マハーバーラタ神話大戦 その1

マハーバーラタ神話大戦 その1


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マシュ

「今回のレイシフトでは、空から落ちることが無くてよかったですね」

ヴィヤーサ

「えっ、たまに空から落ちることがあるのかい?」

カルナ

「ああ」

ヴィヤーサ

「そうなんだ、特異点の攻略は大変なんだね(マスターを守るためにはこのマントラとあのマントラが良さそうだ。あ、でもサーヴァント達も落ちたら痛いよね。落下の衝撃を抑えるためには……)」

チトラーンガダー

「それで、ここはどこなんだ? 私はマニプルから出たことは無いから、土地勘がなくて分からんのだ」

ユッダ

「以前ドゥリーヨダナに聞いた話ですけど、確かここがマツヤ国だったはずです」

スヨーダナ

「五王子たちがぼうめいしている国だな!」

アルジュナ・オルタ

「そうですね。……この私にとっては記憶ではなく記録になっていますが、かつて訪れた王国の一部で間違いないかと」

マシュ

「……そして、シオンさん達の話では、パーンダヴァとカウラヴァの和平交渉が行われているとのことでしたが…………」


戦士

「俺はユディシュティラ様の下につくぞ! お前だって聞いただろう、忘れられないだろう! 13年前のカウラヴァたちの狼藉を!」

戦士

「ああ聞いたさ。忘れられないさ! でも……俺達が妻たちを、子供たちを養えているのはドゥリーヨダナに充分な財を貰ったからだろう!」


ぐだ

「少し揉めてるみたいだね」

スヨーダナ

「大きくなるようなら止める、でいいのか?」

チトラーンガダー

「ああ。あれは彼らの戦いだ。戦士の戦いに横槍を入れることは誰であろうとも許されない。……だが、彼らが関係の無い者を巻き込むのであれば、マニプル王女として見過ごせないからな」

アルジュナ・オルタ

「ええ。目の前の悪は見過ごせません」

ユッダ

「あ、マスター、マシュ。私は顔を隠して、ちょっと情報収集をしてきますね」

カルナ

「オレもユッダに同行しよう」

マシュ

「分かりました。カルナさんもこちらの布を被って素性を隠してくださいね」

カルナ

「承知した」

スヨーダナ

「そうか、ここには生きているカルナがいるからか!」

アルジュナ・オルタ

「現地の彼らに混乱をもたらすのは避けるべきですからね」

ぐだ

「二人ともありがとう。気をつけてね」

ユッダ

「では、行ってきます」

ヴィヤーサ

「マスター。私も、ハスティナープラでドリタラーシュトラと一緒にドゥリーヨダナを説得しているここの私と接触して、協力してもらえないか話をしようと思うのだけど……」

マシュ

「で、ですが、今行くのは危険なのではないでしょうか」

ヴィヤーサ

「危険が迫ってきたら、カルデアの通信を真似てマスターに知らせるから大丈夫だよ」

スヨーダナ

「そうだ、ヴィヤーサは泣いてばかりいるが、すごく強いバラモンだからな!」

ヴィヤーサ

「今回こそ、かっこいいところを見せて汚名返上したいからね」

アルジュナ・オルタ

「私は霊体化してマスターとスヨーダナの傍にいましょう。アルジュナがこんな姿になっているのを見られれば、混乱を招きます」

チトラーンガダー

「そうだな。……ふふ」

スヨーダナ

「かあさま? どうしたのだ?」

チトラーンガダー

「嬉しいだけだ、気に病むことはないぞスヨーダナ」



マシュ

「それでは、それぞれの情報交換をしましょう」

チトラーンガダー

「あの戦士達だが、あの騒ぎがパーンダヴァとカウラヴァの一部の戦士達のボヤ騒ぎに発展してしまってな……」

スヨーダナ

「かあさまが離れた場所から矢を放って、やっと落ち着いたぞ! アルジュナに叱られたと思って逃げていたのがこっけいだった!」

アルジュナ・オルタ

「実際、アルジュナなら近くにいましたからね。私ですが」

ヴィヤーサ

「ふふ、流石はアルジュナの妻だね。まさかアルジュナ以外にあのような矢を放てる戦士がいるとは思わなかったよ」

チトラーンガダー

「……! はい、最近はアルジュナがよく戦闘訓練の相手をしてくれるので、色々教わっているのです」

アルジュナ・オルタ

「そうですか、真なる私に頼んでいるのですね」

チトラーンガダー

「貴様はあまり私が占拠してしまうとスヨーダナに悪いからな……」

アルジュナ・オルタ

「なるほど……」

ヴィヤーサ

「確かに、そうだね」

ユッダ

(まあ、この戦闘狂の女の子と戦えるのはアルジュナくらいしかいないよなぁ。全身ズタボロになってもニッコニコ笑って弓を番えるし、腕を飛ばされても足で弓を射ようとするし……)

