危うしMTR部!(前編)

危うしMTR部!(前編)


Index: 「危うしMTR部!~万魔殿狂騒曲~」

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~危うしMTR部!~


「ああ、もう……なんなんでしょうね部長。いきなり万魔殿からの査問会の呼び出しだなんて……」

「さて、私にもさっぱり……
 マコト議長からはただ、ゲヘナ学園内でのMTR部の活動について、重大な校則違反の疑いがある、とだけ。
 事と次第によってはゲヘナ支部の部活としての認可を取り消し、学区内での活動を全面的に禁止するとまで通達がありました。
 事実上の廃部宣告……只事でないのは確かでしょう」

「うう、なんだっていきなり突然……」


「それにしても、まさか先生まで呼び出されていたとは驚きました」

“うん。私も立ち会ってほしいって連絡を貰ってね”


“部長は今回、マコトから呼び出された理由に心当たりはあるの?”

「分かりません。というより……思い当たる節が多すぎる、というのが本音ですね。
 先生もご存知の通り、MTR部の活動内容にはわりとグレーな部分も多いですし……
 なによりマコト議長は以前から、我々MTR部連合の存在を快く思っていなかったようですから。
 表向きは私達の活動を認めつつも、裏では私達を潰すチャンスを今か今かと伺っていたとしても、何らおかしくはないでしょう」

“…………”

「……はあ。気が重いですね。今度ばかりはいつも通り頭を下げてご機嫌を取るだけで乗り切れるかどうか。
 こうまで真っ向から私達を糾弾してくるということは、向こうにもそれなりの大義名分があるのでしょうし。今度はどんな無理難題をふっかけられることやら……」


“それじゃ、部長にもマコトの思惑は分からないんだね”

「……そうですね。いくつか推測できることはありますが、詳しいことまでは。鉄砲玉ちゃんも近頃は万魔殿に顔を出していないようですし……
 たまに誤解されがちですが、私達だってこのキヴォトスの全ての秘密を知り得るわけではありません。
 いかにMTR部連合が様々な学園の生徒による寄り合い所帯であるとはいえ、流石に万魔殿のような三大学園の最高機密ともなると……そもそも入手しようと企むだけで重罪ですから」


「それはともかく……部長や先生はともかく、なんであたしまで?」

「はあ……しっかりしなさい支部長。あなたは仮にもゲヘナ支部の支部長でしょう?
 ゲヘナ支部そのものの存続が取り沙汰される場において、その支部の責任者が同席しないというのはあまりにも失礼というものですよ」

「そ、それはまあ、そうなんですけど……」

「……まあ、あまり気負い過ぎてもろくなことにはなりませんから、気楽にいきましょう。
 そうですね、ちょっとしたお出かけだと思えばいいのではないですか?」

「うう……どうしてこんなことに……」







~地獄への案内人~


「お待ちしておりました、部長、支部長。それから先生も」

“あれ、鉄砲玉ちゃん? 確か万魔殿を出禁になってたって聞いてたけど……”

「はい。ですが今回、マコト様からの直々の命令により呼び戻されました。
 万魔殿とMTR部との間を取り持つには、私はうってつけの人材ですから。
 本日は私が、ゲヘナ万魔殿の案内役として、マコト様のもとに部長と先生をご案内いたします」


「……部長。それから先生。
 改めて言うまでもありませんが、私はMTR部であると同時に、ゲヘナ万魔殿の人間でもあります。
 私がゲヘナ学園の生徒としてこの場にいる以上、私は万魔殿の一員としてマコト様の命令に従うでしょう。
 ……たとえそれが、先生や部長の意に反することだったとしても」

“…………”

「……ええ。承知しております。その時はどうぞ、ご随意に」






~この門を潜る者~


「到着しました。ここが、マコト様から指定された今回の査問会の会場となります」

「道中で既に分かってはいましたが……ここは万魔殿の議事堂ではありませんね。
 厳かではありますが、随分と年季の入った建物……まるで、裁判所か刑務所のような」

「概ね、ご想像の通りです。
 この場所は、かつて今よりもなおゲヘナが混沌としていた戦乱の時代の遺物。
 敵軍の捕虜や重罪人を拘置し、その罪を裁くために建造された収容所。
 言うなれば、裁判所であり、刑務所であり……処刑場跡、だそうです。

