名牝エコーサランドラ2
未読の方は前回の話を先にお読みください。
ジョージからブスりとやられてからしばらく日にちが経った。
アバウトだなって?馬に日付とか関係ないからな。サラリーマンとは違うの。
現状、特に体に異変は感じられない。ヤることヤった前と変わらない日々が続く……はずだった。
いつもお世話してくれる厩務員さんと一緒に、見覚えのない人間が数名やってきた。
「サランドラ―。でかけるよー。」
厩務員さんが話しかけてくる。えっ?移動?
厩務員さん+その他と一緒に歩くと、そこには馬運車があった。
なんでこのタイミングで移動なんだ?
ああ、もしかして受胎確認用の施設にでも連れていかれるのかな?
そんなことを思いながら、馬運車に乗り込む。
ドナドナドーナードーナー 馬運車がゆーれーるー。
運搬されてるときって暇なんだよね。
前回は種付け前でそれどころじゃなかったけど、もう脱処女しちゃった身なのでね。
……まさかと思うけど、この前の種付けは自分が見た悪夢で本当はこれから種付けだったりしないよな?
種付けされたときに頬を指でつまんどけばよかったか。いや、馬でどうやるねんそれ。
そんなことをぼんやりと考えながら暇を潰していると、馬運車が停車した。
さて、連れられた先はっと……ん?
外に出されてみると、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
忘れもしない。
俺が暴れまくった例の場所である。
……???
漫画だったら俺の頭の上にクエスチョンマークが三つくらいは書かれてあることだろう。
まさか……本当にあれは悪夢で、これからが本番……?
いや、それだったらこの光景に見覚えがあるのはおかしい。
よく分からないまま立っていると、ジョージが連れてこられた。
どことなくやつれていて元気がない、そんな印象だ。何かあったのかな。
とりあえずこちらもジョージに近づき、首の付け根を掻いてやる。
おっ久しぶりだなジョージ~ハーレム生活をエンジョイ中かい?それとも種付けしすぎて賢者モードかい?
そんなことを思っていると、ジョージは首をこちらに向けて匂いをかいできた。
ジョージ、人間でそれやったら匂いフェチの変態さんだからな。もし来世で人間に転生したら覚えておくといい。そんな先輩元人間からのアドバイスをテレパシーで伝えておく。ビビビビ。
そんなことをやっていると、急に周りの人間が「おぉ……」と驚きの声をあげた。
そんな驚くことがあったのかと思い、周囲の様子を探る。
馬の視界は人よりも広いのでこういうとき便利だ。……特になにも起きたようには見えない。
ジョージはどう思うよ?と顔を向けてみると、最初よりは元気そうな顔つきになっていた。
おっ嬉しいねぇ。そんなに俺と会いたかったのかい?などと思っていたところ、視界の隅にジョージのそそり立ったアレが写った。
そうアレである。この前俺の体をぶっ差したアレ。これは馬っけってやつだね。
元男だから分かるよ、そういうのは生理現象だからしかたないことだよね。うん。
そんだけいろんな意味でお元気になったんならハーレム種牡馬生活もエンジョイできるんじゃないの。
ここで、人間たちがジョージをどこかへ連れて行った。
ジョージのアレが歩くたびにぶらぶらしているのがなんか面白い。ピルサ○スキーかな?
「ちょっと待っててね~」
同行した厩務員さんが俺に話しかけてくる。
そういえば俺はいったい何しにここにやってきたわけ?
しばらくすると、またジョージが連れてこられてきた。
おっさっきぶりー元気してた?
ジョージはブヒヒヒしていた。こっちもブヒヒヒし返す。馬として何年間か生きてきたが未だに意味は不明。日本語でおk。まあ元気そうだ。
さっきお仕事してきたのかな?行くときちょうどアレがこんにちはしてたもんね。
頭でジョージの体をぶにぶにしながら周りの人間の様子を伺う。
……うーん、もしかしてさ。
人間たちはみんなこちらをじっと眺めている。それも、特定の位置を。
……俺、もしかして、当て馬の逆みたいなことしに連れてこられたんじゃねぇか?
周囲の人間はジョージのアレをガン見している。
さっきの人間たちの驚きの声といい、今日最初にジョージと会ったときの元気のなさといい、嫌な予感がする。
ジョージ、きみ、もしかしてさ……種牡馬のお仕事、苦労してる?
俺が当て馬の逆みたいな……それこそウォー○ンブレムのために用意された牝馬みたいな……いや、そんなまさかね。
そんなまさかでした。
ここはジョージのいる種牡馬繋養施設。その一角に、俺の仮の住まいがあります。
俺の仕事は、時間になったら定位置にスタンバって、柵をはさんだ先にジョージが連れてこられたらイチャイチャすることです。
イチャイチャし終えるとジョージは別の場所に連れていかれます。
どういうこっちゃねんと人間どもの話に耳を傾けて要約すると、今年の種付けシーズンが終わるまで俺はここに住んでジョージを発情させる役目があるようです。
この手段がとられるまで、どうやら相当スタッフが苦労していたそうな。
その結果が、凱旋門賞馬に当て馬まがいの仕事を任せるというこの珍事に繋がったという。
ジョージ、お前さぁ…………。
友人のような大型ペットのような、そんな存在だと思っていた同期は、俺相手じゃないとなかなか興奮しない、種牡馬に向いてないかわいそうな奴だった。
ウォー○ンブレムのような失敗種牡馬フラグがビンビンである。ビンビンになるのはアレだけにしような。
ジョージ、もっと獣らしく欲望に忠実に生きた方が快適な種牡馬ライフに繋がると思うぞ。サンデーサ○レンスみたいに。
それに俺が言うのもなんだが、お前は三冠馬なんだぞ?俺以外には無敗なんだぞ?サイアーラインを繋げたい人は絶対にいっぱいいるんやぞ?
ジョージに言葉が通じればなぁ。いかに三冠馬というものがこれまで様々な人々の脳を焼いてきたのかとか、サイアーラインを繋げることのロマンとか、そういうのを懇切丁寧に説明してやるんだけどね。
「それならお前も種付け・出産ぐらい黙って受け入れろや」って声がどこからか聞こえてきそうだ。セクハラやめてください。訴えますよ。
というか、今年はいいとして来年はどうするんだ?順調にいけば俺は来年出産して子育てしなきゃいけないわけで。同じやり方はできないよね。
まったく、先が思いやられる……。
まあ、とりあえずのところは。ジョージが元気になってくれて嬉しいよ、俺は。
唯一無二の友人にしてライバルだからね、ジョージは。