加筆まとめ⑦

加筆まとめ⑦

志島家の秘密

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瀞霊廷


「……ふむ……」


 晴れ渡る空の下、白い羽織りに長い白髪の男――浮竹が、修行場の開けた場所に腰掛けて茶を啜っている。

 そこへ顔に特徴的な刺青を彫り込んだ男が後ろから声を掛けた。


「いたいた。何してんすか、こんなとこで?」

「ああ、檜佐木君か。イヤなに、ちょっと休憩がてら見物をね」


 浮竹が指差す先には、三人の少女の姿。見覚えがある少女達の姿に、刺青の男――檜佐木が名を思い出そうと記憶を辿る。


「朽木と旅禍の子達じゃないスか、えーっと……」

「織姫ちゃんとカワキちゃんだよ。冬の決戦に向けて修行中だ。一月前からね」


 檜佐木が思い出すより先に、浮竹が二人の名を告げた。

 修行に打ち込む少女達は真剣そのものでありつつ、どこか活き活きとして見える。


「なんか……修行にしちゃ楽しそうにやってますね」

「あ、やっぱりそう見えるかい? ……あれは昔から友達を作るのが下手な子でね。まあ、なかなか心を開かない所為なんだが……」


 ルキアを指して、浮竹がしみじみとした様子で言葉を紡ぐ。

 ズズッと茶を啜り、一息つくと、遠くを見るような目をして言葉を続けた。


「――血相を変えて“隊舎裏の修行場を開けてくれ”と言ってきた時は何事かと思ったが……良い友達ができて良かった」


 安堵を滲ませて朗らかに笑う浮竹の顔を見て、檜佐木が言い辛そうに口を開いた。


「……それが人間でも……ですか」

「それを言うなよ」

「……すいません」


 親しげな苦笑いを浮かべた浮竹。檜佐木はバツが悪そうな顔で目を逸らした。

 浮竹は気まずい空気を払うかのように「いや、いいんだ」と笑って話を続ける。


「歩む時は違っても友達ってのは良いもんさ。それにホラ何だ。あの子達は普通じゃないから、尸魂界に来たらみんなそのうち死神になるかも知れんぞ」


 浮竹はそこで言葉を区切って、一呼吸の間を置くと思わぬことを口にした。


「――カワキちゃんの先祖のように」

「は?」


 檜佐木が聞き間違いかと浮竹の方を振り返って問い直す。


「“カワキちゃんの先祖”って……あの子、滅却師っスよね? なら、その先祖だって滅却師なんじゃ……」

「ああ、俺も元柳斎先生から聞いた時は驚いたが……あの子の、志島家の祖先には、滅却師から死神になった者が居るそうだ」

「死神と滅却師は戦争までする仲で、自分達は滅ぼされたってのにそれでも死神に? 騒ぐ奴も出そうなもんですが……」


 戦争を起こしてまで滅ぼした相手が死神になるなんて話、現場の人員は勿論だが、それ以上に中央四十六室や貴族達が許すとは思えなかった。

 困惑する檜佐木に、浮竹が話を続ける。


「もっとずっと昔の話さ。滅却師との戦争が起きるより以前……もう千年以上も前の話になるそうだ」

「千年!? そんな昔の話、よく知ってましたね……」


 それは長命の死神と言えど、途方もない時間だった。あんぐりと口を開けた檜佐木を見て、浮竹は「はっはっは」と笑い声を上げて続きを語る。


「初代護廷十三隊の隊長に志島家の死神が居たと、元柳斎先生が懐かしそうに語っていたよ。カワキちゃんの一族とは遠い昔に別れた遠縁になるのかな」

「そりゃあ、何というか……壮大な話っスね……。本人はそのこと知ってんスか?」


 檜佐木はジャーナリストとして、一方の話を鵜呑みにするわけにはいかない。

 興味を唆る話だったこともあって、機会があればカワキ本人にも取材をして裏取りがしたいと思い、浮竹にそう訊ねた。


「どうだろうな……何も言わないところを見るに本人は知らないかもしれんが……」


 そう言って、浮竹はどこか寂しげに目を伏せた。


「元柳斎先生は過去を懐かしむことはしても、カワキちゃんに何も語るつもりはないようだからね」

「そう、ですか……」


 総隊長が敢えて語らずにいることに自分が踏み込んで良いものかと、檜佐木は複雑な心境で相槌を返した。


「ま、何にせよ、これからの時代はあの子やあの子の先祖のように、滅却師と死神が共に手を取り合える時代になるといいな」


 すぐ下で修行に打ち込む少女達の姿に、浮竹が眩しいものでも見るようにして目を細める。

 明るい希望に満ちた浮竹の表情に、先程まで複雑な心境だった檜佐木も、つられて笑顔がこぼれた。


「そうっスね」


 和やかな時間が流れる中で、浮竹がふと気付いたように「そういえば」と檜佐木を振り返った。


「君こそどうした、こんなとこまで? 何か用があったんじゃないのか?」

「ああ、そうだ、今月分の瀞霊廷通信です。あと中に通販目録も」


 差し出された雑誌に首を傾げた浮竹が「あれ? なんで君が?」と訊ねる。

 檜佐木は浮竹の隣に腰掛けながら、苦笑して「参りましたよ」と話を切り出した。


「十番隊は今現世でしょ。十一番隊は隊長は寝てるし副隊長はどこ行ったかわかんねーし。十二番隊なんか2人そろって研究室から出てきやしねーし」


 記憶の中の東仙に思いを馳せて、遠い目をした檜佐木が言葉を続ける。


「正直、隊長業務がこんな忙しいなんて知らなかったっス。東仙隊長は部下にものを頼まない人だったから……」


 懐かしいような、苦しいような、何とも言えない複雑な表情をした檜佐木の横顔が浮竹の視界に映る。


「……さてと。そろそろ行きます」

「もうちょっとゆっくりしていきなよ」


 引き留めた浮竹に振り返ることなく手を振って、檜佐木が言った。


「言ったでしょ、忙しいんスよ俺。女の子3人の修行を眺めてんのは悪くないけど、もうちょいヒマな時にまた誘って下さい」


 檜佐木が去った後も、修行場の空を眺めながら浮竹が独りごちる。


「……四月か……心を癒すには短く……力を蓄えるには更に短い時間だ……」


 瞼の裏に、肩を落とした檜佐木の背中や懸命に修行する少女達の姿が過ぎる。


「願わくばこの仮初の平穏が……少しでも長く――」


***

浮竹…山爺から志島家裏話を聞いた。大体のことは知ってるけど、千年前の戦争の際に敵陣にも志島家の滅却師が居たって話はしなかった。


檜佐木…公平なジャーナリスト。浮竹の話を聞いて「いつかカワキ本人に取材して直接その話を訊きたい」と思っている。


カワキ…今回の話は出てこない。またしても何も知らない志島カワキさん。多分取材してもほとんど何も知らないし興味も無いと思われる。


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