謀略Ⅵ 仮面ライダーの資格(ChapterⅠ)

謀略Ⅵ 仮面ライダーの資格(ChapterⅠ)

名無しの気ぶり🦊

「前回のデザ神、浮世英寿とその愛バのキタサンブラックがまさかの強制脱落」

「…果たして、結末はどうなってしまうのかしら?」



────今日は2022年12月18日。

有馬記念とクリスマスまであと一週間といった冬も真っ盛りの、そんな日の朝。

いつも通りに"ある層"に向けたこれまでの出来事の簡素なあらすじをツムリとスイープが発信している。

英寿とキタサンが退場してから一週間。

こう見えて2人とも英寿とキタサンのことを酷く心配していた。ただ長い付き合いというわけでもない、だから不安に思ってしまう。


「ん…?」


そんななか英寿は自宅の布団で目を覚ました。デザイアグランプリに関する記憶をキタサン共々まるっと消去され、今の彼はただのスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズである。

基本的にこうなると、英寿に限らずプレイヤーとして記憶を消されたことに欠片の違和感も感じることはない。

なので衣服を着替えるべく、ごそごそ辺りを弄りだすのだった。


「……」

(────あれはいったい…)


そして数分後、部屋を出た英寿はある違和感を感じていた。


「おはようございま〜す」

「…いらっしゃい、キタサン」


同時刻、今日も今日とてトレーニングのついでに浮世邸に朝ご飯のためにキタサンがやってきた。

…もちろん、デザイアグランプリに関することなんてまるで忘却してしまった状態で。


「? どうしたのスイープさん、そんな浮かない顔して」


もちろん、スイープとしては歯痒かった。

あくまで観客とはいえ、特別が付く通りサポーター同様運営と距離が近い観客に位置していたキタサン。おまけにスイープとはそうしたことは関係なしに、まるで夫婦のように仲がいい。

当然の焦ったさだった


「…なんでもないわよ!」

(思い出してほしいなんて…言えるわけないじゃない!)


とはいえ、今は最終決戦間近。

ただ見届けたいために戻るにはあまりに危ない時期だ。キタサンが頑丈さを売りにしてると言っても、戦場の危険とはそれだけで乗り越えられるようなちゃちなものではない。

そして、これを脱落する前のキタサンはよく知っていた。知っていてなお英寿を、自分を信じ可能な限り観戦していた。

今はそうではない、急に言われて混乱しない保障もない。

だから…言えるわけがなかった。


「? あたし、何かスイープさんに嫌われるようなことしたかなぁ…」


もちろん、キタサンからしてみれば何のことやらといった具合である。

そのまま彼女はリビングへ向かい朝食を預かりだすのだった。


「英寿。君の今日の予定は?」


ギロリがあくまで何も知らない体で英寿に今日の予定を尋ねる。英寿を排除してしまえば、特に問題はないと感じているのだ。呑気さもさもありなんといったところである。


「雑誌の取材が5件に、グラビア撮影が3件、夜はバラエティ番組の収録がある」

「そのどれもに有馬記念の宣伝も兼ねて今回はあたしも同伴する予定ですね、ギロリさん」


今日だけでも予定がぎっしり詰め詰めだった。

おまけに有馬記念の宣伝も兼ねているのでキタサンも同行、普段より過密さがある。


「忙しいな、スターにお祭り娘は」

「『スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ』。いい加減 覚えてくれよ。仕事で忙しいのは わかるけどさ」


何の気なく行われるこのやり取りもそれまでを知っているツムリやスイープのような知人達からすれば、ただただ不気味だった。


「そうだったね。失礼」

「あたしは短くて覚えやすい渾名で良かったです♪」

「言いやすくて助かってるよ」


キタサンに対してもそれは変わらない。余裕綽々である。


そうして朝食を食べ終えた英寿は、仕事の時間なので出かけ、キタサンもトレーニング後半開始というところで。


「ん? …ダイヤちゃんからだ」

「何だい?」


────何やらダイヤからLANEでトークが来ていた。ちなみに普段はこの時刻に来ることはまずない。


「…クラちゃんとシュヴァルちゃんと急に遊びに出かけたから3人とも部屋の整理ができてないままで、すまないけどそれをあたしに頼めないかって」

(いいけど…珍しいな)


要件としてはこんなところ。特に困るものでもない。

…とはいえ普段こんなずぼらさは見せない三人がこうして頼んでくるということがそもそもキタサンには妙な違和感だった。


「ふむ、よほど楽しみだったのだろうね」

(あの3人がねえ…なんか妙だな)


