謀略Ⅰ:新世界のアグレッシブビート(ChapterⅠ)

謀略Ⅰ:新世界のアグレッシブビート(ChapterⅠ)

名無しの気ぶり🦊


「仮面ライダーギーツが世界を救い、ギーツこと浮世英寿様の勝利で幕を閉じたデザイアグランプリ。その功績をたたえ、この世界は彼の理想通りに創りかえられることになりました。しかし、それは受け入れがたい世界だったのです」


「何やってるんだ? 姉さん、スイープ?」

「ヒッ…やめてください、その呼び方。寒気がします」


ビビるツムリに英寿はそう語りかける。

端から見ているとごっこ遊びでもしているかのような状況だ。


「事情を使い魔から聞いた時はびっくりしたわよ…」

「アンタ、使い魔の知り合いでしかないくせにどういう趣味してんのよ…」

「全くです…これを叶えるって知った時はただただ気持ち悪くなりました」


そしてキタサンの友人であるスイープがなぜかおり、彼女も気味悪がっているが果たしてなぜだろうか。


「水臭いこと言うなって。スイープも姉さんも家族だろ?」

「それが違u『ピンポン!』あっ、この呼び鈴の音は…」

「キタが来たってことだな」


彼はそう言って『デザイアグランプリの運営者と家族になっている世界 浮世 英寿』と書かれたデザイアカードを見せる。

これまたとんでもない願いである。強制力はデザイアグランプリにより折り紙付きなので叶ってしまっているのがタチが悪いということだろうか

また、どうやら何かしらの理由でキタサンがこの家に来たようだ。果たしてこれも英寿の想定内なのか。


「駄洒落やめなさいよ、じじ臭い」

「それをルドルフやゼロワンに言ってやったら致命傷間違いなしだな」


「よっキタ、よく来たな♪」

「昨日急にトレーナーさんから一緒にご飯を食べたいって聞かされた時は緊張しましたよ」

「なんか着物とか着ていったほうがいいのかなぁとか」


どうやら英寿が朝食を食べようということで昨日用を取り付けたらしい。それならキタサンの言うこともここに来たわけも最もである。


「でもこういう機会も今まで無かったですし、トレーナーさんの叶えた世界?の影響がどんなものか知っておきたかったのもありますし」

「なのでご相伴に預かります!」


キタサンの口ぶりからするに

やはりツムリやスイープがこうなっているのは英寿が前のデザイアグランプリにて叶えた願いが影響していたようだ。


「もー玄関口で大声で喋ってんじゃないわよキタサン! 慣れないレシピに集中できないじゃない!」

「あっごめんごめんスイープさん……スイープさん⁉︎」


「えっちょっなんでスイープさんがここに?」

「ピプペポパニックぅ…」


そしてキタサンはスイープがいるなんて知らないので当然緊張する。


ちなみにもっと突き詰めると

キタサンは友達でありながらスイープに対してはどこか英寿に向けるのと似た目線で接している部分があるからである。

つまり…恋人目線というやつ。スイープもそのようで、されど互いに気づいていないため一方通行×2なのだ。


「何よ、ってそうかアンタ知らないのよね…ちょっと浮世トレーナー!」

「お呼びか?」


スイープもこの年ながら聡い子なので、キタサンが自身に対して困惑していることをすぐさま見抜き、諸悪の根源であるスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズを即座に呼びつける。


「じゃないわよ、アンタキタサンに何の事情も説明してないんじゃない!」

「サプライズムーヴとして最適かと思ってな」


「余計な魔法の間違いよ!」

「悪い悪い。姉さ〜ん!」


英寿もこうなることは分かっていたようで、ツムリをすぐにピンチヒッターとして呼びつける。澱みがない。


「その呼び方はやめてください!…ってこれは…スイープちゃん、そういうことですか?」

「そうよ、アタシはこんなしょうもないことの説明ヤダからね!」


「はあ、全く英寿様は…」

「改めましてブラック様、お久しぶりですね」


ツムリもなんとなく呼ばれた理由を察しながら

多少英寿に毒づき、キタサンにスイープがなぜ浮世邸(仮)にいるのかの説明を始めるのだった。


「はい。あのでもツムリさん、これはどういう…あたし、スイープさんがここにいるなんて思ってなくてぇ…最初から私服で来れば良かったよぅ」


「申し訳ありません、実は斯々然々でして──」


「──な、なるほど…あたしが知らないだけでスイープさんとは以前から契約されてたんですね」


初耳だがどうやらスイープはツムリの担当ウマ娘だったらしい。そしてそれを後述するいろいろな事情を鑑みてツムリが独自に伏せていたのである。しかし英寿は願いを叶えた副産物としてそれを知ることとなったのである。

