今日も呪いは解けず
ヤンデレifで藍染が平子を眠らせているパターン
娘ちゃんの名前は撫子を採用
こちらの続き
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目を覚ますと見覚えのない白い部屋にいた。少なくとも記憶にある限りでは見たことのない部屋だ
「私、なんでこんな所に……?」
独り言を呟きながら眠りに落ちる前のことを思い出そうとするが靄がかかった様にうまく思い出せない。
部屋の中をざっと見渡してみる。寝かされていたベッドと出入り口らしい部屋以外には何もない真っ白な部屋だ
少なくともこの部屋の中にいるだけでは状況の把握は難しいだろう。
部屋の外を探索してみるべきだとドアノブに手をかけて気づく。外に何かがいる
「どうしよう……」
虚に近いが虚とも違うような気配にどうすべきか少しばかり逡巡していた隙に扉が外から開かれる。
隠れる暇も場所もなくそれと対面する。それは黒い髪と白い肌をした痩せた男の姿をしていた。
胸に開いた穴と頭の左側に角が生えた仮面のようなものが無ければただの人とも思えたかもしれない。
「……目が覚めたようだな。体や精神に不具合は?」
それは私が起きていることを認識したのかまるで体調を気遣うような言葉をかけてくる
「言葉が理解出来ていないのか?お前も同じ言葉を使っているはずだが」
黙っている私に言葉が理解出来なかったと思ったのかそれは言葉を重ねてくる
咄嗟に大丈夫だ、と答える。少なくともそれには敵意も殺意もなさそうだ。
「そうか、では少し待っていろ」
私の返答を聞くと、部屋に入ることなく扉を閉めて部屋から離れていく
今のうちに逃げ出すべきだろうかと思ったが先ほどの男が私よりも遥かに強いだろうことが待っていろという言葉を無視することを躊躇させる
結局部屋から逃げ出すことも出来ずに数分程経った辺りで慣れ親しんだ人の霊圧が近づいてくるのを感じる
その霊圧が扉の前で止まる。ノックの音が響く。
どうやら私は未だに混乱したままのようで咄嗟にどうぞ、と許可を出してしまう。
部屋に想定通りの人が入って来るが、その姿は想像していた姿とは違っていた。
眼鏡を外して髪をかき上げて、服装も死覇装とは違う白い服を纏っている。
「気分はどうだい?君は三日も眠ったままだったんだ」
「三日……?」
懸けられた言葉が意外でついその言葉をついオウム返ししてしまう。
私はどうしてそんなにも眠ってしまっていたのか、父なら知っているかもしれないと思い尋ねてみる
しかし、父は質問には答えずに合点がいったかのように言葉を零す。
「ああ、大人しいと思ったら忘れてしまっているのか」
顔を合わせたら飛び掛かって来るかと思っていた、と軽口の様に続けられた言葉に首を傾げる
何故そのようなことを父は思ったのだろう。私が忘れてしまったらしいことは一体何だったのかと不安げに父を見る。
「これを見れば思い出すかな?」
何かの冊子を渡してくる。受け取って中身を見ていく……どうやら研究資料兼日記のようでよく分からない言葉が並んでいる
その中で見慣れた名前が目に入る。それを読んでいくうちに頭の中の靄はすっかり晴れてしまったようであの時何が起きたのかが蘇ってくる
「あ……」
思い出した。思い出してしまった。
父は母のことを眠らせていて、ルキアちゃんを殺そうとしていて……待て、先ほどこの男は私が三日も眠っていたと言ったはずだ
あの後、ルキアちゃんはどうなった?母はどうなった?私はどうしてこんな所にいる?
