは出て行こうとドアノブに触れるが、鍵をかけている為開かない
「ぁ…あー……」
しかし意識が無い今、鍵が認識出来ないローはただ動かないドアノブを捻る以上の事は出来ない
扉の前に座り込むとそろそろ連れ戻すかとドフラミンゴはベッドから降りた
ローへ近付くとローは無い爪で扉を引っ搔き始めた
「…や、だぁ……あ…かえる……あいつらの、とこ……」
か細く消え入りそうな声でそう言うのが聞こえた
「かえる…かえ、りたい……おれの…おれ、たちの……いえに……あい、つ、らの…とこ……かえ、る……もど、ら、ないと……おれの……たから、もの……」
扉を開けようと指で引っ掻きながら呟き続ける
ドフラミンゴがすぐ後ろまで来るとローは1度振り返る。その表情は恐怖に満ちていて、意識は無いのだろうがドフラミンゴと目が合った瞬間に涙が溢れて零れた
再び扉を見れば、先程と比べても明らかに必死に扉を引っ掻く
「いやっ、やだぁ……あけて、たすけて……かえる…かえらせて……かえ…かえ、して……かえし、て……おれ、おれの……たからもの……たすけて…だれか……」
爪が剥がされているせいですぐに血が滲み出てくる。それもでローは必死に扉を引っ掻き続けた
「だれか…たすけて……だれ…か……だれ………コラさん……」
「!」
「コラさん…コラさん………たすけて、コラさん……ころされないって、いってたのに……となりまちで、おちあおうって……いって、たのに……びょうき、なおったら…せかいじゅう、たび、しようって……いって…くれた、じゃんかぁ……」
泣きながら、もうこの世に居ない相手に助けを求めるその姿に苛立ちを覚えて、血だらけになっている左手を掴み、引き倒して顎を掴んだ
「ロー、あァお前は本当に愚かでどうしようもねェなァ?コラソンはもういない。それに俺のものであるお前の体を傷付けて…おいロー起きろ」
ローの頬を何度か叩けば、虚ろで焦点の合わなかった瞳がはっきりとドフラミンゴを映した
「………ぁ、え?ドフ……」
「ロー、お前どうやらまだ躾が必要みたいだな?」
そう言って掴んだままの左手をローの目の前に持っていけば、何故血だらけになっているのか理解出来ず、ローは何度も自分の左手とドフラミンゴの顔を交互に見る
チラと視線が扉に向けば、そこには血の跡
何となく自分がここを引っ掻いて、爪が無いせいで簡単に出血したのだと理解した
「ッ…あ、ごめ、なさ……」
「まァ扉を引っ掻いたのは夢遊病のせいだ、そっちは軽めの仕置きで許してやる。だが、俺を恐れて、その上コラソンに助けを求めるたぁ良い度胸だな?」
「え?なに、なん……いや、しらな……ご、ごめ…ごめんなさい……」
「…………そうだなァ、少し興味が湧く話をしていたな。ロー、お前コラソンと世界中を旅する約束なんかしていたのか」
「……え?なんで、それ……」
自分は言った覚えのない話をされて困惑するローを抱き上げる
「俺も鬼じゃねェ。お前が俺の質問に何でも答えるのなら許してやっても良い」
「しつもん?」
「ファミリーから離れてコラソンと行動していた時の事を、余す事なく全て教えろ。どんな会話をしたのかもな」
「……コラさん、との……」
先程までの怒りに満ちた表情から一変して穏やかな表情を浮かべている。しかしそれが逆に恐ろしい
何かを、確実に良からぬ事を企んでいると直観が言う
「ど、どうして……?」
「可笑しな事を聞くな、愛しい弟達がどんな話をしていたのか兄として気になるだけだ」
今まで「コラさん」というだけで激怒していた男がそんな事を本気で考えるのか、いや考える訳がない。そうすぐに察したローだったが拒否権なんて物は最初から存在していない。しているのなら自分は今ここにはいない
