乖離Ⅰ:ようこそ、新シーズンへ(ChapterⅠ)
名無しの気ぶり🦊

────ここはサトノ家が国内に有している技術開発局、その電子部門のデータバンク。
2週間前同様にクラウンが道長の手がかりを求めて訪れていた。
「────あれからいろいろ調べて分かったことは…」
「退場したプレイヤーの記憶はもちろん姿を真似るジャマトがいるなら、その大元であるジャマトを育成する環境にプレイヤーの死体が一度運ばれるのは間違いない」
あれ以降、改めてデザイアグランプリについてスポンサーである父の力を利用し同番組に関する様々な知識やそれに伴う幾つかの推測を入手した。
と言っても、あくまで既存の疑問を推測に変えただけのものが大半。
しかしその既存の情報のブラッシュアップだけでも今のクラウンには十分だった。
「そしてミッチーは退場したのだから、間違いなくその体は同じ場所に運ばれるはず。そのうえで生きているのであれば…」
「────不用说(言うまでもなく)、あの人はそこにいる。そしてそれを知っているベロバはデザイアグランプリ関係者、これも間違いないはずよね」
ベロバがなぜ道長の無事を知っているのか、この間再会した際はいろいろと動揺してしまったがゆえに深く考えることはなかった。
が、デザイアグランプリがリアリティライダーショーであることも明かされた今、プレイヤーでないままに特別措置でデザグラの記憶を保持していられている今なら、当然その限りではなく。
ゆえにベロバは間違いなくデザイアグランプリに深く関係した存在だろうという確信に似た直感と推測がはっきりとあった。
「ならやはり────デザイアグランプリのプロデューサーであるニラムさんに頼るしかベロバに会う手段はなさそうね」
────なればこそ、自らが直接会いに行くことは難しく、デザイアグランプリ関係者のコネクション、この場合はプロデューサーであるニラムの協力が必要不可欠だという結論も程なくして導き出せたのだった。

『────デザイアグランプリ、それは理想の世界を叶えるため怪物ジャマトから世界を救うゲーム』
『これまで数多の戦いが繰り広げられ、勝利と敗北のドラマが紡がれてきた』
『────そして今、デザイアグランプリは、新たなシリーズとして生まれ変わる!』





時を同じくして盛大に始まったのはデザイアグランプリ新シーズンのガイダンス。
ギロリによる不正やコラスによる一時的な番組乗っ取りが発生したこともあって、この度幾度めかの仕切り直しを図ったのである。
オーディエンスからの熱い視線が注がれる中、デザイアグランプリの新たなシリーズが華やかに開幕した。
『それではエントリーメンバーを紹介しよう!』
ナレ『まずはおなじみ、戦闘力ナンバーワン不敗の男、仮面ライダーギーツこと浮世英寿!』
『そのサブサポーターであるお祭り娘、皆の愛バことキタサンブラック!』


実況のようなアナウンスも付き、よりエンターテイメント感が増した。
ちなみにニラムの趣向である。
「ふっ♪」
「あっ、あはは…」
(新シーズン開催当日にいきなり呼び出されたと思ったら…というかサブサポーターって何なのお⁉︎)
英寿は堂々としたものだが、担当のキタサンはというと観客ではない感じで当日いきなり呼び出された結果のこれにひたすらに疑問符が浮かびつつ、けれど皆の前で笑顔を見せることは躊躇わなかった。
今の自らを形作るものが自分の周囲に数多存在する誰かであると幾度かの試練を乗り越えた今なら。
『セレブナンバーワン、一般人を夢見るインフルエンサー、仮面ライダーナーゴこと鞍馬祢音!』
『秘めたポテンシャルは姉妹一、担当トレーナーの幸せを一途に願う引っ込み思案なナーゴのサブサポーター、偉大なウマ娘ことシュヴァルグラン!』
「なんか…手、振ったほうが良い感じ…?」
「あっあわわ…!!?? …よろしく、れす…」
(初出しな展開に初出しな情報…サブサポーターって何…⁉︎)


