何の因果かわからぬまま
ループ概念4話の続き
今回は閑話休題で前のループの話です
かなり中途半端な所で切れていますが、後日また加筆します
流血および直接的ではないけどネームドキャラの死亡描写があります
他にも捏造しかないので色々注意してください
全てに繋がる話
それは些細なボタンの掛け違いのようなものだった。何かきっかけはあったのか、それともただの幸運だったのか、それは定かではない。ただ一つ言えるのは、奇跡のように保っていたバランスが全て崩れてしまったということだ。
蝶の羽ばたきから生まれた嵐によって、夢を追う男は引き裂かれ、夢に捧げた男は囚われた。そして、夢を見続けたものだけが嗤っていた。
何もかもが壊れていく中、行き場のなくなった憎しみが膨らんでいく。やがてそれは破裂し、言葉となって襲いかかった。
その中で、何も声をあげない男がいた。
迫り来るトリカゴに対し、もう逃げられないと冷静に悟った男は渾身の力を込めて柵に蹴りを入れた。
祖父から継いだ技……錐龍錐釘。氷った大地すらも砕く技。
その技はトリカゴの全てを破壊することはできなかった。だが、人一人を通す程度の隙間を作ることはできた。
そう、人一人。
まだ動くトリカゴは開けた隙間を容赦なく縮めていた。だから、そこを通れるのは……逃げられるのは文字通りただ一人だけだった。
その事実に気づいていた男は……サイは、ベビー5を隙間に突き飛ばした。
「こんなことしかできなくてすまない。どうか生きてくれ。……どんなことをした君も愛してる」
そう早口で伝えながら。
最期まで、彼は錐龍錐釘を愛した女のために使った。
「どうして私を助けたの?サイ……」
助けられた彼女は呆然としながらもドレスローザから離れるように動いていた。彼女の身体はドレスローザから離れるように動き、気づけば簡易的ないかだを作成して海に出ていた。
彼女に染み付いた精神性は彼が最期に伝えた言葉を忠実に守ろうとしていた。
このとき、彼女には二つの幸運があった。
一つは、ドフラミンゴの油断により彼女が逃亡したと気づくのに時間がかかったこと。
もう一つは――
「こんな沖に女性が一人!遭難者か?!」
「いや、あれはドフラミンゴファミリーのメンバーだ!捕らえろ!!」
――サイ同様、もう逃げられないと悟ったイッショウが本部へ送った信号によりやって来た海軍の船に捕捉されたことである。
その後、ドレスローザにいた海軍の彼らがどうなったのか、またドフラミンゴファミリーの幹部がどうなったのかは定かではない。
ただ言えるのは、ベビー5はドフラミンゴの手の届かないインペルダウンへ収容されたこと。ドフラミンゴは海軍に捕まらず逃亡したこと。そして……これがどの世界線の彼にとっても地獄の始まりであるということだけだ。
一番最初の話
インペルダウンのとある監獄へ向かいながら少し鼓動が速くなっている胸をおさえた。
本来なら、私が緊張するようなことではないし、そもそも話すこともない相手だ。だが、今回は違った。
今から会いに行くのはドフラミンゴファミリーのメンバー……あのドレスローザでの件で捕らえられた唯一の海賊だった。
かなり若い女性だった。あのときはまだ子供だっただろう。だから、ファミリーにいたかどうかはわからない。だがもしいたのなら……もしかしたら、子供の相手をしていたロシナンテのことを知っているかもしれない。その可能性が私の胸を期待と不安で膨らまさせていた。
やがてベビー5と呼ばれていた女性の独房へたどり着いた。私が檻の前へ立つと、彼女は壁を背に座りこんだまま、ゆっくりと顔だけこちらに向けた。
「ロシナンテという男を知っているか?あるいはコラソンという方が馴染みがあるかもしれないが」
「……もしかして、コラさんのこと?」
「!知っているのか」
思わず檻を掴みそうになったがぐっと堪える。それを知ってか知らずか、彼女は表情を変えずにゆっくりと首を横にふった。
「……知っているけど、知らないわ。あの人、死ぬ一年くらい前に『ローの病気を治しに行く』とだけ残してどこかへ行ってしまったから。
私が知っているのは裏切り者の海兵として殺されたということだけよ。コラさんの話を聞きたいのなら、私じゃなくてローにしないと」
彼女の言うことはもっともだ。実際、こんな環境でなければ彼女と話すつもりはなかった。私が話そうとしていたのはあの事件でいたという少年だけだ。
