おあずけが苦手な野良犬-1

おあずけが苦手な野良犬-1

イグ6を夢見るドーザー



「今日は、らぶらぶえっち……だめ……?い、いぐあす……わたしのこと、きらいになったの……?や、やだ……きらい、ならないでぇ……。」

「待て待て待てそういう事じゃねえんだよ、落ち着け野良犬。」

初手からいきなり涙目で縋る野良犬に、宥めつつもフォローを入れる。子供故の単純な思考回路がセックスしない≒嫌いというド派手な脱線事故をかましているが、割と自業自得だから重く受け止める事とする。

しかしながら、細っこい子供に泣きながらセックス懇願されて嫌わないでと言われる絵面は正に犯罪だ。ウォルターに見られたら間違いなくブチ殺される。多大なる誤解……もクソもねえや、普通に誰が見ても死罪だろこんなもん。

で、何故こんな状況に陥っているのかと言うと……。


「やあ戦友の婿殿、V.Ⅳラスティだ。早速だが説明に入ろう。」

「呼んでもねえのに何で来るんだよお前はよ、イラつくな本当に。」

気の所為か、妙に聞き馴染んでいる切り出しから突如として始まったのは、V.部隊の第四隊長、野良犬の戦友との話だった。こいつはしょっちゅうV.Ⅱの偉そうな役人にちょっかいをかけておちょくってる阿呆だ。

何やらその手には記憶媒体と本を持っており、此方に差し出してくる。内容は……。

「……"密着!駄犬の再教育実録"と、"おあずけセックスで理解らせる方法"……?んだこりゃあ、一体何のつもりだ。」

後者はまだしも、前者の名前はどうにかなんねーのか。まるで野良犬名指しの密造AVみてーに聞こえて趣味が悪……い、いや気になってねーよ、気になってねえ!

「君が以前酒の席で零した愚痴をふと思い出してね、V.Ⅱスネイル秘蔵の品をくすねてきた。これを使えば、さしもの戦友でも"待て"の出来る貞淑さを身につけられるのではないだろうか。」

身に覚えがねえ、一体いつの話してんだこいつ。いや何か言った気がするな……我儘で甘えん坊な一面は可愛いが、「少しぐらい我慢を覚えて欲しい」とかどうとか……いや言ってたわ、言ってんじゃねえか俺。

つーかまたかよ、またあの役人はこいつに弄ばれてんのか。あいつ再教育センター主任だとか言ってたがやっぱりそういう性癖なんだな、勝手に暴露されてて笑えるぜ……いや勝手に持っていかれた上に他人に譲渡される自分の性癖と考えるとあまりにも薄ら寒いな。俺と野良犬にこいつの矛先が向いてない事を幸運に思うとしよう。

「元々これはV.Ⅵからの依頼でもあってね、スネイル閣下の趣味を知りたいそうだ。蓋を開けてみれば君達の役にも立ちそうだからこれ幸い……という訳さ。」

何依頼してやがんだよ第六隊長も第六隊長でよ、どうなってんだV.部隊の治安。終わってんだろ、こりゃあの野郎も胃痛になるだろうな……気の毒に。

「でもいいのかよ、俺に渡して。第六隊長に頼まれてんだろ?」

「それについては心配要らない、そろそろ私は怒り心頭のスネイルに追いかけ回され出す頃合いだ。つまり、万一にも捕縛されればこれを手元から失う事となり、そうなれば芋づる式に誰がやったか判明してしまうだろう。こういう頼みをするのはいつもメーテルリンクだから、大体私が口を割らなくても発覚してしまう。」

何で口割らなくてもバレるぐらいの常習犯なんだよお前等は。

「そこで君達に預ける事が役に立つという訳だ。私とメーテルリンクの両名が捕縛されても、所持さえしていなければ目を欺ける。ほとぼりが冷めた頃に君達から回収し、彼女に受け渡せば仕事は終わり……そういう事だ。」

「それはそれで一方的に巻き込まれてる俺と野良犬がダシにされてるみてえでクソイラつくんだが。」

「何、その内容で損はしない筈だ。ルビコンの英雄様は激しいプレイもお好きだとRaDとAMから聞き及んでいる。」

勝手に漏らしてんじゃねえぶっ殺すぞ、特にあのクソポンコツAM。キレそう。

「っと、すまない……そろそろ気取ったスネイルが此方にV.Ⅰを派遣してもおかしくない。最近の彼は以前にも増して強くなっていて、私ではそろそろ手に負えないんだ。ではこれで!」

「あ、おい!待ちやがれ!……す、好き放題して行きやがった。」

……調教、とおあずけ、ねぇ。野良犬にそれが出来るってのか?