家族に憧れている彼からすれば願ったり叶ったりだったのは言うまでもなく。とはいえグランマには断りはしっかりと入れておいたのだが。


「しかもスイープさんはツムリさん直々にビビッと直感で見出されたデザイアグランプリのサブナビゲーターでもある、と…」

「…なんかこう、デザグラがえらく身近になった反面謎が深まった感じです」


キタサンは当然訳が分かりつつ、いややっぱり分からない部分もあるという感じなようだ。むしろいきなり説明を受けて中途半端にでも理解できたことが凄まじいのかも。


「申し訳ありません! 前シーズンでは私もブラック様も初対面で、かつスイープさんがまだまだデザグラについて不慣れな時期でもあったので変に説明しても誤解を招くだけかと思い、情報を差し控えさせていただいていたんです」


「ですのでブラック様・ダイヤ様・シュヴァル様・クラウン様におかれましては大変申し訳ないことをしてしまったと感じてます…」

「あっ、頭を上げてください!」


当然ツムリも申し訳なさはしっかりとあり、キタサンはもちろん、普段から彼女と交流が深いダイヤら3人に対しても謝る有様だった。

ただ彼女もそこまで謝ってほしいわけではないしそもそも謝ってほしくて思わず先程の発言をしたわけではない。


「ちょっと、いやわりと混乱しましたけど!」

「でも事情は説明してもらえましたし、トレーナーさんがこういう感じにあたしを振り回して鍛えてくれるのはもう慣れっこなので…」


「そう言ってもらえると助かります。もちろんダイヤ様以外のお二方に関しましても遠からず説明はさせていただくつもりです」


「ダイヤちゃんが省かれてるのは…そういうことですよね」

「そうですね、彼は現時点では参加資格を得られていませんから」


これはどういうことだろうか。つまり景和は今回のデザイアグランプリに省かれているということか。


「…仕方ないとはいえ、桜井トレーナーがダイヤちゃんを助けた結果あんなふうになっちゃってあの子のG1勝利が遠のいちゃいそうなのは…辛いです」


景和はデザイアグランプリにて沙羅やダイヤを助けようとあーだこーだ頑張る中で瀕死の重傷を負い、それを危険視したギロリとツムリにより脱落措置を受けた。

それが前の世界での顛末だが、キタサンの口ぶりからするにそれにより景和は何かしら豹変してしまっており、それは担当ウマ娘であるダイヤへの指導にも影響を及ぼしているようだが。


「…あいつの頑張りが無ければ俺も勝てなかった。だからダイヤの不調をそれを理由に気にするなとは言わないが、ほどほどにな」


「トレーナーさん…はい!」

(そうだ…ダイヤちゃんが悪いとか桜井トレーナーが悪いとか、そういう変なこと考えても事態が解決するわけじゃない)


英寿ももちろんそうなることは薄々読めていたようで、景和もダイヤもちろん、そのどちらにも非はないというふうにフォローし、

自身が動揺していることは理解できていたからかキタサンもそれを素直に受け止めるのだった。


「今日は2021年ダービー当日、なら信じるっきゃないですよね!」

「ああ」


何より今日は親友たるダイヤのクラシック三冠、そのリベンジマッチの日だった。

過剰に心配こそすれど、それだけで終わるにはあまりに惜しい日だ。


「だからってアタシに抱きつくな〜!」

「あっごめんね。スイープさんを見るとつい…」


それを理解したからか前向きに戻り、されど普段の癖からかスイープを抱きしめてしまっていた。


「2人とも元気そうで何より、ではご飯にしましょうか」

「ギロリさん! はい、美味しく頂かせてもらいます!」


そんなタイミングでギロリが朝食の準備が委細整ったらしい知らせを持ってひょっこり顔を覗かせる。キタサンからすれば普段より一時間ほど早い朝餉だが、トレーナーやスイープと一緒という快感がそれを打ち消してあまりあるほどの多幸感を齎してくれていた。


「…今さらですがなぜこんな世界を? あなたの目的は何ですか?」

「あのさぁ、家族なんだから敬語は やめろって」


(なんか怪しい雰囲気…?)