そう……話そうとしていたのはあの事件でいた少年なのだ。
「……ロー、というのは」
鼓動がまた速くなっていく。手が自然と拳をつくる。
今まで何もしてこなかったわけではない。あの事件での状況から可能性のある人間について調べていた。それは個人でやるしかなく、遅々として進まなかったが……その可能性のある人物が向こうからやって来たお陰で断定することができた。もっとも、彼の過去を考えればあり得ないと思ってしまう方法だったが。
「ご想像の通りよ。彼の名前はトラファルガー・ロー。七武海のトラファルガー・ローよ。……驚いた?」
「いや……あの能力からもしかしたらとは思ってた」
あの事件で消えたものは「バレルズ海賊団」、「私の部下の命」、「オペオペの実」、そして……「珀鉛病の少年」。治す手立てがない珀鉛病だが、人体改造能力を持つあの実なら完治させることも可能だろう。
やはりロシナンテはあの少年の命を救おうとして命を落としたのだろう。もっとも、これは私の推測が補強されで、確信を得たいのなら少年に……トラファルガー・ローに会う必要があるのだが……。
「出来ることなら彼とも話したかったが……もう今となっては無理な話だ」
目をつむりゆっくりと首をふる。こればかりはどうにもならない。……今こうして彼女と会えているだけ幸運なのだろう。
あのとき、あらゆるものを巻き込んでドレスローザは壊滅した。あの事件でも確認されたトリカゴが残したものは凄惨なものだった。
「……どうして?」
少しの間の後、彼女が問いかけた。
「あのとき、彼は死んだと」
「どうして、そう思ったの?」
念を押すように彼女が繰り返す。わざわざそう言うということなら何か意味があるはずだ。
私が死んだと思ったのはあの惨状からだ。誰が誰なのかもわからないむごいものだった。あれを見れば全員死んだと考えてしまうだろう。
あァ、だが、それを引き起こしたのは一体誰だった?
「……ま、さか」
「さすが大目付ね」
今まで無視していた可能性に気づいた私を見て、彼女は頷いた。
「ローはあのとき捕らわれていた。殺されてはいなかった。少なくとも、彼は死んではいなかった」
あァ、そうだ。誰が誰だかわからないあの状態なら、人が一人生きていようがわからない。誤報を行うよりもずっと簡単だ。
だがそう仮定するなら、今起きている騒動の一部は……いや、よそう。それよりも大事なものがある。
「トラファルガー・ローがどこにいるか、心当たりは?」
「……そうね。ドレスローザがダメになったときのための拠点があるわ。いるとしたらそこじゃないかしら。
私は知っているわ。その場所も、そこへ至るための永久指針がある場所も。……知りたいでしょ?」
言葉を切り、じっと見つめてくる。彼女が求めている言葉は明白だった。
「要求される内容によるな。私ももう、権力のない立場なのでな」
彼女に頼るのは業腹だが、背に腹はかえられない。そもそも、ここへ来ている時点で、海賊に何かを求めている時点で今さらなのだ。
「そんなに難しい内容じゃないわ」
ずっと座っていた彼女が立ち上がる。そして檻の前へと足を進め、私の顔を正面から見据えた。
「ローを解放して。あいつを……ドフラミンゴを倒して」
「それは……」
それは、言われずとも私がやることだ。聡い彼女がそれに気づけないはずがない。ならば、何故それをわざわざ言うのだろうか。
「私……やっと気づけたの」
私の様子に気づいたのだろう。彼女がまた口を開いた。
「私が求めていたのは必要とされることじゃなかった。『愛している』という言葉だった。きっと、ローはそれをコラさんから貰っていたのね。私よりもずっと前に。
今ならローの気持ちがわかる。だから、ローが苦しんでいるのは……」
彼女はそこまでで言葉を切り、両手で顔を覆った。その様子が、彼女が嘘をついていないことを如実に語っていた。
……あァ、そうか。
彼を私より知る彼女も、彼のことを大切に思っているのだな。私と同じように。あるいは私以上に。
ならば、その思いを聞いた私がそれを遂げるべきだ。
「約束しよう。
私はトラファルガー・ローを救い出す。老いぼれの命だが、そのために掛けるとしよう」
今の私はら彼女の肩に手を乗せるどころか隣へ立つことすらできない。だからせめて、言葉に、声に、誠実さが伴うようにする。
その思いが通じたのかはわからないが、彼女は泣くのを止めて顔を上げた。
