tトリニティ崩壊プロローグ
「ゲヘナが陥落しました」
その知らせを彼女たち、ティーパーティの三首長が聞いたのはいつ頃のことだったろうか。
啞然とした顔のミカ。状況に緊張を覚えるナギサ。そして、落ち着いた様子のセイア。
「まぁ、ゲヘナには問題が多いからね。いつだって崩壊の理由は転がっているだろう」
だからこそ、彼女が最初に報告に来たティーパーティの少女に問いただしたのは、ある種自然流れであった。
つまり、どうして陥落したのか。
それが、武であるならば、恐ろしい脅威として対峙せねばならない。
空崎ヒナの存在は、キヴォトス全土にとどろいている。
知であるのならば、警戒しなければならない。
ゲヘナのことをいくら軽く見ているとはいえ、トリニティ、ミレニアムと肩を並べるほどに巨大な校区なのだから。
「そ、それが……。ひ、一人の生徒のペットになるとのことで……」
だからこそ、それが痴情のもつれの結果などと予想できるはずもなかった。
「それで、この陸八魔アルって子が、今のゲヘナのトップってわけ?」
そういいながら、ミカは用意されたデータを指でいじる。
特段、彼女が特別なほどに魅力的、とは、少なくとも彼女は思わなかった。
確かに、イイ顔をしている。だが、それだけ。
いくら、ゲヘナの子はおかしなやつばかりだと思っても。
全員、……ではないとしても、少なくともゲヘナの実力者や、聞いた名前の子たち全員が参加に収まるほどのそれがあるようには、見えない。
「正確には議長とかではないからあくまで実質的なトップだ。行使はできてもそれは、ゲヘナの議長や空崎ヒナを動かす形ということになるだろう」
「それは……厄介ですね」
セイアが行った訂正に対してそう評価を下すナギサ。
そう、ゲヘナという地域において最も穴といえる部分は、正にそこであった。
それまで、ゲヘナは、ある種複数の派閥を抱えるトリニティよりも、更にまとまりのない。
言ってしまえば個人主義の集まりのような校区であった。
実力のある部活はそこそこあるが、それでも、数をそろえているのは、キヴォトス一と名高い風紀委員と、万魔殿。そして、戦闘を専門としていない温泉開発部程度のモノ。
そう、そのような状態であっても、ゲヘナはトリニティにとっての最も脅威である校区であった。
そこに、陸八魔アルという、統率する頭が現れた。
正に、トリニティからみる、最悪の構図といっていいだろう。
「でも、この子自体は何ら力もないんでしょ?」
「それは、まぁ、そうだね。少なくとも君や、空崎ヒナに並ぶような実力があるという話はないよ」
「じゃあ、簡単じゃん☆呼び出して、無力化しちゃおう?」
そう、簡単な話であった。
頭がいるなら、潰せばいい。
力も、権力も自身のペット頼りなら。それだけで片が付く。
そのあまりに短絡的な方法に、ナギサは、ため息をついて苦言を……。
「いいんじゃないかな?」
「セイアさん!?」
共にいうと思われていた彼女の裏切りに、思わず声を上げてしまう。
普段であれば、彼女も止める側に回るだろうに。
「……実際、対策が難しいのは事実だ。今はまだ声明を出しただけ。けれど今なら対応が間に合うんじゃないかな?」
その言葉に、ナギサも言葉を詰まらせる。
……確かに、トリニティの情報網に引っかかったばかりの今はまだ、組織としての連携が取れない時期であろう。
ゲヘナの力を削ぐために頭目をつぶす。
その方法は、なしではないだろう。
「名目は?」
「以前、彼女はトリニティの学内で便利屋の活動ということで騒ぎを起こしている。呼び出す名目としては十分さ。それに、便利屋は実働隊は今は動けないそうだからね。彼女は、一人で来る。今回は、またとないチャンスだろう」
「……それは、……」
今度こそ、ナギサは声に詰まってしまう。
「じゃあ、人も集めておくね?」
「呼び出しのほうはナギサ。頼んだよ?」
「……仕方がないですね」
かくして、彼女たちは作戦を決行する。
それが、……トリニティの崩壊につながるとも知らずに。