ハナ咲クハル

ハナ咲クハル





 綺麗ではあるがあまり飾り立てれていない、簡素で殺風景な部屋。ただひとつ置かれたベットの上にいるのは、2人の少女。


「はな、こ……やめて……」


 両の手首を繋いで戒めている、重たい金属製の手枷の鎖をじゃらりと鳴らしながら、弱々しく制止しようとするコハル。


「ふふっ……♡そんな事言っても、全然止められていませんよ。コハルちゃん♡」


 力の入ってない手で精一杯遠ざけようとするコハルにくすくすと笑いかけながら、彼女の小さな身体を横抱きにしているハナコ。

 ここは、ハナコのみが入れるセーフハウスの様な場所。ハナコの"今の"仲間たちでさえ、このような場所がある事を知ってこそいるが、その所在までは知る由もない。そんな秘密の部屋に、思いがけず捕まえることができた/できてしまったコハルを連れ込み、自由を奪って閉じ込めていた。

 理由はもちろん────自分と同じように、甘い毒で彼女を犯す為に。


「ほら……欲しいですよね?お砂糖♡」

「あ、ぅぅ……」


 誰にも邪魔されないように、じぶんだけが知る部屋にコハルを監禁してから既に1週間は経った。その間に、コハルの身体はすっかり『砂糖』に慣らされている。

 食事や飲み水にも少量混ぜて投与させ、それ以外の時間も定期的に摂取させ。極め付けは、砂糖に身体の芯まで浸かっているハナコの身体から溢れる、甘く芳しいフェロモンを長時間コハルに吸わせ続けている。

 すっかり甘い毒に漬け込まれたコハルの身体もう、コハル自身の意思に関わらず、アビドスの砂糖を求めずにはいられない。


「ぁ、ぇぉ……」


 その証拠に、遠ざけようとする手の力は弱まり、何かを欲するように口から舌を覗かせてさえいる。そんなコハルを見て、ハナコは嬉しそうに笑みを深めた。


「そんな風にいやらしく舌を伸ばして……やっぱり、欲しいんですね♡」

「ふぇ……ぇぅ……ぅぅぅ……っ!」


 甘いフェロモンを発するハナコの身体は、舐めるとほのかに甘く感じる。魔性の糖と同じそれになった指先で、コハルの舌を嬲り、擦り、弄び始める。


「ふ、ぅっ、ぅぅぅ……!」


 舌の上や裏側を愛撫するように擦られ、目尻に涙を滲ませながら、ふるり、とコハルが震える。アビドスの砂糖の大量摂取は身体へ異常をきたし、時としてそれは触覚が鋭敏になる形でも発現する。些細な刺激でも堪らなそうに身を捩らせるようになる様は、フィクションにおける媚薬のようだと言ったのは誰だったのか。


「うぅーっ、ゔ、ぅ…………」


 無意識のうちに、自分から舌を指に絡め始めてしまうコハル。蕩けたように見えるその顔には、微かに苦悶の色が浮かんでいる。

 ほんの僅かにしか与えられない甘さ。喉が渇ききっている者に一滴だけ水を与える事がとてつもない責苦となる様に、禁断症状として現れる飢えを満たすには到底足りないそれが、コハルの身体の禁断症状を余計に煽るためだ。

 コハルの様子に気を良くしたハナコは、指をするりと抜き取ると、胸元──というよりも胸の谷間に挟んであったらしい──から、あるものを取り出して見せた。


「足りないですよね?苦しいですよね?……今、楽にしてあげますからね♡」

「ひっ…………」


 ハナコが取り出したのは、ラムネ瓶よりも蓋回りほど小さい小瓶。ここに来てから幾度となくコハルに飲ませた、アビドスの砂糖を大量に溶かし煮詰めて作った液体、『アビドスシロップ』。通常の砂糖を使った菓子などと比べて非常に良く"効く"──いや、"効き過ぎる"ほどに強い効能を持つ。


「いっ、やっ…………!」

「っ、あら…………」


 幾度となく飲まされ、自分の身体をおかしくさせて来た小瓶の蓋が今まさに開けられようとしているのを見て、コハルはなけなしの力を振り絞ってハナコの手から小瓶を叩き落とさせた。


