3章⑧
善悪反転レインコードss※3章はこんな雰囲気かなと自分なりのイメージを形にしてみたssです。
※キャラ付けや関係性などは筆者個人の妄想に基づいています。また、独自の補完があったりします。
※謎迷宮を個人的に解釈して描写しています。
※区切りの良さそうな所で区切っています。
※推理していそうな要素を描写していますが、素人が雰囲気を演出する為に捻り出した産物です。
薄目で読んで頂ければ幸いです。
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・ボロボロの金庫には何が隠されていた?
→ マーグローの調査資料 〇
・マーグローの調査資料とは何か?
→ レジスタンス内の不審な資金の流れ 〇
『ボロボロの金庫に保管してたの? スリリングな隠し場所だねー』
「家庭用冷凍庫に金塊を隠しておくノリじゃない? パッと見だと食材にしか見えないしー」
『ギザ歯ちゃん、冷蔵庫に死体じゃなくて財産を隠しておくタイプ?』
「ちょっとやめてよ! ゴハン保存する所に人間の死体とか想像するのもヤなんだけど!」
シャチ犯人説を否定するならば、レジスタンスの幹部達の直近の動きを把握する必要があった。
シャチの説明では足りない部分があったのは、シャチの把握が甘かったからでは無い。幹部の側が意図して隠していたからである。
・なぜレジスタンスのアジト内に?
→ シャチへと報告する為 ×
『あれ。着服してたのはジジイ本人だったりする?』
「だったら、資料の写しを、お店を手伝ってくれてる人に託したりしないんじゃないかな…」
ユーマは考える。
告発の証拠では無い、ならば。
・なぜレジスタンスのアジト内に?
→ 着服していた犯人を説得する為 〇
「……内々で、解決しようとしてたんだ」
『それで反撃されちゃったかー』
誰かを説得する為に。まず、自分はその事実を把握していると証明して、それから改心を促すつもりだったのだろう。
だが、事態は説得できるか否かの域を超えていて、その結果、マーグローは殺害された。
・犯人が着服していた理由は?
→ 保安部への賄賂 〇
「……ほぼ、そいつが真犯人だよね」
反撃後にすぐ計画を実行したなら、かなり前から内通していたのだろう。リーダーへと報告する前段階として穏便な対応をするには、口惜しくも遅かった程度には。
「保安部と前から繋がってた。保安部はレジスタンスを煙たがってる、ってか縛り首にするって公言してる。
ってコトは、保安部に気に入られる為に……? うわぁ……」
謎の解明が進むに連れて、レジスタンス内で何があったのかが分かるに連れて、ギヨームは表情を引き気味に引き攣らせていった。
「元々幹部を全員始末するつもりだった、ということでしょうか?」
「…ア、アンタ。一緒に推理するの?」
ギヨームは横に居るフブキに思わず尋ねていた。
「時の流れを守る為なら、そーいう、保安部を裏切るような真似ができるの?」
「……」
「って言うか、それ推理? 答えを知ってる上での、遊び……いや、アンタ、そういう場を引っ掻き回すタイプとは違いそうだけど……」
フブキは沈黙していた。焦って言い繕うでも、表情を曇らせるでもなく、キョトンとしている。
その場違いさが、この状況においては得体が知れず、ギヨームは戸惑っていた。
「…………その。なんで、手伝えるの? って聞いてるんだけど。何か考えがあるなら、言ってよー…」
最初は何となくで誤魔化せても。解かれる度に真犯人の周辺が少しずつ明らかになり、それに従って保安部の腐敗も見えつつある。
そのような中で、フブキは一体、どのような気持ちでこちら側に加担しているのか。誤解を前提に物事を解釈しようにも、明らかにおかしいと分かるような情報が散々判明しているのに。
この段階に至っても何も知らないように振る舞い、無垢で居続けるのは、流石に限度がある。目の前の事実を独自に解釈するどころか、もはや完全否定の域に達している。
知っていて道化を演じているのか。知らずとも素で道化に成れるのか。黙認しているのか。現実逃避という名の完全否定の域に入っているのか。