祢音さんは、オーディエンスである目型のカメラに戸惑いながらも手を振り、シュヴァルも同様に機器の向こうの観客たちに精一杯の笑顔と明るそうな雰囲気をお届けする。
キタサン同様の混乱から内心はド緊張状態だったが表面上はどうにか取り繕えているのは、前述した理由もそうだが彼女のこれまでの祢音との3年間あってのものだった。
「「「「「ナーゴ(祢音)(シュヴァくん)ーーーーー!!」」」」」
「あっ…ハハッ! わあ~!」
「あっ、あはは…!」
(悪い人達じゃない、のかなぁ…?)
返ってきた反応に満更でもなさそうなのは、配信者と有名人の性というやつである
とりわけ視聴者やシュヴァルに家族以上の情愛をともすれば向けている祢音には、この反応だけでも生の実感を味合わせてくれる代物に感じられた。
『知能指数ナンバーワン、天才クイズ王にしてフリーのトレーナー、仮面ライダーナッジスパロウこと五十鈴大智!』
『彼が面倒を見ているウマ娘で風水に関することなら何でもおまかせ! 風水の実用性を世に広め皆を幸せにすることを夢見るラッキーガール、コパノリッキー!』


お次はニューメンバー。
五十鈴大智とコパノリッキーだ。
トレセンでは教師と生徒なこの二人がこの場にいるのは、大智は参戦経験があるから、リッキーはあるミッションの企画内容に際し大智の数少ない女性の友人ということで選ばれたためである
「リッキー⭐︎ ラッキー⭐︎皆でハッピー⭐︎ コパノリッキーです、よろしくお願いしますっ!」
当人は当初は大いに困惑したが、今はそれも縁とすっぱり割り切って参戦している。
「リッキーさん!」
「学園ぶりだね、キタちゃんっ⭐︎」
ダイヤより以前からの幼馴染としてリッキーを見知っているキタサンは素直にこれを喜んでいた。
「へえぇ〜! トレセンじゃ見知った顔だけど、ここじゃニューメンバー♪」
「り、リッキーさんに五十鈴先生…⁉︎」
「ここでもよろしくね、祢音さん、シュヴァルちゃん、ダイヤちゃん!」
祢音も同様で、しかしてシュヴァルは困惑のほうが勝っていた。いよいよ世間の狭さを実感してきたと言わんばかりである。
リッキー本人はというと、キタサンに対する反応と変わらずデザイアグランプリという非日常でもトレセンでの知り合いに会えて嬉しいといった具合だ。
(鞍馬財閥の一人娘もプレイヤーか…なるほど。改めて見ても自由で満たされているようで人として最も根源的なギフトを贈られていないと見える)
そんななか大智はただただ理性的に祢音を分析していた。
もちろんこれが初めてというわけではないがデザイアグランプリのプレイヤーとしては初めて向き合うわけで改めて見つめ直していた。
人間観察も趣味な男のそれはなかなかに様になっている。
ナレ『身体能力ナンバーワン、この世に数多存在するウマ娘さえレースであれば凌ぐ運動神経と身体能力の持ち主、霊長類最速女子アスリートの二つ名に嘘偽りなし! 仮面ライダーロポこと我那覇冴!』


お次は仮面ライダーロポこと我那覇冴、ナレーションにも言われているように人の身でありながらトゥインクル・シリーズやドリームトロフィーリーグにて活躍している大抵のウマ娘を凌ぐスピードやテクニックの持ち主である。
本人が努力家というところも含めて短距離から長距離までなんでもござれであり、ウマ娘でないことを惜しまれることもしばしばだった。
『その担当ウマ娘で、日本の苫小牧市の良さを人々に知ってもらうことを夢見る少女、苫小牧の紙の鶴ことホッコータルマエ!』
「よ、よろしくお願いしますっ!」
もちろん冴がプレイヤーということは彼女がトレーナーとして契約しているタルマエももちろんサポート役で同伴している。
大智同様に場慣れした冴と違い、初めて顔を出す現場だからかロコドル経験がありながら声は上擦ったものとなっていた。
「まさかタルマエもなんて…これも相生かな」
「リッキー相手でも、キタちゃん相手でも容赦しないんだからねっ!」
「もちろんですっ!」
初出場なのは変わらないリッキーもこれには驚いていた。ただタルマエは彼女相手には普段通りの自分を見せていた。軽口を叩き合う仲なのが幸いした感じである。
「久しぶり英寿。あっ、今はスターの英寿様か!」
「えっ、デザイアグランプリでも知り合いなの?」
「我那覇トレーナーってデザイアグランプリの元プレイヤーだったってことですか⁉︎」
ちなみに参戦経験があるなら何度かの元ファイナリスト経験もあるのが大智と冴である。
「前に何度かデザグラの決勝戦に残ってたやつらだ。今度のライバルは手強そうだ」
今は景和と祢音もそうだが、英寿は元々道長に並んでこの二人のことはよく憶えていた。
「それはこっちのセリフだよ。まあ、今回こそ僕が勝つけどね」
「いや…今度も俺が勝つさ」
大智の側も同様で、英寿のことは並々ならぬ強敵でライバルと認識していた。
もちろん、互いに負けるつもりは毛頭ない。
「以上5名で、デザ神の座を賭けて戦います」
「ちなみに今回は特別ルールとして、あんた達の担当ウマ娘とそれぞれ協力してクリアしてもらうわ。もちろん戦闘以外の場面で、よ!」