「ふぉ、ふぉれぽひひいですねっ!」

「アタシの料理が美味いのは分かったから食べながら喋らないの、キタサン!」


肩書きだけどは言え、英寿は自分たちが家族であることに妙な拘りがあるらしい。

そして朝の団欒が始まって早々に家庭内不和が勃発するのかと危惧したキタサンは食べかけの口で咄嗟に騒ぎ、それを案の定スイープに咎められてしまう始末だ。


「ギロリさんもなんとか言ってください!」

「『父さん』と呼びなさい」

「…はぁ?」

「光栄じゃないか。英寿様と家族になれて」

「光栄ではないわよ! ないけど…願いは願いだからしょうがないわよ。使い魔もそこら辺は分かってるでしょ?」


ちなみにギロリは体制(?)側だった

ゲームマスターとして、この世界を叶える事を呑んだワケなのでさもありなんである。


「分かりますけどぉ〜…! うぅ、いつまで続くの、この世界…」

「俺がデザ神であり続ける限り。つまり一生だな」


情け容赦無いことに定評のあるスター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ。


「次回以降も勝つつもりなんですね、トレーナーさん」

「当たり前。勝つことに一所懸命な教え子に触発されない俺じゃないしな」


「そう言われると…なんか照れますね///」

「相変わらず教え子には甘々ね、浮世トレーナー…」


一方で教え子や気に入ったやつには基本的に甘いのもいつも通り。キタサンがそれに照れるのも予定調和である。


「こうなったらギーツに勝てる仮面ライダーを呼ばないと」

「そうそう。デザグラでエントリーされる人間って、どうやって決めてんの?」

「あっ、それはあたしも気になってたんです! 桜井トレーナーは今回選ばれてないみたいですし」


ツムリが仮面ライダーというワードを出すや否や、英寿は早速さっそく探りを入れていく。キタサンからの無自覚援護射撃もおまけだ。

そしてギロリ曰くゲームマスターが審査をしているということらしい。どの口がというやつだろうか。

「ゲームマスターだ」

「あの仮面の人ですか?」


こう答えたギロリを指してあんたじゃないかと言える者はまだこの場にはいなかった。


またゲームマスター本人がこう言ってしまえるあたり、遊ばれている感じさえある

あくまで望みを叶えるも叶えないも、情報を与えるも与えないも、ゲームマスターの匙加減ひとつと言ったところか。


「ああ。あの…。で、ゲームマスターはどういう基準で参加者を決めてるんだ?」


そんなことは知らぬ英寿は、どういう基準で決めてるのかとより核心に迫っていくが…


「気にしてどうするってのよ」

「ええ、何を気にする必要があるんですか?

