Q.信じるものは救われたのか
D-B現実世界で心臓を受け取ったムジカは、自分の世界に引き摺り込んだモネの元に来ていた。
空間全体から、名状し難い声が響く。
[小娘、貴様の心臓を取り返して来てやったぞ……
感謝しろ]
頭部分の拘束を解かれたモネは、その声を聞いて不服そうに答える。
「あら、死にたかったモノを死なせずにおいて感謝しろなんて、随分と傲慢なのね。」
[王が傲慢でなくて、誰が傲慢になれる。]
その声と共に、目の前には先ほどの人形を巨大に醜悪にしたものが現れた。
[我はTot Musica、歌の魔王。]
「聞いてもいないのにご丁寧にどうも。
なぜ私を"助けて"くださったのかしら?
私が伝説のハーピーだから?」
[そうイラつくな。そして思い上がるな。
我は貴様のために行動したわけでは無い。
ひとえに今代の巫女の願いのためだ。]
「巫女?」
[フン、知らなくて良い。
まあ貴様は我や巫女と繋がりがあったがために助けられただけだ。]
トットムジカはそう言った後黙り込む。
モネも、特段話しかける必要もなくその空間は静寂に満ちていた。
[トットットットットッ…………
なるほど、そういうことか。
いやはや、愉快!]
「……?」
[小娘、我は本来、羨望や承認への欲求が糧だが、今ではもっと広く人間の感情をエネルギーにできる。
今では人間の絶望が好物だ。
貴様は我にとって極上だな。]
「どういうことかしら……」
[特別に見せてやろう、ほれ!]
そういうと、トットムジカの顔が広がり、黒い四角型を取る。
その中で、写真が動き出した。
幸せだった家族4人の記憶。
そこに襲いくる海兵、誘拐され、言葉にもしたく無いあの頃の記憶。
半年後、海兵たちを全て倒して現れた救世主の若様。
私たち家族の写真を見て、あの海兵たちの隊長が若様の前に呼び出される。
海兵たちは若様に敬礼すると、遠くから若様が見守る中私たちの家に押し入り、父さんと母さんを殺して私たちを船に押し込めた。
そしてまた若様の前に隊長が現れる。
大半の海兵たちはトレーボルから金を受け取ってどこかに消えていき、怯えた目の若い海兵たちがドフラミンゴに惨殺される。
そして一室から出てきた私とシュガーは、反吐が出るほどの敬愛の目でやつを見ていた。
「なに……これ……」
[あぁ!それだ!その感情だ!!!!
安心しろ小娘!これは先ほど乗り込んできたその男の記憶から忠実に作り上げた真実の映像だ!
安心しろよ、小娘……トットットットットッ…………]
「嘘……嘘よ……嘘……」
呆然とするモネをよそに、いつのまにかトットムジカは居なくなっていた。
そして少しすると、周りが明るくなる。
どうやらあの空間から解放されたらしいと察しても、動き出すことができない。
廃墟の真ん中で、信じていたものがはなから自分をを貶めたそのものだったことを知り、そのダメージからモネが立ち直るには、まだまだ時間が必要だった。