……ギヨームは、フリーズしてしまったフブキを未だ見極める事ができない事に、苦虫を噛んでしまったような顔をしていた。
「……フブキさん。ボク達は今、レジスタンスのアジトで起きた連続殺人の、その真相を解き明かそうとしています」
同行者が想定よりも多くなった結果、この奇怪な状況は生まれた。
それ故の歪みを、これ以上無視できない。最初は勢いで誤魔化せても、次第に誤魔化せない程に違和感が大きくなってしまう。
その事を痛い程に肌で感じながら、ユーマはフブキと向き合っていた。
「その途中で、保安部が関与している事実が次々が浮き彫りになりつつあります。辛くはありませんか?」
ユーマの問いかけは、ギヨームの問いかけの焼き直しだったが、フブキは口を噤んだままだった。
顔色が悪くなれば、都合の悪い何かを隠し立てしていると推察できるのに、たまに瞬きするだけの人形のように押し黙っていた。
だからこそ、ギヨームは戸惑っていた訳なのだが。
対して、ユーマはと言えば。
「…………話を、聞いてない……と言うより、思考を止めてる? みたいです」
『え、えぇ? おーい、箱入りビッチ! おーい! ……マジみたいだね。反応しない』
ユーマが自ら口にした結論に到達できたのは、フブキが決して馬鹿でも愚かでも無いからだ。
時を戻す能力に伴う実利と倫理に思考と心のリソースを割きながら、普段の会話も怠らない。脳も含めた身体への過負荷を思えば、一般論で比較するのも烏滸がましい。
そんなフブキが沈黙で応えるというのは、一度や二度なら言葉に窮していると見逃せるが、それ以上ともなれば、もはや意図的である。
……意図的に、反応していないのだ。一見すると矛盾するが、それが成立している。
「特定の条件でバグってるの? 保安部関連に深く突っ込んだら、フリーズするの?」
「たぶん、そうなんだと思います」
「……邪魔はしないけど、ショックは受けてるってコト?」
不可解だが、どうやらそうらしい。
その事にギヨームは、やっぱり困惑し続けたまま。カラクリが多少解けても、納得できるかどうかはまた別だった。
ただ。困惑の内容が少しばかり変わって、不思議そうに首を傾げていた。
「一つ、お尋ねしたいのです」
不意に、フブキが口を開いた。フリーズ状態から戻ってきたようだった。
「皆さんの手助けをしたら、ヤコウ部長に迷惑が掛かるのでしょうか?」
「……恐らくですが、保安部の方達に実害が及ぶことはありません」
保安部の関与は、実行犯の手助けにはなっても、共犯にまでは至らないのだろう、と考えて。
それはそれで、切られたトカゲの尻尾を回収しているような、忸怩たる思いに駆られながら、ユーマは答えた。
「その中に、ヤコウ部長は確実に含まれていますか?」
「…絶対だと保障することは、できません」
だが、今後判明する、事件への関連次第では、分からない。
突然理知を含ませながら断言を求めてきたフブキからの追及に、そう答えた。
「……。
…………ユーマさんは、誠実な方なのですね」
フブキ本人としては確証が欲しかったのだろう。
仮に絶対を保障されたとして、立場上は敵対しているのだから、この場を誤魔化す為の嘘という可能性もあるだろうに。
「最後まで、御同行してもよろしいでしょうか。たぶん、わたくし、喋れなくなる時があると思うんですが……それでも、見てみたいのです」
それを考慮すれば、ユーマが誠実だと分かった事の方が、フブキの中で天秤がプラスへと傾いたのかも知れなかった。
フブキからの願いに、ユーマは頷いた。
断定はできないが、たぶんという枕詞が付くが、ただ仲間と上司想いなだけなのだろう。その仲間と上司の所業のおかげで、紐付けするのが酷で、混乱するだけで。
『うーん、出力されてるIQの高低差でオレ様ちゃん風邪引きそう…』
それはさて置き、フブキが急に覚悟を決めて見通したような事を言い出したので、死に神ちゃんはちょっと驚きながら、エアー毛布を着込むような仕草を取った。
「……アンタ。事件の解決に興味あるの? アンタが生まれた家の使命とは関係ない別件だけど」
「ええ、あります」