「……ありがとう。じゃあ、契約成立ね」
彼女の表情は、凛としたものだった。
*
「……さて、どうしたものか」
彼女が話した永久指針のある場所へ行くのは簡単だ。おそらく、いくつかある中から海軍本部に一番近い場所を選んでくれたのだろう。拠点がある場所も……まァいいだろう。難しい場所ではあるがたどり着くことはおそらく可能だ。
問題はその後だ。この世界で――オペオペの実の能力を求めて争いが起きている世界で彼を安全に保護できる場所など無いに等しい。
もっとも、全ての争いがそれに起因しているわけではない。
だが、オペオペの実の情報を元に人が集まれば争いが起こる。争いが起こればその場所に損害が発生する。何度も損害が発生すれば国は貧困に陥る。国が貧困に陥れば……もっと大きな争いが、戦争が始まる。
そもそも、情報だって正確なものじゃない。というより全て間違っている。だが、それがわかっていたとしても多くの人が手を伸ばすだろう。それくらい魅力的なのだ……不老手術、というものは。
あァ、今になってかつて私にあった権力が惜しくなる。老体には重いものだったが、彼を守る盾になり得ただろう。
そんなことを考えてしまい、首を横にふった。何を考えているんだ、私は。もしもをあのとき考えるなんて酔狂だとおつるちゃんに怒られてしまう。
……ふと、何か解決できるような気がしたがその考えはすぐに消えてしまった。何か思い出せるような気がしたが何を思い出そうとしていたのかわからなくなってしまった。
――ぷるぷるぷる
突如鳴った電伝虫に思考を止められてしまったからだ。
わざわざ私にかけられるということは、私自身でないと対処できない案件ということだ。しかも、この電伝虫は……。いや、意味のないことを考えるのはよそう。それよりもすぐにでるべきだ。
「お・か・き~」
『あられ』
予想通りの返答と声に少し安堵した。少なくともこの連絡先が何者かに知られたわけではないようだ。
気持ちを落ち着けるために深呼吸をして、相手に呼びかけた。
「……何があった。ドレーク」
この相手は元将校でありSWORD隊長……本来なら私へ連絡が来るわけがない人物だった。コビーではなく私ということは余程の事態なのであろう。
『実は……カイドウではなくジョーカーについてお伝えしたいことがあります。ジョーカーが古代兵器を捜索しているという情報を入手しました』
「なっ……ジョーカーが、か……?」
『ええ……わざわざジョーカー本人がワノ国にやって来て古代兵器について聞いていました。そのとき、初めてジョーカーの正体について知りました。センゴク大目付……いえ、元元帥。全て知っていましたね』
「……そのためのSWORD隊だとだけ言っておこう」
スパイという臨機応変な行動が必要な任務を行っているだけあって彼は非常に頭が切れる。彼の言う通り、私はジョーカーの正体が誰であるかを知っている。そして、政府とワノ国との仲介を行っていることも。
業腹だが、海楼石の複雑な加工を行うにはワノ国の技術が必要なのだ。ジョーカーが……ドフラミンゴが、七武海にいるのはそういう理由も一部含まれている。仲介できる存在を手元に置いておきたいと、政府は考えたのだろう。
「お前が動く分において海軍は干渉しない……助力もできないがな。それより、古代兵器について何か情報はあるか?」
『……ずっと話を聞いていたわけではないのですが、名称だけならわかりました。確か――』
――ヘルメス、と。そう言っていました。
ヘルメス
その言葉を聞いた瞬間、電伝虫が鳴る前に思い出そうとしていたのか、何をどうやって解決しようとしていたのか、それらがまるで靄が晴れるようにハッキリとした。
元帥という立場であったとき、知ろうとは思わずとも知ってしまった知識がいくつかあった。その一つが古代兵器であるヘルメスについてだった。
瞬時に物を運べる移動装置
こことは違う世界へ送れる機械
詳細はともかく、そう謳われたものだったのは確かだ。利便性を追及した結果生まれたのだろうと推測はできるが、本当のところはわからない。
ただ、この世界から彼を逃がすためにそれは最適なものであるということは明確だった。
『あの、これ以上離れると疑われますので……』
忙しい中何とか時間をつくって報告をしにきたのだろう。ドレークが少し申し訳なさそうにそう言ってきた。
「わかった。報告感謝する。これからもよろしく頼む」
