8月13日〜笑顔の執務室〜
――――「あのねあのね、あしたね!しゅうのおたんじょうびなの!けんせーがケーキつくってくれるんだよ!」
「いいね、羨ましいなぁ。隊長は修兵くんのこと大好きなんだね」
「修兵、明日俺が休み取るために今日はみんなに仕事を頑張ってもらうから、邪魔にならないようにいい子にしてるんだぞ?」
「うん!」
明日の誕生日を前に楽しそうな修兵を一人で家で留守番させておくのは可哀想でせっかくなら楽しい気持ちを持続させてやりたいと今日は九番隊に連れてきた。
正直、白は修兵が居てもいなくても書類仕事はしないのだから白に相手させておけば九番隊として、修兵がいることでの業務への影響は無いだろうというのが九番隊の総意だ。幸いなことに修兵に日常的に接する九番隊にはその可愛らしさに絆されるのか修兵対して批判的な者はほぼいない。
ある意味で修兵が来てから、子供の稚さに庇護欲を刺激されたのか『自分たちが護るべき力弱き者』が、ぼんやりとではなく具体的にイメージできるようになったのか、これまでより精力的に鍛錬に励む者が増えたという嬉しい副産物もあった。
「でもそっかー。拳西って『料理』はするけどお菓子って作ったことなかったのに修ちゃん来てからそんなことまでやるようになったんだね〜。激変〜。」
「ふ?」
こてん、と首を傾げた修兵に白があのね、と種明かしをする。
「修ちゃん、今日のこのお菓子も、作ったの拳西じゃなくて要だよね」
「うん、とーせんさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「九番隊で出てくるお菓子ってね、手作りなら要だったの。拳西はご飯は作るけどお菓子は作らなかったんだよ」
「…………え、と、でもけんせーね、」
「うん、修ちゃんにはお家でお菓子作ってくれたり、明日も誕生日ケーキ、拳西とみんなと作るんでしょ」
「うん、」
「それね、拳西が修ちゃんのためにいっぱい練習したってことなんだよー。修ちゃんに喜んでほしいんだって!」
「白!お前余計な…「えー、いいじゃん、そんだけ拳西が修ちゃん大事にしてるってことなんだから!拳西は料理する分飲み込みは悪くなかったとしてもどうせ要に色々訊いたんじゃないの?」
「…………」
部下の手前、どのような顔をすればいいのかわからなくなったような拳西の表情が見えないからこそ、気恥ずかしい雰囲気を感じ取りながらもあえて気づかなかったフリをして、東仙はこの愉しい雰囲気に乗って白の言葉を引き取ることにした。
「正解です。副隊長。隊長は料理がかなりできるのでさほど苦戦はされませんでしたが、菓子は料理よりも各分量が繊細で、それによってできも違うのでアドバイスやその他諸々はさせてもらいましたね」
「東仙!」
「隠さなくてもいいと思いますよ隊長」
「やっぱりそうなんだー。」
「けんせ?」
「大丈夫、隊長は怒ってるわけじゃないから、明日のケーキを君に楽しみにしててほしいって思ってるんだよ」
東仙の静かで、けれどどこか愉しげな声。
東仙は真面目さ故に拳西を誂ったりすることはほぼなく、はっきりと愉しげにすることは珍しい。
「うん、しゅうね、あしたいっぱいたべるの!けんせーとね、やくそくしたんだよ!」
ね、けんせー?と見上げてきた修兵を、拳西は抱き上げて、そうだな、と頭をなでた。
ちゃんと東仙に教えてもらったから大丈夫だ、と髪をくしゃくしゃにされて、きゃあ、と修兵が歓喜の声を挙げたのを合図にみんなで笑った―――。