元凶と魔獣:熾烈編
覚醒カズサvs救護CQCアリス【元凶と魔獣:晴空編】
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カズサ「よくもッ゛!よくも、アイツを殺すチャンスを潰してくれたなァッ!?アリス…!テメェだけは絶対に、絶対に許さない゛っ!アビドスとホシノを殺す前に、まずはテメェから…」
アリス「目を覚まして下さいカズサッ!何を言っているのか分かっているのですか!?…いえ、きっと分かっている上で言っているのですね…!
であればアリスは、そのようなルートを徹底的に妨害します!アビドスもホシノも、アリス自身をも、その手で殺させはしません!…勝負です!」
「───」
その言葉、は──
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レイサ『杏山カズサーッ!勝負です!』
カズサ『あーもう、遊びたいなら普通に言えば良いのに…で、今日は何して遊びたいの?みんなも呼ぶ?』
『…!は、はいっ!今日はですね──』
宇沢
あいつって本当、いつまでも変わらないから絡まれるのが鬱陶しく思う時もあるけど…
正直悪い気はしなかった
先生に相談した後は、より仲良くなれて
アイリもナツもヨシミも、すっかり友達になって
騒がしくも良い思い出が増えて
私も嬉しかった
でも
もうあの日常は帰ってこない
アイリとナツとヨシミは、身も心も砂糖に毒されて狂い果てた
私は彼女達をヤク中と罵りながら撃った
大事なみんなとの思い出は穢された
そして、宇沢までもが──
だから
私はアビドスを殺す
小鳥遊ホシノを殺す
この世に生まれた事を後悔させながら地獄に叩き堕としてやる
目の前の“エセ勇者”も殺す
そりゃそうでしょ
あんな奴らを庇う裏切り者を殺さない理由なんてない
それが私に出来る…スイーツ部と宇沢への、唯一の手向けだから
全てが終わったら、私も…
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カズサ「あ、あァァッ…!許さない…!私はテメェを許さないッ!!アビドスを許さないッ!!ホシノを許さないッ!!一人残らず皆殺しにしてやるッ!!!」
悲痛な叫びをあげた魔獣は、人間の脚力とは思えないほど高く跳躍した
それは広場を囲うように建てられた高層家屋の屋根に届くほど…
(ズドオオオオオンッ!)
アリスを狙って急速落下し、その一撃は石畳を大きく抉った
衝撃で瓦礫や雨が周囲に飛び散る
アリスは後ろに飛び退いて回避したためダメージは入らなかったが…もしも今の攻撃を受けていた場合、一発で戦闘不能になっていただろう
アリス「な、なんという威力…!まるでラスボス級の強さです…!でもアリスは必ずカズサを元に戻します!それが勇者の…ヒーラー系勇者の役目ですっ!」
明らかに身体能力が向上した魔獣と相対した勇者アリス。彼女は、殺意に満ちた魔獣を“杏山カズサ”に戻すべくミネ師匠から授かりしCQCで立ち向かう──
「さっきから、一々うるさいッ!あんたなんかに邪魔されて堪るかっ!私の行手を遮るな…!このエセ勇者ぁっ!」
抉れた石畳から、アリス目掛けて瞬時に飛びかかるカズサ…人間ミサイルの如きスピードだが、アリスは持ち前のアリスアイで動きを見切って横に避ける
だが、カズサはアリスの回避を予測して踵を石畳にめり込ませる事で急ブレーキをかけると…アリスの片腕を掴んだ
「なっ!?」
「捕らえた…!」
そのまま思いっきり物凄い力で、アリスを振り回すように地面へ叩きつけた
(バゴォォンッ!)