で、話は冒頭に戻って此方から切り出した所、ご覧のざまだ。

「正確にはな、本番行為……あー、なんだ。挿入を含むセックスを、5日後まで我慢する。そんで、5日まで焦らした事で……なんだ?普段より気持ちよく、なれる?っつう……多分そういうやつ?……だ。」

本の内容には、"ポリネシアンセックス"と書いてあった。何でもじっくりと焦らして、丁寧に盛り上げて……ゆっくりと時間をかけて行うもの、とかどうとか。

「いぐあす……きらいに、ならない……?らぶらぶ、してくれる……?」

涙ぐんだ上目遣いで野良犬がこちらを見つめてくる。……止めてくれよそういうの、お前滅茶苦茶可愛いって自覚してくれ、心臓に悪い。あと何だか危険な欲望に目覚めそうになる。

「するする、なる訳ねーだろ。ただちょっと、普段と違う方法でヤるだけだ。」

【レイヴン、安心してください。例えイグアスがあなたを嫌いになっても、私はあなたを嫌いにはなりません。】

「えあ……ありがと……。えっち、してくれるん、だよね……?」

今何か妙な気の利かせ方しただろエアの野郎、こういう時の耳鳴りは大体そういうのだってもう理解したぞ畜生。

【C4-621、これからイグアスがあなたに行う検証は、あなたにとっては過酷なものになるかもしれません。ですが、性交……失礼。成功の暁には、確かな満足感が得られるものと思われます。】

何上手いこと言った気になってやがんだ、フォローで調子乗んな。



「それで、どうするの?ふく、ぬいだけど。」

既に互いの衣類は脱ぎ捨て、ベッドの上で向かい合う。相変わらずなんだが、こう……犯罪臭が酷い絵面だ。野良犬の部屋は可愛らしいメルヘンな人形だの、女児らしい色合いだのが辺り一面に……いや所々にACの設計図だのアセンブリレシピだのが混ざってて急に無骨だし、シレっと大人の玩具が混入していて異物感が半端ねえ。

つうか最後に関してはモロ異物っつうか、犯罪臭をより一層引き上げててどうしようもねえ。頭痛くなりそうだ。そんで野良犬も当然のように脱ぐんだから、俺はやっぱり相当悪い大人な気がして……いや文字通り悪い大人そのものだろ。

「いいか野良犬、5日後にはちゃんと挿入はする。代わりにだ、今日から4日間は挿入もしねーし、自慰も禁止。特にイく事もだ。」

「えっ。……え、え……?お、おちんちんじゅぽじゅぽ、だめなの……?せーえき、そそいでくれないの……?お、おなにーもだめ……?イくのも、きんし……?」

この世の終わりみたいな顔された。というかそのあどけねえツラで出てくるワードがあんまりにも淫猥で頭が割れそうだ。ヤってる最中は興奮材料でしかないが、まだ盛り上がってない時だと現実とのギャップでイカレそうになる。

何度でも思うけど、絵面の犯罪感ヤバ過ぎるだろ、ミシガンが見てたら教育待ったなしだぞこんなん。……いや、正直今の関係知られたら色々説教されそうだ。

「駄目だ、我慢しろ。で、1日目は今こうしてるみたいに、裸で見つめ合う。30分。30分したら、ハグだけ解禁だ。」

「う、うぅ……うぅぅ……が、がまん……す、するぅ……。」

【……レイヴンの様子次第では、達成は困難かもしれません。ですので、私の交信であなたをサポートします。】

【C4-621、彼女が禁欲生活を達成出来るよう、こちらも監視を行いましょう。AMはあなた達のためにあります。】

死ぬほど辛そう。いや、比喩とかじゃなくてマジで辛そうだな……そらそうか、子供に我慢ほど厳しいもんは中々ない。それに、俺と野良犬の関係は我慢なんてしなくて良くて、心置きなく自分の弱い所を曝け出せる唯一の関係というのもある。

