5号と秘密の手紙

5号と秘密の手紙


※5号のキャラ崩壊注意



 5号はある日手紙を書こうと思いつき、唐突に便箋を買って来た。いまどき紙の手紙なんて、古風過ぎて逆に新鮮味を覚えてしまう。

 自分の中にある正体不明のもやもやとした気持ちは、日ごとに膨らんで今や大きくなるばかりだ。

 このままではいつかパンッと弾けて、中身が散らばってしまうかもしれない。それは正直困るので、この気持ちを適度に吐き出すことにした。

 端末はNO、確実にペイル社に知られる。

 口頭もNO、誰かに聞かれたら気まずいことになる。

 という訳で、気持ちを吐き出す方法に手紙はどうかと考えた。これなら電子データに残らず声にも出さず、とても都合がいいと思えた。

 5号は手紙の正式な書き方なんて知らない。だが、誰に出すわけでもないのだから構いやしない。心のままに書けばいい。

 とりあえず拝啓…くらいは書こうかな、とおざなりに最初に付け足しておく。

『拝啓…君の白い体が見えるたびに、心が浮き立っていくようだ』

 …なんか変態チックだな。5号はすぐに紙を丸めた。

『拝啓…君の匂いはとても落ち着く。いつまでも嗅いでいたいな』

 …なんかさっきよりも変態チックだな。5号はさらに紙を丸めた。

『拝啓…君のお尻が』『拝啓…君のなき声が』『拝啓…君のミルクを』

「う~~ん…」

 書いている時はそうでもないのに、書き終わってから読むと我ながらとても気持ち悪い。

 くしゃくしゃと丸めていき、気付けば最後の一枚だ。

 5号は暫く考えた。僕が彼女に伝えたい事って何だろう。いや、伝えなくてもいいんだった。ただこの気持ちが吐き出せれば。

 僕が彼女に思っている気持ち…。

「………」

 さらさらと書く。最初は直接文字を書くのに手間取ったが、何枚も書いているうちに慣れて来た。

 さらさらさらり。…完了だ。


「あれ、氷の君、どうしたんだ?」

「アリヤ~、ごめん、ティコに持ってる紙を食べられちゃった」

「またずいぶん古典的な…それでティコの様子はどうだ?苦しんでないか?」

「それは大丈夫。食べられた紙は天然の高級和紙だったから。…ちょっとインクは付いてたけど」

「うーん、まぁ少しだけなら大丈夫だろう。今度から気を付けてくれ」

「そうするよ、ごめんねアリヤ」

「こちらこそ、うちのティコがすまないな。高級和紙とはまた貴重な物を…。手紙か何かだったんじゃないか?」

「そうだったけど、いいんだ。必要な人には届けられたから」

「そうなのか?ならいいが…(何枚もあったんだろうか?)」

「うん、帰る前にもう一回ティコの様子を見に行くよ。じゃあね、アリヤ」

「ああ、私も後で見に行くよ」

 アリヤに別れを告げた5号は、もう一度ティコの様子を見に行った。5号の姿を見つけた彼女はテクテクと近づいて来てくれる。

 彼女になら見せてもいいかと思い立ち、眼前に手紙を掲げたのは失敗だった。彼女はその小さな口をいっぱいに開けて、5号の気持ちを乗せた紙を食べてしまった。

「僕にも増してワルイ子だね君は。僕の気持なんか食べて、どうするつもりなの?」

 ちょんちょん、と指先で突っつく。ティコは遊んでもらっていると思ったのか、5号の手に頭を擦り付けて来た。

「ふふふ…あぁあ、本当に可愛い。この気持ち、どうしたら表現できるんだろう」

 すぐに帰ろうと思っていたのに、5号はまたティコと遊びたくなってしまう。困ったものだ。

 いっそペイル寮に連れ帰ってしまおうか。アリヤに怒られそうな事を考えながら、5号は天使の微笑みにふさわしくない、だらしなく溶けきった笑みを浮かべた。

 それに返事をするように。5号の気持ちを丸ごと食べてしまった彼女は、嬉しそうに尻尾を上げて「メェ~~」と鳴いた。


『拝啓…大好きな可愛いティコ。君といると、僕はとっても楽しいんだ!』






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