今気づいた事実に少しばかり気を取られながらも、電伝虫の連絡を切った。彼に私の混乱が気づかれてないと思いたいが……どうだろうな。ヘルメスと聞いた瞬間雰囲気が変わったことに気づいたかもしれん。
「さて……何か勘づく前に動かねばな」
ドレークは優秀だ。だからこそ、この件には関わらせたくない。
この件は半分私の個人的なわがままのようなものだ。……老人の駄々に若者を付き合わせる訳にはいかない。
そう思い、腰を上げてからしばらく経った。他の人から見ればさしたる日数ではないかもしれないが、私には本当に長く感じられた。
だが、それだけの時間をかけた価値はあったとはずだ。
今の私の手には永久指針と"ヘルメス"があった。
*
永久指針は空島を指していた。
空島に行く方法はいくつかあり、どれも容易いものではない。だが、私にとってそれはさしたる問題ではなかった。
たどり着いた先には、空島には似つかわしくない城があった。
見聞色で探ると覚えのある気配が二つ、その中でひときわ弱いものがあった。それはトラファルガー・ローのものに違いなかった。
そのことに気づいた瞬間、私は即座にかけだした。……おそらくだが向こうも私の存在気づいている以上、こうするより他になかった。
幸運にも、さしたる障害なく彼がいるであろう部屋にたどり着けた。鍵はかかっていたが、壊すことは容易かった。
白
部屋の先で、一番先に目がついたのは白だった。
白い壁、白い床、白い天井
ありとあらゆるものが白で構成された部屋
無音のはずなのにうるさい空間
そこが彼のいる場所だった。
何もない部屋だが、中央に一つだけ吊るされているものがあった。今でなければ……例えば芸術品として見ることになっていたら、息をのんでしまいそうなほど白く、美しく、そして大きい鳥籠だった。
その籠の中に、彼はいた。
「――っ!」
気づいたときには縛るものを全て壊し、彼を抱きかかえていた。
あんなものを見せられて、耐えられるわけがなかった。あんな……狂気の沙汰を見せられて、耐えられるわけがなかった。
ふと、天竜人の奴隷の方が幾分かマシなのでないかとよぎってしまった。それがどうしても赦せなかった。
傷だらけの身体を抱え直す。身長のわりに軽い身体は右腕が無いだけではないだろう。奥歯を噛みしめて、ここから出るために走り出した。
「……な、ぜ」
虚ろな瞳がゆっくりとまたたき、こちらの姿をとらえた。まともな状態ではないが、意識があることに安堵した。
「私のことを知っているのか……と驚くには少々有名すぎたな。
……昔の話をしよう。ある日海兵が一人死んだんだ。そいつは私にとって特別な男だった。ガキの頃に出会い……息子のように想ってた……。そいつの名はロシナンテ。……話はベビー5から聞かせてもらった」
「コラ、さんの?」
「コラ?……あァ、確かコードネームはコラソンだったな」
足を止めずにそう返すと、彼は顔を歪めた。
「ごめん、なさい」
そして、絞り出すような声で私に謝り始めた。
「え?」
「おれは、コラさんに生かしてもらったから、『命』も『心』ももらったから、だから、コラさんの本懐を遂げようとした、のに……おれが、全部、全部、壊した。おれのせいで、ドレスローザは、コラさんが、守ろうとしたものが……。
ごめんなさい。ごめん、なさい」
それはあらゆる感情が滲み出る謝罪だった。愛ゆえの罪悪感だった。
「お前は何も悪くない。ロシナンテもそんなことで恨みなどしない。悪いのは全て……」
そこまで言ったところで気配が迫っていることに気づいた。噂をすれば影、といったところだろうか。
「掴まっていろ」
彼が首もとを掴んだと同時に、攻撃が来た。
覇気がぶつかり合い、衝撃が起きる。この攻撃が誰によるものかは明白だった。
「……クズが」
つい漏れ出た本音をドフラミンゴは聞き逃さなかった。口元を歪め笑い始める。
「フッフッフッ……そのクズに対して今さら何をしに来た。七武海に手を出すのはご法度じゃねェのか?」
「無論、彼を助けに来た」
即座に返すと、笑うのをピタリと止めた。
「助ける?……何を言っている。そいつはおれのもんだ。頭のてっぺんから爪の先まで、他の誰かが自由にしていい権利はねェ!」
「……………………!!ふざけるなァア!!!」
あまりにもバカげた話に頭が回らなくなった。
「彼は誰のものでもない!!彼は自由だ!!!」