ヴィヤーサ

「でも、猫耳の方のアルジュナも君と過ごしたそうにしているよ。チトラーンガダー」

カルナ

(あれは猫の耳なのか……?)

チトラーンガダー

「……確かに最近は、自分の武術を極めるのに専念しすぎていました。今後はスヨーダナにも我が武術を授けようと思います。……アルジュナ。私一人ではスヨーダナの限界がいまいちわからん。どうか私達の様子を見ていてくれ」

アルジュナ・オルタ

「! わかりました。スヨーダナも今やカルデアのドゥリーヨダナ属のサーヴァントの中では古参です。特異点への同行を求められる頻度も高くなるでしょうし、そのためには自分の身を守る力も必要でしょう。私が様子を見ていられる時は、頼みます。チトラーンガダー」

スヨーダナ

「えぇ…………(少し嫌そうな顔だが楽しそうな気持ちが口元に現れている)。話を戻すぞ! それからこれはマスターと一緒に宮殿に入ろうとしたのだが、衛兵たちに見つかって追い払われてしまった」

ユッダ

「そりゃそうでしょうね。……コホン。ではこちらも報告を。全土が戦争の準備をしていて、ピリピリしていました。いくつかの国の軍がクルクシェートラに向かうのも確認できましたね。移動していたのはカウラヴァの軍勢ですが」

カルナ

「ああ。オレのアンガ国の軍勢も、シャクニのガンダーラ国の軍勢も、ジャヤドラタのシンドゥ国の軍勢も、みなクルクシェートラに集結し、午後からは訓練を行っていた」

チトラーンガダー

「パーンダヴァの軍勢はいなかったのか?」

ユッダ

「マツヤ国の様子を遠目で見ただけですが、マツヤ国の軍勢も戦闘訓練に励んでいましたね。マツヤ国最強の将軍キーチャカが五王子の妻ドラウパディーに暴力を奮ったせいでビーマに肉団子にされてしまったから、今のマツヤ国ははっきり言ってしまうと戦力不足です。ヴィラータ王は老齢だし、王子たちもサーティヤキには到底及びません」

ぐだ

「ヴィカルナからも名前が出ていたけど、サーティヤキって誰?」

マシュ

「ヴィシュヌの化身クリシュナさんの親友で、ヤーダヴァ族の戦士です。クルクシェートラの戦争では、パーンダヴァ方では五王子の皆さんとクリシュナさんと、そしてサーティヤキさんだけがアシュヴァッターマンさんの夜襲から逃れて生き残りました」

アルジュナ・オルタ

「それなりに強い戦士であったと思います」

カルナ

「そのサーティヤキだが、自身の軍勢を連れてマツヤ国に入り、共に戦闘訓練を行っていた。戦争は不可避だと、クリシュナに従ってばかりの男の頭でも理解出来たらしい」

ユッダ

「戦争になったのはドゥリーヨダナのせいですけどね。まあ、機構的には今の状況は最高ということで私からの報告は終わります。ちゃんと戦争が起きそうなので嬉しいです」

マシュ

「では最後に、そこでしわしわになっているヴィヤーサさん……。お願いします」

ヴィヤーサ

「そうだね……。現地の私はすぐに私のことを信じてくれて、ダウミヤやナーラダのもとに案内してくれたよ」

スヨーダナ

「ダウミヤ? ナーラダ?」

アルジュナ・オルタ

「ダウミヤはパーンダヴァ五王子が最初の放浪生活をしている時からパーンダヴァと共に行動しているバラモンです」

ユッダ

「最初の放浪? ああ、ドゥリーヨダナが燃えやすい家を作って放火して、五王子とクンティーは無事に逃げおおせたけど公には死んだ扱いになっていた時の話か……」

アルジュナ・オルタ

「その放浪生活の中で、ガンダルヴァの王チトラセーナと知り合い紹介されたバラモンがダウミヤです。ダウミヤは骰子賭博で五王子が追放された後も、マツヤ国での一年間の潜伏生活を送っていた時以外は常に五王子に付き従っていました。戦後ユディシュティラが戴冠した後は、クル国専属の司祭になった人物です」

