それは違う
自分の事を小さい子供だと思っている幼児退行IFローのちょっとした話
以前書いた「変わったお願い」の続きですが読んでなくても大丈夫だと思います
平行世界、所謂パラレルワールドと呼ばれる世界。その中でも俺と麦わら屋の一味が『ドレスローザで敗北した世界』から来たもう一人の俺は、本当に自分なのかと疑わしい程に細く、放つ雰囲気も弱々しい物となっていた
俺達ハートの海賊団で保護して少しずつリハビリをしているのだが
「ねーねーロー兄さま!」
何故か俺は今そのもう一人の俺から兄様と呼ばれて慕われている
どうやら精神的疲労の蓄積のせいで一時的に幼児退行を起こしているらしい。それだけならまだ良いんだが、これはこの世界に来て初めて起きる現象ではないらしく向こうの世界で何度も起きていたらしい
その際『向こうのドフラミンゴの弟』であり『ドンキホーテ・ロー』という名前であるという巫山戯た胸くそ悪い嘘の情報を吹き込まれたらしい。腹立たしいどころの話じゃねェくたばれあの野郎
こっちでも幼児退行が起きた結果、俺が面倒を見る事も相まって兄様と呼ばれるようになった
「ロー兄さま?」
「あ?あァ何だ?」
話し掛けられてたが考え事をしていたせいで反応が遅れた
俺の部屋のベッドの上でぬいぐるみで遊んでいた向こうの俺はキョトンとした表情でこちらを見ていた
「ロー兄さまはおれと同じでこどもなのにおいしゃさんなの?」
「…………」
「は?」
待て、今何て言った?子供って言ったか?
いや聞き間違いだろう流石にこれは
「それに他のみんなもすごいね、おとながぜんぜんいないのにかいぞくなんだもん!」
前言撤回だ、間違いなく子供って言ったな
頭を抱えながら、取り敢えず何故自分や俺の事を子供だと思っているのかと問えば、向こうの俺は楽しそうに答えた
「あのねドフィ兄さまはおとなでね、おれよりずっと大きいんだ!おれのあたまがドフィ兄さまのおなかぐらいなんだけど、兄さまに聞いたらおれはまだまだこどもなんだって」
「それはあいつが馬鹿でかいだけだ」
無意識に速攻で否定すれば、何故かこいつは嬉しそうな顔をした
「もしかしてドフィ兄さまのことなにか分かった!?」
キラキラと瞳を輝かせながら問い掛けてきた瞬間、俺は自分の失言を悟った
そうだ、俺はこいつの前じゃドフラミンゴの事は知らないって設定だった。それを「あいつ」と言ってしまえば、知っていると言っているのとほぼ同義だ
「悪い言い間違えた、そいつが馬鹿でかいって言いたかったんだ。悪いがお前が期待するような情報は得てねェよ」
一応嘘じゃねェ範囲で訂正してやれば、向こうの俺は目に見えて落ち込んだ
まァそんな事はどうでも良いとして、今こいつがしている勘違いは正してやらねェと。というか腹立つから意地でも正してやる
ベッドの上から降りるように促せば、首を傾げながらも素直に床に立つ
俺は向こうの俺の前に立って、手を使って身長を比較するために自分の頭の上に手を置き、向こうの俺の頭上にスライドする
「良いか?靴の違いで差異はあるが、俺とお前は同じ身長だ。ついでに言うが俺の身長は191cm、約2mだ。」
こくこくと頷きながら話を聞く向こうの俺はどこか楽しそうにしている
「そしてこの身長は、一般の奴等と比べたら大分高い。少なくともガキの身長じゃねェ」
そう言ってやれば向こうの俺は心底驚いた顔をした。そりゃずっと正しいと思っていた情報が根本から違うと言われれば驚くのも無理はない
「だから俺はお前の言うような子供じゃねェし、この船のクルーもそうだ。と言うかこの船に子供は乗ってねェ」
目も口も開いて驚いていた向こうの俺は、少ししたら何故か嬉しそうに笑ってきた
「じゃ、じゃあおれもおとななの!?」
「まァそうだな」
「ほんと!?ならドフィ兄さまといっしょにおしごとできる!?」
訳の分からない話が唐突に飛んできて俺は少しの間固まってしまった
駄目だ、一回こいつの話を一から聞いて情報を整理しないと俺が全くついて行けない
どういう事なのか詳しく聞くと、屈託の無い笑顔で答えてきた
「あのねあのね、ドフィ兄さまはね、いつもおしごとたいへんそうでね、おれも何かおてつだいする?って聞いたらまだこどもだからいいって言われちゃってね。だからおれも早くおとなになってドフィ兄さまのおしごとおてつだいしたかったの」
成程納得した、だから自分が大人だと知って喜んだ訳だ
ま、受け入れるかと聞かれたら俺はNoと答えるが仕方がないから話は合わせてやるとするか
「んー、でも何で兄さまはおれのことこどもだって思ったのかな?」
言いたい、それはドフラミンゴの都合が良いように適当な事を言われただけだと今すぐ言ってやりたい
何ならそもそもあいつはお前の兄でも何でも無いどころか恩人や仲間の仇だし、お前の名前は『トラファルガー・D・ワーテル・ロー』だとも言ってやりたい
言ってやりたいが、言ったら混乱させちまうと思って喉まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んだ
俺が1人で葛藤していると、どうやら自分で納得出来る理由を見付けたらしく「あ!」と声を上げた
「もしかしたらドフィ兄さま、おれより小さい人見たことないのかもしれない!」
「…………」
いやあるぞ、普通にある
何ならお前のガキの頃だって知ってるぞ
と、また喉まで出掛かった言葉を必死に飲み込んだ
「おれ、兄さまに会えたらおしえてあげなきゃ!おれはほんとうはこどもじゃないよって」
「そうだな、ちゃんと大人だって言ってやれ」
「うん!」
きっとそれまでに元のお前に戻してやるから、それまでは安心して自由に過ごしていて良いからな