加筆まとめ⑮
届かせた爪目次◀︎
現世・空座町(偽)
カワキは加勢に入った死神達に前線での戦いを任せ、卯ノ花と共に負傷者の治療に当たる……と見せかけて、後方から藍染と死神達の戦いを観察していた。
戦いの結果はこうだ。鏡花水月の催眠に掛かった隊長達は雛森桃を藍染と誤認して攻撃、事態が発覚すると動揺からたちまち戦況は瓦解した。
⦅鏡花水月……危険な能力だ。だけどそれ以上に、藍染の使い方が上手い。揺さぶりがこれほど効果的とは……⦆
その後の展開も、なかなか興味深いものだったとカワキは思う。
まずは総隊長の変化についてだ。カワキが父に聞かされた話では「部下の命にすら灰ほどの重みも感じぬ男」という話だったが……。
⦅まさか、私や一護を巻き添えにする事を気にするなんて。時間は残酷だな⦆
カワキは知っている。我らが偉大なる父は嘘がお嫌いだ。在り方にも、言葉にも、一つとして嘘は無い。カワキが聞いた話が真実であるのなら結論は限られている。
————陛下が知る剣の鬼は既に過去のもの……山本重國は甘くなった。
勿論、それだけで惰弱に成り下がったと判断するには総隊長の力は未だ絶大なものだった。だからこそ、この戦いで得られた情報には価値がある。
藍染は総隊長の斬魄刀——流刃若火への対策を用意していたのだ。斬魄刀を封じた状態の総隊長の力量を目にする事ができたのは嬉しい誤算だった。
だが……戦況は依然として芳しくない。総隊長の放った犠牲破道は、しかし、藍染に止めを刺すには至らなかった。その後の一護の攻撃にも藍染は壮健だ。
そして、藍染との戦いは浦原喜助率いる一団の参戦で佳境を迎えていた。
⦅だんだん藍染の霊圧が上がっている……このままだと私の感知範囲も超えるな⦆
カワキは息を潜めて戦況を分析する。
全身を白いマスクで覆ったような奇妙な姿へと変貌した藍染は、先程よりも霊圧が増しているようだった。
今や藍染の霊圧は見えざる帝国で指折りの霊圧を誇るカワキさえも上回っている。この調子では、もうじきカワキでも藍染の霊圧は感知できなくなるだろう。
⦅崩玉との融合、か……。早いうちに隙を見つけないと⦆
カワキは神聖弓を形成すると、瓦礫の陰に潜んで、茂みから獲物を狙う獣のように空中に立つ藍染を窺った。
浦原の鬼道に紛れて懐に飛び込んできた夜一の連打をいなす藍染。
「おおオ!!!」
「理解できていないのか? 君の打撃など何千打とうが私を倒す事などできはしない」
藍染の声には疲れ一つ見えない。夜一の攻撃を難無く受け止め、淡々と告げた。
しかし、雨のように降り注ぐ打撃が止む様子は無い。そして、猛攻を防ぐ藍染の腕に夜一の拳が触れる刹那————
「“瞬閧”」
夜一の肩から鬼道の光が噴き出し、拳が加速した。防御の上から藍染の顔面に亀裂を入れ、藍染は轟音を立てて地上へと叩き落とされる。
舞い上がる土埃に視界が奪われた一瞬の隙を衝いて、カワキが動いた。
間髪入れずに藍染へ追撃を掛けた夜一。藍染の意識が夜一の迎撃に向いている間に周囲にゼーレシュナイダーを投擲する。
「倒せぬと言った筈だ」
危なげなく夜一の拳を受け止めた藍染。その背後に現れた浦原が刀を構えた。
「“縛り紅姫”」
「こんなもので私を縛れると————」
「“火遊紅姫”、“数珠繋ぎ”」
藍染を縛った網の端から、数珠のように膨れ上がった火の玉が藍染に迫る————ここだ。
白い手に弾かれた小さな筒が弧を描いて陣に向かう。カワキは浦原の攻撃に上乗せする形で陣を起動した。
『————破芒陣(シュプレンガー)』
瞬間。爆炎が遥か上空まで立ち昇る。
かつて、尸魂界で東仙要に放った一撃。しかし、霊圧を上げた今の威力は以前の比ではない。
その上、浦原の攻撃と合わせた事で威力は桁違いに跳ね上がった。高く燃え続ける爆炎の中から焼け焦げた藍染が姿を現す。
「……ぐっ……! 志島カワキか……!」
繭に顔まで覆われ、表情は読み取れないものの藍染が忌々しげにカワキの名を吐き捨てる。
夜一の攻撃に気を取られ、カワキの接近に気が付かなかった。仲間が次々に倒されようと動かなかったカワキがここで攻勢に加わるとは想定していなかったのだ。
『ほら。爪は届いた』
「!」
藍染が爆炎から姿を見せた瞬間、カワキは藍染を真上から蹴り落とした。その方角に居るのは……
「こんなもので————」
爆炎の隙間、上段に構えた一心と視線がぶつかる。藍染が言葉を失った。
「……月牙天衝!!!」
***
カワキ…藍染がハンペンになってもずっと観察していた。美味しいところだけ持っていこうとする面の皮の厚さでお馴染み。
浦原さん&夜一さん…カワキが強くなっているのはルキア達との修行の成果と虚圏での激闘の結果だと思っている。
一心…高校生の滅却師にしては、カワキが強すぎて「おかしくない!? 強くなり過ぎだろ!?」と思っている。