不思議な人形
「君へ素敵な贈り物を」を書いてる途中で思い付いた話
↑ので完結で良いよ、蛇足だよって人は読まなくて大丈夫です
「それじゃあお休み、ロー」
「うん、おやすみドフィ」
扉が閉まって部屋の中には鳥籠の中に入れられた俺と、動かない糸人形のコラさんだけ
長い旅行から帰ってきて思い出話を延々と聞かされ、ひたすら話をさせられ、漸く解放されてゆっくり眠れる
格子に寄り掛かる糸人形のコートに顔を埋める
(おちつく……)
懐かしい感触に懐かしいにおい
本物じゃないって事はちゃんと理解してる。でも本物として受け入れて、今ではきっと傍から見た時違和感無く接していると思う
頭を撫でられても、抱き締められても、手を握られても、何も感じられないけれど、でもコラさんがどんな形であれ傍にいるのは純粋に嬉しいと思ってしまう自分がいる
(コラさんがきいたら、おこるかな)
いや、怒るっていうより泣きそうだなあの人、凄い涙腺緩いから
「コラさん…コラさんおやすみなさい」
強く抱き締めてから床に寝転がって目を瞑る
明日以降は何をされるのか、何をやらされるのか分からないけど、多分暫くの間ドフラミンゴは仕事で忙しいから多少落ち着ける筈だ
いつまで続くか分からない束の間の平穏だけど、その一時を本物じゃないとはいえコラさんと過ごせるのはきっと幸せな事だよね?
ねェ、コラさん……
ギっ
ギシッ
ギギッ
(なんの、おと?)
聞き馴染みの無い音が聞こえてふと目を覚ますと、鳥籠の格子に寄り掛かっている糸人形のコラさんが不自然な動きをしていた
それこそ錆びたブリキの人形を無理矢理動かしているような、明らかに嚙み合っていないような動き
ドフラミンゴが動かしている?いや、それならこんな動きになる筈がない。ドフラミンゴが動かすのなら完璧に、人として、コラさんとして動かす筈だ
何が起きているのか分からない恐怖で自然と距離を取る。が、ここは鳥篭の中、移動出来る距離なんてたかがしれている。すぐに背中が反対側の格子にぶつかってそれ以上は離れられなくなる
(なに?なにが、おきて……)
現状を理解出来ず、ただ怯えながら糸人形を見つめ続けていると突然大きく動き出した
「入れた!!動けた!!」
「!!?」
え、突然何事かと困惑していると、糸人形が勢いよく振り返った
「ロー!!待ってろ今出してやるから!!」
そう言って格子を引っ張ったり、左右に広げようとして、最終的に蹴り壊した
何で?ドフラミンゴが作った糸人形が、鳥籠を壊すような事をしてるんだ?意味が分からなくて動くどころか声すら出せなかった
「早く出ろ!!逃げるぞ!!」
「に、にげるって……」
戸惑う俺の腕を糸人形は掴んで引っ張る
そのまま抱き抱えると部屋を飛び出し廊下を駆け抜ける
本当にどうしてそんな事をしているんだとただただ困惑していると、糸人形が突然ボロボロと泣き出した
「ロー、ロー!!本当にすまねェ!!傍に居たのに、ずっと見てたのに、何も出来なくて……こんな、こんなに軽くて、ガキの頃と変わらないくらい軽いじゃねェか……」
「…………」
「でも、今がチャンスなんだ!!絶対、絶対に逃がしてやるからな!!!」
変なの、何でそんな事言うんだよ、それも全部ドフラミンゴの茶番の1つなんだろ?
「お前、隠し事して、嘘吐いた俺の事、本当は海兵の俺の事嫌いだと思うけど、でも俺はお前の事愛してるから!!」
「コラさん……」
何でかな
糸人形である事に変わりはないのに、相変わらず何の温度もしないのに
何故か今はちょっとだけ温かく感じる
本物じゃないけど、本物みたい
ぐしゃぐしゃの泣き顔も、俺の事心配してくれる優しさも、俺の事愛してるって言ってくれるその声も、今は本物みたいだ
だから、せっかくだから、コラさんに言えなかった事変わりに言ってみようかな
「コラさん」
「ん?」
「あのね、おれね、コラさんのこときらいじゃないよ」
「ッ!!ロー……」
「あのね、おれもコラさんのこと……」
愛してるって言いかけた時、突然体が宙に浮いて床に叩きつけられた
「がっ!!」
痛みに呻き声を上げながら体を起こせば、床に倒れている、足が糸に戻って無くなっている糸人形と、そして廊下の先にドフラミンゴの姿が見えた
「ドフィ……」
「ッ!!くそっ!!」
やっぱり茶番だったんだ、もう終わりなんだと思ったが、ドフラミンゴの様子がいつもと違う。どこか焦ったような驚いたような表情だった
「何だ、どうなってやがる。何で勝手に動いてる?」
「え?ドフィ?これ、ドフィがうごかしてたんじゃ、ないの?」
「おいロー!ロー逃げろ!!こんなとこ居ちゃいけねェ!!お前は自由なんだ!!」
直後糸人形はただの糸になり、パラパラと舞う
散らばった糸を1本掴んでみるが、それはそれ以上動く事も無ければ喋る事も無く、本当にただの糸に戻ってしまった
俺の前にドフラミンゴが立つと、顔を上げてその焦っている様子の顔を見た
「ロー、部屋に戻るぞ」
「あ、うん……」
ドフラミンゴに抱えあげられると、俺は遠ざかっていく床に散らばる糸を見た
あのドフラミンゴの様子からして、予期せぬ動きだったのは確実だろう。なら一体何だったんだろうか
(コラさん?)
入れた
動けた
あの不思議な言葉を思い出してもしかしてと考えてしまう
だとしてもそんな事あるか?
コラさんの幽霊が、コラさんを模した糸人形に入って動いたなんてそんな事
あり得ない
そんな事ある訳がない
でももしも
もしも本当にそうだとしたら
(おれはまた、コラさんにつたえられなかった……)