「しょ、処刑場!?」

「……とはいっても、あくまでそう言い伝えられているというだけで、実際のところは定かではありません。
 当時の戦乱時代の記録の多くは失伝してしまっていますが……おそらく歴史だけならエデン条約の調印式の会場にもなった古聖堂にも劣らないでしょう。
 もちろん今となっては使われていない、廃墟も同然の建物ではありますが」


「うう、やっぱりやめましょうよ部長……ここ、さっきからヤバい気配をビンビンに感じますよ!
 絶対ろくなことになりませんって! もう逃げちゃいましょうよ!」

「それでも、ここで我々が姿をくらませれば、万魔殿に我々を糾弾する絶好の口実を与えることになります。
 マコト議長の思惑は分かりませんが……ここは乗るしかないかと」


「……心してください、部長。
 ここから先は文字通りの万魔殿(パンデモニウム)。恐ろしき悪魔の軍勢が手ぐすね引いて待ち構える場所です。
 この門を潜る者、一切の希望を捨てよ。
 少しでも油断すれば魂までもを貪られる……この先へと進むのであれば、覚悟を決めるべきかと」

「ええ。ですが……虎穴に入らずんば虎子を得ず、という諺もあります。
 ならば、私もMTR部連合の部長として、私に課せられた役目を果たすだけですよ」







~静かなる開戦・1~


~~~


「キキッ……久しぶりだなMTR部の部長!」

「ご機嫌麗しゅう、マコト議長閣下。この度はご拝謁を賜り、身に余る光栄でございます……」

「フン、白々しい挨拶など不要だ! 心にもないお世辞を並べ立てられたところで不快なだけだからな!」


“やあ、マコト。それからイロハも久しぶり”

「……はあ。まさか先生までこの場に来るだなんて。……ほんと、めんどくさいことになっちゃいましたね」


「先生か……キキッ、報告を聞いた時は驚いたぞ。いつの間にかMTR部がシャーレの先生まで抱き込んでいたとは。まったく狡猾なことだな!」

“今日の私はただの付き添いだよ。部長とマコトとの話し合いに口を挟む気は無いから、気にしないで”

「キキッ、あくまで中立の立場から判断するというのであれば我々にとっては好都合だ! やはり先生をこの場に招いたのは正解だった!」



「さて、前置きはこのくらいにしてそろそろ本題に入るとしようか、MTR部の部長よ。貴様らの弁明を聞かせて貰うぞ。
 まあもっとも……弁解の余地があればの話だがな!」

「……仰っている意味がよく分かりませんが」

「キキッ、この期に及んでまだシラを切るつもりか? ならば、こちらも口で説明するより分かりやすい形で示してやろう。……イロハッ!」

「はいはい、分かりましたよ。……皆さん、もう出てきてもいいそうですよ」







~静かなる開戦・2~


(バッ! ダッダッダッダッ!!!)


「な、なに!?」

“……これは”


(チャキッ)


「っ!?」

「……動かないで下さい。部長、それに先生も。不用意な行動を見せれば抵抗の意思ありと判断し、攻撃します」

「ごめんなさい、支部長。こんなことになってしまって……申し訳ないっす」


「……鉄砲玉、ちゃん……? それに警備ちゃんまで……
 ま、待ってよ、これってどういう……」

「万魔殿の守備隊……それに風紀委員会、ですか。……本気のようですね」



「この間ぶりね、先生。できれば、こんな形で顔を合わせたくはなかったけど」

“……ヒナ”







~審判・1~


「……どういうことかご説明頂けますか? マコト議長」

「キキッ、白々しいぞ! 理由など貴様が一番よく分かっているのではないか?
 貴様らをわざわざ呼びつけたのは、何もゲヘナ支部の問題だけではない。貴様らMTR部連合そのものの存続の是非を問うためだ!」

「いったい何を……」


「ハンッ、私の口から分かり切ったことをわざわざ教えてやるのも面倒臭い。