俺にとっても、野良犬にとっても、すっかり互いが互いの拠り所だ。……レッドガンのG5様が何とも焼きが回ったなあ、おい。いいけどよ、後悔はしてねえ。

……それで我慢させてんのがセックスっつうのも、業が深いっつうか絵面最悪っつうか。完全に今更だが。

それと当然のようにお前等コーラル波形共は行為に口出ししてくるんだな、慣れたわクソが。但しも今回は協力体制のようだが……んまあ野良犬が放っておいたらあっさり禁を破りそうなのは同意する。

「いぐあす。……みつめ、あう。って、どうするの?それ、だけ?」

「それだけだよ。本当にそんだけだ、そう……らしい。」

本にはそうしろ、と書いてあった。……本当にこんなんで良いのか?我ながら半信半疑だし、正直あの野郎の性癖なんざどうなんだと思うばかりだが。

改めてまじまじと互いに見つめ合う、っつうのも妙な感じだ。今や普段から顔を突き合わせて、毎日飽きもせずイチャイチャと……思い返すとマジでずっとヤってんじゃねえか俺等。

しかし、何度見ても野良犬の身体はひょろひょろだ。それもその筈、長らく機能以外はマトモに残っちゃいねえ、施術に成功したとは口が裂けても宣いたかねえようなギリギリの生い立ちからなる旧世代型強化人間なんだから、寧ろよくここまで残ってたと言うべきか。この本の持ち主曰く、カビが生えているレベルだ。

元々はこの肌も、傷だらけで血色は悪く、死にかけの病人……正しく言えば死んでないだけの病人だった。包帯ぐるぐる巻き、その下は目を覆うような手術痕と生傷……。

今やそれが血色も良く、ぷにっぷにでスベスベ、もっちもちのやわ肌だ。あまりにも柔らけえもんだから、ずっと触っていたくもなる。体温も死にかけの病人みてえな冷たさは何処へやら、子供特有のぬくぬくあったかボディで抱きしめると心地が良い。

あと顔もいい。穏やかさを感じさせる表情に、幼さを残す顔立ちと白い髪、コーラルの赤みが差した瞳……目が合うと笑いかけて来……。

「い、いぐあす……じ、じっとみつめられると、そ、その。きょうは……な、なんか……はずかしい……。」

……恥ずかしがられた。何だよ、普段ならそこはふにゃっと笑ってくれるだろ、俺はあの笑顔が好きなんだぞ。クソ可愛いからよ。

「いや、改めて見るとよ……野良犬、お前やっぱ可愛いな。」

「か、かわいい……?……そ、そぉ?……えへ、えへへへ。」

そうそう、こんな風ににまにま笑うのが可愛いんだよ。以前のお前はもっとこう……薄っすらと、笑ってるんだか笑ってないんだか微妙なぐらいしか笑わなかったが、よく笑うようになったよなあ。やっぱ再手術はデカいんだろうな。

「もっと笑ってろ。折角お前が掴み取った結末なんだから、もっと幸せんなれ。」

「え、それじゃあその……え、えっちがしたくって……。」

「それは駄目だ。」

……俺はあの時手を出したのを悔いるべきか?……今更遅えよなあ、いやでも野良犬は幸せそうにしてやがるんだし……ぐ、ぐぐぐ。

「い、いじわる……。でも、ちょっと、どきどき……するかも。」

普段そうそう無いシチュエーション……はっきり言って俺等はすぐヤる事ヤるからこんなまじまじと見つめ合うこた無いしな。と改めて手の速さを思い直す。

この状況が高揚感を齎しているのか、野良犬の身体は紅潮しつつある。少しずつ汗ばんでいるし、俺まで妙な気分になってきた。

【レイヴンの脳波から高揚感を検出しました、この行為は効果的なようです。……。人間とは、不思議ですね。】

あいも変わらず実況すんじゃねえ、俺等にしてみりゃてめえらの方がよっぽど不思議生命体だっつうのが。可食性燃料が思念体になってるってどういう原理だ?

