おまけ~ゼイユサイド~
おまけ
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「スグとアオイ、おっそいわねー」
ブルベトーナメントの決勝戦会場。ゼイユが唇を尖らせている横でペア相手のタロが笑みを向けた。
「わたしたちが早かっただけですよー。バトル開始まであと一分あります」
「開始時間が何時だろうとあたしを待たせていいことにはならないのよ」
四天王の中では優しい笑顔で下級生から一番人気のタロと、自他ともに認める美女であるゼイユのペアということで、二人が入場してから観客の歓声は収まる様子がない。
「どうせねちっこいスグのことだからギリギリまであたしへの対策を考えてるんでしょうね。あいつはそーゆーやつよ」
「やっぱり、弟さんのことよく知ってるんですね」
「まぁね。あいつがチャンピオンになってからあたしだって特訓したんだから。あいつのことなんて初手で出す技から今日の夕飯までもう全部お見通しよ」
ゼイユが自慢げに語る姿を微笑ましく眺めていたタロだったが、観客の声の様子が少し変わったことを感じて前方を向いた。
「あら…?じゃあ、あれも知っていたんです?」
タロが示した先。そこからは決勝相手のスグリとアオイのペアが出てきたところだった。
観客が歓迎というよりも驚きの声を上げている理由は、彼らが指をからめて手を繋ぎながら出てきたからであろう。
「…ん?」
その様子をしばらく眺めた後でようやくゼイユはタロの質問の意味を理解した。
いや、知らない。
もともとあいつらは無駄に距離は近かったが、はにかみながらコートの中央に向かうアオイと、その彼女の様子をしきりにうかがいながら歩幅を合わせる弟のような関係は知らない。
観客、特に女子たちは両手で口元を隠しながらキャーキャーはしゃいでいる。タロも呑気に「可愛らしいですねー」等と言っている。
二人がコートの定位置につき、手を離した。離れる際、アオイがスグリに「ありがとう」と言ったのが唇の動きでわかった。
色々な感情から拳をプルプルさせていたゼイユだが、バトル開始を報せるアナウンスで我に返った。
「──あんたら!バトルの後たっっっっっっぷり話聞かせてもらうわよ!!」
──これは、勝っても負けても大変ですね。
タロはそう思いながら、若いチャンピオンペアの前に最初のポケモンを繰り出した。