k書き始め
子供部屋は二人部屋。家が小さいからねと親に一緒にされてベッドは場所を取らない二段ベッド。姉は上で僕は下。僕は姉さんが羨ましかった。その天井に近い場所から眺める景色はどんな景色なんだろうか。だけど姉さんの領域に侵入するとなるとそれはもはや宣戦布告にも近いも…そんなある日の夜。その日は何故か寝付けなくて僕はただベッドの裏側を眺めていた。窓からの月明かりは二段ベッドとは交わらず平行に伸びている。静謐そのものの空間に静かな声が聞こえる。
「ねえ…上に来て今日は一緒に寝ない?」
その声は僕が今まで一度も聞いたことのないような姉さんの声色だった。いつもの明るくて世界で一番可愛く姉さんとも違う、不機嫌になって世界で一番怖く感じる姉さんとも違う、何かに熱中して頑張っている世界で一番美しい姉さんとも違う、僕の知らない姉さんから発せられるか細い声を僕は聞いた。聞いてしまった。
そろりそろりといつものベッドから抜け出し二段ベッドの梯子に手を掛け、足を掛け進む。進むごとに姉さんの秘密を少しずつ暴いていくように進む梯子を上がることに自らの心の中で隠されていた秘密も暴かれていくような…。そして上のベッドに到来し、僕は姉を見ていた。そこから見える月明かりで照らされた部屋の景色はきっと綺麗だっただろう。だけどそんなものはどうでもよくなっていた。今、目の前に姉がいる。顔は月の細い光では見ることは出来なかったけど、そんなのはどうだっていい。例え暗闇で顔を見えることが出来なかろうとも、今、僕は姉に誘われ、ここにいて、この暗闇の中には彼女がいると言うことの方が重要だった。僕は掛布団の中に入っていった。
どうしてその日、彼女は僕をベッドに呼んだのか、何故弟と一緒に寝ようなんて考えたのか、当時の姉さんの心の状態はどうだったのか僕は知らない。きっと多分彼女はこの夜のことを忘れている可能性の方が高い。だけど、僕の心にはこの夜のことは深く深く刻まれている。あの夜は唯一姉弟で一緒のベッドで寝た日、あの時、僕の中で何かが壊れた。いやもしかしたらとっくに壊れていたのを必死に隠していたのかもしれない。僕は姉さんが好きだ。ずっと前から好きだったし、これからも好きだ。好きだよねえさん。だから…これからもずっと一緒にいて…。