そしてつまり出場者は英寿、景和、祢音に新たなメンバー、クイズ王の大智と高い身体能力を誇る冴を加えた5名
これにスイープが言うように戦闘以外の場面に限り担当ウマ娘も加わるという形式である。
ちなみに、これが上手く行けば以降のシーズンもしばらくは同じ形式で通そうとニラムは考えている。
「あたしもってことは協力して頭を使う場面があるってこと…?」
そして戦闘以外の場面となれば必然的に頭を使う場面ではとキタサンは思い立つ。
「なるほど、だから私も呼ばれたわけだね…いろいろいきなり尽くしだけど任せて、先生⭐︎」
「ああ、よろしく頼むよリッキーさん」
(恐らくそこまで君の手は借りないだろうけど)
リッキーも似た考えのようで、また同時に大智に合わせて自分が選ばれた理由もなんとなく伺い知れた。
大智もリッキーも統計学の専門家であり、また人間観察に優れているという意味では変わらないからだ。
「トレーナーさん、けっぱりましょう!」
「ふふ、地元の言葉でてるよタルマエ♪ でももちろん!」
タルマエはというと、自分もミッションに加われるという事実にさながらメイクデビュー時のように奮い立っており、冴もそれを見て喜ばしく思うのだった。
「あっ、というかツムリさん、スイープさん!」
「桜井トレーナーとダイヤちゃんの紹介を忘れてますよっ⁉︎」
「う~ん、 5名? 1、2、3、4…と数えた私は間違ってなかった…」(祢音)
そしてここでようやくキタサンが自らの幼馴染とダイヤの紹介がされていなかったという事実に気づく。また祢音もそうだったようで、わざわざ人数を数えるくらい気にしていた。
「ありがとう、キタちゃん、祢音さん! トレーナーさんも良かったですね♪」
「俺はいいけど、ダイヤちゃんまでハブられたのに気づかれないのはどうかと思ってたから良かったよ…」

当人達も当たり前だが気になっていたようで。
とりわけ景和は自分はともかく、ダイヤに対してまで無視を決められるのは流石にどうなのかと思っていたところなので、渡りに船みたいなこの数十秒間の展開には感謝していた
「恐らく運営側の不手際だと思われます、申し訳ありません!」
「ごめんなさいっ!」
何かしらのミスがデザイアグランプリ側にあったようで、ツムリもスイープも今までしたことがないくらい申し訳なさそうに謝ってきた。
「いやいや、気にしないで二人とも!」
「はい、こうして気づいてもらえたならそれで私とトレーナーさんは十分です♪」
景和もダイヤもここまで勢いよく謝られる必要はないと感じたため、もう十分だというように告げるのであった。
「サトノぉ…はっ⁉︎ ぶ、舞台移動とゲーム説明よ!」
それにありがたさを感じつつ、しかし予定も押してきているのでスイープはプレイヤー陣をすぐにゲームエリアに移動させた。
「それではデザイアグランプリ、第1回戦、学園ゲームを開始します! 不良ジャマトから町を守り、どこかの学校にいる校長ジャマトを退治してください」
今ツムリが説明したように1回戦は不良ジャマトから街を守り、校長ジャマトを倒す学園ゲーム。新シーズンの開幕を告げるミッションとしては風変わりなものとなった。
「今回はゲームスタートの時点で、プレイヤーに宝箱式でバックルを配るわ!」
景和さん→ニンジャ、冴→ゾンビ、大智→モンスター、祢音→ビート、英寿→ブーストといった具合にレイズバックルが各プレイヤーに配られる。
「そしてルールは、不良ジャマトから街を守りながら、どこかの学校にいる校長ジャマトを倒すというものです」
「や、ヤンキージャマト…ヤンキースなら野球だけど」
シュヴァルのちょっと私情混じりの指摘もあながちズレてはいないような不良漫画チックなミッションから新シーズンの開幕である。
『『『『『『『『『『ジャア…』』』』』』』』』』
(そう言えば平さんの言葉を真似するジャマトがいたよな…でも)
それと同時に大量のジャマトが現れたのを見て景和は退場者の言葉を口にするジャマトの事は気にかかるが────
『…そうだよな…今度こそ、理想の世界を!』
「トレーナーさん…頑張ってください!」
(これはまた随分と…)
と、気合を入れる。ダイヤもそんな景和の祈りが通じるよう少しばかり遠方から想いを馳せる。
それを聞いていた大智は何とも言えない表情を浮かべ何やら良からぬ策を巡らせだす。
『お嬢様、足引っ張んなよ』
『そっちこそ!』
その近くにいる冴と祢音は軽口を叩きあう。ミッション開始直前だからか気が立っていた。
『『『『『SET』』』』』
『『『『『変身!』』』』』
『『『『『BOOST(NINJYA)(BEAT)(MONSTER)(ZOMBIE)』』』』』


