あんた程度に

あんた程度に

D-B

シュガーは闇の中で目を覚ました。

周囲は壁があるのかないのかもわからない、まさに謎の空間。

そこに急に巨大な頭が現れた。

[小娘!よくやった!全てを水に流してやろう]

開口一番そう叫んだ頭は、嬉しそうに震えている。

「……あんたが、トットムジカ?」

[ほう、よく覚えているな。

そう、我こそは魔王、tot musica。

当代の巫女を封じられた時は絶望したが、貴様のおかげでこれだけ顕現のエネルギーが蓄えられた!

なぜかわかるか?]


[貴様が巫女を孤独に押し込めたからだ!]


ずきりと、心に鈍い痛みが走る。


[我は孤独の化身。我は嫉妬の化身。我は羨望の化身。

貴様のおかげでこれには事欠かなんだ!

そしてさらにはそれだけではない感情すら我はエネルギーにすることができるようになった!]


胸の鈍痛が晴れることはない。

だが、シュガーはそれに泣き叫ぶこともない。


[話すだけで、貴様からはエネルギーが溢れるなあ、小娘。]

「気持ち悪い。死んで。」


次の瞬間には、トレーボルに向かうような辛辣な言葉を投げかけることができていた。


[フン……理解など要らぬさ。

しかしそうだな。その小生意気さに免じて面白いものをいくつか見せてやろう]

「はァ?」


どこからともなく生えてきた腕がシュガーの頭を掴む。

その瞬間流れてきたのは怨嗟の声だった。


『よくも……よくも俺たちをおもちゃにしやがったな!』

『俺の青春を返せ、家族を返せ!』

『結局戻ってこなかった!』

『何度殺しても殺したりない……憎い』

『いっそやつに、娘の代わりを産ませて仕舞えばいいんだ』

『腹を切り裂いてじわじわと食ってやる、それでも晴れねェんだよ俺の怒りは!』

『四肢をもいで、それを自身に食わせてやる。それくらいしても許されるはずだ』

『生きたまま皮を剥いだとしてもなお足りない、生目を抜いてなお足りない』

『絶対に許さない』

『許さない』

『復讐してやる』

『許さない』

『俺の手で殺してやる』

『許さない』

………


誰の声かは、誰に向けた声かはよくわかる。

これは自分に向けられた怨嗟の声だ。

当たり前だ。それだけのことをしたのだから。

それは、自分もまた身をもって知っていた。


[……小娘、これを聞いてこの程度とはな。]

「舐めないでくれるかしら。私は海賊で、ウタの親友よ?

この程度で折れてたまるもんですか。」

ニヤリと笑って返す。

心が痛まないわけでも、後悔しないわけでもない。

だが、ここで折れればウタに被害が出る。

折れて、後悔して、償いになるわけではない。

だから折れない。きっといつか報いを受けるのは知っているから。


何も言わず、魔王は口を大きく開く。

その中で映像が流れ出した。


それは、"あの"半年間、自分が奴隷のように扱われ、船の端に転がされている時に姉がされていた記憶だった。

男に囲まれ、その欲望を無理やり口や尻、大切な部分に押し込められる。

変わる変わるに現れては姉を汚す男たち。

姉はなくでもなく、喜ぶでもなく、ただ時折妹に手を出すなと言いながらそれを受け入れていた。


思わず憤怒が流れ出る。

[トットットット!!!だから人間は面白い!!!!

自らの罪には無頓着だが身内の虐げられる様には怒るとはな!]

「それが人間よ。悪い?」

そもそも無頓着というのが間違っているが、それを指摘してやるほどシュガーに余裕はない。


そのまま続けて流されたのは、モネも見た絶望の記憶。

孤独から救ってくれた恩人が、実際には孤独の元凶であったという記憶。


[小娘。なぜ微塵も感情が動かん……!]

「何。これがどうかしたの?

若が私を裏切るなんてもう経験してるわ。」

冷たい目で巨顔を睨む。

そもそもウタを殺せという指示を思い出した時点でこの程度想像はついていた。

[貴様の姉はあれほどまでに絶望したというのに]

「だってお姉ちゃん、若にちょっと盲信してるところあるからね。それより、何?お姉ちゃんが生きてるの?」

くだらない記憶と映像より、そちらが気になる。

[ああ。巫女のたっての願いでな。]

「その巫女って何。ウタのこと?」

[巫女は巫女だ。まああれの名前はそういうかもしれないが。]

「……あんたには何を言っても無駄そうね。

ま、いいわ。もう用はないでしょ?」

[フン、つまらん人間が。]

「あんた程度に、ウタの親友の私が思い通りにされるわけないじゃない。」

そう魔王がいうと空間が白んでいき、そして目が覚めた。


「どっちがつまんないやつよ。」

起き上がると、布団の上に置かれていた紙がするりと落ちる。

シュガーがそれを手に取ると、書かれている文字が目に入った。

「字、きったな?!」

結構な字だが、なんとか内容は読める。

"またわたあめ食べようね! ウタ"

「……ほんっと、甘いんだから」

そう言いながら大切にポケットに紙を仕舞い込んだ。

とにかく、あの"魔王"の言うことが正しければまずパンクハザードに向かわなければならない。

おそらく姉はまだそこにいる。


tips

モネの魔王との対面SS

https://telegra.ph/Q%E4%BF%A1%E3%81%98%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AF%E6%95%91%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B-11-11

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