 代わりに説明してやれ風紀委員長!」

「……全く、このマコトは。……でも、そうね。私から話した方が面倒も無い、か」


「MTR部部長。あなた達MTR部連合には、禁制品および大量破壊兵器の不法所持に加えて、このゲヘナ学園……ひいてはキヴォトス全土を標的とした、大規模なテロ行為を計画しているとの嫌疑が掛けられているわ」

「!?」

「言うまでもないけれど、これはゲヘナの校則のみならず、連邦生徒会が定めた連邦法にも抵触する重大なルール違反よ。
 よって……只今より私達風紀委員会の立ち合いのもと、万魔殿議長・羽沼マコトがあなたたちに尋問を行うわ」

「な……?」

「先に言っておくけど、この場で抵抗したり逃げようだなんて考えないで。
 この件に関しては既に、トリニティやミレニアム、連邦生徒会を始めとするキヴォトスの主たる組織にも話は通してある。
 もしもこの査問会においてあなた達の潔白が証明されなかった場合……ゲヘナだけでなく各学園の支部やMTR部の本部にも直ちに治安維持組織が介入し、強制捜査を行う手はずになっているわ」


「強制……捜査……?
 ま、待って! 今のゲヘナ支部には戦える子なんてほとんど残ってないのに! ……警備ちゃんっ!?」

「ごめんなさいっす、支部長。
 ……ですが、自分も……私も、風紀委員会の一員ですから。
 たとえ相手が誰であろうと、学園の風紀を脅かす存在に対して目を背けることはできません」

「そんな……」

「既にゲヘナ支部は、風紀委員会によって完全に包囲されています。
 部長達が大人しく査問に応じて頂ければ、手荒な真似をすることはありません。
 ……無抵抗の人間を傷つけるのは、私達も本意ではありませんから」

「……! なん、で……!」







~審判・2~


「……失礼ながらマコト議長。少々お話が飛躍しているように感じます。
 私達MTR部連合は、あくまで各学園のMTR部員の交流を目的とした互助組織であって、もとより戦闘を目的とした集団ではありません。
 確かに外部の方々には受け入れ辛い思想を掲げていることや、ファイアフライのような戦闘行為に長けた派閥があることも事実ですが……その活動内容の大半は至って穏当かつ無害なものです。
 ましてやゲヘナやキヴォトスに対するテロ行為だなどと、そのようなことがあろうはずが……」

「ほう? あくまで知らぬ存ぜぬで押し通すつもりか。その面の皮の厚さは見習いたいくらいだよ。キキッ……無駄な努力だがな」


「ッ……ふざけないで!」

「!」

「ふん、ゲヘナのMTR支部長か。貴様にも言い分があるというなら聞いてやろう。このマコト様は寛大だからな」

「うるさい! さっきから聞いてればぺらぺらと勝手なことばっかり! MTR部が危険なテロ行為!? 適当なこと言わないで!
 あたしたちがこの危ないことばっかのゲヘナで、どれだけ苦労してきたか知りもしないくせに!」


「……落ち着きなさい、支部長。
 この場で感情に任せて動いたところで、我々の立場は……」

「落ち着いてなんかいられません! もう我慢の限界! 今日と言う今日は言いたいこと言わせてもらわなきゃ気が済まない!」


「だいたい、あんた何様のつもりなのよ!
 今まであたしたちに何もしてくれなかったくせに、あたしたちが気に喰わないからって理由だけでここまでする!?
 あたしたちの悪い噂を流したり、秘密にしてた支部の情報を流して不良生徒に部室を襲わせるように仕向けたり……
 いくら万魔殿の議長だからって、やっていいことと悪いことがあるでしょう!?

 あたしたちが、あんたやゲヘナの生徒達に何をしたっていうのよ!?
 あたしたちはただ、誰にも迷惑かけずに、ただひっそりと自分達の趣味を語ってるだけなのに……
 それなのに、どうしてみんな……あたしたちのことを目の敵にするのよ!」