「……コラさんに、つれだされて、さいしょは……」
だからローは語った。言われた通り余す事なく、どの国で、どんな場所で、そしてどんな話をしたのか、1つ1つ思い出しながら
そして最後、ミニオン島での別れまで話せば、ドフラミンゴは満足した様子でローの頭を撫でた
「ありがとうなロー、お陰であいつの事が分かったよ」
「そ、そう……よかった……」
「礼と言っちゃあ何だがプレゼントを用意してやるよ。フッフッフ、起きた時すぐに渡せるように容易してやる」
「?」
お礼、プレゼント。それがクルーの遺品ではないかとほんの少しだけ期待してしまう。だがそれを口に出してしまえば、実際にそうだった場合ドフラミンゴの気が変わってしまうかもしれないと思いキュッと口を閉じた。
左手の処置をされて、よく眠れるようにと睡眠薬を飲まされローは眠りについた
「ロー、ロー?ほら起きろよ、もう朝だぞ?」
声が聞こえて意識が浮上した
(ドフィ…じゃない……だれのこえ…このこえ…………)
微睡む意識の中で過去の記憶を掘り起こしたその瞬間、一気に眠気が吹き飛びローは目を見開いた
「ロー!おはよう!」
「コラさん……?」
柔らかな金髪に臙脂色のコイフ、ピエロのようなメイクと、黒いフェザーコート。それに煙草のにおい。
「な、なん…コラさ……どうして……」
「ずっと迎えに行きたかったんだけど、中々難しくてさ。遅くなって悪かった」
申し訳なさそうにはにかむその姿にローは涙が溢れていた。
(ゆめ?ぜんぶ、ぜんぶゆめだった?コラさん、ほんとうはいきて……)
だとすれば、今までの事はきっと全て悪い夢だったのだ。大好きな恩人は生きていて、宝物のような仲間達も元気にしている。かつての同盟相手も航海を続けている
「ロー?」
「……コラさん」
「どうした?大丈夫か?」
「おれ、おれこわいゆめをみてたんだ……」
「そうか…でももう大丈夫だからな!コラさんが守ってやるから!」
そう言ってコラソンが抱き締めてきた瞬間、ローは目を見開いた
(あ……あァ……ちがう、コラさんじゃない……!)
抱き締めるその腕から、触れる体からは、何の温度も感じられない
死体とも違う、そもそも生き物のそれではない無機物の冷たさ
ローは咄嗟にコラソンを突き飛ばすとベッドから降りて、必死に足を動かして部屋の扉に手を伸ばした
しかしそれよりも早く後ろに引っ張られると、コラソンに抱き締められた
「ロー、何で突き飛ばすんだよ。今まで会えなかった事怒ってんのか?悪かったよ、だから……」
「ちがう!!コラさんじゃない!!おまえはコラさんじゃ!!」
「随分な言い方じゃねェか?ロー?」
声が聞こえると同時に扉が開けば、そこに立っていたのはドフラミンゴ
「ッ!!」
息が詰まってその場にへたり込みそうになった。が、コラソンに抱き締められていたのもあってそのまま抱上げられた
「ロー!?おい大丈夫か!?ドフィが急に出てくるから驚いたのか?大丈夫だからな、コラさんが傍にいるから」
「フッフッフ、随分な言い草じゃねェか?」
(あ、れ?)
目の前で、ごく自然に交わされるその会話が、何も知らなければ何も引っかからない会話が、ローにとっては恐怖以外の何物でもなかった
(どうして?何が起きてる?何で普通に話してる?だってコラさんは死んだ。あの日ドフラミンゴが殺した。それなのにどうして、今目の前で二人が揃って、何事も無かったみたいに会話してる?俺が可笑しいのか?それともこれは夢?悪夢の一種?)