ギロリはああそうかというような雰囲気だが、英寿のほうはというとやはり違和感を感じつつ、しかし時間なのでキタサン共々浮世邸を後にした。


「デザイアグランプリに関する記憶が完全に消去されたようです」

「アンタがグレアでやったんでしょ?」


そんな2人と入れ替わりでダイニングに入ってきたツムリとスイープは、やはり英寿はもちろんキタサンまで脱落させたギロリのやり口に不満があった。


「何か、不満でも?」


ギロリとしては何のこっちゃという感じである。


「ギーツはおろか、特別オーディエンスであるブラック様さえ落としたやり方はデザイアグランプリのルールに違反しています」


それに少しばかり我慢ならないツムリは淡々とルール違反だと告げる。


「えーと…『特別オーディエンスやサブサポーターは試合の正当さをプレイヤーとサポーターの中間の立場から証明する立会人の役目もある』って読んだわよ」

「アンタ、それに真っ向から歯向かうみたいなことしてどうすんのよ!」


スイープも、まだまだデザイアグランプリに関わって日が浅いなりに覚えた知識をもとにギロリを糾弾する。


「黙れ!デザイアグランプリを存続させる為だ」


しかし一喝。ギロリは聞く耳を持たないのだった。



「意外だったよ~。あのギーツが脱落とはな。今度こそ、我がジャマトが世界を滅ぼす番だ。フフフ…。とっておきのラスボスが目覚めたぞ」(


それから少しして、ここはデザイア神殿。アルキメデルが先のミッションでの英寿の脱落に電話越しにやはり言及してきていた。

アルキメデルからすればただただ渡りに船な状況だからだ。


「成長したライダーは他にもいる。我々を見くびるな!」


ギロリとしては舐めるなという反応だった。自分で英寿を落としておいてなんだが。


「それはこっちだって同じだ。ええよ、学習でジャマトは進化する!」

「ガアーツ!」


電話ののち、アルキメデルは新たに仕上がったジャマトを見ながらそうほくそ笑むのだった。



その少し後、ラスボスのラフレシアフォートレスジャマトが出現

ツムリとスイープにより急ぎ残っているプレイヤーとその特別オーディエンスが集められ、最終戦「戦艦ゲーム」が始まった


今回はスコア勝負。ラスボスが退去するまで街の防衛をし、スコアトップのものがデザ神になり理想の世界を叶えることが出来る仕組みだ。


「勝てば、本当の愛が手に入る」

「頑張って、祢音ちゃん!」


────祢音もシュヴァルも。


「やってやるよ。退場した人達を蘇らせるために…」(景和)

「トレーナーさん、どうか貴方の願いを果たしてください!」


────景和もダイヤも。


「勝つのは俺だ。そしてすべてのライダーをぶっ潰す力を手に入れる」(道長)

「無事に帰ってきてね、ミッチー…」

「当たり前だ、お前がいる限り俺は死ぬ気はない」


────道長もクラウンも、皆最終決戦といった具合の雰囲気だった。


(…嬉しいことだけど、前回もだいぶハラハラさせられたからどうしても心配よね…)


とりわけクラウンとしては、前回の今回なので道長がまた重傷を負わないか心配だった。


(…それに今回は、デザイアグランプリの秘密をギロリさんに突きつけるのに付き合ってもらわなきゃなんだから)


それに今回に関しては、彼女個人のある用事に付き合ってもらう予定があった。それもデザイアグランプリに、今回の件に関するもの。

その意味でも、自身のトレーナーに命を落とされてはたまったものではないのだった。


「英寿とキタちゃんのぶんまで、俺達が頑張らなきゃ!」

「「「……」」」


『じゃあこれで行くわよ』

『うん、キタちゃんにはやっぱり浮世トレーナーの隣にいてほしいから…』

『…成功してほしいよね』


────景和のそんな発言を聞いて、ダイヤ・シュヴァル・クラウンの脳裏に蘇るのはある仕掛けに関する3人のやり取り。


(──キタサンにこんな危ない場所に再び戻ってきてほしくはないけれど)

(──浮世トレーナーは必ず帰ってくるもんね)

(…なら、キタさんが側にいないと…嘘だと僕達は思った)

(((だから────手は打った)))


今すぐに詳細を話せるものではないが、キタサンに特別オーディエンスとして戻ってきてもらうための施策だった。

上手くいくかは若干賭けではあるが。


その後、現場へ向かった3人はライダーへ変身

雑魚ジャマトを次々と倒していく

スコアの高いジャマト狙いの道長、まずは何より人命救助の景和、勝つためにはどちらも大事だと言う祢音、3番目が一番冷静な状況だ。

景和でさえ人命救助も”勝つため”って割り切っているあたり、なおのことである。


「くそっ、またこいつか!」


だがそんななか、ルークジャマトに道長は苦戦。前回時点で手痛い目に遭ったというのに今回もなのかと思わず苛立ってしまう。


「最終決戦だから前回同様にジャマトもそれに見合ったスペックに釣り上がってるわね…ミッチー、どうか無事で…」


クラウンの予想通り、最終決戦ということでジャマトは一様に最終決戦仕様にチューンナップされていた。仕様とはいえ厄介このうえない。


『こいつら…パワーアップしてやがる』

『いっそ、本丸を叩くか!』


思わず道長はかつての英寿のようにフォートレスジャマトの本体を倒すか思案するが…


『マサカシロヲ?ソレハムリダ』(ルーク)