~審判・3~


「……キキッ、言いたいことはそれだけか?」

「な……!」

「何を言い出すかと思えば、これまた随分な世迷言を語ってくれたな。
 今まで万魔殿がお前達に何もしていない、だと? キキッ、馬鹿を言うな。
 お前らだってゲヘナの公的な部活である以上、毎月の活動実績に応じた予算が支給され、学園からの有形無形を問わない様々な支援を受けているはずだ。

 お前達がさしたる収入源を持たない零細部活でありながら堂々とビル街に事務所を構えられるのも、部員どころか正式なゲヘナの生徒ですらない有象無象を囲って面倒を見てやれるのも……
 全ては貴様らがゲヘナの学生であり、栄えあるゲヘナ学園の部活動であるという信用あってこそのものではないのか?」

「それは……」


「それに、ゲヘナ生徒会が意図的に情報を流して貴様らを襲わせただと?
 人聞きの悪いことを言ってくれるなよ。そんなことをして我々に何のメリットがある?
 そもそも仮にそれが事実だったとして、何か咎められるようなことがあるのか?
 このゲヘナにおいて公式な部活として認められている以上、その門戸は全ての生徒に『平等に』開かれているべきもののはずだ。
 ゲヘナの生徒会が、生徒から公的な部活の部室の所在地を問い合わせられて、それを教えることに何の問題がある?」

「ッ……!」


「それに、MTR部にまつわる悪い噂?
 ……ああ、確かに我々の耳にも色々と入ってきているぞ。貴様らMTR部の部員がミレニアム自治区で自爆テロを企てて、あわや多数の死者を出しかけたとか。
 だが……MTR部の部長よ。果たしてその噂は本当に根も葉もない冤罪だったのか?」

「そ、そんなのデタラメに決まって……部長?」

「…………」







~審判・4~


「まあ、その一件に関してあえてこの場で追及はすまい。
 どのみち貴様らの問題行動を一つ一つ槍玉に上げていてはキリがないからな。
 それに、たかだか一個人によるテロ未遂など……そこの部長が企てていた計画に比べれば可愛いものだろう?」

「……仰っている意味がよく分かりませんが」

「キキッ……我々が何の証拠もなく貴様らを追及しているとでも思っているのか? 既にネタは上がっている、と言っているのだ」


「それとも、一つ一つ懇切丁寧に説明してやらなければ分からないか?

 戦場と見るや見境なく特攻を仕掛ける命知らずの戦闘部隊に、部長である貴様の命令であれば汚れ仕事さえも厭わない子飼いの特殊部隊。

 あらゆる学園に潜ませた密偵による非合法の諜報活動と、それにより不正に入手した機密情報の私的利用。

 組織内の異端者を監禁するための大規模な収容施設に、そこで繰り返されてきた度重なる私刑や拷問、洗脳じみた再教育。

 各所に隠し持った膨大な武器弾薬に、戦闘用オートマタやパワードスーツ、挙句に大量の巡航ミサイルなどという大量破壊兵器。

 読んだ人間の精神を崩壊させ、あのエデン条約での『複製』のような超自然的な兵力の召喚をも可能にする、数千冊もの曰くつきの写本。

 極めつけはアリウス自治区の遺跡から盗掘したという、かのミレニアムの最終兵器に比肩するやもしれない危険極まりない古代遺物。

 ──どれ一つ取っても『ただの無害な互助組織』に釣り合うものとは思えんが?」

「……!?」







~審判・5~


「……どうした、何を驚いた顔をしている?
 本来知り得ないはずの誰かの秘密を暴き立てることなど、お前達だってさんざんやってきたことだろう。

 まさかこのマコト様をただの道化だとでも侮っていたわけではあるまい。密偵の一人や二人を追い返したところで安心していたか?

 ……キキッ、このマコト様の情報網を甘く見て貰っては困る!
 金の流れ、人員の流れ、物資の流れ、情報の流れ……貴様らが陰でコソコソ企てている動きを悟る証拠など幾らでもあるぞ!」