チトラーンガダー

「ダウミヤとはそのような方であるのだな。それで、ナーラダとはどのような方なのだ?」

ヴィヤーサ

「ナーラダは、三界の秘密を全て知っているバラモンだよ。普段はあらゆる場所を旅していてね、今はサーヴァントの私が来たのを察してハスティナープラに来てくれて、現地の状況を教えてくれたんだ」

アルジュナ・オルタ

「では説明をお願いします。私はマスターとスヨーダナに戦士たちの矢が届かぬよう霊体化しつつ守っていたので、マスターが見たものしか知らないのです」

ヴィヤーサ

「任せて。今はみんなの報告にある通り、和平交渉の傍らで戦争の準備が進んでいる状況だよね。それだけなら良かったのだけど……」

チトラーンガダー

「何かあるのですか?」

ヴィヤーサ

「ナーラダが言うには、どうもナーラダの目でも十分に把握しきれない“何か”があるということなんだ」

ユッダ

「三界の秘密を全て知るバラモンが、知ることが出来ない……? 絶対とんでもなくおかしいですよこの特異点」

アルジュナ・オルタ

「まずいですね。真なる私やカルデアで待機している皆に伝えましょう」

ヴィヤーサ

「ありがとう、アルジュナ。ああ、それと。十中八九それに関係することなんだけど、どうにも戦士たちの小競り合いが頻繁に起こっているようでね」

スヨーダナ

「これも今日見たぞ! あのような感じか?」

ヴィヤーサ

「うん、そうだよ。中にはパーンダヴァ同士、カウラヴァ同士でも剣を交えてしまう場合もあるみたいなんだ」

ユッダ

「私達は見なかったんですが……」

カルナ

「オレ達が見たのは軍勢という森だ。お前の目では、森を俯瞰した時木々の一本一本までは観測出来まい」

ユッダ

「え、カルナは分かってたってことですか?」

チトラーンガダー

「流石、生前は弓の名手であった男だな」

カルナ

「ああ。一人の男が彼らを諌めて止めていたからオレが手を下すまでもなかったが」

マシュ

「えっ、一人の男性……といいますと?」

ぐだ

「同一人物なの?」

ヴィヤーサ

「うん、カルナの言ったことはナーラダの言っていた通りだね。最近、一人の素性の分からない男が戦士たちの諍いを止めるために奔走しているとのことなんだ」

マシュ

「その男性が何かを知っている可能性が高いですね……」

ぐだ

「よし、会いに行こう!」

チトラーンガダー

「賛成だ。私やスヨーダナ、ユッダといったこの時代に詳しくないメンバーを抱えている以上、現地に詳しい者は一人でも多い方がいい」

アルジュナ・オルタ

「それに、夥しい数の戦士たちの小競り合いを一人で解決していると聞きます。この地で召喚されたはぐれサーヴァントの可能性が無いわけではありません」

スヨーダナ

「ということは、カルデアに定期連絡をした後は一旦寝て、それからその男を探しに行くということか?」

ユッダ

「そうですね。マスターは睡眠が必要ですし」

???

「でも、その噂の男と既に合流した場合は……?」

全員

「!?」


 

チトラーンガダー

「何者だ?」(弓に手をかけながら)

プラティユーシャ

「僕はプラティユーシャ。一介の戦車乗りだよ。怪しい者かもしれないけど、危険な人じゃないから弓を下げてほしいな」

アルジュナ・オルタ

「プラティユーシャ……!!」

ぐだ

「どうしたの?」

アルジュナ・オルタ

「失礼。聞き覚えのある名前でしたので」

ユッダ

「私も聞いたことがあるようなないような……って感じの名前ですね」

チトラーンガダー

「浅学で申し訳ないが、私は初耳だ。教えてくれないか、アル……シュヴェータヴァーハナ」

※アルジュナ・オルタをアルジュナと呼ぶわけにはいかなかったので異名の一つの「シュヴェータヴァーハナ」と呼んだ。意味は「白馬を駆る者」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「はい。プラティユーシャは、インドラの従者であるヴァス神群の一人の光の神です」