『まさか城を?それは無理だ』(豪徳寺)

(シローの…いや、あり得ない話だ)


眼前のジャマトから放たれた、かつて退場した豪徳寺が言った言葉に無意識に動揺してしまう。

すぐさま本人が言っていた言葉だと当然頭に浮かぶが…まさかと思い深くは考えないのだった。


「「くっ!」」


同じころ景和、祢音は道長からやや離れたところで2人がかりでジャマトライダーに挑むが、やはり苦戦を強いられていた。


『コンナトコロデ…ダツラクスル…』(ジャマトライダー)

『脱落…る…わけには…』


そしてこちらもプレイヤーの、もっと言えば退場した仮面ライダーギンペン/平孝人の言葉を語りかけてくるジャマトが現れ更なる動揺を誘ってきた。


(前のミッションでも目撃したけど…)

『…やっぱり』


実は先のミッションでも同じことを呟くジャマトが現れていた。

が、景和しか目撃していなかったため気のせいだと思っていたのである。


「う゛っ⁉︎」

「大丈夫、シュヴァル⁉︎ …まさか平さんのセリフを吐くジャマトがこの間に続きまた出てくるなんて」


そして当然、平の死がトラウマになっているシュヴァルは勢いよくえづいてしまう。

また平はサトノグループの系列の会社の重役でもあったためクラウンもよく覚えていた。


「…ジャマトが何かしらの手段でプレイヤーを学習しているってことかな、クラちゃん」

「その線ぐらいしか無いわよね…」


そんな彼の言葉を学習したジャマトに関して思い浮かぶ可能性はやはりそれぐらいで、ただあまりに早くないかともジャマトをそこまで知らない身ではあるがクラウンもダイヤも感じるのだった。


『数が多くて守り切れない…』

『これが…最終戦なのか…』


早くも景和と祢音の心は折れかけていた。

英寿がいたことで心的に誤魔化されていたものがあまりにも多かったのである。


「トレーナーさん…初体験でしたね、そう言えば」

「祢音ちゃんは前回で経験済みだけど…」


ダイヤもシュヴァルもそれを受け止めこそすれ、咎めることはできなかった。


『やっぱり無理なのかも。今まで、私たちが生きて来られたのは、命がけで世界を守ってくれる人がいたから…!英寿っていうデザ神がいたから…!』(祢音)


「…実際、浮世トレーナーの強さがあったから前回は僕達はどうにかなった。でも今は…」


ただただ、最終決戦の最中に英寿がいないという状況はあまりに危険。

それがよく分かる現状だ。

対等なプレイヤーとしてデザ神の座を競い合いはするものの、いざって時は何とかしてくれる安心感が確かに英寿にはあったのである。


そんな英寿はキタサン共々スタジオで撮影中の身だった。


(…3人の部屋で見たあのメッセージはいったい何なんだろう…)


キタサンはというと、直前にクラウン・シュヴァルの部屋や自室で見たある物に関して疑問が浮かんでいた。


「⁉︎ ジャマト!」


そんななか、スタジオをポーンジャマト達が襲撃。思わず思考も撮影もストップし、現状打破を思案し始める。


「英寿様、キタサン様、逃げてください!」

「みんなの安全が先だ。さぁ、こっちに!」

「あたし達が先導します!」


2人して体を張り、スタッフ達を逃がしていく。頭は忘れていても体は覚えているようだった。


「何なんだ、この世界は…」

「あたしはいったい、何に巻き込まれてたの…⁉︎」


当然のように浮かぶ疑問。だがそれを答えてくれる者はこの場にはおらず、ただただ悲鳴が場を支配していくのだった。


「簡単じゃないんだね。世界を守るってのは…!」(景和)

「トレーナーさん…もう心が…」


場所は戻り、ゲームエリア。

英寿抜きで世界を守るという事が、如何に大変であるかを実感し、景和と祢音は完全に弱音を吐いていた。

もちろん先程に引き続きダイヤもこれを咎めることはできない。



『うるさい!ギーツなんていなくたってやれる! デザ神になるのは俺だ!!』

「求你了(お願い)。無茶だけはしないでよ、ミッチー…」

そんな二人に激しく反発する道長だが、クラウンとしてはそこから命懸けの無茶を敢行してくれるなと願うしかなかった。

見ているだけがあまりに無力なんだと、これを道長はレースの際に自身に感じているのかと改めて感じてもいた。


一方、ゲームエリア内の様子はサロンのほうでも中継されており、実際にギロリとツムリとスイープがこれをモニターで観ている真っ最中だった。


「ギーツ抜きで、世界は守れるのでしょうか…」

ツムリはそのまま、英寿不在で世界を守れるのかと疑問を口にする。


「そのために彼らに試練を与え、鍛えてきたんだ。やってもらわなければ困る」


心が折れずに戦う道長あたりが次期デザ神だろうとギロリは感じていた。


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