「今日までこのゲヘナを、キヴォトスの数多の勢力をいいように利用してきたつもりだったのだろうが、考えが甘かったな。
 貴様らMTR部が各勢力に潜ませてきた密偵どもが、これまで何のお咎めも受けて来なかったのは、単に貴様らの諜報能力が優れていたからだとでも?
 まさか本気で、自分達の力だけでこのキヴォトスを覆せるとでも思っていたのか? 

 そうだとしたら……キキッ、思い上がりも甚だしいぞ!!」

「………………」

「今日まで貴様らのような胡散臭い集団が、曲がりなりにも存続を黙認されてきたのは、単に貴様らがキヴォトスにとって『取るに足らない存在』だったからに過ぎん!
 ひとたび有害だと判断されればあらゆる勢力から敵視され、たちどころに淘汰されるのが道理だ!
 貴様らは所詮、その程度の存在なのだよ!」







~審判・6~


「……ちょ、ちょっと待ってよ!
 戦闘用オートマタの軍勢に、巡航ミサイル……? そんな言いがかり……MTR部がそんな物騒なものを持ってるわけ……」

「おや? どうやら貴様には知らされていなかったと見える。哀れなものだな!

 だが、全ては事実だ。何重にも隠蔽されたブラックマーケットでの取引記録。アビドス砂漠での大規模な作戦行動。秘匿された地下シェルターの保有と定期的な訪問記録。各学園に潜入している貴様らの諜報員リスト。立ち入りを制限されているアリウス自治区へ不法に侵入した形跡。……全て確たる証拠に裏付けされた、な。

 そこのMTR部の部長は善人面して貴様らのような行き場のない者達を囲い込み、危険思想を刷り込むことで洗脳し、自らに忠実な私兵へと仕立て上げていた。
 見せかけの慈善事業で周囲の目を欺き、その裏では大量の兵器を密かに保有し、キヴォトスそのものに対する反乱の機会を虎視眈々と狙っていたのだ!」

「何を、言って……」

「これだけ言ってもまだ分からないか? 貴様はずっと騙されていたのだよ、ゲヘナの支部長!
 その女は貴様らにとっての救世主などではない。イカれた思想のもとに、このキヴォトスを戦火に包もうとする狂信者だ!」


「わけ、わかんない……なに、それ?
 いくら与太話にしたって、話がぶっとびすぎてるでしょ。部長……部長だってそう思うでしょう?」

「……………………」

「……部長? なんで、黙ってるんですか。
 なんとか言ってくださいよ、ねえ……」


「キキッ、どうやらぐうの音も出ないようだな。だが今さら後悔しても遅いぞ!
 貴様らの罪状が確たるものとなれば、部長である貴様やMTR部の幹部連中は全員矯正局送りは免れん。
 当然、ゲヘナのMTR支部も即刻廃部とし……所属している生徒全員も即時退学、ゲヘナ自治区からの追放処分となるだろう!」

「!!?」


「ま、待ってよ! いくらなんでも無茶苦茶すぎる!
 いくら万魔殿の議長だからって、そんな勝手が通るわけ……」

「普通ならばそうかもな。だからこそ、シャーレの先生をこの場に招いたのだ!」

「!」

「既に全ての手筈は整えてある。先生の同意一つで、連邦捜査部シャーレの名を以って、大罪を犯したMTR部を速やかにこのゲヘナから放逐するためのな!」

「で、でも……せ、先生は、あたしたちの味方で……先生がそんなことするわけ……」

「それはどうかな? 先生もさっきの話を聞いてれば、このマコト様の主張に正統性があることは分かったはずだ。
 これは私個人の野心や私怨のためではない。ただ純粋にゲヘナのため、キヴォトスの安寧を憂いての行動なのだよ!」

“……………………”


「貴様らMTR部の連中など、全員まとめて矯正局にでもぶち込んでほしいくらいだが……私もそこまで鬼じゃあない。
 だからと言って、全くのお咎めなしというわけにも行かん。MTR部などというカルト集団の思想に共鳴する者をゲヘナ内に抱えていては、第二第三のテロの危険を招きかねないからな。