グルグルと必死に思考を巡らせて、そうして気付いた
(糸人形……)
今自分の事を抱き上げているコラソンはドフラミンゴが能力で作った糸人形だ
生きている人間でも、死体でも何でもない。だから何の温度もしない
今二人がしている会話だって、何もかもドフラミンゴが望んだ通りの内容で、中身なんて何も伴っていない
その事実に気付いた途端吐き気に襲われて慌てて口を手で押さえた
「ロー!?どうした!?どこか悪いのか!?」
心配した様子で顔を覗き込んでくるコラソンにローは何も言えず、強く瞼を閉じて頭を振った
「そんな状態で大丈夫か?暫く出かけるってのに」
「……でかけ?」
「あァ!本当に遅くなって悪かった、お前の病気が治ったんだ、いろんな場所に行こう!旅って言うより旅行だけど、それでもいろんな場所に行くぞ!」
「ど、して……」
「ん?」
どうして知っているのかと言いかけて昨夜の事を思い出した
(そうだ、俺が、自分で全部話したんだ)
何もかも洗いざらい、言わなければ引き抜かれて忘れてしまうからそれは嫌だと余す事無くドフラミンゴに話した
大切な宝物の1つを人質に取られて、守るべく行動したが結局それをそのまま渡したような物であると今気付いた。気付いていたところで何も出来はしなかっただろうが
「でもローの体調が良くないなら延期した方が良いんじゃねェか?」
「そうだなァ。ローはどうしたい?」
「へ?」
「ローの為の旅行なんだ、ローが決めて良いからな」
優しく笑うコラソンが自分の記憶の中のコラソンと寸分違わない事に眩暈がした
拒否したとしてもドフラミンゴの事だ、最終的には結局三人での旅行は遂行される事は間違いない。ならばもう、すぐに終わらせてしまおう
「だい、いじょうぶ。おれも、ふたりとりょこう、したい……」
ローの言葉にコラソンは花が咲いたような笑顔を浮かべて喜んだ
「はしゃぐのは良いがローを降ろしてからにしろよ?お前じゃドジってローを怪我させかねない」
「うるせェ!大丈夫だよローに関しちゃドジらねェ自身あるから!」
「どうだかな」
旅行へ行く事が決まって少しの間準備でドフラミンゴは忙しくなったが、その分顔を合わせる時間が減り、部屋で1人鳥籠の中で過ごす時間が増えた
(……いや、1人じゃないか)
コラソンの糸人形が常に傍にいた。
ドフラミンゴが動かしていない時は正しくただの人形で、何も喋らず、ただローの入っている鳥籠に寄り掛かっているだけ
最初こそ嫌悪感が酷く、視界にも入れないように目を瞑ってジッと過ごしていたのに、気が付けば段々と愛着が湧いてきていた
(コラさん……)
偽物でもそのコートに顔を埋めながら、懐かしい煙草のにおいを嗅ぐと安心出来た
(懐かしい……)
負ぶっての移動を思い出す
大きな背中は優しくて温かくて、本当に大好きだった
「ん……はーよく寝た。ローおはよう」
「あ、えと、おはよう……」
ここ数日動かなかったコラソンが動き出した。それがどういう事かローはすぐに分かった
ノックも無しに扉が開けばドフラミンゴが部屋に入ってくる
「ロシー、ロー、待たせたな。スケジュール調整が漸く終わった」
「やっとかー待ちくたびれたよ。でもローと旅行かァ、楽しみだな!」
楽し気に笑いかけてくる二人に対してローは無理矢理笑って頷く事しか出来なかった
表向きは死んだ事になっているローは簡易的な変装をさせられて、随分と久しぶりに城の外へ、国の外へ連れ出されれば、あまりの広さと人の多さに目が回る
コラソンに寄り掛かればすぐに気付いて抱き上げてくる
「ロー大丈夫か?人混み酔いでもしたか?」
「体が弱くなっちまったからなァ。ロシー、ローを頼めるか?俺は何か飲み物買ってくる」
「おう任せろ」
二人で残されてローはぼうっと遠くを眺めた
「ロー、大丈夫か?何か欲しいもんあるか?」
「コラさん……」
(違う、コラさんじゃない……こいつは糸人形で、本物のコラさんはあの時……)
確かに自分のせいで死んだんだ
少ししてドフラミンゴが飲み物を買って戻ってくると、ストローに口を付けて少しずつ飲んでいく
「口小せェなァ、デカくなっても小さくて可愛いの変わってねェな」
「そりゃあ俺やロシーから見れば小さいのは仕方ねェだろ」
飲み物を飲みながら何でもない話に耳を傾ける
これは全部ドフラミンゴが1人で満足するための内容で、何も中身の伴っていない会話で、だから聞く必要等無い筈の会話
そもそも本物ではない
気持ちの悪い光景だ
(あァでも……二人共笑ってる……)
何もなかったように、最初からこうだったかのように
それに多少の居心地の良さを感じ始めている自分がいる
そうしていれば、ドフラミンゴは機嫌が良い。それは自分や使用人に機会が加えられることも無いし、クルーの遺品に手を出される事も無い
(本物って、受け入れてしまえば……)
全部受け入れしまえば誰も何も傷付かない
平和に過ごせる
「ロー、もう大丈夫か?そろそろ移動できそうか?」
大好きなコラさんと一緒にいられる
(なら、良いかもしれない……)
受け入れて、望まれるように振る舞えば、いつかきっと遺品も返してもらえるかもしれない
「うん、もうだいじょうぶ。ふたりとも、いこう?」
ローが笑ってそういえば、二人は微笑んでローを連れて歩き出した