スヨーダナ

「光の神、なのだな」

プラティユーシャ

「うん。僕の名前の由来はその神だね。でも、僕は普通の人間だよ。聖典に詳しい僕のお父様が名前をつけてくれたんだ。僕が生まれた時、ちょうど夜明けで世界が光り輝くようだったから、なんだって!」

ヴィヤーサ

「夜明けに生まれたのにプラバーサではなくプラティユーシャと名づけるとは、君のお父さんはなかなかにセンスがあるね」

ぐだ

「プラバーサ?」

ヴィヤーサ

「ああ、マスターは知らないんだっけ? じゃあここで、簡単にヴァス神群について話をしよう」

マシュ

「お願いします」

ヴィヤーサ

「さっきシュヴェータヴァーハナが言ってくれたように、ヴァス神群はインドラの従者の神々で、8人いるんだよ。水神アーパ、北極星の神ドルヴァ、大地の神ダーラ、火神アナラ、風神アニラ、月神ソーマ、光の神プラティユーシャ、そして夜明けの神で彼らのリーダー格のプラバーサだ」

チトラーンガダー

「月神ソーマ? チャンドラという月神もいたと思うのですが」

ヴィヤーサ

「うん。太陽神にスーリヤやヴィヴァスヴァット、サヴィトリがいるように、月神にもチャンドラとソーマがいるんだよ。もっとも、チャンドラとソーマは同じ神とみなしていいんだけどね。太陽神も、私が語った『マハーバーラタ』がマスターの生きる現代に知られるような形になった時代……紀元後5、6世紀にはスーリヤに統一されていたっけ」

スヨーダナ

「これが知る火神はアグニ、風神はヴァーユだぞ?」

ヴィヤーサ

「我々の神話では、神々の役割が被ることはたまにあるんだよ。風神なら、さっき言ったアニラとスヨーダナが言ってくれたヴァーユの他に、マルト神群やルドラという神々もいるからね」

カルナ

「ルドラの力を宿した武器なら、オレが持っていた。ルドラーストラという。宝具として持ち込んではいないから今は強力な武器としては使えんが。シュヴェータヴァーハナはヴァーヤヴィヤーストラというヴァーユの武器を使っていたぞ」

マシュ

「ルドラはシヴァの原形とも呼ばれる神です。風神のアニラは後に仏教に取り入れられて、十二神将の一人頞儞羅(あにら)大将として知られるようになりましたね」

プラティユーシャ

「……ブッキョウ? なんですか、それ?」

ユッダ

「おっと、この時代には存在しない概念だった……(小声)。プラティユーシャ、今のはなんでもないから忘れてもらって構いませんよ」

プラティユーシャ

「なるほど、分かりました。皆さん、博識なんですね!」

ぐだ

「あはは……(この時代を生きた本人たちだから、とは言えないな)」

マシュ

「先程ヴィヤ……ドヴァイパーヤナさんが教えてくださったヴァス神群の中に、確かに光の神プラティユーシャがいました。そして、夜明けの神プラバーサがリーダー格だと教えてくださいましたね。彼にまつわる神話はあるのですか?」

※ヴィヤーサをヴィヤーサと呼ぶ訳にはいかないので本名のドヴァイパーヤナで呼んだ。意味は「島」。母サティヤヴァティーがヤムナー川の島で出産したためそう名付けられた。なお「ヴィヤーサ」は「編纂者」という意味で彼がヴェーダを編纂したことが由来でついたニックネームみたいなもの。

ユッダ

「マシュ、ナイスアシスト!」

マシュ

「えっ?」

ユッダ

「話がマハーバーラタから逸れ始めてたけど、マシュのおかげで軌道修正が出来ました。そうですよね、ドヴァイパーヤナ」

ヴィヤーサ(ドヴァイパーヤナ)

「そうだね。ありがとう、マシュ。……何しろ、プラバーサの話から、君たちの知る『マハーバーラタ』が始まるからだよ」


ヴィヤーサ(ドヴァイパーヤナ)

「ヴァシシュタという徳の高いバラモンは、スラビという牝牛を持っていてね。この牝牛は不死の霊薬アムリタとともに生まれた牝牛で、平たく言うと聖杯のような力を持った牝牛なんだよ。その話を聞いたプラバーサの妻は、どうしてもその牛が欲しくなってしまったんだ。妻の話を聞いたプラバーサは、8人のヴァス神たちを連れてスラビを盗んでしまったのだけど、ヴァシシュタはすぐにそれに気づいて、8人が人間に生まれるよう呪ったんだよ。その8人は、別件で天界から追放されることになったガンジス川の女神ガンガーに頼んで、母になってもらうよう頼んだんだ。ガンガーは、ヴァス神たちの父になるのに相応しい王の妻になって、生まれたらすぐにガンジス川に流すことを約束したんだよ」

