ザエルアポロ戦 幕間
ザエルアポロが着替えるために部屋を去った後。
「……回道掛けるから座ってくれへん?」
少し気まずそうに、座るように促した。
「……平子、で良いんだよな?」
「うん、平子やで。でも撫子チャンって呼んでや。改めてよろしく阿散井君」
返事をしつつも、撫子は回道をかける手を止めない。
「平……撫子、ザエルアポロが言ってた事はマジなのか?」
ザエルアポロが言っていたというのは、撫子の実の父親のことだろう。
「……そう、やね。まあ、アタシも知ったんはつい最近やし」
「最近?」
「こないだの尸魂界での一件の時や」
石田と阿散井は直近の事件……藍染一派の離反を思い起こす。
「双殛の丘でアイツと眼ェ合った時……気づいたんや。コイツや、って。オカンや家族の皆のこと、傷つけて追いやって苦しめたんはこの男や、って」
——浦原さんは体質と出生ゆえに殺されないと言った。
——体質は生まれつき虚と共生していること。
——そして出生は、藍染の娘であるということ。
「きっとあの時アタシだけやなくて、藍染も気付いたんとちゃうかな。『これは自分の娘だ』って」
「平子さん——」
空気を読んだのか、ペッシェとドンドチャッカも黙り込んでいる。
「……なんや、みんな元気ないなァ! どないしたん? 怪我したとこが痛いとか? そういうのはちゃんと言ってな! 織姫ちゃんほどやないけど、アタシも回復できるんやで?」
努めて明るく、朗らかに笑う撫子だが、次の瞬間、その明るさが抜け落ちる。
「それとも——藍染の娘であるアタシを助けたこと後悔した?」
常の笑い方ではない。目を細めて薄く笑っている。
阿散井は撫子の表情の向こうに、あの双殛の丘での藍染を見た。
「……ごめん、言うべきやなかった。やっぱり忘れて」
しかしそれはすぐに霧散し、平子撫子がそこに居るだけだった。
阿散井が手を挙げ……その手刀は撫子の頭部にスコンと当たる。
「あいたっ! 何すんの阿散井君!」
「平子さん。君が誰の娘だろうと、虚と共生していようと、僕らはきっと君を助けに来たよ」
「お前はルキアをただダチだっていうだけで、石田達と尸魂界に乗り込んだろ。それと同じだ」
ごちゃごちゃ考えんじゃねえ。阿散井の言葉に石田も賛同する。
——ああ……きっと対等な友達って、仲間って、こういうことなんかな。
——……うれしいなあ……。
撫子は少し、泣きそうになる。こういう場合は涙じゃなくて、きっと感謝がいい。
「石田……阿散井君……ごめん。ありがとう」