5.open one's eyes⑤
海燕と叔父貴と呼ばれた男が静かな夜の瀞霊廷でギャイギャイと騒ぎ立てるのを都と蒼純は呆然とした様子で眺めていた。
「特訓してたら遅くなったんだよ!」
「何だと!? 今日入学式なのにか!?」
「そうだよ! 悪いか!?」
「海燕…お前ッ…!」
男は目を潤ますと口を押さえて大袈裟に感動した仕草をとる。
「そうか…そんなに…その梨子ちゃんって子のことを…!」
「間違ってねェけど…! なんか誤解してるよな…!?」
男は海燕の肩に手を回し、都と蒼純に聞こえないように「で、あの子がそうか?」と小指を立てて囁いてくる。
「違う。あいつは都だ」
「えッ…まさか連れてこなかったのか!? この意気地無しっ!」
「梨子とはそんなんじゃねーよ! あと玄関で立ち話させんな! さっさと入るぞッ」
海燕は鬱陶しいと言わんばかりに叔父の背中を押して脇に退かすと都と蒼純を家に入れ、足早に客間へと案内した。
入って来ないように障子もきっちり締め切る。
「い、いいのかい? 彼は…」
「良いんだよ。あの人、構ってほしくていつもやり過ぎんだ」
ここ数ヶ月、梨子を気にかけて顔を合わせていなかったのが原因だろう。少し申し訳なく思った海燕はバツが悪そうに「まあ…心配かけたのは事実だ」と付け加える。
「ふふ、愉快な方なんですね」
「鬱陶しいけどな……」
客間に円座を並べた三人は、そうして今後一年間の計画を話し始めた。効率的な修練を行う為に予想される霊術院の授業に合わせて計画を立てるのだ。
ちなみに今日の模擬戦だが、都は機転が利くものの他の二人よりは未熟であり、海燕もある程度の技術を身につけているが蒼純には一歩及ばないという結果に終わった。
なので今回は大人として戦いにも造詣の深い蒼純の胸を借り、海燕と都の二人は講義を受ける形で計画を話し合う。
そんな三人の様子を、男は障子の隙間から覗き込んでいた。
「これが反抗期、か……」
友人達と楽しそうに談笑する海燕を眺め、悲しげに溜息をつく。
「これも立派な成長です。一心殿」
「うむ、その通り!」
後ろから海燕の教育係である金彦と銀彦の二人が『志波一心』に諭すように声をかける。彼等も一心同様、障子の隙間から海燕の姿を覗き込み、涙を堪えていた。
「………そうか」
そう呟いた一心は少し思うところがあったのか暫し沈黙すると、今度は慈しむような表情で甥の様子を見守るのだった。
その日、志波邸では客人や家人を交えた盛大な入学祝いが催され、愉快な声と夕餉の匂いが瀞霊廷の一角を賑わしたと云う。