貴方が初めてデザ神になった時に叶えた願いで、どうせ貴方の参加は決まっているのに」


当然相手にされない。

そしてどうやら英寿は初めてデザ神になった折に今後しばらくへの保険を掛けていたようだ。用意周到である。


「そりゃ気にはなるだろ。次のライバルが誰か」


また英寿だって相手にされないことは百も承知。次の問いを間髪入れず打ち出す。


「えっ、ずっと参加…ですか⁉︎」

「はい、こちらです」


しかしキタサンは先の英寿の願いが気になるようで


「失礼しますね…あっ、ほんとだ…」


『俺が死ぬまでデザイアグランプリに参加できる世界 浮世 英寿』


ツムリが見せてくれた当時のデザイアカードをまじまじと眺めていた。


「ふん。ちなみにこれもそうよ、アタシはまだいなかった頃だけど」


『俺が働かなくても暮らせる世界 浮世 英寿』


「と、トレーナーさん…」

「…まあ俺にも人並みの欲はあったってことで」


不労所得系の願いもあったようだ。

このあたりの世界を叶えて、母に会うという願いを叶えるための地盤を作っていたのだろう。


またツムリも言及こそしていないが1度叶えた世界は、特に別の願いで矛盾が生じなければ、何回世界が作り変えられても有効である。

それこそ、デザ神でなくなっても。


「どうよ、キタサン。…アンタに言いたくないけど、だいぶ変わったやつよコイツは!」

「うーん、でもトレーナーさんだからなぁ。いつもあたしを先回りして導いてくれる人だし」

「トレーナーさんらしいって感じ、かな。ごめんね、スイープさん!」

(謝らないでよ…アンタを馬鹿にしたくてやったわけじゃないし)


ただキタサンも別にだからといって英寿に幻滅はしない。驚きはしたが彼らしいという反応を示す。


「…アンタが納得してるならそれでいいわ」

「! スイープさん優しい〜♪」

「だーもう! 放しなさいよ!///」


スイープも別に強制をしたいわけではないからか、キタサンの反応を受けてすぐさま自分の意見を引っ込めたのだった。

もちろん、キタサンがスイープをハグしたのは言うまでもない。


「はあ、味方はいませんか…」

「諦めなさい、これも立派な願いなのだから」

「うぅ…」


「ふふ、そうこなくちゃな」


この流れなのでツムリは孤立するが、英寿的には願ったり叶ったりである。


「あっでもトレーナーさん!」

「なんだ?」


「…変なことで死んだり、あたしの前からいなくなったりしないでくださいね?」

「まだまだトレーナーさんと頑張っていきたいのにそんなの…あたし、凄く悲しいですから…」


そしてここに来てキタサンが打ち明けたがさっきの願いを彼女なりに気にしていたことを打ち明ける。死ぬまでなんて物騒な出だしから書かれていればそりゃそうである


(可愛い!…が何気に愛が重いな、キタ…)

「もちろん。俺にだって願いもお前っていう守りたい日常もある。だからそう簡単に終わらないよ、何度でも」


英寿もキタサンを愛でつつ、しっかりとキタサンの側にいることを仄めかすのだった。


「! ですよね! 良かったあっ…!」

「だから離れなさいよぅ〜…!」


ちなみにまたスイープを抱きしめていた。


「というかキタ、お前今日はダイヤモンドのダービーを観戦するんだろ。準備は万全か?」

「あっ⁉︎」

(あたしったらやらかしたあっ⁉︎)


どうやらキタサンは出かける準備をしないままにトレーニングを始めていたようだ。当然大慌て。


「…トレーナーさぁん〜!」

「泣くな泣くな。今気づいたんだから帰って準備しても十分間に合う」

「寮までは送ってやるから」


しかし英寿も鬼ではない。すぐさま解決策を打ちだしてくれる。


「! ありがとうございますぅ〜!」

「というか、じゃあ残ってるご飯急いで食べちゃいますね。はむはむっ」


キタサンもお調子者だからかすぐにそれに安心し、朝食の残りを食べ始めていた。


「慌てず好き嫌いせず食べなさいよっ」

「スイープさんがそれを言うなんて…私感動ですっ…!」

「ふふん、魔法少女たるもの成長しないなんてあり得ないんだからっ♪」


スイープはわりと好き嫌いがはっきりしているほうなのでこんな発言をすること自体、ツムリにとっては感涙ものな出来事だった。


「この調子でナビゲーターの仕事も毎日学んでいってくれると嬉しいですね」

「うっ、ヤダヤダぁ!!」


しかしサブナビゲーターになるにはまだまだ道は険しそうである。


「相変わらず先は長そうですね…」

「スイープさんっ、あたしもトレーニング頑張るから頑張ろー!」

「アンタのと一緒にしないでよ〜!」


キタサンが励まそうとスイープを応募するも的外れだったからかスイープがむしろ突っ込んでいた。


「平和だなぁ…」

「呑気さも世界スター級ですね」


その後、朝食を食べ終わったキタサンは寮に送ってもらい、支度を済ませ混雑することを踏まえて昼頃にはシュヴァルやクラウンと一緒にトレセンを立ったのだった。

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