「はぁーっ、はぁーっ、はあーっ……!」


 身体を薬物の様な砂糖に侵され。乱用の症状によって身体の力が抜け。感覚を狂わされ。精神を掻き乱す酩酊感と脳を犯す多幸感を無理矢理叩き込まれ。それでも尚、コハルの心までは堕ちていなかった。何をしても、完全に意識が混濁しない限りは、拒絶する姿勢が崩れなかった。

 今までアビドスの砂糖を口にした者を多く見て来たハナコだが、この魔性にここまで抗った事があるものは見たことがなかった。通常よりも数倍、十数倍のペースでアビドスの砂糖を口にしているにも関わらず。


 ────相変わらず、真っ直ぐで、心が強くて、強情で。でも私は、コハルちゃんのそういうところが、好…………


「…………………っ!!」


 不意に頭の中に浮かんだ思考を振り払う様に大きく頭を振るって、小瓶の栓を抜く。普通に小瓶の口を近付けても簡単には飲んではくれない。しっかりと飲ませるために、ハナコは少し手順を踏んでいる。


「んっ…………!」


 "いらないこと"を考えようとしたのを忘れる様に、小瓶の中身を少しだけ口に含む。限界まで砂糖を溶かし込んだ薬液はとろりとしており、そして何より、頭がくらりとするほど甘い。

 それをそのまま飲み込まず口の中に留めたまま、ぐい、とコハルの後頭部を押さえて抱き寄せ。


「ん、ぅぅ……!?」


 唇を、奪った。

 シロップに塗れた舌をコハルの小さな口の中へ挿し入れ、そのまま深く、淫らに口付けていく。


「んぅ……ん……んぁっ、ふっ、ぁぁぁ…………!」


 シロップを丹念に塗り込むように、コハルの舌の上に自身の舌を這わせ。あるいは舌の裏、付け根のところをゆるゆると舐る。堪らなそうに声を漏らしながらコハルの身体がふるふると震えた。


「ぅぅー……んぅっ……ぅぅぅっ……!!」


 抵抗しようとする時は反対にコハルの舌を自分の口の中へ迎え入れて、口腔で甘く締め付けるように吸い上げる。


「ふ……ぅ……んぅ…………」


 注ぎ込まれる甘さと、脳に染みる砂糖の効能。そして、覚えこまされてしまったキスの快楽。それら全てを文字通り一気に味わされ、限界を迎えたコハルは糸が切れたように大人しくなった。注がれる気持ち良さに対して抵抗なく、うっとりと浸り始めている。

 アビドスシロップの口移し。何度も繰り返し繰り返し行った結果、コハルはこれをされると非常に深いトリップ状態へ落ちる様になった。何をされようともされるがままになり、囁きかければ従順に従う。いくらコハルの意思が強くても、意識がはっきりしていなければ関係ない。


「んぅっ……ぇぅ……ぅ……」


 抵抗できなくなったコハルに、ハナコはもう一度コハルの舌を嬲り始める。混濁する意識を攪拌する様に、ゆるゆると舌を絡ませると、か細く甘い声が口の間から微かに漏れた。


「……………んは、ぁ……」


 ハナコが自分の口に含んだシロップをコハルの口の中へ移し終えたハナコは、中身の残っていた小瓶を今度はコハルの口に寄せて、残りのシロップを飲ませていく。


「さあコハルちゃん、飲んでください♡」

「…………ん、く……」


 言われるがまま、コハルは口の中のシロップを飲み下した。それを見て、ハナコは2本目の小瓶を取り出し、蓋を開けて、もう一度コハルの口に持っていく。意識が朦朧としているコハルは、抵抗なく飲み込んでしまう。


「────早く、私と同じになりましょうね♡」

「…………んく……んっ……ぁ……ぅ……」


 虚な目をしたまま、こくり、こくりと可愛らしく喉を鳴らしながら、シロップを飲み込んでいく。そんなコハルを抱きながら、ハナコは妖しい笑みを浮かべていた。



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