スヨーダナ

「ガンガー、なかなか酷いことをするな……」

チトラーンガダー

「全員流されてしまった……わけではないのでしょう?」

ヴィヤーサ

「そう。7人の子供たち……つまり、7人のヴァス神はガンジス川に流されて、すぐに人間としての命を終えて天界に帰ることが出来たんだけど、8人目のヴァス神は流されなかった。シャンタヌは、ガンガーを妻にする条件として妻の行動を決して咎めないという約束をしていたんだけど、妻の蛮行に我慢ならなくなったのか、8人目を流そうとするガンガーを止めたんだ!」

プラティユーシャ

「そんなことをしたら、最後のヴァス神が天界に帰れなくなっちゃうよ!?」

ヴィヤーサ

「ああ。しかし彼は、プラバーサの生まれ変わりだったんだ」

ぐだ

「あっ、奥さんに唆されて牛を盗んだ一人……!」

ヴィヤーサ

「そう! よく出来ましたマスター。プラバーサは、妻に唆されて牛を盗んだから、他の7人よりも罪が重くてね。地上で長い長い人生を送ってから死ぬ運命が定められたんだ。この子供はデーヴァヴラタと名付けられて、パラシュラーマの下に預けられたよ」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「デーヴァヴラタというと……あの方ですね」

カルナ

「ああ……だからあの男はクル国一番の実力者になったのだな」

マシュ

「そ、それってやはり──」

ヴィヤーサ

「…………そうだよ、マシュ。このデーヴァヴラタこそビーシュマ。父の再婚のために、未婚の誓いと純潔の誓いをして、クル国の長老となった男。……ある意味では、『マハーバーラタ』を始めた男とも呼べるね。ビーシュマの誕生にはヴァス神の存在が不可欠だから。何しろ彼は、ヴァス神のプラバーサの生まれ変わりだからね」

プラティユーシャ

「教えてくれてありがとう! 僕の名前って、ちょっと名の知れた神のものだったんだね」

※文章だけでは分かりにくいと思うので、簡略化した図を載せます。



ぐだ

「うーん……。牛を盗んだって、スケールが小さいように感じるけど……」

プラティユーシャ

「いや、決してそんなことはないよ異邦のあなた。僕達の社会において、牛は財そのものだからね。例えばつい最近、トリガルタ国とクル国が同盟を結んで、今僕達がいるマツヤ国を攻めたんだけど、その時に宣戦布告として王家が所有している牛を盗んだんだよ。つまり、牛を盗まれたら戦争になるのが僕らの社会常識だ。だからバラモンの牛を盗むなんて、とんでもない重罪なんだよ」

マシュ

「ありがとうございます、プラティユーシャさん」

カルナ

「マスター。理解したか?」

ぐだ

「うん。みんなが分かりやすく説明してくれたおかげだよ。そっか、ビーシュマさんの誓いから、ドゥリーヨダナ達が生まれる話に繋がるんだね」

プラティユーシャ

「あれっ? 異邦の方、ドゥリーヨダナ王のことを知っているの?」

カルナ

「ああ。知っている。……プラティユーシャ、お前は知らないのか?」

ユッダ

「こらカル……ヴァイカルタナ、そんな言い方では萎縮させてしまうでしょう。……プラティユーシャくん。実は私達は、遥か遠い未来から来たんだ」

※カルナをカルナと呼ぶ訳にはいかないので異名の「ヴァイカルタナ」で呼んだ。意味は「切り離した者」。鎧を切り離しインドラに与えたエピソードが由来。

プラティユーシャ

「えっ、未来から!?」

ヴィヤーサ(ドヴァイパーヤナ)

「ユッダ、話してしまってもいいのかい?」

ユッダ

「いや、話すなら今かなーと」

マシュ

「そうですね。……これからプラティユーシャさんと行動するにあたって、カルデアのことを隠し続けるのは不誠実ですし、今までもカルデアのことを必要以上に隠すことはしていませんでしたし」