そして皆、同時に変身。
瞬間、場が一気に彩色豊かになり華やぐ。
大智は仮面ライダーナッジスパロウ・モンスターフォーム、冴は仮面ライダーロポゾンビフォームへ変身
「雀がモチーフなんだ、先生が変身するライダー! つまり風水用語的には朱雀!」
「ロポなのは狼王ロボからかな。でもトレーナーさんは狼かあ…なんかいいかも♪」
リッキーとタルマエはフィクションではないライダーの変身を見るのは初めてだからか無意識のうちに興奮していた。
とりわけ自身の指導者の変身だからなおのこと。
「二人のその反応、懐かしいなぁ」
「うん、私も最初は似た感じだったもん♪」
「…僕も、似た感じでした…」
キタサン・ダイヤ・シュヴァルはそれを見て今から数年前の自分達を思いだす。
今の二人同様に思わず興奮したのを今でも憶えている。
「あっそっか、キタちゃん達は何回か自分のトレーナーの変身を見てるんだっけ」
「やっぱり驚くよね〜♪」
そんな3人にリッキーもタルマエも親近感を当然だが感じた。
皆、担当の変身を初めて見るぶんには心が躍ることは避けられないということだ。
そうして不良ジャマトを迎え撃つライダーたち。
『冴さん、邪魔しないでよ!』
『ちょっと桜井、邪魔はどっちよ!』
が、意外と狭い環境でのバトルなら喧嘩も発生しやすく、今回は景和と冴がそれだった。
要は景和が攻撃しようとした不良ジャマトに、冴が割り込んで戦い始めた形。
「いきなり喧嘩、トレーナーさん⁉︎」
「これはお互いにペナルティ扱いにはならないんだ…」
そしてその直後までの流れを見ていればこそダイヤとキタサンの頭に浮かんだのは、これはプレイヤーへの攻撃とは見なされないという驚き。
二人は知る由もないことだが、今回のミッションも含め決勝でなく、かつターゲットとなるジャマトを倒すまでのスコア勝負ということであれば他プレイヤーのスコアを奪う意義もあるのでルールの範疇というふうに運営は定めているのである。
「地味に面倒〜!」
『『『『『ジャジャ!』』』』』
一方、祢音はジャマトの数の多さに地味に手を焼いていた。まず校長ジャマトがいるだろう学校に向かう前の時点でこのやりづらさ。
なかなかに手間取りそうだなと見ている側のシュヴァルは感じていた。
(予想通り、砂場に向かってきた)
大智「よし」
『MONSTER STRIKE』
『フッ!』
そんななか大智が繰り出した一手は砂場という不安定な地形にジャマトを誘い込み攻撃をかまし一気に数を減らすというもの。
「意外とパワー派なんだ、五十鈴先生って…」
「先生の場合理性的に殴るってやつだね!」
知性派に見えて、その実戦い方は案外パワータイプのそれ。リッキーは知っているが他のメンバーは知らない大智の意外な特徴だった。
『…余計なことをしないでくれるかな?』
『それは私が言いたい!』
…しかし砂場でこれをやったということは、同じ環境で戦っていた祢音ももろに巻き込まれたわけで。
当然祢音本人からは不満も漏れるというもの、なまじ大智のほうが迷惑だと言ってきたものだから語気も強くなっていた。
「でも…祢音ちゃんが巻き込まれてるのはなぁ…」
「ごめんね、シュヴァルちゃん!」
「あっいや、リッキーさんのせいじゃないです…!」
祢音が不満に感じるのであれば担当ウマ娘であるシュヴァルも不満に感じていて、けれどリッキーがすぐさまここにいない大智のぶんまで彼女に強く謝罪を見せたからかすぐに落ち着きを見せるのだった。