「うぐぅっ!?」
先程見た大跳躍からの一点集中蹴りほどの威力ではないだろうが、頑丈なアリスの身体でもバラバラになるのではと錯覚する威力の衝撃が全身に伝わる
普通の生徒でも気絶しかねないレベルのダメージではあるが…アリスはこの程度でダウンするほどひ弱ではない
アリスは“名も無き神々のための王女”…要するに戦闘特化型アンドロイドとして造られた身である。そして今は砂糖事変を解決するために奔走する勇者
カズサの暴走を止めるため…アビドスの人達を守るため…何より、自分を信じてくれた先生と連合の人達と勇者パーティの仲間達のため…そして現在治療中の身であるモモイ達のために、ここで倒れるわけにはいかない
「たぁっ!」
アリスは叩きつけられたままの姿勢で、腕を強く掴んでいる手を掴み返し体重をかけて起き上がると、バランスを崩したカズサを投げ飛ばした
腕を掴みっぱなしだったカズサは、体重をかけられバランスを崩した瞬間咄嗟に手を離すが、それにより自分は勢いよく投げ飛ばされる…普通なら着地した所で足をやってしまうだろう勢いだが、覚醒した身体能力で無事着地する
一方のアリスは、まだHPが尽きる程では無いもののダメージは確かに負ったので少し息を切らせている
この場面でアリスが劣勢というのは誰が見ても明らかだった
「はぁ…っく…!カズサ!貴女が止まるまで、アリスは諦めません!どうか怒りを抑えて、元のカズサに戻って下さい!もうこれ以上戦いたくは…」
「…アリス。あんたいつまでぬるいことほざいてんの?こうなった以上、分かり合えるわけがないじゃん。私はホシノとアビドスを殺す、あんたは邪魔するから殺す。それだけの話だよ」
「それだけ…?そんなもの認めません!そんな凶行に手を染めさせるなんて事、絶対にさせませんっ!」
「はぁ…チッ、いい加減にしろッ!」
またしても瞬発的にアリスへ襲いかかるカズサ…今度は暴に身を任せてアリスに拳と蹴りをお見舞いしようとする
例え相手がアンドロイドだろうと、瓦礫を素手で粉砕出来るパワーなら機能停止に追い込む事も可能のはず…
「死ねっ!さっさとぶっ潰れろっ!」
「はっ!ふっ!お断りします!アリスはこの程度で負けるほど、レベル不足ではありませんのでっ!」
「っざけやがって…!!!」
しかしアリスがミネから教わったという救護CQCは、覚醒したカズサの拳や蹴りにも対応出来るものだった
これは救護騎士団長「蒼森ミネ」の強さもさることながら、高度なCQCスキルを身につけられたアリスの優秀さも光っている
何度も殴ろうとするが、憎らしいほどの的確さで全部受け流される…蹴りを入れようとしても、初速が満足に出ない内に足でガードされて埒があかない
「このぉぉぉっ!」
焦ったくなったカズサは勢いよく右の拳をアリスの腹に当てようとする
だが、大振りの攻撃は総じて隙が大きくなるもの…
「そこですっ!」
(ガツッ!)
「い゛ッッ───!?」
3Dアクションゲームを色々とプレイしてきた事で大技への対処法を自然に覚えたアリスは、隙が生じるのを見越して蹴りに注意しながら拳を避け…そのまま的確に右の“上腕骨内側上顆”を殴った
“上腕骨内側上顆”という部位は筋組織や神経が通っているため、もしぶつけたりして強い衝撃を受けた場合、その腕全体が痺れてしばらく動かしにくくなる
当然だが致命的な威力ではなく、あくまでカズサの腕を一時的に動かし辛くする程度の威力…しかし、今の一撃はかなり効いたようだった
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁっ!痛ッ…!!うあ゛ぁぁぁっ…!!」
左手で右腕を抑えて悶絶する魔獣
勇者はその隙も突いて、下手に暴れないよう関節を極める形で拘束した
本当なら、少しでもカズサを傷つけたくなかった…アリスは自分がカズサを攻撃してしまった…と後悔の念に駆られる。たとえそれが、大人しくさせるのに必要な行為だったとしても…
「カズサ…もうやめて下さい…アリスは貴女をこれ以上傷つけたくありません…そもそも戦う理由なんて、最初から無いはずです…」
「っぐ…!私には、あるんだよ…!」
「なぜですか!?アリスとカズサが戦う意味は一体何処にあるのですか!?その選択肢は絶対に間違えてます!カズサがやるべきことは、アビドスを殺す事でもホシノを殺す事でも…ましてやアリスと戦う事でも無いはずです!」
「なに、言って…」
「カズサは、“スイーツ部”という言葉をしきりに言ってました…!その仲間達が砂糖を摂取してしまった、と…だったらまずは、その仲間達の事を思うべきではないのですか!?今のカズサは、自らの手で仲間達との思い出をも穢しているとどうして理解出来ないのですか!?」
「───」
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さっき思いっきり叩きつけて、手応えも十分あったはずなのに
なんでこいつはまだこんなに動けるんだ
そもそも、最初に蹴りをかました段階でこいつは戦闘不能になっててもおかしくないはず
こっちは普段以上の身体能力を出す度に死ぬほど疲れてんのに
なんでこいつは
なんで
なんでなんでなんでなんで──
私はどうすればいいの?