「ルキアちゃんは……?私はなんでこんな所に……?」
なんとか絞り出した声は掠れていた。反対に目の前の男は楽し気に声を弾ませて状況を教えてくる。
ルキアちゃんは旅禍によって救出されたのだとか、ここは虚圏の虚夜宮という城なのだとか
────この人が仲間と共に尸魂界を裏切ったのだとか。
ルキアちゃんが無事だということに安堵する一方で自分の現在位置が虚圏だということに青褪める
虚圏、尸魂界が死神の世界ならそこは虚の世界で、(私が知らないだけかもしれないが)行き来する術は存在しないはずだ。
つまりここから脱出できたとしても帰る方法が無い。そのことは私を意気消沈させるには十分だった。
それでもこれだけは聞いておかなければならないのだと、気力を振り絞って言葉を発する
「どうして?」
「どうして、とは?尸魂界を裏切った理由なら───」
「違う」
思わず遮ってしまった。私が聞きたいことはそうじゃない
「そのことも気になるから違うって言うのも間違いだけど……私が今聞きたいことはそのことじゃない
「では、何を?」
「どうして、お母さんに酷いことしたの?お母さんのこと愛していたのは嘘だったの?」
母に触れる手も母を見つめる目もいつだって愛に満ちていた……はずなのに。
以前までなら確信できた父の愛も嘘だったのかもしれない自信を失いつつある。
「まさか、私はあの人のことを愛しているよ。もちろん撫子、君のこともね」
「後ろから切って、ずっと眠らせてる。それが愛している人にする事なの?」
「撫子もいずれ分かるときが来るさ」
頭を撫でられる。いつもの優しい手に優しい声で、いつもと違って理解出来ないことを言う。
「分からない、そんなのが愛なら分からない方がいい!出てって!」
そんな愛なんて理解したくなくて拒絶すると父は肩を竦めるとまた来ると言い残して部屋から去っていった。
膝を抱えてベッドに座り込むと目から涙が零れ落ちてくる
この涙と一緒に記憶なんて全部流れ落ちてしまえばいいのに
☆☆☆☆☆
部屋に戻り、大切な人の眠るベッドの脇に腰かける
100年変わらずに眠り続ける宝物、私の妻で、あの子の母で、かつての上司で────そして、唯一私の本当に気付いた人
「『それが愛している人にする事なの?』か」
さらさらと流れる金色の髪を弄びながら先ほど娘に言われた言葉を反芻して苦笑する。
これが私の愛なのだ、と返すべきだっただろうかと考えて、あの子の様子から余計に激しい拒絶を見せただけだと即座に否定する。
「あなたもこれが愛ではないと言うのでしょうか?」
私は私の望みを捨てることは出来ないし、彼女はどこまでも正しい人だ。それは体を重ね、婚姻し、子供を産み育てても変わることはなかった
あのまま時を重ねていればいつか私たちは敵対し、私は彼女を殺していただろう
故に私は彼女を眠らせることにした。二度と目覚めることが無くとも私の元から失われるよりはずっと良かった。
「ですが、これが私の愛ですよ」
眠ったままの彼女は起きていた時とは打って変わって非常に静かで呼吸に合わせて胸が上下していなければ死んでいると錯覚するほどだ。
薄く開いた唇に食らいつき舌を差し入れる。舌を絡め、歯列をなぞり、呼吸を奪いつくすように口の中を蹂躙する。
西洋の御伽噺であれば眠り姫は目を覚ましていただろうに、そんなことを考えつつ口を離す。
するりと頬を撫で、今日も変わらぬ愛を囁く。
「愛していますよ、平子隊長」
名残は惜しいが今日はまだやるべきことがあるため仕方なく別れを告げて部屋から退出する
次に訪れるまで部屋の中は再び時が止まったかのように静まり返るのだろう。そう思うと口角が上がらずにはいられなかった。
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人物紹介
藍染撫子:
娘ちゃん、物心つく頃に母が昏睡状態になったので標準語
ヤンデレ予備軍だが倫理観はあるので父親は理解不能な生物
藍染惣右介:
父親。妻が大好き、妻優先なだけで娘もとてもかわいがっている
倫理観は未実装のヤンデレ
平子(藍染)真子:
母親、今回も眠ったまま。
ヤンデレに負けない健全な精神を有している