珠は握りしめたら砕けてしまった

珠は握りしめたら砕けてしまった


ヤンデレifで藍染が平子を眠らせているパターン

娘ちゃんの名前は撫子を採用


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数年の歳月を経て、霊術院を卒業した私は久しぶりに実家に帰って来た


長期休みの時期は勿論、瀞霊廷内にある実家は行こうと思えばいつでも行くことが出来た。

ただ、なんとなく家には戻りたくなくて友達を理由に帰省を避け続けてしまったが、こうして学校を卒業してしまった以上はしょうがないと数年ぶりに実家の門をくぐったのだった


そろそろと足音を立てずに居間まで辿り着いた所で漸くすやすやと眠っている人に気が付いて声をかける


「ただいま、お母さん」


長い金色の髪の女性──────母に声をかけるが起きる気配は欠片もない

分かっていたことだ。なにせ彼女は約100年間、眠り続けているのだから

理由は不明だ、聞いた話では任務先で傷を負ってそれ以降目覚めなくなってしまったのだとか


当時は隊長格が複数欠員を出していたらしく護廷十三隊全体が浮足立っており、

そこに重なるようにして倒れた母のことは当時はただの大怪我だと思われていたことも相まって後回しにされてしまったらしい

結局、事態に気づいた時には痕跡は何もかも消え去っていて原因不明の昏睡状態としか判明しなかったそうだ


生まれたての子供だった私には母との思い出はほとんどなく、わずかに残った記憶と父の語る母が私知る母の全てだ

なんとなく母の寝顔を見ていると後ろから足音が聞こえてくる、そちらの方を振り向けば思い描いた通りの見慣れた人の姿


「ただいま。お父さん」

「おかえり、撫子。それから卒業おめでとう」


祝いの言葉に礼を言って部屋に戻る。これ以上母のいるあの場所で父と顔を合わせていたくなかった

父母が嫌いなわけではない、だけれど物心つく頃からどうしてか母を見る父の目に漠然とした恐怖と不安を覚えていた

どうして、そんなに楽しそうなのだろう。どうして、そんなに満足そうなのだろう

誰よりも側にいた父のことが理解できない生き物のように思えて怖かった


分かることはただひとつ、父が母を愛していること

それさえ分かっていればいいじゃないかと違和感を告げる本能から目を背ける。背け続けている


もうすぐ夜が来る。夜が来れば父は慣れた手つきで母のことを寝室に運んで私を食事に誘うのだろう

ああ、いっそのこと世界なんて壊れてしまえばいい。そうしたら私は父のことを素直に愛せるかもしれないのに









警報が鳴り響く、旅禍が侵入したらしいがそんなことは些細なことだ。

だって全てがおかしいのだから、今更一つおかしいことが追加されたとしても不思議ではない

友人、朽木ルキアの処刑が決まったことも、その処刑が何かに急かされるようにどんどん早まることも……そして、父の様子も


父は何かを知っている。その直感に従って実家へ走り、入らないように言われていた書斎に入る

今は隊首会が開かれているはずだ、だから仮に父が気づいたとしても止められはしないだろう


何も見つからないでほしいと願いつつ部屋を片っ端から荒らして調べていく。

しかし、その願いとは裏腹に一冊のノートが見つかった、見つかってしまった


ぱらぱらと中身を検めていく。それは何かの研究資料兼日記の様だった

虚化、破面、崩玉……よく分からない言葉の羅列の中にふと見慣れた名前たちが目に入る。

心臓が嫌な音を立てる、脳裏に浮かんだことを否定しようと読み進めてしまう


「……おかあさんを、ねむらせているのは、おとうさん……るきあちゃんを、ころそうとしているのも……おとうさん」


理解した事柄が呟きとして口から漏れ出ていく

同時に「ああ、だからか」と納得もした。彼にとって眠ったままの母は文字通り掌中の珠だったのだろう



「──この部屋には入らないように、と言いつけていたはずだったが」


不意に声が響く、咄嗟に扉の方を振り向けば見慣れた父の姿

不在のはずの人が現れて困惑している私を尻目に、不自然なほどいつも通りの笑顔を浮かべた父が口を開く


「君はいくつかミスを犯した」

「ひとつ、誰にも相談しなかったこと」

「ひとつ、この部屋に留まってしまったこと」

「ひとつ、……」


まるで教師がテストを採点するかのようにひとつひとつ私の行動のミスを挙げていく


「ああ、けれど。こうして真実に辿り着いたことは称賛に値するよ。

完璧に振舞っていたつもりだったがいつ気づいたのかな?」


そうして全てのミスを挙げ終えたのだろうか、最後にそう締めくくった


「いつ……?そんなの決まってる、私がお母さんのお腹の中にいるときからだよ」


震えそうになる体を無理やり抑えつけて発した言葉を聞いて父──────いや、目の前の男は一層笑みを深める

それと同時に強烈な虚脱感に襲われて床に倒れ伏す。油断していたつもりはなかった、それなのに全く知覚できなかった。


「君は本当に、あの人によく似ている」


薄れゆく意識の中、楽しそうな男の声が微かに聞こえた気がした


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この後、藍染が娘ちゃんをどうするのかはお好みで


人物紹介

藍染撫子:

 娘ちゃん、物心つく頃に母が昏睡状態になったので標準語

 勘の良さは母親譲り

藍染惣右介:

 父親、現隊長。妻が大好き、妻優先なだけで娘もとてもかわいがっている

 この後大暴れして天に立つ予定

平子(藍染)真子:

 母親、元隊長。友人たちの集団失踪により人手不足となったため

 予定より早く復帰した所を後ろからばっさりとやられた

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