アリスの言う通りにすべき?
彼女と戦う理由なんて、本当に無い?
何言ってんだ
あいつは私の目的を邪魔する障碍だ
仲間との思い出…スイーツ部と宇沢との思い出を穢した張本人は、アビドスとホシノだ
壊れたスイーツ部と宇沢のために私が出来るのは、元凶を滅ぼすことだけ…
止まる理由なんかもう…!
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カズサ「どけええええぇぇぇっ!!」
アリス「うわっ!?」
関節を極めて拘束したはずなのに、魔獣はとてつもない力でアリスの拘束を振り解いた
「うぅっ!ま、まだ…っ!?」
「このぉ゛っ!」
(ドガッ!)
「かはっ!?」
今ならば説得コマンドが通用するはずと思っていたアリスは、内側から力任せに振り解かれるとは予想できずにその場へ倒れ込む…
説得でほんの少しだけ決意が揺れた魔獣は、動揺を払拭するかのように勇者への敵意を無理やり増幅させ…渾身の蹴りを勇者の腹へぶち当てた
魔獣が元凶を殺そうとしたあの時と同じ勢いで盛大に吹っ飛び、家屋の壁にめり込んで石畳に崩れ落ちる勇者
地面に叩きつけられたダメージも残っているというのに、今度は渾身の一撃…
今のでHPが大きく削れてしまった
「あ゛ぐ…げほっ!い、たぃ…です…」
アリスの内部を循環する体液が逆流するような感覚
頑丈なアンドロイドの身体とはいえ行動不能に陥ってしまう
また動けるようになるまで、どのくらい時間がかかるか…
すると魔獣は、スタンした勇者に近づき容赦なく追撃を始めた
「この裏切り者がっ!いつまでも生温い事ばっかりほざきやがってっ!あんたがホシノを逃がしてなけりゃ…!あんたを殺さずに済んだのにっ!」
(ドゴッ!バキッ!ガッ!ガッ!)
「ごふっ!ぅ゛あっ…!がはっ…!」
「勇者とかなんとか言って!私の気持ちなんか知らないくせにっ!ウザいんだよゴミッ!とっととくたばれっ!あんたもアビドスもホシノも、全員地獄に送ってやる゛っ!」
魔獣は勇者を罵倒しながら、動かせない右腕の代わりに何度も左腕で殴り、蹴り続ける
全攻撃がクリティカルも同然な強い暴力の嵐は、勇者のHPをみるみる削っていく
暫しの後
身じろぎ一つ出来なくなった勇者はもう立てない様子…
「はぁ…はぁ…立てよ、裏切り者」
そしてしばらくの間暴力をぶつけ続けた魔獣は、勇者の長い髪を左手で引っ掴み立たせる…彼女のヘイローはチカチカと点滅していた
「ぁ…うぅ…」
「これであんたの冒険は終わり。地獄で先に待ってな。後でお仲間が大勢そっちに行くだろうし…全部済ませたら、私もあんた達をまた殺しに行くから」
そう冷酷に呟き髪から手を離すと…
「死ねおらぁっ!!!」
(バギャァッ!)