フブキがユーマとのやり取りを終えたのを見届けてから、ギヨームはフブキへと声を掛けた。フブキは力強く頷いた。
この件、保安部が結構裏で仕組んでたっぽいんだけど……とギヨームは思いながら、口では別の言葉を紡ぐ。
「……なんで、保安部で働いてんの?」
「わたくしが、ですか?」
ギヨームは、情報収集もあるが、一体どんな人となりなのかと興味も湧いて、フブキ自身に纏わる質問を投げかけていた。
垣間見える善性、事件を解決しようとする積極性。それらを考慮すれば、保安部に所属するなどストレスでしか無いだろうに、という思いを抱きながら。
「元を辿れば社会勉強の一環です。お屋敷の外のことを何も知らず、使用人達から『無知無知』だと陰で言われる始末でしたので」
「…………ふーん。そっか」
突っ込み所はあったが、ギヨームはひとまず流した。
「鎖国になってもアンタだけは実家へ帰らせるって話は出なかったの?」
「……さあ?」
「さあ、って」
「そういった話は聞いておりません」
「絶対出てるって。どっかで止まってるか、聞きそびれたんじゃないの?」
「…まあ」
「まあ、って……アンタねー……」
クロックフォードの一族ならば、しかもフブキは後継者なのだから、カナイ区の政治的事情を飛び越えた破格の待遇が可能であるはず。
それが叶っていないという事は、フブキより上で話が付いていて、フブキに届かず止まっている。ヤコウ辺りが意図して話を止めているのか、はたまたフブキがまさかの忘れん坊という可能性か。
ギヨームは色々と可能性を考えた後、頭を振る。別の質問を投げた方が建設的だ。
「実家側から呼びかけがなくても、アンタが望めば出られるんじゃないの? 家に帰るのが微妙なら、別の場所で社会勉強しますって言えばさ。社会勉強が理由ならアマテラス社に拘る必要はないでしょ?」
遠回しな表現を使っているが、とどのつまり、なぜアマテラス社で未だ働き続けているのか。保安部で、ヤコウの下で働いているのか。
フブキの人となりは、ヤコウの下で働くには違和感があるように思えたが故の、ギヨームの疑問だった。
「……いいえ。それはいけません」
「駄目なの?」
「確かに、望めばカナイ区外へ出られた可能性はあります。ですが、それでは本末転倒なのです」
その疑問に、フブキは首を左右に振った。
「わたくしはアマテラス社で、あの人が部長を勤められる保安部で働きたいのです」
「……そんなに?」
「そんなに、です」
——深く追及すると黙り込むのかな。さっきバグってたし。でもバグを起こすってコトは、メンタル的にかなり無理してるんじゃないの?
そんな風に思いながら、ギヨームは口ごもった。
『…箱入りビッチがカナイ区外を目指してたら、展開次第ではシナリオが変わってたねー。結構抜本的な所でさ。ホントどうなってんだろ』
「……あァ?」
『チッ。勘のいいガキは嫌いだよ、って言いたいのにガキって年齢でも見た目でもないんだよねデカブツって』
「死に神ちゃんステイ、ステイ!」
『犬みたいな扱いはよしてよ! オレ様ちゃんはご主人様専属のメス犬になった覚えはないから! 立場が逆じゃなきゃお断りだよ!』
「ボクもそんな専属契約を結んだ覚えはないよ!!」
ボソッと独り言を放ったつもりだった死に神ちゃんは、こんな時に限ってドミニクが反応したものだから本当に舌打ちをかましていた。
そしてそんな死に神ちゃんを諫めようとしたユーマは、当の死に神ちゃんから変態の烙印を押されかけた。
・マーグロー犯人説
→ 違う 〇
・マーグローが金を横領していた
→ 違う。横領していた犯人を止めようとしていた 〇
・イルーカ犯人説
→ 違う 〇
・イルーカがみんなを始末してから自殺した
→ 違う。マーグローを殺した犯人を追って、返り討ちに遭った 〇
・一番戦闘に心得のあったイルーカを出し抜ける者は居ない
→ 保安部との協力により不意打ちが成功した 〇
・不意打ちとは?
→ 犯人に変装させられた一般レジスタンス員によりイルーカの判断を誤らせ、その隙に撃った 〇
・イカルディ犯人説
→ そうだ。あなただ 〇
・イカルディの死体は?
→ デスヒコが変装させた一般レジスタンス員 〇
・イカルディの逃走経路は?
