ここはどこ?私はヒーロー?!
ガッチャード✕レジェンド✕ウマ娘 前編
普通の高校生であった一ノ瀬宝太郎とその幼馴染であるヒシミラクルは、ひょんなことから未来の錬金術師を育てるための学校《錬金アカデミー》へ通うこととなった。彼らに課せられた使命は、封印から解放され現世に迷い込んだ101体のケミーを取り戻すこと。新たな『ガッチャ』、新たな刺激。大きな夢を追いかける少年少女の長い旅が今、始まる!
───
──
─
「いや、ここどこ〜〜〜?」
木と芝生が生い茂る場所で、ヒシミラクルは嘆く。ことの発端なぞ分かるわけがなく、寝ぼけた目で見た光景が一瞬にして彼女の脳を覚ました結果出力された言葉がこれであった。
改めて周りを見る。一般的なイメージの自然に触れることができる公園のようではあるものの、シャボン玉越しに見ているように輪郭が虹色にぼやけていた。
そこでふと思いつき、ポケットからスマホを取り出すも、画面の上側には圏外のマーク。
打つ手なし。大きなため息とともにがくっと落とした肩に、突然手が乗っかる感覚がした。
「宝太郎?!」
「───Who?ホウタローとは、誰のことだ?」
振り向いた先にいたのは、褐色肌の高身長ウマ娘。シンボリクリスエスと名乗った彼女に、ミラクルは若干の既視感を覚える。トレセン学園の制服、クールなイケメン顔、背中のヴァルバラッシャー……
「あっ!黒鋼スパナ!……さんが担当してるウマ娘さん!」
「私のトレーナーを知っているのか。───Why?」
こうなっては仕方がない、と観念したミラクルは自分たちとスパナの関係性について大まかに話した。
「……彼にそんな一面があったとはな。───Secret。まだ隠し事がある気がするが……」
「分かんないことって言ったら……どうしてその剣を持ってるんです?」
「───Unknown。気付けばここにいて、身を守れるものがないかと思ったら、隣りにあった」
「はえ~」
「どうやら役者は揃ったようだな」
「「?!」」
聞き慣れない声の方へ身体を向けると、人が近づく気配さえしなかったそこに、一人のウマ娘が立っていた。紫がかった髪に白い流星と眼帯が印象的な彼女を、クリスエスはクラスメイトのタニノギムレットだとつぶやいた。
「ギムレットもここに来ていたのか」
「正しくは、お前の想像しているギムレットではない。重なり合う可能性のワルツ……その片翼というわけだ」
「む、難しいことを仰っている?」
「私の知っているギムレットと違う、ということらしい」
「えぇ……?」
「今はワタシが白ウサギの役を羽織ろう。……ついてこい」
その言葉を皮切りに歩き始めたギムレットを二人が追いかける。公園のような場所を抜けた先は絵に書いたような近未来の街、そして見たことのない、巨大な塔が立っていた。
「あの塔に、お前達を待っている者がいる」
「我々を、待っている?」
「だがその前に少し、試させてほしい」
突如、鎧をまとった人型の何かが、三人を囲む。
「な、なに?この人たち?!」
「奴らの名はハンドレッド。楽園に生きる民の安泰を脅かす存在……」
「逃げ場がないぞ、ギムレット。どうすればいい」
「それを知りたいのさ、俺達は」
「俺、達?」
「お前達は『仮面ライダーガッチャード』のヒロインに該当する。ヒロイン……その役割を与えられたものは『仮面ライダー』の要素の一つを担う」
「なにを言って───」
「これは試練だ!お前達の『キャラクター』を、『美学』を、『ゴージャス』を!存分に見せびらかしてみろ!」
高らかに笑うギムレットを無視して、じわりじわりとにじみ寄るハンドレッドの兵士。この場において対抗手段になり得るものは───
「二人共、いつでも走る準備を。───Mission。道は私が開く」
「む、無茶ですよクリスエスさん!」
「武器を持っているのは私だけだ。それとも、他に方法があるのか?」
「それは……」
「全員を倒すつもりはない。頃合いを見て私も逃げる」
「だ、そうだ。オマエはどうする?ヒシミラクル」
ヒシミラクルはいままで、こうした場面に直面したことはある。でもそのときにはいつだって、一ノ瀬宝太郎がいて、仮面ライダーガッチャードへ変身し事なきを得ていた。この場にいるのはそんな守られてばかりの頼りない自分と、さっきまで何も知らなかった一般人。足止め役に適任なのは明確なのに……それが言えないでいる。
(逃げちゃえば?)
