ハナ咲クハル(2)

ハナ咲クハル(2)




 ハナコのセーフハウスに監禁されて1週間。その短い間に、コハルの身体はすっかり変えられてしまった。

 数えるのも億劫になるほど、何度も何度も、甘ったるいシロップを飲まされて。甘い毒にひたすら身体を侵されて。朦朧とする意識の中、催眠や洗脳をかけるように妖しい声で囁かれて、ひたすら精神を狂わされて。

 あの時、補習授業部で一緒に過ごしていた頃と、態度はさして変わってない様に見えるのに。決定的なところが、彼女の心の大切な何かが狂わされている。

 そんな変わり果てた友達の姿を見るだけでも、コハルにとっては心が割れそうなくらい辛いのに。心のヒビに染み込むみたいに、身体を砂糖漬けされて、頭の中もぐちゃぐちゃにされて。それでも保っていた意志と理性、砂糖を拒絶しようとする心が、少しずつ、削れていっていた。


 そんなコハルに、ハナコは監禁生活が8日目を超えたところで砂糖の投与をぴたりと止めた。食事も飲み物も砂糖が含まれていない普通のもの。シロップを飲ませることもしなかった。

 しかし、ハナコは改心したわけでも、コハルを堕とす事を諦めたわけでもない。むしろ、これは────


「はっ、はっ、はっ、はぁっ……!!」


 歯をカチカチと鳴らしながら、寒さに震える様に小刻みに身体を揺らすコハル。顔色は悪く、眉を寄せ、苦悶の症状を浮かべ、荒く息をし続ける。

 ハナコが行った、コハルをより追い込むための策のひとつ。すっかり砂糖を求める身体に躾けられたコハルから、あえて砂糖を取り上げることで、強烈な禁断症状を引き起こす。身体はほぼ堕ち切っていても、心までは堕ちていない、そんなコハルに心の底から砂糖を求めさせる為の、ハナコの調教の第二段階だった。


「あ、ゔーっ、ゔ、ぅぅうぅぅ……!」


 およそ二日間、あれだけ身体に取り込まさせられた砂糖が途絶えた。その結果、コハルは砂糖を求めるあまり苦痛を訴える自分の身体に悶え、頭を押さえて唸っていた。


「苦しいですか?コハルちゃん」


 明らかに異常をきたしたコハルに、ハナコは部屋の中に入りドアを閉めながらそう言った。その身体からは、コハルに砂糖断ちを施している間は抑えていたフェロモンが、いつもよりも数段濃く、強く漂っていた。


「はっ、はっ、こ、これって……!」

「ふふっ、凄いでしょう。この距離でも感じられるくらいの、甘ぁい香り。今日のために、あのシロップをたぁっくさん飲んで、準備してたんですよ?♡」


 言いながら、服を大胆にはだけさせ、裸にシャツを羽織っただけの姿でベッドに上がる。

 健常者すら砂糖中毒者と同じ状態にするハナコのフェロモン。それを漂わせる肢体を、砂糖を断たれ極限の禁断症状に苛まれるコハルの、文字通り目と鼻の先に晒した。


「ぁ…………あぁ…………」

「ふふっ……♡さあ、我慢しないで……ほら♡」


 欲求を満たすためには到底足りないが、吸えばあの甘美な感覚に浸れる香りが目の前にある。コハルの意思がどれほど硬くても、それを察知してしまった身体がどうなるか。


「すぅーっ…………はぁーっ……ぁ、ぁ……!」

「ふふっ……♡そう、それで良いんです。ほら、もっと……吸ってー……吐いて……」

「すうぅーっ、はぁー……」


 意識的か、それとも無意識か。フェロモンに含まれている、砂糖と同じ効能が。そして、半端にしか満たされないが為により強く掻き立てられてしまう欲求が。自分を更に苛むとわかっているのに、コハルの身体はハナコの身体にしがみつく様にしながら、ハナコのフェロモンを取り込もうと、強く強く、息を吸った。


「すーっ、はーっ、すうぅーっ、はぁーっ……!…………ゔぅー、あ゙ー…………」

「そう……♡我慢なんてしないで、私の香りを、胸いっぱいに、吸い込んで下さい♡」


 気化した砂糖とも言えるハナコのフェロモンは、固形や液体として身体に取り込む時以上に『脳』にキく。頭の中にじゅわじゅわと染み入る感覚は、確実にコハルの中毒を深めていく。


「ほら、もっと……吸ってー……吐いてー……」

「すぅー……はぁー……あ、あ、あー」

「もっといっぱい、吸い込んでー……」

「すっ、うぅー……は、あ゙ー……」

「こうやって、どんどん吸い込んで……頭がおかしくなっちゃうくらい、幸せに……なりましょうね♡」

「うっ、ゔーっ……」


 少しずつ少しずつ、確実に壊れていくコハルを抱きしめながら。ハナコは楽しげにそう言って笑った。




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