崩れ落ちる勇者の顔面を狙い思いっきり力を込めた回し蹴りをくらわせる
勇者は向かいの家屋へ勢いよく突っ込んでしまい、その家屋は倒壊した…
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[アリスのHPが0になってしまった…]
[GAME OVER…]
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カズサ「フーッ゛…フーッ゛…これで、やっと1人…手間かけさせやがって…!」
その場に座り込み、ひたすら荒くなった呼吸を落ち着かせる魔獣
そのまま10分ほど休んだ後
「はぁ、はぁ…さて、まずは、ホシノを治療してるだろう、救護騎士団の方に…邪魔されたら、そいつらも…」
その時
(バキバキバキッ!)
「─────は?」
後ろから木材の砕ける音が聞こえた
そんなはずないと振り返る魔獣
アリス「はーっ…!はーっ…!」
「なんだそれ…どういう事だよ…!?」
なんとそこには、倒壊した家屋の屋根を持ち上げる勇者の姿があった
頭や身体の一部からは血と思しき液体が滴っているが、さっき確実に殺したはずの相手がまだ屋根を持ち上げられる程の力を持っているなど、魔獣には信じられなかった
「ふざけんなっ!テメェにそんな体力が残ってるわけねぇだろ!?どんなチート使ってんだよ!?なァッ!?」
「はぁ、はぁ…!カズサ…!言い忘れていましたが…アリスには、救護CQCとは別の、特殊スキルがあります…!」
「…特殊、スキル…?」
「ええ、それは…
ネル先輩から学んだ、【不撓不屈】のスキルですっ!」
「…は?まさかテメェ、“ただの気合い”とか言うつもりかよ…?」
「はいっ!言ってしまえば気合いです!正直、こうして立っているだけでもHPが削れて尽きそうなくらいですが…!」
勇者は天井を放り投げ、再度雨に打たれながら高らかに言い放った
「気合いが尽きない限り、アリスの心が折れない限り…!HPが0になったとしても、アリスが完全に倒れることは無いと思ってくださいっ!カズサ!」
それを聞いた魔獣は、時間が止まったかのように棒立ちになった
しばらくして
「…なんだ、それ…!意味分かんない…ふざけやがって…!ふざけやがってっ!そんなの通用するわけねぇだろうがっ!テメェだけは…!テメェだけは絶っ対に殺してやるッ!!!」
あまりの怒りで身体をワナワナと震わせながら怒号を浴びせて再び襲いかかる
「カズサ!目的を見誤らないで下さい!アリスはその目を覚ますまで、何度でも止めますっ!エリドゥのネル先輩を見て学んだ【不撓不屈】を今こそ!…さあ、もう一度勝負ですっ!カズサ!」
記憶のレイサ『もう一度勝負ですっ!』
「それ、を…!
それを言うなあああァァァッ!!!」
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死んだと思った勇者が復活して、動揺を隠しきれなくなった魔獣
その動揺によって、記憶の中の思い出が魔獣の爪を引っ込めようとする
常に体力が1になっているものの、気力が尽きぬ限り倒れなくなる【不撓不屈】を発動した勇者
自分を救出する為来てくれたミレニアム最強のエージェント…コールサイン:00の見せたガッツを学び、それが魔獣の凶行を止めるために活躍してくれる
今まで劣勢だった勇者だがこの調子なら魔獣を“杏山カズサ”に戻せるはずだ
激しく降り注いでいた雨はこの瞬間から弱まり始めた…
雨が止むのは、もうすぐそこだろう
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[パンパカパーン!]
[アリスの【不撓不屈】が発動!]
[気力ゲージが0にならない限り、勇者はHPが尽きても戦い続けます!]
[カズサが元に戻るまであと少し!]
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