 今後一切このマコト様の目の届く場所に現れないというのであれば、このゲヘナから立ち退くだけで許してやろうというのだ。
 キキッ、むしろ感謝して欲しいくらいだね!」







~譲れないもの~


「本来ならば、貴様ら全員を今すぐテロ容疑で拘束してやってもよかったのだ。
 こうして弁明の場を与えてやっていること自体が、曲がりなりにも長い間貴様らの活動を認めてきたゲヘナからの、せめてもの温情だということを知るがいい。

 さあ、審判の時だ! MTR部の部長よ! 申し開きができるものならやってみろ!」


「ちょっと、待ってよ。だって、あたしたちは、そんな……」


「そんなの、おかしいですよ……
 ヒナ委員長なら、分かってくれるでしょう? あたしたちは……」

「悪いけど支部長、今回ばかりは私もマコトと同意見よ。
 今までMTR部には何度も助けられてきたし、感謝もしている。
 だけど、もしもMTR部が一線を越えて、ゲヘナの……キヴォトスの敵となるのなら、私達もあなた達を止めないわけにはいかない」

「そんな……」


「……警備、ちゃん。鉄砲玉……ちゃん」

「支部長……私も、MTR部には恩があります。
 だからといって、その行いの全てを肯定できるわけじゃない。
 もしもMTR部そのものが、あのエデン条約のような……ううん。あの時を上回るような戦乱をキヴォトスに齎そうとしているなら、私はMTR部の敵に回ります。
 あんな思いをするのも、誰かにさせるのも……もうたくさんだから」

「……警備ちゃんはともかく、私は何があろうと私自身のMTRに殉じるだけです。
 この身はマコト様の鉄砲玉。もしもマコト様とMTR部が敵対することになれば、私は迷わずマコト様に、万魔殿につくと決めています。
 キヴォトス全土を焼き尽くすような戦乱……そこでかつての同胞を相手に散れるのであれば、それもまた一興でしょうから」


「……チッ、相変わらず頭のおかしい奴め。
 これだから私はお前らのことが……まあいい!
 どうやら今度ばかりはそのイカレた鉄砲玉も、流石に貴様らの味方はしてくれなかったようだな。
 年貢の納め時、というやつか。キキッ!」


(……? 今日のマコト先輩、なんだかヘンですね。
 というか……いつもと比べて、マトモすぎる……ような?)







~たすけて~


「……部長」

「…………」

「……なんで、こんなことになってるんですか? 何とか言ってくださいよ。
 兵器だとか、テロだとか、わけわかんないですよ。
 そんなの根も葉もないデタラメだって。だってあたしたちは、そんなんじゃ……
 ねえ、部長……部長……?」

「……………………」



「あたしは……」


「あたしはただ、家族が……帰る家が、居場所がほしくって……ただ、それだけで」


「それなのに……なんで? なんで、こんなことに……」



「先生……」


「たすけて、先生……」


“……………………”







~先生の選択~


「耳を貸すな、先生ッ! 先生はそいつらに騙されてるんだ! 手を差し伸べるべき相手を間違うな!
 それとも、そいつらに脅されて無理矢理従わされているのか? ならばこの万魔殿が、そしてゲヘナ風紀委員会が先生の力になろう!
 ヒナと手を組むのは癪だが、そこのイカレた連中をこれ以上のさばらせるよりはマシだ!
 敵の敵は味方! 今我々が力を合わせて立ち向かうべきは、そこにいるMTR部連合なのだからな!」

「……………………」

「さあ、今こそ決断の時だ、先生!
 ゲヘナと、このマコト様と手を組み、そのイカレた狂信者共に鉄槌を下すのだ!」



“……うーん、それはちょっと無理かな”


「なにぃっ!!!?」




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