→ デスヒコが一般保安部員に変装させた 〇
・サーバン共犯説
→ 違う 〇
『本題はレジスタンスの幹部殺しの謎だもん。テロ云々は、オマケでトッピングでアタッチメントだからねー』
「——ふざっけんな!!!」
「ふざけてんのはアンタでしょうが! 自分が殺した仲間を巻き添えにしようとしてんじゃねぇーッ、陰険クサレ底辺のテロリスト野郎ッ!!!」
大進撃死に神ちゃん。
巨大化した死に神ちゃんが砦に立てこもった真犯人——イカルディへと向けて突撃する、滅茶苦茶なのは今更だが壮大な絵面だった。真犯人からの妨害は、道中の落とし穴やら柵やら飛んでくる砲丸やらで表現されている。
その一幕で、「ドミニクが肩車されるなんて超レアじゃーん!!(※厳密には頭上の王冠の中に全員収まっているので言葉の綾である)」と盛り上がりを見せていたギヨームだったが、真犯人の身勝手な反論にヤジを飛ばしていた。
「何が探偵だ! 真実を暴いて、オレを殺す気なんだろ……っ! 今のこの街で罪人になるってのは、死ねってのと同じ意味だろうが!」
「やーだー! 八つ当たりしてきたー!! つまりは今際の断末魔、相当弱ってんねアイツ」
「お前らの所の所長は何なんだよ!? 死刑に反対してんじゃねーのかよ!!」
「えぇー? それまさかヨミー様にもそんなこと言っちゃった? カナイ区の外でも死刑に相当する罪を犯しといて何様だお前ーッ!!!」
ギヨームの声が特に大きいが、ユーマとて思う所はあった。元居た世界では、怒りに身を任せてしまった相手に対して。
……怒りはせずとも。冷静であっても。失望は禁じ得なかった。
イカルディに対する情状酌量の余地は、カナイ区が封鎖されなければ、環境が違えば、という点ぐらいだ。
環境が変動しても己を変えるな、とは良くも悪くも高潔だ。良いと思われるばかりでは無い。全員の共感を得るのは難しいだろう。
だが、それで、仲間殺しやシャチへの濡れ衣、攪乱の為のテロ行為に、一定の理解が示されるのかと言えば。
それとこれとは話が違う、一線を越えてると断じたくなる程度には、乖離が過ぎる。
・動機は?
→ レジスタンスを壊滅させればカナイ区の外へ出す、という保安部との裏取引があった 〇
カナイ区の事情によって夢を断たれた水泳選手だったという事情を鑑みたとしても、それは果たして仲間の命を奪ってまで成し遂げる意味があったのか。
……彼にとっては、あったのだろう。
「ヨミー様、カナイ外へ脱出しようとしてる怪しいヤツを調べたら犯人だったってパターンかな? 壁でもよじ登ってた?」
「いえ、それは難しいはずです。壁には高圧電線があるはずですし、たくさんの人達も配備されていますし」
「保安部とグルなら見逃してもら……あー、難しいってか、絶対にナイね。それだとヨミー様が捕まえられないし。大体、壁をよじ登るって体力的に壮大過ぎるし、一人の為だけに高圧電線の電源を切るのもコスパ悪いしー。無難に、列車にでもこっそり乗ろうとしてたかな?」
「それでは、壁を攻略するよりも冒険感が薄れてしまいますね」
「アイツがやりたいのは冒険じゃなくて脱出だから、あれで正解だよ!」
なぜ、ヨミーが最初に解けたのか。推理を幾分かショートカットしても支障が無い、決定的な瞬間を目の当たりにしたのでは無いか。
詰まる所、保安部の約束通り、カナイ区の外へと脱出しようとした場面と遭遇したのだろう。
そんな分析を、ギヨームとフブキが敵同士にしては気安くやり取りを交わしていた。
特にフブキは、イカルディが保安部と手を組んでまで渇望した自由を、自らが望みさえすれば容易く叶え得る立場の者——なのだが、それでイカルディから一方的に因縁を付けられる事は無い。
現実では接点が無かった以上、謎迷宮にも反映されず。知る由の無い縁は、決して結ばれない。
『実際にやろうとしたら、妨害が入るだろうけどねー』
「え? ……ヨミー様が犯人を妨害して捕まえてた、って意味?」
『会話の流れ上、そんな意味に繋がっちゃうかぁ。気にしないで』
死に神ちゃんがメタい発言をしたが、文字通り単なるメタ発言でしかないので、横に置いておく。
(終)