いつもどおりの自分がささやく。だがそれを、この状況に置かれた自分が許さなかった。
「今だ二人共!」
「どりゃぁーーー!」
「?!」
クリスエスに薙ぎ払われ体勢を崩した兵士に向かって突進したミラクルは、勢いのまま兵士の武器を奪うと、クリスエスに対して背を任せる位置についた。
「何をしている、ミラクル!」
「───私の友達、すごい奴なんです!初めてマルガムと遭遇した時も、逃げずに立ち向かって……」
「私は何もできなかった、何もしようとしなかった」
「でもそれをそういうものだってことにはしたくない!私だって、宝太郎みたいに……」
「目の前の人を、助けたい!」
なにもなしにヒーローの隣に立つ自分の不甲斐なさが勇気へと変わり、彼女を突き動かしている!
「マーベリュー!お前達の覚悟、受け取った!」
「ホッパーーー!」
「……!あれは───」
「ホパちゃんと、ガッチャードライバー?!」
ホパちゃんことホッパー1は、ヒシミラクルにガッチャードライバーとスチームライナーのケミーカードを渡すと、自身もカードへ変わる。
「お前が『キャラクター』を魅せるまで隠していた。さぁ……メタモルフォーゼ!新たな己の誕生を祝え!」
「……よーし、やるぞ!」
「クリス!これを使え!」
クリスエスに渡されたのはマッドウィールのケミーカード。簡単な指示を出すと、ギムレットはきらびやかな銃を取り出した。
「ワタシも加わろう。戦いはスムーズに、だ」
腰に巻かれたドライバーに2枚のカードが差し込まれる。
展開された大剣のスロットにカードが装填される。
光り輝くマグナムに2枚のカードが読み込まれる。
「変身!」『ガッチャーンコ!』
「───Steel。」『ヴァルバラッシュ!』
「ゴージャスに!」『ファイズライダー!キバライダー!』
『スチーム!ホッパー!』
『TUNE UP!MADWHEEL……!』
『レジェンドライド!』
ギムレットに召喚された仮面ライダー達はすぐさま必殺技の構えに移る。
『Exceed Charge』
『ラ・イ・ズ・アッ・プ』
『ゴ・ゴ・ゴ ゴージャス!』
爆煙を上げ吹き飛ぶ兵士を尻目に敵の数は増していく。
背中を合わせた二人は改めて多く存在する兵士に目を向ける。
「後ろは頼んだ」
「バッチこーい!」
『SCRAP』
『スチームホッパー!』
エネルギーが二人の身体に集まり、放出される。
『ヴァルバラブレイク!』
『フィーバー!』
───
──
─
「ふぃ~。なんとかなりましたね〜」
変身を解いた途端、どっと疲れがたまる。膝に手をつきながらヒシミラクルは息を吐く。彼女の腰に巻かれたベルトを見て、やはり、とクリスエスは言う。
「君のそのベルト、見覚えがある。───A little time ago。昔、私のトレーナーが見せてくれたものに似ている」
「私のトレーナー、って……スパナさん?」
「いや、前担当である九堂風雅だ」
「……!」
九堂風雅。ケミーと人類の共存を願い禁忌を犯した、現在行方不明の錬金術師。彼は崩壊するケミー達の住処の中で、一ノ瀬宝太郎とヒシミラクルにガッチャードライバーを託し二人を現実世界へ返した。錬金術師でありながら隠れ蓑としてなのかトレーナー業をしていたが、行方をくらましたため、今は黒鋼スパナが後任を務めている。
「彼は言っていた。『いつかこの世界に、今では想像できないほど発達し、助け合いが生まれ、慈しむ世が来る』と。そのベルトはいつか、そんな自分の夢と共に誰かに託す、ともな」
曇りのない眼がヒシミラクルを捉える。
「───Confirmation。君に、その責任を背負う覚悟はあるか?」
「……はい」
いつもならはぐらかす、責任の問いかけ。しかし今この瞬間の、やると決めたヒシミラクルは率直に言う。
「その夢、きっと叶えてみせます。友達と二人で!」
「───そうか」
二人の邪魔にならないように少し離れた場所にいたギムレットがあるものを見つけた。
「話しているところ悪いが、そろそろ迎えが来る」
「迎……えぇッ!?」
「臨戦態勢を取る必要はない、あれに害はないからな」
あれと呼ばれた銀色のカーテンは、三人を包み込む。
「ただ、場所が移ろうだけさ」

気付けば三人は、広いダイニングルームの中にいた。テーブルを跨いで鎮座する2つの箱の中に───
「あっ!宝太郎!」
「ミラ子!そっちから開けられる?!」
「トレーナー……捕まっているのか?」
「まぁ、そうなるな……待て、なぜその剣を持っている。クリス、それをどこで───」
「役者は揃ったようだね」
皆が一斉に一点へ目を向ける。ダイニングルームの中央に置かれたテーブル、それに付随する主人の位置にある椅子に、
黄金の仮面ライダーが座っていた。
誰もが息を呑む中、横隣の椅子にタニノギムレットが座る。それをきっかけに、仮面ライダーが言う。
「始めよう、君達を、ゴージャスにする試練を!」