6つの輝きが集う時
1月1日
初日が昇る前の薄暗い空間、その初日の出が見える丘にキタサンブラックは1人立っていた。
普段の様に親友達とではない。これからの決意を初日の出に誓うため、あえて1人で来ていたのである。
「キタサンもここに来たのか。去年の…この前の有馬記念見事だった」
静寂な空間に不意に後ろから声がしたので振り向くとそこにはドゥラメンテがいた。
「そう言われると恥ずかしいな…ドゥラちゃんも初日の出に願いを?」
「願い?あるとするなら凱旋門へ…だが、キタサンは何か願うのか?」
「あたしは願いというか誓いかな。どんな事があっても夢への歩みを止めないって」
「夢?」
そうドゥラが問いかけるとキタサンはその夢を語り始める。
自身の夢は走りで多くの人に笑顔を届ける事。だからこそこれからも走り抜いてみせると。たとえどんな困難や怪我があったとしてもその夢を追い続けると。
ドゥラはその夢に驚いた。なぜなら目標…ゴールがある自分のそれと違い、それは明確なゴールがない果てしない道だったのだから。そしてそれを語るキタサンの横顔は決意に満ち溢れていた。
その夢を聞き少し考えた後、ドゥラは口を開く。
「私も…キタサンのように走りで誰かに何かを届ける事はできるのだろうか?」
「大丈夫だよ。だってあたしはドゥラちゃんのあの走りを見て負けたくないって思ったんだから」
「そうか…なら決まりだ。私もその果てなき夢への道を共に歩ませてもらう。キタサンが笑顔なら私は走りで闘志を伝えよう。この背中が誰かの走る目標に…その闘志に火をつけられるのなら…」
「ドゥラちゃん…」
「2人の夢へのデュエット…聞かせてもらったよ!」
するとその時、静寂を引き裂く様に声が聞こえてきた。振り向くとそこにはサウンズオブアースとその背後にはシュヴァルグランが立っていた。
「アースさん、それにシュヴァルちゃんも初日の出を?」
「今日は年に一度しかない初日の出、年初めにセッションをしようと思ってね」
「あ…はい、僕も初日の出に今度も勝つぞと意気込みを…そしたらアースさんに出会ってデュエットを見たくないか?ってここに…」
アースさんらしいやと笑いながら答えるキタサン。そんな彼女にアースはいつもの口説くような口調で語りはじめる。
「君たちの夢への歩み…是非とも私も共にハーモニーを奏でようじゃないか!走りにフィーネなどない…常にセッションとリフレインのユニゾン…その楽しさをオーディエンス達に伝えたいのさ!」
「ぼ…僕も参加させてもらっても良いですか?あの時JCでキタさんに勝った時の様に…どんなに勝てなくても、みっともなくても喰らい付いて行く事は決して無駄じゃない事をみんなに伝えたいんです!」
「2人とも…」
「……キタサン。どうやらこの2人だけじゃないぞ?」
そう言われた瞬間、声が…よく聞く声が足音と共に段々と近づいてくる。
「キタちゃぁぁぁぁん…!!!探したんだよぉぉぉ…!!!」
「ごめんねキタサン。あなたの書き置きを見たダイヤがキタチャンガイナイ ドウシヨウって騒ぐもんでね…でもこんな朝早くに行ってきますだけじゃ不安になるって」
キタサンの親友であるサトノダイヤモンドが彼女に抱きついてきた。その後ろではため息混じりにそれを眺めるサトノクラウンの姿がそこにあった。
「ダイヤちゃん…ごめんね、心配かけたね…クラちゃんもごめん、次からは気をつけるよ」
キタサンは彼女を宥め落ち着かせ、経緯を話す。
「なるほどねぇ…なら私もそこに混ぜて貰おうかな?私も絶体絶命な時が一番燃える事を、逆境なんて簡単にひっくり返せる事を伝えたいからさ」
するとダイヤも顔を上げる。先ほどの様な不安な顔は消え失せて覚悟に満ちた顔つきになっていた。
「私も伝えていきます!ジンクスなんて破れるんだという事を…そして乗り越えるべき本当の相手は自分自身だという事を!」
「みんな凄いなぁ…」
「いや、皆キタサンの走りを見ていたからこそだ」
「みんなキタちゃんの走りに勇気と熱意をもらったんだよ」
そうドゥラとダイヤが語りかけ、それを聞いたキタサンはまだ薄暗い大空を見上げる。無言で空を見上げるその瞳は熱く潤み、その一部が瞳から伝い落ちていた。
「……それじゃあさ、みんなで走ろう!夢に向かって!誰かに伝えられる様に!」
「ならいっその事新しいチームを作らない?正直今のままだとそれぞれがあっちこっち別の方向へ向かうだけだからさ。互いに切磋琢磨してその走りに影響し合う方が絶対良いって」
キタサンの言葉に新チームを作らないかと提案するクラウン。それはこの場にいる全員が同じ意見であった。
「なら新チームの名前ですね!」
「……プレアデスってのはどうかな…?丁度6人ということもあるけど、みんなそれぞれ輝いているから…駄目かな?」
シュヴァルから提案されたプレアデスの名。それはすばるとも言われる星々。
それ自体は星々が集まった星座ではない。
だが星が集まりを表し輝く星座ではなく、一つ一つが輝いている星々の集まりは今ここにいる6人を纏める名前としてはこれ以上のものは存在しなかった。
「それ良いね!ありがとシュヴァルちゃん!」
「それぞれ輝く6連星が集まるチーム…セクステットを奏でるには最高の名前じゃないか!」
「それにすばるには他の星々も存在する…私達だけじゃなく、他の者を巻き込み受け入れ共に輝く…良いネーミングだ」
「そ、そうかなぁ…えへへ…」
「それじゃあこれからもみんなで頑張ろう!……あっ、みんな!初日の出!」
星々が集った事を祝福する様に登っていく太陽。その輝きを目に焼き付ける6人。
皆がいればきっとこの太陽に負けないくらい輝ける。たとえ目の前の太陽が沈もうとも自分達は夜空でも輝き続けられる。
(ありがとう、みんな)
そう心で呟きながら改めて決意を誓ったキタサンブラックなのであった。