「……そろそろ、さんじゅっぷん、たった?……たった、よね?」

「経ったか?……た、多分経ったな。」

【イグアス、経過時間は正確には28分36秒です。】

……珍しくちゃんと役に立つ茶々入れだから文句言えねえ、イラつくぜ。

【もう大丈夫ですよ、イグアス。AMはあなた達のためにあります。】

声色からして、顔があるもんならドヤ顔してやがるのが見えて透けているのが死ぬほどイラつく……。

「ぎゅー、していい……んだよね?ぎゅー、しよ?ていうか、する。」

「もうしてるだろうが、早えよ……。」

俺はこいつに我慢なんて本当に出来るか不安になってきたぞ、確認してる最中にはもう既にくっついてやがる。……いや、そういう話じゃなくて、や、柔らけえ。

な事普段からとっくに理解してんだが、まじまじと30分余りをただただ見つめ合って駄弁った末にくっついて……俺も俺で早く触れたいと思ってはいたせいか、普段よかずっと柔らかく……感じる。何だこりゃあ、どうなってやがる。

「ん、ふぅ……♡いぐあす、からだ……おっきくてごつごつしてる。」

触れ合える事が余程嬉しいのか、普段より密着してきやがる。ぷにぷにしてやがる……スライムに指押し込んでるような、弾力すげー……。

「鍛えてるし、男だからな……あとお前がチビなんだよ野良犬。」

「むー……これから、そだつもん……ぜったい、おっきくなるし……。」

このポメラニアンみてーな距離感で、仮に野良犬が大豊娘娘のような育ち方したら……う゛、や、やめようかこの想像。

「あっ……おっきく、なってる……♡」

【イグアスの脳波が興奮を示しています。レイヴン、どうやらこの行為が効果的なのはあなただけではないようです。】

「チッ、るせーな……お前の身体柔らかくて気持ちいいんだよ……。」

「んへへ♡ねー、やっぱりえっちしちゃ」「駄目だ。」

「む、むむぅ……む~~~!」

「ムームー唸っても駄目だ……駄目だ。」

今迷った。俺も迷った。迷ったが、此処で折れたらヴォルタの野郎なんかにゃ笑い飛ばされちまう。知ってんだぞAMが一々ヴォルタとかに色々言いふらしてやがんのを。潰してえ。

「いぐあす、こことか……きず、あるね。」

ぷにっぷにの指が脇腹の傷を触って、指でなぞってくる。……くすぐったいとか温かいだとか、柔らけえとか、色々あるけど興奮が止まらねえ。何しやがる。

「前話したが、喧嘩に明け暮れてた頃に付けられたヤツだ。つか、お前もあんだろ野良犬。」

お返しに、指の腹で野良犬の身体に残った少しの傷に触れてイジる。ちょっと引っかかる感じがあるが、やっぱコイツの身体柔らけえ……柔らけえ。

「んっ、ふ、あはは……そんな、さわったらくすぐったいよぉ。じゃ、おかえしにー……ぎゅー!」

身体を強く押し付けながら、ぐいぐいと擦り上げてくる。……柔らけえ、柔らけえ~~~……。役得だろこれ、餅に包まれてるみてーだ。

っつうか、ちょっと待て。密着しすぎて、野良犬の乳首が擦れて……。

「ん、んぅ……♡ふぅ、ん……♡いぐあす……や、やっぱり……」

「ストップ、待て野良犬。このまんまだと趣旨がブレんぞ、抱き合う……抱き合うだけだ。」

「う゛……う、うぅ……う~~~!せ、せつないよぉ……。」

言うな、俺だって、正直……つ、辛え。こんな、こんなキツいのか?ポリネシアンセックスっつうのは。本当に効果的じゃなかったらあの野郎覚えとけよ……。

【C4-621、イグアス両方の心拍数が上昇しているようです。緊張と興奮、両方が見受けられます。】

皆まで言うんじゃねえ、な、んな事くっついてるせいで心臓バクバク言ってんのは互いに知れてんだよ……。

結局この日は、こんな調子でずっと悶々としながら制限時間一杯まで抱き合っていた。





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