当たり前のことだ。例え自由を奪われることがあったとしても、それは法と秩序があってのもの。断じてこのような私利私欲によるものではない。
……おんなじ、と小さく呟くのが聞こえた。ローは何故か涙を流していた。
一方、ドフラミンゴも表情を変え、臨戦状態へと移行していた。もはや何かを語るつもりはないらしい。
「まさか、ローを庇いながら戦うつもりか?ずいぶんとナメられたものだな」
「私の方こそ甘く見られたな……そもそもこの戦い、私の勝ちだ」
庇いながらだと少々分が悪いのも事実だ。本来ならもっと安全なところで使いたかったが、致し方ない。彼をおろし、アレのスイッチを入れた。
『――ヘルメス、起動を確認しました。転移対象を選択してください』
「彼を……トラファルガー・ローを頼む」
『対象、把握しました。転送までの保護を実行します』
棒読みで人間味を感じない声と共に、彼の周りに球状の壁が生じた。バリアのようなものだろう。これなら、多少の衝撃が来ても問題ないだろう。
「貴、様……!」
「あァ、そういえば探していたらしいな?この古代兵器"ヘルメス"を。何をするつもりなのかは知らんが、貴様のような海のクズの手に渡らなくて良かったよ」
自分の身に何が起きたのかを理解すると、彼は表情を変えて壁を叩いた。……本来なら話してから行うべきものを無理やり始めたのだ。せめて彼を安心させるために微笑みかけてから、彼の前に立った。理由は言うまでもない。
迫りくる糸の連撃に体術。それらを覇気で、あるいは能力で受け止める。決して避けることはしない。そもそも、守るための戦いには慣れているのだ。
『転送対象の情報の把握、終了しました。転送先の条件を指定してください。あなたは何を望みますか?』
しばらく沈黙していたヘルメスが再度語りかける。本来ならローに言わせるべきところだが、彼はそれを聞いても壁を叩くばかりで何も答えようとはしなかった。
彼の返答を待ちたいところだが、ドフラミンゴに適当なことを言われたらかなわない。それに……私の望みなら簡単だった。
「ローを幸せにしてくれ」
戦いながら、口を開く。
「ローが心から笑顔になれるようにしてくれ。真っ当に愛してくれる人に囲まれるようにしてくれ。例えこの状態が一番辛くとも、さいごには『幸せだった』と言えるようにしてくれ」
『条件、把握しました。転送先を確定次第、転送を開始します』
「……どうして」
ローが壁を叩くのを止め、弱々しく問いかける。表情こそ見えないが、苦しそうにしていることだけは感じられた。
「どうしてここまでしてくれるんだ。コラさんが死んだのはおれのせいなのに。……おれが、コラさんを殺したような」
「そんなの当たり前だ」
……それすらもわからなくなるほど痛めつけられたのか。
「ロシナンテが、私の息子が、命を懸けて愛した存在だ!私が愛さなくてどうする!」
「!!!」
息をのむのが感じられた。もう何か言うつもりはないらしい。後ろから嗚咽だけが聞こえていた。
「息子ォ?……ふざけるな。ふざけるなふざけるな!!
誰の息子だ!ロシーはおれの弟だ!!」
「ものわかりが悪いな。なら、何度でも言ってやろう。
ロシナンテは私の息子だ。他の誰が何と言おうと、な」
私がそう言い切ると攻撃は激化した。私に怒りが向くのならそれでいい。そもそも、私の目的は――
『転送先、確定しました。転送を開始します。転送完了まで残り1分』
――彼を、トラファルガー・ローを逃がすことだ。
「……!!」
向こう側も私がやらんとしていることに気づいたらしい。それを聞いた瞬間、顔色が変わった。
今彼を取り返すのは無理だと悟ったらしい。ドフラミンゴが私から距離を置いて口を開いた。今すぐにでも取り押さえたかったが、糸のせいで近づけない。
「ロー!よく聞いておけ!どこへ逃げようと、おれはお前を絶対に逃がさねェ!!この程度で自由になれたと思うなよ!!!」
『転送完了しました。――オーバーロードが発生。システムを終了します』
ローの姿が消えるのと、二つの声は同時だった。
……今の声は聞こえていたのだろうか。どうか聞こえないでいて欲しい。それは彼が幸せになるには不要なものだ。
「フッフッフッ……おれがこの程度で諦めると思ったか?だとしたら残念だったな。ヘルメスを奪ってローのいる所へ行けばいいだけの話だ」
「安心しろ……私もそう思ってない。それに簡単に奪えると思ったら大間違いだ」
次の瞬間、覇気がぶつかり合った。