プラティユーシャ

「カル、デア……?」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「はい。私達……というよりも、この方が世界中を旅してきたのですよ。マスター、どうか彼に、貴方の旅路を話してあげてください」

ぐだ

「そうだね、まずは──」



プラティユーシャ

「なるほど。カルデアは遠い未来から来たから、僕達の今いるこのバーラタの地で何かおかしいことが起きていることがわかって調べに来たんだね。それにしても、この地で何度もおかしなことが起きているなんて、不思議だなぁ」

チトラーンガダー

「ああ。プラティユーシャ、お前の目で見ておかしかったところはないか?」

プラティユーシャ

「うーん、どこもかしこもみんなピリピリしてるくらいかなぁ。僕がなんとか喧嘩を収めているんだけど、すぐに喧嘩を始めちゃうんだ」

ユッダ

「どうやら、小競り合いは全て君が収めているようだね。一人で大変じゃない?」

プラティユーシャ

「大変だけど、戦争になっちゃうよりはいいかなって思うよ」

ユッダ

(おっと、機構的に複雑)

スヨーダナ

「プラティユーシャは、戦争に反対なんだな」

プラティユーシャ

「うん。だって、戦争って嫌じゃない? 矢が刺さったら痛いし、槍で刺されたら痛いし、剣で斬られたら痛いし、棍棒で殴られたら痛いでしょ?」

ぐだ

「そうだね」

プラティユーシャ

「それに、戦争になったら戦士たちがたくさん死んでしまうでしょう? そんなことになったら、死んでしまった戦士の家族も友も悲しむことになるじゃないか。僕は、誰にも傷ついてほしくないし、悲しんでほしくない。だから、少しでも戦争が止められる可能性があるなら、僕はそれに賭けたいんだ」

カルナ(ヴァイカルタナ)

「身の丈に合わぬ願いだな。貴様の行動に意味があるとは思えんが」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「ヴァイカルタナ。もう少しこうなんというか、手心というか……」

プラティユーシャ

「気にしないでよ。ヴァイカルタナさんの言う通りなんだからさ!」

チトラーンガダー

「そう思うのなら、どうして貴様は和平工作を行っているのだ?」

プラティユーシャ

「だって、未来のことなんてヴィシュヌ神にしか分からないでしょ? だったら、今の僕の行動は絶対に意味が無い、とは言えないじゃん。ほんの少しだけでもいい、戦争を止められる可能性があるなら、僕はその可能性を信じて頑張るだけだよ」

スヨーダナ

「そうなのか……」

ユッダ

「(どう足掻こうと戦争は起こるでしょうが)あなたのその心意気は認めます。見上げた根性じゃないですか」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「……ええ。貴方は目の前の人を見捨てたくない、と思っているのでしょう? それは大切な感情です。大事になさい」

マシュ

「わたしもシュヴェータヴァーハナさんと同じ意見です。たとえどんな結果になったとしても、その気持ちで行動したことは決して無駄ではありません! わたしたちは、そうやって旅をしてきましたから」

プラティユーシャ

「……! ありがとう!」

ユッダ

(ああああ機構的にその笑顔が眩しい……どうなろうと戦争は起きるんです……起こるんですよ……)

ぐだ

「それで、これからどうしよう」

チトラーンガダー

「これからカルデアと通信をするのだが、プラティユーシャは一緒に私達と話すか?」

プラティユーシャ

「いや、遠慮しておくよ。お腹がすいたから、近くの森で木の実を採ってこようと思っているんだ」

スヨーダナ

「そうなのか、ならばこれも行くぞ!」

アルジュナ・オルタ(シュヴェータヴァーハナ)

「分かりました。危険があればプラティユーシャを優先して逃がしてこちらに連絡をください」

スヨーダナ

「わかった! 行ってくるぞ、とうさま!」

プラティユーシャ

「スヨーダナくんの案内は任せてね!」

ヴィヤーサ(ドヴァイパーヤナ)

「カルデアに連絡をしたら、マスターとプラティユーシャのためにも休息を取ろう。そしたら、彼にこの地を案内してもらうというのはどうかな?」

カルナ(ヴァイカルタナ)

「賛成だ。オレ達はこの地で起きている異変についてあまりにも無知だ。古来より蛇の道は蛇という。それが賢明な選択だろう」

ユッダ

「そうですね。そこで変なものがあったら彼に戦車を止めてもらって調査すればいいですし」

マシュ

「わかりました。では、カルデアとの通信を始めますね」

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