加筆まとめ③
死神の現世赴任 カワキの報告空座第一高等学校
現世に死神達が大挙してやって来た。
破面の襲来からそう月日が経っていない事から、目的は容易に推測できる。破面の現世出現に伴い、厳戒態勢を敷く為に派遣されたのだろう。
「あれ? カワキちゃん、どこ行くの?」
『あぁ、ちょっと故郷の知り合いに連絡しにね。こまめに報告しないと煩いんだ』
そう言って席を立つ。人気のない場所へ移動しながら、カワキは内心ため息をついていた。
⦅以前、尸魂界への侵入を決行する際にもキチンと報告したのに。ハッシュヴァルトと来たら……⦆
口を開けば、やれ「報告が遅い」だの「重大事案が発生した時は即時連絡しろ」だの、口煩くてかなわない。カワキは小言も説教も嫌いだった。
死神達の現世赴任はハッシュヴァルトに直接連絡を入れる事にして端末を操作する。
《……私だ》
ややあって応答があった。
近くの壁にもたれかかりながら、カワキが報告を開始する。
『ハッシュヴァルト。時間はあるかな?』
《……今度は何があった?》
『何があった、か。どちらかと言うと、これから何かある……と言った方が正しいかもしれないね』
《それは、死神共の現世派遣に関する話か?》
見えざる帝国は瀞霊廷内の影に存在している。把握していて当然だろう。特に驚きもしないでカワキは話を進める。
『ああ。その様子なら派遣された者達の事は省略するよ。彼らの目的については?』
《破面の襲来に備えて送り込まれたと聞いている》
目的も把握済みのようだ。これも省略していいだろう。手間が少なくて助かる。
『うん。つい先日、その破面の二人組が一護を狙って現世にやって来てね』
《何だと……!?》
『かなり強かったよ。片方は瀕死にしたけど、まだ奥の手があるようだった』
端末の向こうでハッシュヴァルトが息を呑む音が聞こえた。カワキにはわかる。
――これは説教の流れだ。
《戦ったのか……!? お前の言う先日とはいつの話だ? 破面と交戦したなどという報告は聞いていない》
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。カワキは開き直って『今言った』と答えた。またしてもハッシュヴァルトの怒気が強まったような気がする。ため息が出そうだ。
――ダメだな。これは長くなるやつだ。
幾度となく繰り返したやり取り。このままでは終わらない説教地獄が開幕してしまう。この先の展開が予想できたカワキは、端末を片手にうんざりした顔で話を遮った。先程までの報告の続きを話す。
『もう片方は今の私より強かったと思う。あちらが途中で撤退したから良かったものの、昔の私とも良い勝負だと思うよ』
《……。……怪我は…ないのか?》
怒涛の勢いで小言が飛んでくると思ったが、予想に反してハッシュヴァルトは静かだった。カワキは些か拍子抜けしたように答える。
『ん? あぁ……一護なら命に別状はないよ。傷は軽傷だった。護衛なんてガラじゃないけど、仕事に手は抜かないよ』
《違う。私が訊いているのは……》
――おっと。時間差だったか。危ない。
最低限の業務連絡は済んだ。カワキは説教など聞きたくない。削られた鍛錬の時間や、取り上げられた酒を思い出す。
眉が下がったのが自分でもわかった。
『じゃあ報告は以上だ。切るね』
《待てカワキ。話はまだ……》
カワキは話の途中で強引に報告を終了させた。何やら喚く声が聞こえた気がしたが気にしない。チャイムが鳴る前には教室に戻れそうだ。
再び説教の続きが始まらないように端末の電源を落としておく。授業中に端末を鳴らさない。学生なら当然の事だ。何も文句を言われる筋合いはない。
くどくどと説教を垂れるであろうハッシュヴァルトに心の中でそう言い訳をして、カワキは教室に戻って行った。
***
カワキ…以前の連絡がギリギリだったせいか、ポテト直通ホットラインが開設された模様。だが報告の中身がアッサリすぎる。「破面めっちゃ強かったわ〜」程度しか伝えてない。ため息をつきたいのは向こうの方だと思われる。果たしてカワキの報告は改善するのだろうか。乞うご期待。
ハッシュヴァルト…カワキの報告があまりにもアッサリすぎて「もっと情報がある筈だろ!?」になっている。カワキに怪我がないか訊きたかったけどアンジャッシュしてしまった。